ひとめぼれなので、胃袋から掴みます

木嶋うめ香

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大神様に報告と相談9

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「その辺りは好きにするといい。ウヅキは甘えるのと我儘の区別はつくだろう?」
「自信がありません」

 我儘をしているつもりはなかったけれど、それは俺の感覚でニルスさん達がどう思っていたかは分からない。
 俺の存在が誰かを不快にさせている。
 さっき急に殴られたみたいに、あの女の人達が俺に意地悪したみたいに俺は誰かを不快にさせて、その結果があれなのかもしれない。

「ウヅキの保護者達は、ウヅキが我儘を言ったら止めて注意してくれる人達だよ、だから大丈夫」

 大神様はそう言うけれど、自身が無い。

「ただ、捨てられるかもと怯えながら暮らされるのは困るだろうから、そこは直さないといけないよ」
「でも、それだけでいいのでしょうか。俺はもしかしたら」

 嫌われたくない。
 愛されたい、愛して欲しい。
 大好きな人達に、俺を必要と思って欲しい。捨てられたくない。

「大切に思っている人に信用されていなかったら、ウヅキはどう思うの」
「それは嫌だし悲しいです」
「彼らも同じではないのかな。本心からウヅキを大切に思っているというのに、ウヅキは捨てられるかもしれないと不安になり、彼らを信用していないのだからね」

 それはそうだ。
 俺は自分の気持ちばかりで、ゲルトさん達の気持ちを考えていなかった。

「俺は自分の気持ちばかり考えていたんですね」
「人はそういうものだ。でもそればかりでは互いに辛いだろうね」
「はい、そう思います」

 自信が無さすぎてもありすぎても駄目で、信じすぎても疑いすぎても駄目なのに。

「大神様、俺は皆を信じていいのでしょうか。俺はゲルトさんもニルスさんもマリアさんも大好きです、ワルドさんもグレオ君もリサさんもロッタさんも、皆、皆大好きなんです」
「信じなさい。ウヅキが大好きだと思う人を、自分を愛してくれている人達を」
「はい。すぐには無理かもしれないけれど、信じたいです。疑いたくないです」

 愛したい、愛して欲しい。
 必要なんだ皆が、必要だと思って欲しい俺の事を。

「困った子だね。君は」
「迷惑かけて申し訳ありません」
「いいよ。でも、折角私の世界に転生させたのだから、すぐに死んだりしないようにね」
「はい。あ、そうです。俺お礼を」

 そうだ忘れていた。
 大神様にお礼を言わなくっちゃ。

「大神様が身体堅固と運動能力上昇の贈り物を下さったお陰で俺、トロールに殺されずに済みました。ありがとうございます」

 大神様が身体堅固と運動能力上昇をくれたから、俺は煙玉の影響を受けなかったしトロールの攻撃から逃げれたんだ。

「ああ、そういうことか。気にしなくていいよ。あれは私からの償いだから」
「それでも、あれで俺は助かりました。死なずに済みました」
「そうだね。でもあまり冷や冷やさせないでおくれ」
「大神様、俺は魔力切れするまで魔法を使って、魔力量を増やそうと思っています。トロールと戦った後それで魔力が増えたと思うんです。俺の魔法の先生のハイエルフのルルさんが、エルフは魔力切れをして魔力を増やすって言ってました」
「ああ、そうだね。魔力切れで魔力は増えるよ。ただし、魔力切れの後体力で魔力を回復するから魔力回復出来る食事をしないと食べても食べても飢餓状態のままになるよ」

 大神様の言葉に俺は確かにその状態だったと思い出し、ルル先生が言っていたことも正しかったと理解した。

「魔力回復は普通の食事では駄目ですか。睡眠でも回復しますよね」
「そうだね、普通の食事で回復出来るのはほんの僅かだから、魔物肉を食べるといいね」

 魔物肉、そう言えばギルドの帰りに食べた岩角魚も魔物だったな。
 そうかあれのお陰で魔力が回復したのか。

「分かりました。魔物肉をなるべく食べる様にします」

 俺が好きな串焼き屋さんのお肉も魔物肉だし、あれを多めに買って収納に入れておけばいいよね。
 ゲルトさんに心配掛けない様に、そういうものを用意しておこう。あ、そう言えば。

「大神様、獣人の国はどうしてあんなに料理が偏っているんでしょうか」
「偏っている? ああ、人族の国と比べてってことかな。前世で君が住んでいた世界とは当然違うけれどね」
「はい。でも調味料が塩だけとか、砂糖が高級すぎるとか、調理方法が焼くと煮るだけとか」

 不思議だった。ニルスさんの話を聞く限り人族はそれなりに料理をしている様なのに獣人は何故偏っているんだろう。

「獣人は元々は本当に獣だったんだよ。長く生きる内に人型を取れる獣が増え始め獣と獣人に別れた」
「元は獣だったんですか」

 衝撃の事実だった。

「獣人は元々考えることも工夫することも苦手でね、人型に進化する過程で料理を覚えたけれど、それは人族の食事を見て覚えたに過ぎないんだ。エルフやドワーフ達と交流する様になって焼くだけだったものに煮るが加わったけれど、それ以上の進化は難しかった。獣だった頃の野生が残っているというか、食事も簡単なもので満足してしまうしそれを良くするために改良する気がおきないんだ。それに君が今暮らす町はとても閉鎖的な町でね、余所者をあまり歓迎していないんだよ。ドワーフやエルフも暮らしてはいるが彼らの暮らしが住民に影響を与える程じゃないんだ」
「閉鎖的」
「そう閉鎖的」
「あの、それじゃ俺が料理をするのは」
「それは勿論構わないよ。君の保護者はそれを歓迎しているし喜んでもいる。狐獣人は新しいものが好きだからね、だから彼は人族の国まで出掛けて新しい物を買い付けて来ているんだよ」
「良かった。あ、あの。調味料って塩と砂糖以外には本当に無いんでしょうか」

 そんなことってあるのかな。

「君が前世で使っていた醤油や味噌は存在するよ。そうだね、君の知り合いの中だと。蛇獣人のワルドという者がいただろう。彼はあの町の出身ではないのだが、彼の故郷では米を主食にしていたし味噌や醤油も使っていた筈だよ。胡椒はもっと南の方に行かないと収穫出来ないかな」

 まさかのワルドさんの故郷。じゃあ、ワルドさんは米を食べる人なんだ。

「あの、竹とかはありますか」
「ああ、それもワルドに聞くといい。あとは迷宮産かな」
「迷宮産、ですか?」
「迷宮は食材を落とす魔物がいるんだよ。それ以外の素材も落とす。君が狩れば何かしらは必ず落ちるから、攻撃魔法に自信が付いたら行ってみるといいよ」
「はい。大神様教えて下さりありがとうございます、また教会に行ってもいいですか? 言ったら大神様とお話できますか」

 大神様と話していると何だか落ち着くんだ。
 神様にこんなお願いするのは図々しいんかもしれないけれど。

「ああ、いつでもおいで。待っているよ。今度は嬉しい報告を待っているよ」
「はい。大神様」
「もう戻りなさい。君の大切な人達が待っているから」
「はい、ありがとうございます。大神様、ありがとうございます」

 俺がお礼を言うと、大神様は笑って俺の頭を撫でた。
 大きな手は優しくて、俺はとっても安心したんだ。
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