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美味しいは嬉しい、だけど7
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「坊ちゃまお待たせ致しました」
ちょっと考え込んでいたらロッタさんがお椀を持ってきてくれた。
「ありがとうごさいます。ええと、まずこの三つの実を出して」
カレーのは除いてケチャの実、ソーの実、味噌の実をお椀に出す。
なんで醤油と味噌はそのままの名前なのか分からないけれど、それぞれちゃんとケチャップとソースと味噌だった。
「赤に黒に茶色」
「はい、これをちょっとこっちに移してマヨを入れて混ぜる。マヨと混ぜてないのは味をみるだけにして、こっちは玉菜に付けてみて下さい」
「どれどれ、味噌の実とソーの実は醤油の実とはまた違った塩辛さがあるのぉ、この赤いのはどこかで食べたことがある味じゃがさて」
ケチャの実は鑑定するとトマトケチャップと出るけれど、材料はトーマトと玉ねぎとなっている。名前が俺の知ってるものとそうでないものの違いはなんなんだろ。
「ええと、材料はトーマトと玉ねぎなので」
「成程トーマトの色じゃの」
「こっちを玉菜に付けるのね。あら、混ぜると味が丁度良くなるわ」
「本当だな、これは美味い」
「醤油も同じ様に混ぜて大丈夫だと思います」
これが一番簡単な気がする。
「ゲルトさん、迷宮でどれも沢山取れるんですか?」
「あぁ、木の魔物が出る場所があるんだが、それを狩ると魔石よりこの実を落とす方が多いんだ。何を落とすか分からないが中身が何かは外見で分かるからな」
「割と浅い層で出るんだよ。だがギルドじゃ塩と砂糖以外は買い取ってくれねえんだよ」
「コショの実もですか?」
コショの実は胡椒だ。胡椒は高いって聞いたんだけどな。
「コショの実が胡椒だとは思わなかったからのお」
「身近で採取出来るものを捨てて、高値のものを遥々人族の国に行って買い付けていたのね」
ニルスさんとマリアさんが気落ちした様に話し始めて、焦ってしまう。
「人族の話を鵜呑みにして、自分達で考えることもしようとしておらんかった」
「工夫する事や細かいことを考えることが苦手だと最初から諦めていましたからね。醤油の実も調味料だとは分かっていたのに、使ってみよう等どうして考えなかったのかしらね」
大神様が言っていた通り、あるものに満足してそれを変えてみようとか良くしようという気持ちにならなかったのが大きいんだろう。
「あの」
「なんじゃい、ウヅキ君」
「それは、苦手だからじゃなくて知らなかっただけだと思うんです。だから今あるもので満足していただけなんじゃないかなって」
知らなかったのは店長達に会う前の俺だ。
給食で出てくるゆで卵とオムレツが同じ卵から出来てるって知らなかったし、そもそも給食で出てくる様な食事を皆は家でも食べているとすら想像もしなかったんだ。
「俺は教わったから知ってて作れるだけで、工夫したわけじゃありません。工夫って言うならワルドさんが作ってくれた椅子です」
「椅子?」
「どういう事だよ、それは元々ウヅキが考えたんだろ」
「子供の椅子はそうですけど、俺は自分が大きくなったら椅子の脚を切ってもらうつもりでした。ニルスさんはそう頼んだ筈です」
だけど出来上がったのは、椅子の上に取り付けられるパーツ付きの物だった。
俺がある程度大きくなったらそのパーツを外すことで座面が低くなるんだ。凄いよね。
「そうは聞いたが、あのよぉ冒険者ってのはゲン担ぎするんだよ。脚を切るなんて縁起わりいことは嫌うんだよ」
「そう考えて工夫したからこの椅子になったんですよね」
「まあ、そう言われたらそうかもな」
ニルスさんが気にすると思うから言わないけど、俺が見せに行ってビリーさんに笑われた時にニルスさんがバロンさんとビリーさんを怒った事だって、商売をしてくる間に経験を積んでどうやったらお客が来るのか、何をしたらお客は嫌がるのかそれを覚えて工夫した結果があるからだと思う。
だから料理に関して言えばそれは知らなかっただけなんだと思うんだ。
「魔力のこともそうなんですけど、これはこういう物だと思い込んでいたらそれ以上何かしようと思わないんじゃないかって思うんです」
「魔力? 魔力切れのことか」
「はい。魔力切れを起こしたら魔力が増えると知っているエルフはわざと魔力切れをおこして魔力を増やすってルル先生から出来るって言ってくれましたけど、ゲルトさんやワルドさんは止めましたよね。それって出来ると分かっている人といない人の差ですよね」
まあ魔力切れを起こして魔力を増やすというのは、魔力切れは苦しいから止められたというのもあるけれど、そういう増やし方が出来るって分かってたらチャレンジしてみようって人いると思うんだよね。
「俺は知らないよりは知ってた方が良いし、選択肢を増やせるなら増えた方が楽しいと思うんです」
「そうじゃの」
「だからニルスさん、この迷宮で取れる調味料の実が使えるんだよって広める事出来ませんか」
ジャムだって卵焼きだって作ろうと思えば簡単に出来る。
ただ獣人の国の人達はそれを知らないだけなんだ。
卵焼きがゆで卵より上の食べ物というわけじゃないし、塩で食べるサラダよりマヨの実で食べる方が美味しいっていうわけじゃない。
ただ色んな味の選択が出来たら楽しいよねってだけの話だ。
「ニルスさんの商会で経営している食堂でちょっとずつ調味料の実で味付けた物を出してみたらどうでしょうか」
俺の提案は、皆を固まらせてしまったんだ。
ちょっと考え込んでいたらロッタさんがお椀を持ってきてくれた。
「ありがとうごさいます。ええと、まずこの三つの実を出して」
カレーのは除いてケチャの実、ソーの実、味噌の実をお椀に出す。
なんで醤油と味噌はそのままの名前なのか分からないけれど、それぞれちゃんとケチャップとソースと味噌だった。
「赤に黒に茶色」
「はい、これをちょっとこっちに移してマヨを入れて混ぜる。マヨと混ぜてないのは味をみるだけにして、こっちは玉菜に付けてみて下さい」
「どれどれ、味噌の実とソーの実は醤油の実とはまた違った塩辛さがあるのぉ、この赤いのはどこかで食べたことがある味じゃがさて」
ケチャの実は鑑定するとトマトケチャップと出るけれど、材料はトーマトと玉ねぎとなっている。名前が俺の知ってるものとそうでないものの違いはなんなんだろ。
「ええと、材料はトーマトと玉ねぎなので」
「成程トーマトの色じゃの」
「こっちを玉菜に付けるのね。あら、混ぜると味が丁度良くなるわ」
「本当だな、これは美味い」
「醤油も同じ様に混ぜて大丈夫だと思います」
これが一番簡単な気がする。
「ゲルトさん、迷宮でどれも沢山取れるんですか?」
「あぁ、木の魔物が出る場所があるんだが、それを狩ると魔石よりこの実を落とす方が多いんだ。何を落とすか分からないが中身が何かは外見で分かるからな」
「割と浅い層で出るんだよ。だがギルドじゃ塩と砂糖以外は買い取ってくれねえんだよ」
「コショの実もですか?」
コショの実は胡椒だ。胡椒は高いって聞いたんだけどな。
「コショの実が胡椒だとは思わなかったからのお」
「身近で採取出来るものを捨てて、高値のものを遥々人族の国に行って買い付けていたのね」
ニルスさんとマリアさんが気落ちした様に話し始めて、焦ってしまう。
「人族の話を鵜呑みにして、自分達で考えることもしようとしておらんかった」
「工夫する事や細かいことを考えることが苦手だと最初から諦めていましたからね。醤油の実も調味料だとは分かっていたのに、使ってみよう等どうして考えなかったのかしらね」
大神様が言っていた通り、あるものに満足してそれを変えてみようとか良くしようという気持ちにならなかったのが大きいんだろう。
「あの」
「なんじゃい、ウヅキ君」
「それは、苦手だからじゃなくて知らなかっただけだと思うんです。だから今あるもので満足していただけなんじゃないかなって」
知らなかったのは店長達に会う前の俺だ。
給食で出てくるゆで卵とオムレツが同じ卵から出来てるって知らなかったし、そもそも給食で出てくる様な食事を皆は家でも食べているとすら想像もしなかったんだ。
「俺は教わったから知ってて作れるだけで、工夫したわけじゃありません。工夫って言うならワルドさんが作ってくれた椅子です」
「椅子?」
「どういう事だよ、それは元々ウヅキが考えたんだろ」
「子供の椅子はそうですけど、俺は自分が大きくなったら椅子の脚を切ってもらうつもりでした。ニルスさんはそう頼んだ筈です」
だけど出来上がったのは、椅子の上に取り付けられるパーツ付きの物だった。
俺がある程度大きくなったらそのパーツを外すことで座面が低くなるんだ。凄いよね。
「そうは聞いたが、あのよぉ冒険者ってのはゲン担ぎするんだよ。脚を切るなんて縁起わりいことは嫌うんだよ」
「そう考えて工夫したからこの椅子になったんですよね」
「まあ、そう言われたらそうかもな」
ニルスさんが気にすると思うから言わないけど、俺が見せに行ってビリーさんに笑われた時にニルスさんがバロンさんとビリーさんを怒った事だって、商売をしてくる間に経験を積んでどうやったらお客が来るのか、何をしたらお客は嫌がるのかそれを覚えて工夫した結果があるからだと思う。
だから料理に関して言えばそれは知らなかっただけなんだと思うんだ。
「魔力のこともそうなんですけど、これはこういう物だと思い込んでいたらそれ以上何かしようと思わないんじゃないかって思うんです」
「魔力? 魔力切れのことか」
「はい。魔力切れを起こしたら魔力が増えると知っているエルフはわざと魔力切れをおこして魔力を増やすってルル先生から出来るって言ってくれましたけど、ゲルトさんやワルドさんは止めましたよね。それって出来ると分かっている人といない人の差ですよね」
まあ魔力切れを起こして魔力を増やすというのは、魔力切れは苦しいから止められたというのもあるけれど、そういう増やし方が出来るって分かってたらチャレンジしてみようって人いると思うんだよね。
「俺は知らないよりは知ってた方が良いし、選択肢を増やせるなら増えた方が楽しいと思うんです」
「そうじゃの」
「だからニルスさん、この迷宮で取れる調味料の実が使えるんだよって広める事出来ませんか」
ジャムだって卵焼きだって作ろうと思えば簡単に出来る。
ただ獣人の国の人達はそれを知らないだけなんだ。
卵焼きがゆで卵より上の食べ物というわけじゃないし、塩で食べるサラダよりマヨの実で食べる方が美味しいっていうわけじゃない。
ただ色んな味の選択が出来たら楽しいよねってだけの話だ。
「ニルスさんの商会で経営している食堂でちょっとずつ調味料の実で味付けた物を出してみたらどうでしょうか」
俺の提案は、皆を固まらせてしまったんだ。
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