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初めての依頼3
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「ここから先は森に入るから、気をつけるんだぞ」
「この塀を超えると魔物が出てくるかもしれないんだよね」
「そうだよ。不思議だよなあ魔物避けの魔道具って」
小さな村には無いらしいけれど、冒険者ギルドが管理している町の周辺は魔物避けの結界を張る魔道具を取り付けた塀で町の周辺をぐるりと囲っているんだそうだ。
魔物避けの塀、草原、町の門と町を囲む石塀となっている。
魔物避けの塀には見張りの人は居ないし、馬車が通れる程度開いている箇所が何か所かあるけれど、魔道具の結界は範囲がかなり広いので問題ないらしい。
「塀が魔道具ってわけじゃないんだよね?」
「塀は魔物避けの結界があるって目印だって話だからなぁ」
「俺達が入れるのはこの塀から次の塀までなんだよね」
今の塀は魔道具が付けられているけれど、森の中にある塀はそうじゃない。大体その辺りで結界の範囲を超えるという目安らしい。
「そうだ。でも次の塀超えなくてもたまにゴブリン程度は出てくるらしいからなるべく奥には行かないようにしような」
「うん」
ゴブリン程度なら狩れるとは思うけど、ゲルトさんが近くにいないと何となく不安だから薬草採取に慣れるまでは森の奥に行くのは止めておきたい。
グレオ君が無茶しそうなタイプじゃなくて良かった。
というか、俺を心配しているんだよね。優しいなあグレオ君。
「薬草の特徴覚えたか?」
「うん。俺が受けた依頼の薬草は、葉っぱがギザギザしていて長さが俺の掌なんだよね、同じ様な葉っぱでもシマシマがあるのは雑草なんだよね」
「そうそう。それで魔草はウヅキの人差し指二本位の長さで、細くて濃い緑色、葉っぱの裏が黒っぽいのは毒草」
毒草は食べたらお腹を壊す程度の毒しかないらしいけど、葉っぱを煮出したりして色々処理するとそれなりに強い毒にはなるらしく、凄く安いけれど一応買い取りはして貰えるようだ。
薬草は体力回復薬、魔草は魔力回復薬になる。
「根っこは残して採取するんだよね」
「そうそう」
森に入ると途端に薄暗くなる。
上を見上げると、伸びた木の枝が重なって日を遮ってるんだと分かる。
「この辺りは皆が歩いて何となく道が出来てるから、歩きやすいんだ」
「枯れ枝とかもっと落ちてるかと思ってた」
「あー、枝が落ちてると拾って帰る奴多いからな」
「枝拾うのはいいんだ」
「うん。勝手に木を切り倒すのは駄目だけど枝はいいんだよ、ほらあの辺り切られた跡があるだろ」
「本当だ」
木の枝は焚き付けに使う。
ニルスさんの家は薪と魔道具の両方使ってるけれど、枝を使う家もあるんだね。
「落ち葉集めたらいい腐葉土になりそうだね」
「腐葉土?」
「うん。落ち葉って腐って最後は土に混ざっていくでしょ。その混ざった土が腐葉土っていって畑とかの土に混ぜると肥料になるんだよ」
「そうなのか、知らなかった。落ち葉集めて畑の土に混ぜればいいのか?」
「暫くは落ち葉を溜めておいて、葉っぱがある程度腐ってからじゃないと駄目なんだよ。大体五ヶ月位かかるかな」
正確には腐るじゃなくて発酵だったかな。
小学校では欅や桜の落ち葉を集め、裏庭に木の囲いを作って腐葉土を作っていた。
俺、なるべく家に帰るの遅くしたくて放課後に用務員さんのお手伝いしてたから、何となく作り方覚えてるんだよね。
米ぬかとか混ぜて、最後に土を被せるのが大変だったなあ。
「へええ。ウヅキ物知りだな」
「前住んでたところではそうしてたってだけだよ」
「でも、ただ住んでただけならそんな風に覚えてたりしないだろ、そういう経験を無駄にしないのって大事なんだって、ワルドさんが言ってたぞ」
「ワルドさんが?」
椅子を持ってきてくれた後辺りから、ワルドさんとたまに話をするようになった。
ワルドさん、声が大きくて話し方も乱暴だから慣れるまではちょっと怖かったけれど、実は色々気遣いをしてくれる優しい人なんだって分かってからは大きな声も平気になった。
というか、ワルドさんはゲルトさんには何かけんか腰なんだけど俺にはそうでもないし、周囲の人達にはかなり慕われてるんだよね。
「どんな経験も上手く次に活かせるかは自分次第なんだってさ、格好良いよなあ」
「グレオ君」
なんかグレオ君の口調が凄く嬉しそう。
ワルドさんて、グレオ君の憧れの人なのかな。ワルドさんの話題の度に嬉しそうにしてるもんね。
「何だよ」
「ワルドさんと仲良いんだね」
「え、ち、違っ。ワルドさんは俺みたいなのにも親切なだけで、この間依頼に行く途中で色々教えて貰ったりしただけなんだよ。仲良いなんてそんなんじゃ。そりゃ仲良くなれたら嬉しいけど、無理だよ」
あ、しょんぼりしちゃった。
「名前覚えて貰っただけで満足なんだ」
「そっか」
「俺みたいな子供眼中にないだろうから、それでいいんだ」
あれ? 眼中ってどういう意味で言ってるんだろ。
冒険者としてなのかな、それとも。
「ワルドさん同じ魔法使いなんだし、個人講習お願いしてみたらどうかな」
「個人講習? む、無理無理っ。そんなの緊張して死ぬっ」
お金は銀貨三枚掛かるけれど初級冒険者は、上の級の冒険者に講習を依頼する事が出来るんだ。
「でも、依頼できるの初級の内だけだよ。それとも教え慣れてるルル先生の方がいい?」
「教えるなんて柄じゃないって言われそうだけど、ワルドさんがいいなぁ。あぁでも俺なんかの為にワルドさんの時間貰うの悪いしさ、迷惑だって思われたら、俺大泣きする自信あるから無理だ」
「グレオ君」
「おかしいんだ俺。ゲルトさんは単純に冒険者として憧れてるんだけど、ワルドさんはそうじゃなくてさ。憧れもあるんだけど、それだけじゃなくて、話しかけられると嬉しくて仕方ないし、名前呼んでもらえた時はしっぽ逆立つ位に驚いたし、その後何度もその時のこと思い出して一人でニヤニヤしたりしてさ、なんか変なんだ、ここがギュウッてするんだ」
え、まさかそれって、まさかなの?
俺は思わず立ち止まって、グレオ君の顔を見つめてしまったんだ。
「この塀を超えると魔物が出てくるかもしれないんだよね」
「そうだよ。不思議だよなあ魔物避けの魔道具って」
小さな村には無いらしいけれど、冒険者ギルドが管理している町の周辺は魔物避けの結界を張る魔道具を取り付けた塀で町の周辺をぐるりと囲っているんだそうだ。
魔物避けの塀、草原、町の門と町を囲む石塀となっている。
魔物避けの塀には見張りの人は居ないし、馬車が通れる程度開いている箇所が何か所かあるけれど、魔道具の結界は範囲がかなり広いので問題ないらしい。
「塀が魔道具ってわけじゃないんだよね?」
「塀は魔物避けの結界があるって目印だって話だからなぁ」
「俺達が入れるのはこの塀から次の塀までなんだよね」
今の塀は魔道具が付けられているけれど、森の中にある塀はそうじゃない。大体その辺りで結界の範囲を超えるという目安らしい。
「そうだ。でも次の塀超えなくてもたまにゴブリン程度は出てくるらしいからなるべく奥には行かないようにしような」
「うん」
ゴブリン程度なら狩れるとは思うけど、ゲルトさんが近くにいないと何となく不安だから薬草採取に慣れるまでは森の奥に行くのは止めておきたい。
グレオ君が無茶しそうなタイプじゃなくて良かった。
というか、俺を心配しているんだよね。優しいなあグレオ君。
「薬草の特徴覚えたか?」
「うん。俺が受けた依頼の薬草は、葉っぱがギザギザしていて長さが俺の掌なんだよね、同じ様な葉っぱでもシマシマがあるのは雑草なんだよね」
「そうそう。それで魔草はウヅキの人差し指二本位の長さで、細くて濃い緑色、葉っぱの裏が黒っぽいのは毒草」
毒草は食べたらお腹を壊す程度の毒しかないらしいけど、葉っぱを煮出したりして色々処理するとそれなりに強い毒にはなるらしく、凄く安いけれど一応買い取りはして貰えるようだ。
薬草は体力回復薬、魔草は魔力回復薬になる。
「根っこは残して採取するんだよね」
「そうそう」
森に入ると途端に薄暗くなる。
上を見上げると、伸びた木の枝が重なって日を遮ってるんだと分かる。
「この辺りは皆が歩いて何となく道が出来てるから、歩きやすいんだ」
「枯れ枝とかもっと落ちてるかと思ってた」
「あー、枝が落ちてると拾って帰る奴多いからな」
「枝拾うのはいいんだ」
「うん。勝手に木を切り倒すのは駄目だけど枝はいいんだよ、ほらあの辺り切られた跡があるだろ」
「本当だ」
木の枝は焚き付けに使う。
ニルスさんの家は薪と魔道具の両方使ってるけれど、枝を使う家もあるんだね。
「落ち葉集めたらいい腐葉土になりそうだね」
「腐葉土?」
「うん。落ち葉って腐って最後は土に混ざっていくでしょ。その混ざった土が腐葉土っていって畑とかの土に混ぜると肥料になるんだよ」
「そうなのか、知らなかった。落ち葉集めて畑の土に混ぜればいいのか?」
「暫くは落ち葉を溜めておいて、葉っぱがある程度腐ってからじゃないと駄目なんだよ。大体五ヶ月位かかるかな」
正確には腐るじゃなくて発酵だったかな。
小学校では欅や桜の落ち葉を集め、裏庭に木の囲いを作って腐葉土を作っていた。
俺、なるべく家に帰るの遅くしたくて放課後に用務員さんのお手伝いしてたから、何となく作り方覚えてるんだよね。
米ぬかとか混ぜて、最後に土を被せるのが大変だったなあ。
「へええ。ウヅキ物知りだな」
「前住んでたところではそうしてたってだけだよ」
「でも、ただ住んでただけならそんな風に覚えてたりしないだろ、そういう経験を無駄にしないのって大事なんだって、ワルドさんが言ってたぞ」
「ワルドさんが?」
椅子を持ってきてくれた後辺りから、ワルドさんとたまに話をするようになった。
ワルドさん、声が大きくて話し方も乱暴だから慣れるまではちょっと怖かったけれど、実は色々気遣いをしてくれる優しい人なんだって分かってからは大きな声も平気になった。
というか、ワルドさんはゲルトさんには何かけんか腰なんだけど俺にはそうでもないし、周囲の人達にはかなり慕われてるんだよね。
「どんな経験も上手く次に活かせるかは自分次第なんだってさ、格好良いよなあ」
「グレオ君」
なんかグレオ君の口調が凄く嬉しそう。
ワルドさんて、グレオ君の憧れの人なのかな。ワルドさんの話題の度に嬉しそうにしてるもんね。
「何だよ」
「ワルドさんと仲良いんだね」
「え、ち、違っ。ワルドさんは俺みたいなのにも親切なだけで、この間依頼に行く途中で色々教えて貰ったりしただけなんだよ。仲良いなんてそんなんじゃ。そりゃ仲良くなれたら嬉しいけど、無理だよ」
あ、しょんぼりしちゃった。
「名前覚えて貰っただけで満足なんだ」
「そっか」
「俺みたいな子供眼中にないだろうから、それでいいんだ」
あれ? 眼中ってどういう意味で言ってるんだろ。
冒険者としてなのかな、それとも。
「ワルドさん同じ魔法使いなんだし、個人講習お願いしてみたらどうかな」
「個人講習? む、無理無理っ。そんなの緊張して死ぬっ」
お金は銀貨三枚掛かるけれど初級冒険者は、上の級の冒険者に講習を依頼する事が出来るんだ。
「でも、依頼できるの初級の内だけだよ。それとも教え慣れてるルル先生の方がいい?」
「教えるなんて柄じゃないって言われそうだけど、ワルドさんがいいなぁ。あぁでも俺なんかの為にワルドさんの時間貰うの悪いしさ、迷惑だって思われたら、俺大泣きする自信あるから無理だ」
「グレオ君」
「おかしいんだ俺。ゲルトさんは単純に冒険者として憧れてるんだけど、ワルドさんはそうじゃなくてさ。憧れもあるんだけど、それだけじゃなくて、話しかけられると嬉しくて仕方ないし、名前呼んでもらえた時はしっぽ逆立つ位に驚いたし、その後何度もその時のこと思い出して一人でニヤニヤしたりしてさ、なんか変なんだ、ここがギュウッてするんだ」
え、まさかそれって、まさかなの?
俺は思わず立ち止まって、グレオ君の顔を見つめてしまったんだ。
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