ひとめぼれなので、胃袋から掴みます

木嶋うめ香

文字の大きさ
上 下
158 / 248

美味しいは嬉しい、だけど7

しおりを挟む
「坊ちゃまお待たせ致しました」

 ちょっと考え込んでいたらロッタさんがお椀を持ってきてくれた。

「ありがとうごさいます。ええと、まずこの三つの実を出して」

 カレーのは除いてケチャの実、ソーの実、味噌の実をお椀に出す。
 なんで醤油と味噌はそのままの名前なのか分からないけれど、それぞれちゃんとケチャップとソースと味噌だった。

「赤に黒に茶色」
「はい、これをちょっとこっちに移してマヨを入れて混ぜる。マヨと混ぜてないのは味をみるだけにして、こっちは玉菜に付けてみて下さい」
「どれどれ、味噌の実とソーの実は醤油の実とはまた違った塩辛さがあるのぉ、この赤いのはどこかで食べたことがある味じゃがさて」

 ケチャの実は鑑定するとトマトケチャップと出るけれど、材料はトーマトと玉ねぎとなっている。名前が俺の知ってるものとそうでないものの違いはなんなんだろ。

「ええと、材料はトーマトと玉ねぎなので」
「成程トーマトの色じゃの」
「こっちを玉菜に付けるのね。あら、混ぜると味が丁度良くなるわ」
「本当だな、これは美味い」
「醤油も同じ様に混ぜて大丈夫だと思います」

 これが一番簡単な気がする。
 
「ゲルトさん、迷宮でどれも沢山取れるんですか?」
「あぁ、木の魔物が出る場所があるんだが、それを狩ると魔石よりこの実を落とす方が多いんだ。何を落とすか分からないが中身が何かは外見で分かるからな」
「割と浅い層で出るんだよ。だがギルドじゃ塩と砂糖以外は買い取ってくれねえんだよ」
「コショの実もですか?」

 コショの実は胡椒だ。胡椒は高いって聞いたんだけどな。

「コショの実が胡椒だとは思わなかったからのお」
「身近で採取出来るものを捨てて、高値のものを遥々人族の国に行って買い付けていたのね」

 ニルスさんとマリアさんが気落ちした様に話し始めて、焦ってしまう。

「人族の話を鵜呑みにして、自分達で考えることもしようとしておらんかった」
「工夫する事や細かいことを考えることが苦手だと最初から諦めていましたからね。醤油の実も調味料だとは分かっていたのに、使ってみよう等どうして考えなかったのかしらね」

 大神様が言っていた通り、あるものに満足してそれを変えてみようとか良くしようという気持ちにならなかったのが大きいんだろう。

「あの」
「なんじゃい、ウヅキ君」
「それは、苦手だからじゃなくて知らなかっただけだと思うんです。だから今あるもので満足していただけなんじゃないかなって」

 知らなかったのは店長達に会う前の俺だ。
 給食で出てくるゆで卵とオムレツが同じ卵から出来てるって知らなかったし、そもそも給食で出てくる様な食事を皆は家でも食べているとすら想像もしなかったんだ。

「俺は教わったから知ってて作れるだけで、工夫したわけじゃありません。工夫って言うならワルドさんが作ってくれた椅子です」
「椅子?」
「どういう事だよ、それは元々ウヅキが考えたんだろ」
「子供の椅子はそうですけど、俺は自分が大きくなったら椅子の脚を切ってもらうつもりでした。ニルスさんはそう頼んだ筈です」

 だけど出来上がったのは、椅子の上に取り付けられるパーツ付きの物だった。
 俺がある程度大きくなったらそのパーツを外すことで座面が低くなるんだ。凄いよね。

「そうは聞いたが、あのよぉ冒険者ってのはゲン担ぎするんだよ。脚を切るなんて縁起わりいことは嫌うんだよ」
「そう考えて工夫したからこの椅子になったんですよね」
「まあ、そう言われたらそうかもな」

 ニルスさんが気にすると思うから言わないけど、俺が見せに行ってビリーさんに笑われた時にニルスさんがバロンさんとビリーさんを怒った事だって、商売をしてくる間に経験を積んでどうやったらお客が来るのか、何をしたらお客は嫌がるのかそれを覚えて工夫した結果があるからだと思う。
 だから料理に関して言えばそれは知らなかっただけなんだと思うんだ。

「魔力のこともそうなんですけど、これはこういう物だと思い込んでいたらそれ以上何かしようと思わないんじゃないかって思うんです」
「魔力? 魔力切れのことか」
「はい。魔力切れを起こしたら魔力が増えると知っているエルフはわざと魔力切れをおこして魔力を増やすってルル先生から出来るって言ってくれましたけど、ゲルトさんやワルドさんは止めましたよね。それって出来ると分かっている人といない人の差ですよね」

 まあ魔力切れを起こして魔力を増やすというのは、魔力切れは苦しいから止められたというのもあるけれど、そういう増やし方が出来るって分かってたらチャレンジしてみようって人いると思うんだよね。

「俺は知らないよりは知ってた方が良いし、選択肢を増やせるなら増えた方が楽しいと思うんです」
「そうじゃの」
「だからニルスさん、この迷宮で取れる調味料の実が使えるんだよって広める事出来ませんか」

 ジャムだって卵焼きだって作ろうと思えば簡単に出来る。
 ただ獣人の国の人達はそれを知らないだけなんだ。
 卵焼きがゆで卵より上の食べ物というわけじゃないし、塩で食べるサラダよりマヨの実で食べる方が美味しいっていうわけじゃない。
 ただ色んな味の選択が出来たら楽しいよねってだけの話だ。

「ニルスさんの商会で経営している食堂でちょっとずつ調味料の実で味付けた物を出してみたらどうでしょうか」

 俺の提案は、皆を固まらせてしまったんだ。 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…

こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』  ある日、教室中に響いた声だ。  ……この言い方には語弊があった。  正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。  テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。  問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。 *当作品はカクヨム様でも掲載しております。

子を成せ

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
ミーシェは兄から告げられた言葉に思わず耳を疑った。 「リストにある全員と子を成すか、二年以内にリーファスの子を産むか選べ」 リストに並ぶ番号は全部で十八もあり、その下には追加される可能性がある名前が続いている。これは孕み腹として生きろという命令を下されたに等しかった。もう一つの話だって、譲歩しているわけではない。

僕だけの番

五珠 izumi
BL
人族、魔人族、獣人族が住む世界。 その中の獣人族にだけ存在する番。 でも、番には滅多に出会うことはないと言われていた。 僕は鳥の獣人で、いつの日か番に出会うことを夢見ていた。だから、これまで誰も好きにならず恋もしてこなかった。 それほどまでに求めていた番に、バイト中めぐり逢えたんだけれど。 出会った番は同性で『番』を認知できない人族だった。 そのうえ、彼には恋人もいて……。 後半、少し百合要素も含みます。苦手な方はお気をつけ下さい。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

「今夜は、ずっと繋がっていたい」というから頷いた結果。

猫宮乾
BL
 異世界転移(転生)したワタルが現地の魔術師ユーグと恋人になって、致しているお話です。9割性描写です。※自サイトからの転載です。サイトにこの二人が付き合うまでが置いてありますが、こちら単独でご覧頂けます。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた! どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。 そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?! いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?! 会社員男性と、異世界獣人のお話。 ※6話で完結します。さくっと読めます。

処理中です...