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子供用の椅子とウヅキの気持ち

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「それにしてもさ、ウヅ食べにくくないのか?」

 赤の実の煮たものを一切れ食べた後の残りとジャム味牛乳を、ゲルトさんに上げてしまった。
 お腹もいっぱいだったし、それよりも胸がいっぱいでこれ以上食べられなかった。
 だって俺が作ったのを美味しそうに食べてるんだよ。
 美味しくって幸せだって、うああっゲルトさん俺をこんなに幸せな気持ちにしてどうしたいの。
 幸せに浸りすぎた俺は、クッションを何個も重ねた不安定な状態だったのを忘れて椅子から落ちそうになったのだ。

「だ、大丈夫です。今のはちょっと油断しただけで」

 椅子から落ちかけるとか、子供というより幼児だろう。

「だから素直に抱っこされていればいいんだ」

 呆れたように言われても、ブンブン首を振る。
 この世界、というか獣人族は体の大きい人が多い。
 勿論鼠獣人とか栗鼠獣人とか小柄な種族もいるけれど。大抵大柄な獣人達が暮らすこの世界は、家具も当然大きいんだ。
 子供サイズの俺だと椅子に座ってテーブルに手が届かないから、クッションを何個も重ねて座っている。
 旅の間の食事をどうしていたかって? ゲルトさんの膝に座って食べてたんだよ。
 獣人達は子供が小さいうちは、そうやって食事をするらしい。そして何となく手が届くようになったら、後はそのまま大人と同じ椅子で食事をするそうだ。
 獣人は身体が育つのが早いからそれで何とかなるらしい。

「クッションだと滑って危ないわ」
「そうさのう」
「じ、じゃあ頑丈そうな木箱探して椅子を高くしたら……」
「それこそ危ないだろ」
「椅子を高くのぉ」

 元の世界なら子供用の椅子があった。
 現物見たことは無かったけれど、良くお店に来ていたお婆さんがひ孫用に買うんだとカタログを見せてくれたんだ。

「ウヅキ君は数年はクッション無しでは難しいだろうのぉ」
「そうかもしれません。子供用の椅子があれば良かったのに」

 元の世界の椅子を思い出して、ついそう呟いてしまった。

「子供用の椅子のぉ、子供用」
「ニルスさん?」

 何か考え込んてしまったニルスさんは、突然ロッタさんに書くものを持ってくるように言いつけた。

「ウヅキ君、君が欲しいと思う椅子の絵を描けるかのぉ」
「椅子の絵」

 食卓の上をロッタさんが手際よく片付けたテーブルに紙を広げ、ニルスさんが羽根ペンとインク壺を俺の前に置いた。

「椅子は、俺でも座って食事出来る様に脚が高くなっていて、座るところも少し小さくて、肘掛けもあるといいかも」

 お店にあったカタログの椅子ってこんな感じだったかな。

「もし、俺より小さい子なら、椅子の前にお皿とか置ける場所があるといいかも、いらない時は外せる様にして」

 絵に描くの難しいけどこれで分かるかな。
 それにしても羽根ペンって手が疲れるな。

「ほお、ウヅキ君は絵も上手いのぉ。マリアこれはどう思うかの」

 持ちにくい羽根ペンを使って描いたガタガタの線を褒められて、何となく微妙な気持ちになりながら椅子について話している声を聞きつつ使わなかった紙に苺ジャムの作り方を書く。

 苺と砂糖の分量。檸檬果汁を入れる場合のタイミングとジャムの煮詰め具合の確認方法。
 ついでにジャムを入れる器の煮沸消毒について。
 後は何だろう、赤の実の煮方も書いておこうかな。

「ウヅ何を書いているんだ?」
「えっと、ジャムの作り方と赤の実の煮方です。これがあればニルスさんの商会で遠くに行かなくてもお店で作って売れますよね。あ、赤の実はすぐに食べたほうがいいからお店の売り物にはならないかな」

 マジックバッグというものがあっても、ジャムの仕入れには使えないからジャムが悪くなるんだろうか? 分からないけれど俺の拙い料理がニルスさんの役に立って、少しでも恩返しになるなら嬉しい。

「ウヅキ君売り物って」
「あの、ロッタさんに仕入れたジャムがたまに悪くなっている時があるって聞いたので、材料代とか設備とか作る人とか必要でも、ニルスさんの商会でジャムを作れたらいいなって、……あの商売を良く知らないのに、生意気な事言ってごめんなさい」

 少しでも役に立てるんじゃないかと興奮して話していくうちに、表情が硬くなっていくニルスさんを見て俺の声はどんどん小さくなっていく。

「ウヅキ君、ジャムの作り方をウヅキ君が教えてくれたのはありがたい事だと思っているよ。だけどのぉ、この国でウヅキ君が商売したいと思った時に使えそうなものをうちの商会で使ってしまったらの、君が将来……」
「使いません、商売出来ると思えないしもし仮に何かやるにしても何年も先の話です! それなら売れて利益になりそうな人に使ってもらえた方がいいです。だってたまたま作り方知っていただけで、俺が考えたんじゃないし」

 ニルスさんが俺の将来を考えてくれて、それで心配してくれてるんだって分かって嬉しかった。

「俺は冒険者になるから商売はいいんです。あの、皆に美味しいって、食べて貰えたら嬉しいし、ニルスさん達の役に立てるのも嬉しいので、俺そんなに料理詳しいわけじゃないけど」

 ゲルトさんが美味しいって食べてくれたら、それで十分なんだとは、流石に言えなかったんだ。
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