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初めての依頼2

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「グレオ君、ごめんね時間無駄にしちゃった」
「気にしなくていいってば今日はウヅキの初めての依頼だから、儲けとか考えてないし。この時間なら十分依頼はこなせるって」

 予想通りというか門番さんがギルドカードが俺のだと信用してくれなくて、まさかのギルドにとんぼ返り。
 皆には門番さんと一緒の俺達に何があったと聞かれるし、理由を話して大笑いされて恥ずかしいやら悲しいやらで散々だった。

 でもいい事もあった。
 今日はギルドで一日剣術講師をしているゲルトさんに会えたんだ。
 ほんの少しでもゲルトさんの顔が見られて嬉しかったし、いつもの鎧じゃなく皮の胸当てだけをつけ長剣を持っているゲルトさんは、控えめに言っても無茶苦茶恰好良かった。
 ゲルトさんって、熊獣人だからなのか体格が元々いいんだけどすっごく胸板が厚くって筋肉がしっかりついてるんだ。
 いつも着けてる鎧は上半身から太ももまでを覆うタイプのだからはっきりと分からないけれど、胸当てだけだと筋肉が良く分かるんだよねえ。
 あ、眠る時は勿論シャツだけだから分かるよ。ゲルトさんは何故か俺を両手で抱きしめる様にして寝てくれるから、視覚からも感覚からも分かるんだ。
 たくましいゲルトさんに守られて眠れる幸せを。

「ウヅキ大丈夫か?」
「あ、うん。落ち込んでても仕方ないよね。俺が幼く見えるのはどうしようもないし」
「う、そうだな。今回の事で門番達が周知してくれるって言ってたから明日からは大丈夫だよ。だから落ち込むなよウヅキ」
「うん。ありがとう」

 俺の年齢問題全然関係なく、ゲルトさんの筋肉に萌えていたとは言えずに優しいグレオ君の慰めに感謝する。
 グレオ君という友達が出来たのは、俺にとっての最大の幸せだと思う。

「でも、ウヅキは凄いな。ゲルトさんとパーティー組んでるし、ワルドさんとは親しいし、ニルスさんの養子なんてさあ。凄すぎるよな」
「ニルスさんとゲルトさんは、俺が森にいたのを見つけたから放っておけなかっただけだと思うよ。二人共面倒見がいいし。ワルドさんは、ほら俺、冒険者登録の時に戦ったから」
「そう言えばお前凄かったんだって他の人達が言ってたよ。魔法使いに詠唱させずに容赦なく蹴りまくったったんだよな」

 呆れた様なグレオ君の声に、ちょっといたたまれなくなる。
 俺、そんな酷い戦い方してたのかなあ。

「違うよ。あれはワルドさんが俺に手加減してくれてたんだよ」
「そうなのか?」
「だって、俺の蹴りだよ。そんなに威力あるわけないじゃん。体重だって軽いんだし」
「そうなのか? そうなのかな。ワルドさん優しいからな」
「うん、優しいよね。俺用に踏み台作ってくれたし、ニルスさんが俺様の椅子注文してくれたんだけど凄く座り心地いいんだよ。ワルドさん凄いよね」

 仲良く森まで歩きながら、グレオ君と話すのが楽しい。
 こういうのって、学校の帰り道にクラスメイトと話す感覚に似ている気がする。したことないけど。

「ワルドさんの椅子? いいなあ。家具を注文して作ってもらうなんて夢だよ夢」
「そうなんだ」
「うん。俺の家そんな貧乏とかじゃないけど、家具は昔からあるのをずっと使ってるし、グラグラしてるのは自分で修理してるからなあ。やっぱり優先順位は低くなるだろ」
「そうだね。食べ物、薬が優先で、よっぽど余裕があれが着るものとかだよね、優先するの」

 前世での優先は、常に食べ物だったな。
 食べ物、次に学校で使う道具。電気ガス水道は母さんが流石に払ってくれてたから(そうしないと自分が生活出来ないからだろうけれど)俺が気にする必要は無かったけれど、俺の生きていく上で必要な物は何一つ用意してくれなかった。
 だから一番大変だったのは、高校に入って給食が無くなったことだったんだよなあ。

「ウヅキどうした?」
「ううん。俺、恵まれてるなあって。ニルスさん達とゲルトさんに見つけて貰えて」
「……そう思えるお前って凄いと思うよ」
「そうかな」
「うん。俺、不満は色々あったけれど両親に甘やかされて育ってきたからさ。自分が恵まれてるとか思ったことなかったけれどさ」
「俺、そういうの良く分からないよ」

 親がいても、いないのと同じだった。
 まあ、今それを言ってもどうしようもない。
 今は、親はいなくて、養い親がニルスさんとマリアさんで、ゲルトさんは俺の側に居てくれる大切な人だ。

「分からないか。そうか」
「うん、だって俺今凄く幸せだからさ。これからもっともっと幸せになることしか考えてないからさ」
「そうか」
「そうだよ。俺、すっごい魔法使える様になって、さすがゲルトさんとパーティー組んでるだけあるねって言われる様になるんだよ。頑張れば頑張っただけ、凄い冒険者になれるんだから。凄いよね! グレオ君競争しようよ。どっちが早く上級冒険者になれるか」
「上級? 俺達まだ初級だし、ゲルトさんだってワルドさんだってまだ中級なんだぞ」
「そうだよ。でも、年なんか関係ないよ。一生懸命頑張って上級目指そうよ」

 湿っぽい空気は苦手で、そういう時はいつも未来を考えた。
 あの頃は本当に空元気でしかなかったけれど、今は違う。未来があるんだ。

「上級か、よし俺も目指すぞ上級冒険者」
「うん、一緒に頑張ろうよ、グレオ君」
「うん、頑張ろう」

 にっこり笑いあった俺達は、今日の依頼を達成する為森に足を踏み入れたんだ
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