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無事に帰ってこれたんだ1
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トロールをマジックバッグに仕舞ったゲルトさんは、周囲を確認しながら落ちていた魔石を拾って俺に手渡すと俺を片手で抱き上げた。
「ゲルトさん、ゲルトさん」
魔力切れ掛けの俺はもう歩くことも出来なくて、ぐったりとゲルトさんに抱きかかえられていたけれど、トロールに殺されかけた恐怖が今更襲ってきてゲルトさんの名前を呼びながらしがみついたんだ。
「よく頑張ったな。ウヅ、偉かったな」
「怖かった、怖かったよ。魔力切れになりそうで、防御壁も壊されて、もうゲルトさんに会えなくなるって」
ポンポンと背中を叩かれてジワリと涙が滲む。
「ゴブリンは兎も角、トロールはまだウヅには早かったな」
「ゲルトさんは簡単に倒しちゃった。凄かった」
「ふっ。あんなのいくらでも俺が倒してやるから、もう怖がるな」
「ゲルトさんっ!」
ぎゅうぎゅうと首に抱きついて、ほっぺを擦り寄せる。
なんかくっついていないと不安が襲ってきそうで怖かったんだ。
ゲルトさんは、そんな俺の気持ちを理解してくれてるみたいに俺の好きにさせてくれたんだ。
「なんだ邪魔したか?」
「ワルド」
「ウヅキ! 怪我したのか?」
ワルドさんとグレオ君の声に我に返って振り返る。
「グレオ君、怪我はしてないよ。魔力が切れ掛けてて立てないだけ」
「良かった、良かった。うわぁーんっ」
ワルドさんの隣に立っていたグレオ君は、俺の返事を聞くなり地面にしゃがみ込み泣き出してしまった。
「おいおい、グレオ泣いてる場合か」
「だって、俺、俺の方が大きいのにウヅキを置いて、俺っ」
「ゲルトさん」
「あぁ」
俺はゲルトさんに下ろしてくれる様に頼むと、泣き続けるグレオ君の前に俺をそっと下ろしてくれた。
「グレオ君がゲルトさんに知らせてくれたから、怪我せずに済んだんだよ。グレオ君、ありがとう」
「ウジュ……キ。ごめんな、俺弱くて頼りにならなくて」
「俺だって全然駄目だったよ。でもね、ゲルトさんは凄いんだよ。俺が何度魔法で攻撃しても駄目だったトロールを、たった一撃で首を落としちゃったんだから。格好良かったなぁ。見とれちゃったよ」
俺がわざと呑気にそう言えば、グレオ君はきょとりとした顔で俺を見た後で泣きながら笑うという器用な事をし始めた。
「見とれるって、ウヅキッ」
「だって凄かったんだよ。俺も余裕で狩れる様にならなきゃね」
にっこりと笑うと、グレオ君の背後でワルドさんが笑いだした。
「なんでぇ、ウヅキは大物だな。トロールなんざ初めて見たんだろうにそんなこたぁ言えるなんざ大したもんだ」
「ワルドさん」
「グレオが泣きながらギルトに来た時は驚いたが、怪我が無くて何よりだ」
「心配掛けてごめんなさい。来てくれてありがとうございます」
ワルドさんがグレオ君に付き添って来てくれたのが嬉しくて、俺は深々と頭を下げたんだ。
「俺は何もしてねぇよ。ゲルトの奴が向かったと聞いたから俺はいらねぇとは思ったんだが、グレオがお前を置いてきたから絶対に戻ると言ってきかねえもんでよぉ、泣いてるやつ一人でいかせるのもあれだから来たってだけなんだよ」
照れ隠しなのか、ワルドさんはガハハと笑いながらグレオ君の頭をぐしゃぐしゃ撫で始めた。
うわ、グレオ君が顔真っ赤になってる。
そうだよね、好きな人にそんなことされたら嬉しすぎてそうなるよね!
「ゲルトさん」
「もう帰ろうな」
ゲルトさんを見上げると、承知とばかりにヒョイッと抱き上げてくれる。そして、
「グレオも走り疲れたろ、ワルド」
「しょうなねぇなあ。背中はむりだな、小さすぎる。うん、軽いからこのままでいいよな」
おんぶしようとして、体格的に難しいと考えたのか俺とゲルトさんと同じ様に片腕抱っこでグレオ君を抱き上げたのだ。
「わっ、わっ、歩けますっ! 俺、歩け」
慌てて下りようとするグレオ君は、可哀想なくらいに狼狽えてるけどこれって絶好のチャンスって奴だ。
「騒いでねぇで、とっとと帰るぞ。あのふざけた二人はギルマスに捕まえるよう頼んで来たから。しっかり二人で証言するんだぞ」
「二人、貴族なんですよね? なら俺達が言っても」
「馬鹿言え、魔物の押しつけは禁止されてんだよ。しかも煙玉まで使って足止めしたって言うじゃねえか、悪質過ぎる」
ワルドさん、本気で怒ってる。
そりゃ俺も怒ってるけど、でも相手は貴族の子供なんだよね?
「大体この辺りにはトロールなんざ居ねえんだぞ、あいつらどこから連れてきたんだ? 本当にトロールだったのか?」
「ゴブリン七体に、トロール一体でした」
「トロールが暴れて、木をなぎ倒したのか? いや、これは違うな」
え、ワルドさん違い分かっちゃうの?
俺がビクリとしたら、ゲルトさんが小さく笑った気配がした。
「あんな風に倒れるのは、風系の魔法使った様にしか見えないぞ」
「え、使った魔法まで分かっちゃうんですか」
どうしよう。
木を切り倒すのは駄目だって聞いたのに、俺何本も折っちゃった。
「どうした?」
「俺怒られますか?」
「何故だ」
「だって、許可なく木を切り倒すのは駄目だって」
しょんぼりしちゃうな、トロールに殺されそうになった後に叱られるのキツイなぁ。
「ぷっ」
「ウヅ、大丈夫だ」
「でも、何本も」
「トロールを狩らずにいたら町に被害が出たかもしれないんだ、トロールを狩るためなんだから何も言われないさ」
「本当に?」
「でも、折角倒したんだから持って帰らねえとな」
「ウヅキ、本当に怒られませんか?」
「お前も心配性だな、俺とゲルトが証人になるから、そんな泣きそうな顔してんな」
ワルドさんがグレオ君を慰めている間に、ゲルトさんのマジックバッグにしまうふりで俺のマジックバッグに倒れた木を収納する。
大神様がくれたマジックバッグ、結構入るんだよね。
倒れた木が何本も入るのって、凄いよね。
「よし、後は問題ねえな。じゃあ、町に戻るぞ」
ワルドさんの元気な声に頷いて、俺達は町に向けて歩き出したんだ。
「ゲルトさん、ゲルトさん」
魔力切れ掛けの俺はもう歩くことも出来なくて、ぐったりとゲルトさんに抱きかかえられていたけれど、トロールに殺されかけた恐怖が今更襲ってきてゲルトさんの名前を呼びながらしがみついたんだ。
「よく頑張ったな。ウヅ、偉かったな」
「怖かった、怖かったよ。魔力切れになりそうで、防御壁も壊されて、もうゲルトさんに会えなくなるって」
ポンポンと背中を叩かれてジワリと涙が滲む。
「ゴブリンは兎も角、トロールはまだウヅには早かったな」
「ゲルトさんは簡単に倒しちゃった。凄かった」
「ふっ。あんなのいくらでも俺が倒してやるから、もう怖がるな」
「ゲルトさんっ!」
ぎゅうぎゅうと首に抱きついて、ほっぺを擦り寄せる。
なんかくっついていないと不安が襲ってきそうで怖かったんだ。
ゲルトさんは、そんな俺の気持ちを理解してくれてるみたいに俺の好きにさせてくれたんだ。
「なんだ邪魔したか?」
「ワルド」
「ウヅキ! 怪我したのか?」
ワルドさんとグレオ君の声に我に返って振り返る。
「グレオ君、怪我はしてないよ。魔力が切れ掛けてて立てないだけ」
「良かった、良かった。うわぁーんっ」
ワルドさんの隣に立っていたグレオ君は、俺の返事を聞くなり地面にしゃがみ込み泣き出してしまった。
「おいおい、グレオ泣いてる場合か」
「だって、俺、俺の方が大きいのにウヅキを置いて、俺っ」
「ゲルトさん」
「あぁ」
俺はゲルトさんに下ろしてくれる様に頼むと、泣き続けるグレオ君の前に俺をそっと下ろしてくれた。
「グレオ君がゲルトさんに知らせてくれたから、怪我せずに済んだんだよ。グレオ君、ありがとう」
「ウジュ……キ。ごめんな、俺弱くて頼りにならなくて」
「俺だって全然駄目だったよ。でもね、ゲルトさんは凄いんだよ。俺が何度魔法で攻撃しても駄目だったトロールを、たった一撃で首を落としちゃったんだから。格好良かったなぁ。見とれちゃったよ」
俺がわざと呑気にそう言えば、グレオ君はきょとりとした顔で俺を見た後で泣きながら笑うという器用な事をし始めた。
「見とれるって、ウヅキッ」
「だって凄かったんだよ。俺も余裕で狩れる様にならなきゃね」
にっこりと笑うと、グレオ君の背後でワルドさんが笑いだした。
「なんでぇ、ウヅキは大物だな。トロールなんざ初めて見たんだろうにそんなこたぁ言えるなんざ大したもんだ」
「ワルドさん」
「グレオが泣きながらギルトに来た時は驚いたが、怪我が無くて何よりだ」
「心配掛けてごめんなさい。来てくれてありがとうございます」
ワルドさんがグレオ君に付き添って来てくれたのが嬉しくて、俺は深々と頭を下げたんだ。
「俺は何もしてねぇよ。ゲルトの奴が向かったと聞いたから俺はいらねぇとは思ったんだが、グレオがお前を置いてきたから絶対に戻ると言ってきかねえもんでよぉ、泣いてるやつ一人でいかせるのもあれだから来たってだけなんだよ」
照れ隠しなのか、ワルドさんはガハハと笑いながらグレオ君の頭をぐしゃぐしゃ撫で始めた。
うわ、グレオ君が顔真っ赤になってる。
そうだよね、好きな人にそんなことされたら嬉しすぎてそうなるよね!
「ゲルトさん」
「もう帰ろうな」
ゲルトさんを見上げると、承知とばかりにヒョイッと抱き上げてくれる。そして、
「グレオも走り疲れたろ、ワルド」
「しょうなねぇなあ。背中はむりだな、小さすぎる。うん、軽いからこのままでいいよな」
おんぶしようとして、体格的に難しいと考えたのか俺とゲルトさんと同じ様に片腕抱っこでグレオ君を抱き上げたのだ。
「わっ、わっ、歩けますっ! 俺、歩け」
慌てて下りようとするグレオ君は、可哀想なくらいに狼狽えてるけどこれって絶好のチャンスって奴だ。
「騒いでねぇで、とっとと帰るぞ。あのふざけた二人はギルマスに捕まえるよう頼んで来たから。しっかり二人で証言するんだぞ」
「二人、貴族なんですよね? なら俺達が言っても」
「馬鹿言え、魔物の押しつけは禁止されてんだよ。しかも煙玉まで使って足止めしたって言うじゃねえか、悪質過ぎる」
ワルドさん、本気で怒ってる。
そりゃ俺も怒ってるけど、でも相手は貴族の子供なんだよね?
「大体この辺りにはトロールなんざ居ねえんだぞ、あいつらどこから連れてきたんだ? 本当にトロールだったのか?」
「ゴブリン七体に、トロール一体でした」
「トロールが暴れて、木をなぎ倒したのか? いや、これは違うな」
え、ワルドさん違い分かっちゃうの?
俺がビクリとしたら、ゲルトさんが小さく笑った気配がした。
「あんな風に倒れるのは、風系の魔法使った様にしか見えないぞ」
「え、使った魔法まで分かっちゃうんですか」
どうしよう。
木を切り倒すのは駄目だって聞いたのに、俺何本も折っちゃった。
「どうした?」
「俺怒られますか?」
「何故だ」
「だって、許可なく木を切り倒すのは駄目だって」
しょんぼりしちゃうな、トロールに殺されそうになった後に叱られるのキツイなぁ。
「ぷっ」
「ウヅ、大丈夫だ」
「でも、何本も」
「トロールを狩らずにいたら町に被害が出たかもしれないんだ、トロールを狩るためなんだから何も言われないさ」
「本当に?」
「でも、折角倒したんだから持って帰らねえとな」
「ウヅキ、本当に怒られませんか?」
「お前も心配性だな、俺とゲルトが証人になるから、そんな泣きそうな顔してんな」
ワルドさんがグレオ君を慰めている間に、ゲルトさんのマジックバッグにしまうふりで俺のマジックバッグに倒れた木を収納する。
大神様がくれたマジックバッグ、結構入るんだよね。
倒れた木が何本も入るのって、凄いよね。
「よし、後は問題ねえな。じゃあ、町に戻るぞ」
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