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美味しいは嬉しい、だけど3

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「食事までおじゃまして申し訳ねぇな」

 居心地悪そうにワルドさんが言うのを、俺はぼんやり聞いていた。
 台所でゲルトさんにしがみつき、ボロボロ泣いてた俺は様子を見に来たマリアさんに慰められてまた泣いた。
 一度泣き出すと止まらない俺の涙腺を何とかしたい。
 最後はマリアさんの膝で、しゃっくりが出るまで泣くとか、本当にもうなんとかしたい。

「ウヅキ君の料理は美味しいんじゃよ。遠慮せずに食べてくれるとい嬉しいのぉ。ウヅキ君、醤油の実も使ったんじゃったかの」
「え、あ、はい。皆さん初めて食べるので試しに、付け合せに少しだけ使いました」

 俺は日本人だった記憶があるし、醤油の味を覚えているから美味しいと思うけれど皆はどうだろうと不安になる。
 ロッタさんは美味しいと言ってくれたから、大丈夫かなぁ。

「そうさの、醤油の実は舐めてみた程度じゃからのぉ。塩辛くて独特の匂いがして不思議な味だと思ったが、本当に料理に使えるんじゃなぁ」
「あの黒いものが食べられるなんて不思議ね」

 俺にしてみたら、調味料だと分かっているならなんで使ってみようとしなかったのかが不思議なんだけれど、大神様が言う通りそういう工夫が苦手だからなんだろうな。

「旦那様、こちらは玉菜と玉ねぎを酢タレで和えてございます。こちらはシチューというものでスープの一種とのことでございます。ワルドさんから頂いたオーク肉を使わせて頂きました。魚は岩角魚でございます。鱗と骨を取ってございますので食べやすいかと存じます。付け合わせのこちらの青菜に醤油の実を使用しております」

 ロッタさんが一つ一つ説明しながらテーブルに置いてくれるのは、俺が作った料理が珍しいかららしい。
 玉菜と玉ねぎのサラダは、ドレッシングを付くて和えた。生で玉菜とか食べていても、今までは塩一択だったらしい。泡だて器が無いから二又フォークで混ぜるしかなかったけれど、多分上手く出来たと思う。
 迷宮産のコショの実も使ったんだ。

「見たことがねえ料理ばかりだな。さすがニルス会頭の家というか」

 困惑しているワルドさんは、ニルスさんの顔を見ている。

「私も見たことが無いものばかりじゃの。ウヅキ君疲れているところこんなに頑張ってくれたのかの」
「えっと、疲れてないですよ。俺料理してると元気になるみたいです」

 泣き過ぎて疲れてるけれど、料理では疲れてない。
 むしろ元気だから胸を張ってそう言うと、ニルスさんがにっこりと笑ってくれる。

「そうさのそうさの。でも無理をしてはいかんよ。ウヅキ君の料理は美味しいから食べられるのは嬉しいがの」

 食べるのが嬉しいって言われたら、俺は物凄く嬉しい。
 ヘロンヘロンに疲れてても、そう言って貰えたら俺頑張って作るよ。

「では冷めないうちに頂こうかの」
「酢タレというのはどういうものなのかしら」
「あの、お酢と油を混ぜて塩とコショの実で味をつけたものです」
「まあ、コショの実を使っているのね。まあ美味しいわ」

 玉菜と玉ねぎの酢タレ和えは簡単に言えばサラダだ。酢タレは所謂フレンチドレッシングだけどロッタさんにそう言ったら覚えて貰えなかった。
 覚えて貰えなかったというより、野菜を和えるものに名前がついているっていうのが理解出来なかったみたいでフレンチドレッシングという料理だと勘違いされそうになったから、酢タレ和えと説明したんだ。

「岩角魚の鱗はとっても硬いのよね」
「じゃがこれは鱗が無い様だの」
「鱗は取っています。こうすれば食べやすいと思うんです。骨は有っても無くても大丈夫だと思いますが、今回は取って焼いています」

 小麦粉を付けて焼いただけだけど、食べてみると物凄く美味しい。
 これって俺の腕というよりも、岩角魚が元々美味しいんだと思う。
 俺が屋台で食べた時は、串焼きだと鱗を取るのに意識が集中しちゃって味わうまでいかなかったのかもしれない。

「岩角が食べやすい上に旨いな。このシチュー? ってのも旨い。ウヅキ、旨いよ」
「ワルドさんの口にあって良かったです」

 皆の感想が好意的で俺は嬉しくなって、頬が熱くなる。
 良かったというよりも、ホッとするって感覚だ。
 
「この青菜に醤油の実を使っておるんじゃな。うん、旨いのぉ。醤油の実だけを舐めた時は調味料としても使えないと思っておったのじゃが、これは美味しいのぉ」

 青菜炒めを食べたニルスさんの感想が不安でついじっと見てしまったけれど、ニルスさんの感想は好意的で俺はまた安心した。

「ゲルトさん、あの、お口に合いましたか」

 今まで無言だったゲルトさんに、俺は勇気を出して尋ねた。
 無言だったのは口に合わなかったせいなのかもしれない。もしもそうなら俺ちゃんと受け入れるから、正直な感想が知りたい。
 気持ちを決めてゲルトさんに尋ねると、ゲルトさんはシチューを盛った皿を空にしていて魚の皿も食べ終わりそうだった。

「旨い。ウヅの料理はいくらでも食べられそうなのが困るな」

 きゅうぅん。

 そ、そんなこと言われたら俺、一生台所に籠って料理するよ。
 ゲルトさんの返事に俺の胸はときめきまくったのだった。
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