53 / 248
受付嬢の心配(リサ視点)
しおりを挟む
「ニルスさん。保証人の書類について少し補足させていただきたいのですが」
ギルドマスターに無理矢理部屋の外へと連れて行かれたゲルトさんとウヅキさんを見送りながら、私はニルスさんに声を掛けました。
「ゲルト君はいいのかの」
「ウヅキさんを一人にするのは得策ではないと思いますので、必要と判断されましたらニルスさんからお話し頂けますか」
狐獣人のニルスさんは、このグリームの町にある大きな商会の会頭をされています。
とても頭が切れる方で商売の腕は確かだという話ですが、私は個人的に親しいわけではありません。
「そうか、ウヅキ君の体力と魔力についてじゃの」
「はい、それから習得魔法にあった防御壁についてです」
大きな商会の会頭には一見分からないニルスさんを前にしていると、なんだか気が抜けてしまいそうになりますがそれはきっとそう見えるだけです。
私は緊張しながら、話を進めました。
「先程ウヅキさんは、生命の危機があったかという私の問いを否定しませんでした。彼はまだ十歳と幼いですが、受け答えはもっと年上の様に感じます」
「そうさの、それで体力と魔力についての話とは?」
「防御壁の魔法、これをたった十歳で無詠唱で扱えるだけでなく、そのレベルが最上位。彼は無詠唱で防御壁を使っていたのではなく、無意識に使っていた。これこそが彼の魔力量が増えた要因の一つだと思います」
そう言うとニルスさんの目が一瞬鋭くなり、私は恐怖に震えてしまいました。
これがこの方の本当の顔なのでしょう。
私が怯えているのを感じ、すぐに元の優しい目に戻りましたが私の恐怖は消えません。
「親は彼と一緒にいるのでしょうか」
「それを聞いてどうするつもりかのう」
「私は冒険者ギルドの受付をしていますが、この町の教会にある孤児院でも働いています。私自身が孤児院出身なんです」
「それで?」
「ウヅキさんは、ずっと親に虐待されていたのではありませんか? それも日常的に」
虐待等が理由で魔力量が自分のレベル以上に高くなった子供は、親等から受ける暴力から実を守るために防御魔法を教えられなくても自然に習得してしまう事があります。
防御魔法であれば問題ありませんが、稀に攻撃魔法を習得してしまい、暴力を受けた反動で攻撃魔法を相手に使ってしまうことがあるのです。
「親はいない。ウヅキ君はの、親に捨てられていたんじゃよ。ここから馬車で二ヶ月程離れた場所にある森の中に捨てられて一人で泣いているところを私達が見つけたんじゃよ」
「そんな」
「私達が見つけた時は、捨てられて半日も経っておらなかったそうじゃが、胸が締め付けられる程の悲痛な声を上げて一人で泣いておったよ。それを思い出すだけで心が締め付けられる様になるんじゃ」
それを聞いて、先程自分のしっぽを不安そうに抱きしめていたウヅキさんの姿が頭の中に浮かんでしまいました。
とても十歳には見えない小さな体が、その小さな体をもっと小さくして消してしまおうとでも言うように、しっぽをぎゅっと抱きかかえていたのです。
あんな小さな子供の前で、怒鳴り声を上げるワルドさんの気持ちが理解できません。
彼は面倒身が良く冒険者達に慕われていますが、酒癖が良く無いのです。
「そうでしたか」
「だから虐待については、分からないとしか答えられないのう。その可能性は高いじゃろうが」
「ニルスさんもそう思われるのですね」
「ああ、だがこれを聞いてお前さんは何がしたいのかの、先程ウヅキ君にした質問は受付嬢の仕事の範囲を超えているように思うがの」
「はい、それは自覚しています。ただ、もしウヅキさんに虐待をしていた方が近くにいるであれば、その方とウヅキさんの接触を避けられる様に出来ないかと」
余計なお世話だと思いましたが、我慢できなかったのです。
「成程、それで」
「もしウヅキさんを逃がす必要があるのでしたら、孤児院で預かることも出来るかと」
「それは不要じゃよ。あの子は私とマリアの子にすると決めたんじゃ。養子の手続きも昨日終えておるよ」
「そうだったのですね。良かった」
ニルスさんの返事を聞いて、ホッとしました。
ニルスさんの養子に、それならあの子は守られる。
私の様にはならないで済むのです。
「さっき出会ったばかりの子に、なぜそんなに思い入れるんじゃ?」
「私自身が虐待されて育ったからです。私は不幸なことに攻撃魔法を覚えてしまい。両親を殺しかけ捨てられてしまいました。私は自分を守るために両親へ無意識に攻撃魔法を使ってしまったんです。私の親は人族ですが、どちらかは純粋な人族では無かったのでしょう。人族は魔力があっても少量でしかなく殆ど魔法は使えませんが、私は弱い攻撃魔法が使えてしまったんです」
人族は魔法を使える人は殆どいません。
人族は魔法は使えない代わりに、魔道具開発に長けているというのが人族獣人族の共通認識だと思います。
貴族なら魔力を強制的に増やして魔法を使える様にする家もあるそうですが、市井に暮らす者達は生活魔法すら使えない者が殆どだからです。
だから人族で獣人族の様に魔法が使える者は、優秀な者と持て囃されるのです。
「そうだったのかの」
「親から捨てられ私は孤児院に預けられました。それからは幸せに育ちましたが、親を殺しかけた記憶と捨てられた記憶はずっと心の中に残っていて未だに消えません。大きな声で怒鳴られる事も暴力もとても怖いです」
人族の孤児院で育った私は、山で薪を拾っている時に山賊に襲われて連れ去られ奴隷にされかかっていた時に偶然通り掛かったワイバーンを使役する獣人の魔法使いに助けられました。
私が暮らしていた村は貧しくて、孤児院も貧しかったですが住んでいたのは優しい人達ばかりでした。
私はその魔法使いが操るワイバーンに乗り獣人国にやって来て、今に至ります。
魔法使いのあの人は今はこの国に居ませんが、その人の商会では私はこの町の冒険者ギルドの受付で働き始めたのです。
「それでウヅキ君を心配してくれたんじゃな」
「余計な事でしたが」
「そんなことはない。あの子には味方が必要じゃからのう。リサさんや、あの子は小さくてか弱く見えるが賢いし我慢強いんじゃ。だけれど、とても泣き虫でもあるんじゃょ。親に捨てられた傷が癒えずに毎晩魘され泣きながらながら眠っているんじゃよ。本人は気がついておらんようだがの」
「そうだったんですね」
私にも覚えがあります。
苦しい夢を見て夜中に何度も目が覚めました。
狭いベッドに同じように親がない子達が一緒に寝ていたから、私は寂しいのは自分だけじゃないと諦められたのです。
「過剰に甘やかす必要はないんじゃ、だが見守ってやってくれんかの」
「勿論です」
「ありがとう」
にこりと笑うニルスさんに、私も笑顔で応えたのです。
ギルドマスターに無理矢理部屋の外へと連れて行かれたゲルトさんとウヅキさんを見送りながら、私はニルスさんに声を掛けました。
「ゲルト君はいいのかの」
「ウヅキさんを一人にするのは得策ではないと思いますので、必要と判断されましたらニルスさんからお話し頂けますか」
狐獣人のニルスさんは、このグリームの町にある大きな商会の会頭をされています。
とても頭が切れる方で商売の腕は確かだという話ですが、私は個人的に親しいわけではありません。
「そうか、ウヅキ君の体力と魔力についてじゃの」
「はい、それから習得魔法にあった防御壁についてです」
大きな商会の会頭には一見分からないニルスさんを前にしていると、なんだか気が抜けてしまいそうになりますがそれはきっとそう見えるだけです。
私は緊張しながら、話を進めました。
「先程ウヅキさんは、生命の危機があったかという私の問いを否定しませんでした。彼はまだ十歳と幼いですが、受け答えはもっと年上の様に感じます」
「そうさの、それで体力と魔力についての話とは?」
「防御壁の魔法、これをたった十歳で無詠唱で扱えるだけでなく、そのレベルが最上位。彼は無詠唱で防御壁を使っていたのではなく、無意識に使っていた。これこそが彼の魔力量が増えた要因の一つだと思います」
そう言うとニルスさんの目が一瞬鋭くなり、私は恐怖に震えてしまいました。
これがこの方の本当の顔なのでしょう。
私が怯えているのを感じ、すぐに元の優しい目に戻りましたが私の恐怖は消えません。
「親は彼と一緒にいるのでしょうか」
「それを聞いてどうするつもりかのう」
「私は冒険者ギルドの受付をしていますが、この町の教会にある孤児院でも働いています。私自身が孤児院出身なんです」
「それで?」
「ウヅキさんは、ずっと親に虐待されていたのではありませんか? それも日常的に」
虐待等が理由で魔力量が自分のレベル以上に高くなった子供は、親等から受ける暴力から実を守るために防御魔法を教えられなくても自然に習得してしまう事があります。
防御魔法であれば問題ありませんが、稀に攻撃魔法を習得してしまい、暴力を受けた反動で攻撃魔法を相手に使ってしまうことがあるのです。
「親はいない。ウヅキ君はの、親に捨てられていたんじゃよ。ここから馬車で二ヶ月程離れた場所にある森の中に捨てられて一人で泣いているところを私達が見つけたんじゃよ」
「そんな」
「私達が見つけた時は、捨てられて半日も経っておらなかったそうじゃが、胸が締め付けられる程の悲痛な声を上げて一人で泣いておったよ。それを思い出すだけで心が締め付けられる様になるんじゃ」
それを聞いて、先程自分のしっぽを不安そうに抱きしめていたウヅキさんの姿が頭の中に浮かんでしまいました。
とても十歳には見えない小さな体が、その小さな体をもっと小さくして消してしまおうとでも言うように、しっぽをぎゅっと抱きかかえていたのです。
あんな小さな子供の前で、怒鳴り声を上げるワルドさんの気持ちが理解できません。
彼は面倒身が良く冒険者達に慕われていますが、酒癖が良く無いのです。
「そうでしたか」
「だから虐待については、分からないとしか答えられないのう。その可能性は高いじゃろうが」
「ニルスさんもそう思われるのですね」
「ああ、だがこれを聞いてお前さんは何がしたいのかの、先程ウヅキ君にした質問は受付嬢の仕事の範囲を超えているように思うがの」
「はい、それは自覚しています。ただ、もしウヅキさんに虐待をしていた方が近くにいるであれば、その方とウヅキさんの接触を避けられる様に出来ないかと」
余計なお世話だと思いましたが、我慢できなかったのです。
「成程、それで」
「もしウヅキさんを逃がす必要があるのでしたら、孤児院で預かることも出来るかと」
「それは不要じゃよ。あの子は私とマリアの子にすると決めたんじゃ。養子の手続きも昨日終えておるよ」
「そうだったのですね。良かった」
ニルスさんの返事を聞いて、ホッとしました。
ニルスさんの養子に、それならあの子は守られる。
私の様にはならないで済むのです。
「さっき出会ったばかりの子に、なぜそんなに思い入れるんじゃ?」
「私自身が虐待されて育ったからです。私は不幸なことに攻撃魔法を覚えてしまい。両親を殺しかけ捨てられてしまいました。私は自分を守るために両親へ無意識に攻撃魔法を使ってしまったんです。私の親は人族ですが、どちらかは純粋な人族では無かったのでしょう。人族は魔力があっても少量でしかなく殆ど魔法は使えませんが、私は弱い攻撃魔法が使えてしまったんです」
人族は魔法を使える人は殆どいません。
人族は魔法は使えない代わりに、魔道具開発に長けているというのが人族獣人族の共通認識だと思います。
貴族なら魔力を強制的に増やして魔法を使える様にする家もあるそうですが、市井に暮らす者達は生活魔法すら使えない者が殆どだからです。
だから人族で獣人族の様に魔法が使える者は、優秀な者と持て囃されるのです。
「そうだったのかの」
「親から捨てられ私は孤児院に預けられました。それからは幸せに育ちましたが、親を殺しかけた記憶と捨てられた記憶はずっと心の中に残っていて未だに消えません。大きな声で怒鳴られる事も暴力もとても怖いです」
人族の孤児院で育った私は、山で薪を拾っている時に山賊に襲われて連れ去られ奴隷にされかかっていた時に偶然通り掛かったワイバーンを使役する獣人の魔法使いに助けられました。
私が暮らしていた村は貧しくて、孤児院も貧しかったですが住んでいたのは優しい人達ばかりでした。
私はその魔法使いが操るワイバーンに乗り獣人国にやって来て、今に至ります。
魔法使いのあの人は今はこの国に居ませんが、その人の商会では私はこの町の冒険者ギルドの受付で働き始めたのです。
「それでウヅキ君を心配してくれたんじゃな」
「余計な事でしたが」
「そんなことはない。あの子には味方が必要じゃからのう。リサさんや、あの子は小さくてか弱く見えるが賢いし我慢強いんじゃ。だけれど、とても泣き虫でもあるんじゃょ。親に捨てられた傷が癒えずに毎晩魘され泣きながらながら眠っているんじゃよ。本人は気がついておらんようだがの」
「そうだったんですね」
私にも覚えがあります。
苦しい夢を見て夜中に何度も目が覚めました。
狭いベッドに同じように親がない子達が一緒に寝ていたから、私は寂しいのは自分だけじゃないと諦められたのです。
「過剰に甘やかす必要はないんじゃ、だが見守ってやってくれんかの」
「勿論です」
「ありがとう」
にこりと笑うニルスさんに、私も笑顔で応えたのです。
22
お気に入りに追加
3,665
あなたにおすすめの小説
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
兄たちが弟を可愛がりすぎです
クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!?
メイド、王子って、俺も王子!?
おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?!
涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。
1日の話しが長い物語です。
誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。
いじめっこ令息に転生したけど、いじめなかったのに義弟が酷い。
えっしゃー(エミリオ猫)
BL
オレはデニス=アッカー伯爵令息(18才)。成績が悪くて跡継ぎから外された一人息子だ。跡継ぎに養子に来た義弟アルフ(15才)を、グレていじめる令息…の予定だったが、ここが物語の中で、義弟いじめの途中に事故で亡くなる事を思いだした。死にたくないので、優しい兄を目指してるのに、義弟はなかなか義兄上大好き!と言ってくれません。反抗期?思春期かな?
そして今日も何故かオレの服が脱げそうです?
そんなある日、義弟の親友と出会って…。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
運悪く放課後に屯してる不良たちと一緒に転移に巻き込まれた俺、到底馴染めそうにないのでソロで無双する事に決めました。~なのに何故かついて来る…
こまの ととと
BL
『申し訳ございませんが、皆様には今からこちらへと来て頂きます。強制となってしまった事、改めて非礼申し上げます』
ある日、教室中に響いた声だ。
……この言い方には語弊があった。
正確には、頭の中に響いた声だ。何故なら、耳から聞こえて来た感覚は無く、直接頭を揺らされたという感覚に襲われたからだ。
テレパシーというものが実際にあったなら、確かにこういうものなのかも知れない。
問題はいくつかあるが、最大の問題は……俺はただその教室近くの廊下を歩いていただけという事だ。
*当作品はカクヨム様でも掲載しております。
日本VS異世界国家! ー政府が、自衛隊が、奮闘する。
スライム小説家
SF
令和5年3月6日、日本国は唐突に異世界へ転移してしまった。
地球の常識がなにもかも通用しない魔法と戦争だらけの異世界で日本国は生き延びていけるのか!?
異世界国家サバイバル、ここに爆誕!
触手生物に溺愛されていたら、氷の騎士様(天然)の心を掴んでしまいました?
雪 いつき
BL
仕事帰りにマンホールに落ちた森川 碧葉(もりかわ あおば)は、気付けばヌメヌメの触手生物に宙吊りにされていた。
「ちょっとそこのお兄さん! 助けて!」
通りすがりの銀髪美青年に助けを求めたことから、回らなくてもいい運命の歯車が回り始めてしまう。
異世界からきた聖女……ではなく聖者として、神聖力を目覚めさせるためにドラゴン討伐へと向かうことに。王様は胡散臭い。討伐仲間の騎士様たちはいい奴。そして触手生物には、愛されすぎて喘がされる日々。
どうしてこんなに触手生物に愛されるのか。ピィピィ鳴いて懐く触手が、ちょっと可愛い……?
更には国家的に深刻な問題まで起こってしまって……。異世界に来たなら悠々自適に過ごしたかったのに!
異色の触手と氷の(天然)騎士様に溺愛されすぎる生活が、今、始まる―――
※昔書いていたものを加筆修正して、小説家になろうサイト様にも上げているお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる