87 / 248
ニルスさんも過保護4(ニルス視点)
しおりを挟む
「突然訪ねて申し訳ないのぉ」
バロンとの会話をそこそこに商会を出ると、そのまま私はワルドの家に向かったんじゃ。
ワルドの家の中は、昨日冒険者ギルドで見せていた荒々しい口調からは想像出来ない程に整頓され掃除も行き届いており居心地がよかった。
「いや、昨日の件謝罪に行かねえといけなかったんですから、わざわざニルス会頭に足を運ばせて、俺の方こそ申し訳ないです」
「謝罪?」
「俺は酔っていたとはいえ、ウヅキを馬鹿にしてしまいました」
「ふふふ、話しにくいならいつもの口調でいいんじゃよ」
踏み台の件といい、今のことといい、良い方向に予想を外してくれるワルドに私は悪いとは思いながらつい笑ってしまったんじゃ。
「すまねえ、そう言ってもらえると助かる。丁寧な言葉は話してるだけで肩が凝ってきていけねぇよ」
「職人なんてそんなもんさの」
砕けた口調で話す方が本音が出やすい。
ワルドは最初見せていた緊張をほぐし、木製の手付きの椀に薬草茶をいれてテーブルの上に置いてくれた。
「ウヅキ君の件は彼自身で解決したのじゃから、私への謝罪はいらんよ。ウヅキ君も気にしてはいないようじゃからの」
「そう言ってもらえると助かるが、俺はゲルトの前ではつい憎まれ口を吐いてしまうんで」
ワルドはゲルト君よりは幾分年上だった様に思うが、こうしてみると素直な性格をしている様に見える。
まあ若いんじゃろうな、多分二十代位なんじゃろう。かなりの若造じゃな。
「パーティーに何度も誘ってるんだが、断られてばかりだったからさ俺も意地になってたんだな」
「あの子も頑固だからのぉ」
だからこそウヅキ君とパーティーを組むと聞いて驚いたんだが、まあこれは時が過ぎたということもあるんじゃろうな。
「それで、ウヅキの件じゃねえなら何の?」
「ああ、ギルドで踏み台を見ての。ウヅキ君の為に考えてくれたんじゃな。ありがとう」
「え、い、いや。あのくれぇなんでもねぇし。あのチビは自分で何でもやりてえみてえだから、受付も自分で出来た方がいいんじゃねぇかと、いや。勝手して申し訳ねえ」
「ふふふ、ウヅキ君はとても喜んでいたよ」
私がウヅキの後ろにいると分かっての行為ではない様子に、心は決まった。
「とても丁寧に作ってあったから、あれなら長く使えるだろうて」
「まあ、暫く必要になりそうだからな。頑丈に作ったさ」
「あの作りを見ての、頼みたいものがあるんじゃよ」
懐から椅子の希望を描いた紙を取り出すと、テーブルの上に広げてワルドに見せる。
「椅子?」
「そうさの、ウヅキ君は体は小さいが大人に抱っこされて食事をするのは流石に嫌な様なんじゃ。もう十歳じゃなかのう。それで椅子の上にクッションを重ねて座らせてみたんじゃがどうにも危なくてのう」
「それで、椅子の脚を長く」
「これはウヅキ君が描いたものに寸法を入れたんじゃが、試しに一つ作ってもらえんかの」
試作して良ければ食堂用も含めて注文する。
ウヅキ君が言っていたもっと幼い子用の、椅子に小さなテーブルが付いたものは、出来上がった椅子を見て大きさを考えるつもりじゃった。
「俺がですか?」
「そうじゃよ」
「俺は余所者ですが」
「腕のいい職人に地元も余所も関係ないじゃろう? 私はウヅキ君が気分良く食事出来ればそれでいいんじゃ」
食が細いあの子が気分良く食事が出来るように、それだけなんじゃ。
「取り急ぎ、この寸法で一つ仕上げて貰うが使ってみて椅子が高すぎる様なら脚を少し短くするかもしれん。それを考えて作ってみてもらえるかの」
「本当に俺でいいんですか」
「あんたに十分な技術があるのは、踏み台を見て分かっておるからのぉ。私の屋敷の食卓に使っている椅子はこれなんじゃが、これに合わせられそうかの」
マジックバッグから椅子を取り出しワルドに見せると、何とも頼もしい表情でワルドは椅子を見ていたんじゃ。
こういう顔を見ると、ワルドは冒険者ではなく職人なのだと分かるのぉ。
職人仕事だけでは食べて行けず、冒険者をやりながら職人の仕事を続ける者は多いがワルドもその口なんじゃろうか。
「あぁ、それくらい造作もねえ」
「よろしい。それじゃ契約といこうかの」
懐から魔法契約の書類と専用の筆記用具を取り出しワルドへ契約書を見せる。
「条件はこれじゃよ」
「椅子一脚につき基本金貨ニ枚。一脚につき? 高価な素材使用の場合は都度価格相談?」
「最初の一脚が満足な出来なら、商会で経営している食堂にも何脚か置こうかと思っていてのぉ。後は売る分じゃの、これはまだ数の予想は出来んがの。貴族にも売れるかもしれんと思っておるんじゃよ、そちらは高級な素材を使って作って貰う様になるが、トレント等は扱えるかの」
この町だけでも商会が経営している食堂は三件あるし、大きな宿屋もある。この町以外にもあるからすべてに椅子を置こうとすればかなりの数になるじゃろう。
「それは勿論、だが食堂にも?」
「ウヅキ君を連れて行くこともあるじゃろうし、体が小さい種族も使えるじゃろ?」
「それは、確かに。俺のパーティーのビアンカの文句も減るな」
「ビアンカは鼠獣人じゃったかの?」
「ああ、あいつだけ体が小さいから、パーティーの奴らと食うときに困るんだ。あいつに合わせると俺たちには椅子もテーブルも低すぎるし、逆じゃあいつには高すぎる。ウヅキと違って大人だから抱っこするわけにもいかねえ」
つまりどちからが食事の度に我慢しているというのが現状だったんじゃな。
「これギルドの食堂は」
「あそこはうちの経営じゃないからのぉ。じゃがウヅキ君が一番行く可能性が高そうじゃな、まあ、ニ、三提供してもいいかの。それ以上必要な場合は注文して貰わないといけないがの」
体が小さい獣人は、冒険者登録している者はあまり多くない印象なんじゃが、実際はどうなのかの。
「それは助かる。ウヅキ以外も使っていいんだよな?」
「そうさの、必要な者が必要な時に使うのが道具というものじゃろうて」
「ああ、そうだな。ニルス会頭、ありがとうございます。絶対に気に入ってもらえる物を作ってみせますぜ」
「期待しておるよ。あ、ウヅキ君には出来上がるまで秘密じゃよ」
ウヅキ君の喜ぶ顔が早く見たいのぉ。
魔法講習はもう終わる時間じゃろうか、少し早いかもしれんが迎えにいこうかの。
ウヅキ君が困った貴族冒険者に講習をじゃまされていたなんて、この時の私は知らなかったんじゃ。
バロンとの会話をそこそこに商会を出ると、そのまま私はワルドの家に向かったんじゃ。
ワルドの家の中は、昨日冒険者ギルドで見せていた荒々しい口調からは想像出来ない程に整頓され掃除も行き届いており居心地がよかった。
「いや、昨日の件謝罪に行かねえといけなかったんですから、わざわざニルス会頭に足を運ばせて、俺の方こそ申し訳ないです」
「謝罪?」
「俺は酔っていたとはいえ、ウヅキを馬鹿にしてしまいました」
「ふふふ、話しにくいならいつもの口調でいいんじゃよ」
踏み台の件といい、今のことといい、良い方向に予想を外してくれるワルドに私は悪いとは思いながらつい笑ってしまったんじゃ。
「すまねえ、そう言ってもらえると助かる。丁寧な言葉は話してるだけで肩が凝ってきていけねぇよ」
「職人なんてそんなもんさの」
砕けた口調で話す方が本音が出やすい。
ワルドは最初見せていた緊張をほぐし、木製の手付きの椀に薬草茶をいれてテーブルの上に置いてくれた。
「ウヅキ君の件は彼自身で解決したのじゃから、私への謝罪はいらんよ。ウヅキ君も気にしてはいないようじゃからの」
「そう言ってもらえると助かるが、俺はゲルトの前ではつい憎まれ口を吐いてしまうんで」
ワルドはゲルト君よりは幾分年上だった様に思うが、こうしてみると素直な性格をしている様に見える。
まあ若いんじゃろうな、多分二十代位なんじゃろう。かなりの若造じゃな。
「パーティーに何度も誘ってるんだが、断られてばかりだったからさ俺も意地になってたんだな」
「あの子も頑固だからのぉ」
だからこそウヅキ君とパーティーを組むと聞いて驚いたんだが、まあこれは時が過ぎたということもあるんじゃろうな。
「それで、ウヅキの件じゃねえなら何の?」
「ああ、ギルドで踏み台を見ての。ウヅキ君の為に考えてくれたんじゃな。ありがとう」
「え、い、いや。あのくれぇなんでもねぇし。あのチビは自分で何でもやりてえみてえだから、受付も自分で出来た方がいいんじゃねぇかと、いや。勝手して申し訳ねえ」
「ふふふ、ウヅキ君はとても喜んでいたよ」
私がウヅキの後ろにいると分かっての行為ではない様子に、心は決まった。
「とても丁寧に作ってあったから、あれなら長く使えるだろうて」
「まあ、暫く必要になりそうだからな。頑丈に作ったさ」
「あの作りを見ての、頼みたいものがあるんじゃよ」
懐から椅子の希望を描いた紙を取り出すと、テーブルの上に広げてワルドに見せる。
「椅子?」
「そうさの、ウヅキ君は体は小さいが大人に抱っこされて食事をするのは流石に嫌な様なんじゃ。もう十歳じゃなかのう。それで椅子の上にクッションを重ねて座らせてみたんじゃがどうにも危なくてのう」
「それで、椅子の脚を長く」
「これはウヅキ君が描いたものに寸法を入れたんじゃが、試しに一つ作ってもらえんかの」
試作して良ければ食堂用も含めて注文する。
ウヅキ君が言っていたもっと幼い子用の、椅子に小さなテーブルが付いたものは、出来上がった椅子を見て大きさを考えるつもりじゃった。
「俺がですか?」
「そうじゃよ」
「俺は余所者ですが」
「腕のいい職人に地元も余所も関係ないじゃろう? 私はウヅキ君が気分良く食事出来ればそれでいいんじゃ」
食が細いあの子が気分良く食事が出来るように、それだけなんじゃ。
「取り急ぎ、この寸法で一つ仕上げて貰うが使ってみて椅子が高すぎる様なら脚を少し短くするかもしれん。それを考えて作ってみてもらえるかの」
「本当に俺でいいんですか」
「あんたに十分な技術があるのは、踏み台を見て分かっておるからのぉ。私の屋敷の食卓に使っている椅子はこれなんじゃが、これに合わせられそうかの」
マジックバッグから椅子を取り出しワルドに見せると、何とも頼もしい表情でワルドは椅子を見ていたんじゃ。
こういう顔を見ると、ワルドは冒険者ではなく職人なのだと分かるのぉ。
職人仕事だけでは食べて行けず、冒険者をやりながら職人の仕事を続ける者は多いがワルドもその口なんじゃろうか。
「あぁ、それくらい造作もねえ」
「よろしい。それじゃ契約といこうかの」
懐から魔法契約の書類と専用の筆記用具を取り出しワルドへ契約書を見せる。
「条件はこれじゃよ」
「椅子一脚につき基本金貨ニ枚。一脚につき? 高価な素材使用の場合は都度価格相談?」
「最初の一脚が満足な出来なら、商会で経営している食堂にも何脚か置こうかと思っていてのぉ。後は売る分じゃの、これはまだ数の予想は出来んがの。貴族にも売れるかもしれんと思っておるんじゃよ、そちらは高級な素材を使って作って貰う様になるが、トレント等は扱えるかの」
この町だけでも商会が経営している食堂は三件あるし、大きな宿屋もある。この町以外にもあるからすべてに椅子を置こうとすればかなりの数になるじゃろう。
「それは勿論、だが食堂にも?」
「ウヅキ君を連れて行くこともあるじゃろうし、体が小さい種族も使えるじゃろ?」
「それは、確かに。俺のパーティーのビアンカの文句も減るな」
「ビアンカは鼠獣人じゃったかの?」
「ああ、あいつだけ体が小さいから、パーティーの奴らと食うときに困るんだ。あいつに合わせると俺たちには椅子もテーブルも低すぎるし、逆じゃあいつには高すぎる。ウヅキと違って大人だから抱っこするわけにもいかねえ」
つまりどちからが食事の度に我慢しているというのが現状だったんじゃな。
「これギルドの食堂は」
「あそこはうちの経営じゃないからのぉ。じゃがウヅキ君が一番行く可能性が高そうじゃな、まあ、ニ、三提供してもいいかの。それ以上必要な場合は注文して貰わないといけないがの」
体が小さい獣人は、冒険者登録している者はあまり多くない印象なんじゃが、実際はどうなのかの。
「それは助かる。ウヅキ以外も使っていいんだよな?」
「そうさの、必要な者が必要な時に使うのが道具というものじゃろうて」
「ああ、そうだな。ニルス会頭、ありがとうございます。絶対に気に入ってもらえる物を作ってみせますぜ」
「期待しておるよ。あ、ウヅキ君には出来上がるまで秘密じゃよ」
ウヅキ君の喜ぶ顔が早く見たいのぉ。
魔法講習はもう終わる時間じゃろうか、少し早いかもしれんが迎えにいこうかの。
ウヅキ君が困った貴族冒険者に講習をじゃまされていたなんて、この時の私は知らなかったんじゃ。
31
お気に入りに追加
3,678
あなたにおすすめの小説
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
迷子の僕の異世界生活
クローナ
BL
高校を卒業と同時に長年暮らした養護施設を出て働き始めて半年。18歳の桜木冬夜は休日に買い物に出たはずなのに突然異世界へ迷い込んでしまった。
通りかかった子供に助けられついていった先は人手不足の宿屋で、衣食住を求め臨時で働く事になった。
その宿屋で出逢ったのは冒険者のクラウス。
冒険者を辞めて騎士に復帰すると言うクラウスに誘われ仕事を求め一緒に王都へ向かい今度は馴染み深い孤児院で働く事に。
神様からの啓示もなく、なぜ自分が迷い込んだのか理由もわからないまま周りの人に助けられながら異世界で幸せになるお話です。
2022,04,02 第二部を始めることに加え読みやすくなればと第一部に章を追加しました。
異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)
藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!?
手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!
獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。
えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた!
どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。
そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?!
いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?!
会社員男性と、異世界獣人のお話。
※6話で完結します。さくっと読めます。
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?
傷だらけの僕は空をみる
猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。
生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。
諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。
身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。
ハッピーエンドです。
若干の胸くそが出てきます。
ちょっと痛い表現出てくるかもです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる