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過保護なゲルトさん

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「ウヅ、大丈夫か」
「あの、はい。気を遣わせてごめんなさい」

 朝ごはんの後ゲルトさんと部屋に戻ってきた俺は、しょげかえりながらゲルトさんに謝った。
 ゲルトさんの部屋はベッドが一つと小さなテーブルと椅子と作り付けの収納がある。収納は服が掛けられる扉付きの物と、引き出し、それとは別に扉がないけれど頑丈そうな棚がある。
 冒険者のゲルトさんは、依頼で使う物以外はあまり物を持っていないらしく、棚には皮の鎧と剣、後はテント等が置いてあるだけだった。
 ベッドは熊獣人用だからなのか、宿によくあった物より大きくて俺が寝ても邪魔にならなそうなサイズでホッとした。

「それはいいんだが、ウヅは謝りすぎだ」
「でも迷惑を掛けたら謝るのは当然なんじゃ」
「ウヅは口癖みたいにすぐに謝るだろ」

 ゲルトさんは椅子に座り俺にも座るように言ってきたけれど、ゲルトさんの側に立ち縋るみたいにゲルトさんの肘の辺りに触れる。

「俺もニルスさん達もウヅから本当に迷惑を掛けられたらちゃんとそう言うし、悪いことをしたなら注意もする。旅の途中、ウヅが馬車に乗らず歩きたいと言った時に俺は止めただろ。覚えているか?」
「はい。覚えてますスライムを初めて狩った日です」

 覚えている。あの日俺はゲルトさんに止められて窘められたんだ。
 そうだよ、ゲルトさんははっきりと言ってくれる人なんだ。

「そうだ。もしウヅがしたいと言ったこと、やろうとした事で駄目な時はちゃんと言う。分かったか。それ以外は大丈夫なんだから謝る必要はないんだ」
「はい」

 ゲルトさんは俺の目を見ながらそう言ってくれたから、俺は安心して手を離せたんだ。

「今日は俺はギルドの用事で一緒に行けないが、買い物ニルスさん達だけで大丈夫か」
「勿論です。行先はニルスさんの商会ですから」

 ゲルトさんは用事があるからギルドに行かないといけないらしい、彼がいないのは凄く不安だ。
 しかもマリアさんもいない。町に帰って来たばかりだからマリアさんもゲルトさんも色々用事があって忙しいんだ、不安だなんて我儘言えない。

「そうか。ニルスさんと一緒なら俺は安心だけどな」
「……俺もです」

 言いながら、離した手がまたゲルトさんの袖に伸びてしまう。
 
「ふっ」

 俺のその行動がおかしかったんだろう。
 ゲルトさんはちょっとだけ笑った後、俺を膝の上に乗せてくれた。
 俺はゲルトさんの太ももを跨いで、ゲルトさんの方を向いて座らせられた。すっかりこの体勢にも慣れてしまった。
 慣れって怖いな。何の違和感も無いし、腕を伸ばせば密着出来るのは嬉しいしこうするとゲルトさんは俺の頭を撫でてくれるんだ。

「町の中ではニルスさんの手を離すんじゃないぞ。この町は治安がいいがそれでもスリはいる。ウヅのマジックバッグは服の中に入れて外に出したら駄目だ」
「はい」

 昨日の夜収納というかアイテムボックスの中をベッドの中で寝た振りしながら確認した。
 大神様は俺の記憶の中で思い入れがあるものを全部引っ張ってきたって言っていたから、もしかしたらって思って確認したら本当にあったんだ。
 店長がくれたソロバンと、奥さんがくれた料理の本三冊。
 どちらも俺の宝物だったけれど、母さんに見つかって壊されたんだ。

 思えば店長も奥さんも、俺が大きくなって母さんから独立出来た時に役に立つ事を日々教えてくれていたんだと思う。
 店長は俺に勉強を教えてくれたし、暗算は出来た方がいいと出会ってすぐにソロバンを教えてくれて店長が昔使っていたというソロバンをくれたんだ。大きくなってからは帳簿の付け方も棚卸の仕方も教えてくれたし、よくよく考えると商売の仕方の基礎は習っていた様な気がする。
 奥さんは料理や掃除洗濯、生活の基礎みたいのを習った。

 マジックバッグにはその二つも追加した。
 お金は大神様がマジックバッグに移してくれてたけれど、あるだけ全部マジックバッグに移した。これで何かあった時に自分で払える、お金の殆どは店長と奥さんが用立ててくれたものだ。ただそのお金は金貨三百枚だから、子供が持つには不自然なお金だけど。

「知らない人に声を掛けられても、ニルスさんが対応してくれる筈だ。ニルスさんが傍にいない時には返事したり、食べ物を貰ったり着いて行ったら駄目だぞ」
「はい」

 この世界の治安がどの程度なのか分からないけれど、子供を誘拐して売るとかは日常的にあるらしいから気を付けるに越したことはないし、スリには絶対に気を付けなくちゃ駄目だ。
 お金はこれから稼げても、俺の宝物が入っているんだから絶対に手放したくない。

「心配だな。俺もやっぱり一緒に……」
「ギルドの用事があるんですよね」
「あるが、それは後からでも」
「駄目ですよ。ゲルトさんの信用に関わります」

 用事より俺の事を優先しようとしてくれるゲルトさんの気持ちは嬉しいけれど、そんなの駄目に決まっている。
 ゲルトさんってやっぱり過保護だよね。

「それは、そうだが」
「ゲルトさんがいてくれたら嬉しいですけど、ニルスさんがいるから大丈夫です」

 ニルスさんがいるから大丈夫、不安がないのは本当。
 お父さんって存在を俺は知らないけれど、ニルスさんは俺のお父さんみたいな存在だった店長みたいに信頼できる人だと思っている。

「そうか」
「はい。でも、帰ったら剣の稽古をつけて欲しいです。いいですか?」

 離れたくないなあ。
 子供の特権で甘えているけれど、許して欲しい。
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