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冒険者登録2

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「なんだ。何か用か」

 うわ、ゲルトさんが怒っている。
 声だけで不機嫌と分かるゲルトさんの返事に、俺のしっぽの毛が逆立ち膨らんだ。

「何かってよう。ずっと独りで活動していたゲルトがこんなガキとパーティーを組むとか正気とは思えねえから、子守なのかって聞いたんだよ」

 こんなガキと言われて俺は俯いてしまう。
 俺が冒険者になるのが心配なんだろう。
 ゲルトさんは俺がちゃんと独り立ちできるまでゲルトさんとパーティーを組んで冒険者活動をするのを条件に、俺の保証人になってくれたんだ。
 独り立ちの条件は? と聞いたら俺がゲルトさんを必要としなくなるまでと言ってくれた。
 そんなの、俺一生思わないから独り立ちする日は来ないと思う。
 だけど、そんなのは俺の勝手な思いだから、ちゃんと稼げる様になったらゲルトさんに頼るのは止めようと思ってるんだ。
 気持ちを止められるか自信ないけれど、頑張ってそうなりたいと思う。
 でも、その日が来たら大泣きしちゃいそうだ。ゲルトさんと離れる日なんて一生来ないで欲しい。
 ずっとずっと一緒にいたいんだもん。

「子守? はん、この子は俺のお守りなんて必要ないが、パーティーを組みたいと思ったから俺からお願いしたんだよ。だいたい俺が正気じゃなかったらお前は何なんだ。いつもいつも酒臭い」
「なんだと」

 ざわざわとあちこちから声が上がる。
 そんなに広くない冒険者ギルドの建物の中、手続きをしてくれた女の人はこの成り行きを見守っているし、さっきからこそこそと話をしている人達は、俺達の会話を意地悪な目をしながら興味本位に聞いているだけだ。

「こんな子供とパーティーを組みたいだと? 俺達の誘いは断っただろうが」
「お前のとこのパーティーなんて興味がないからな」
「なんだとっ」

 声を荒げる酔っ払いのこの人は、何の獣人だろう。
 何となくつるんとした印象の顔で目が細くて、耳が見えない。
 人族ではないと思うんだけど、鑑定したら駄目かな。

 俺の鑑定は疑問に思うと勝手に発動するらしい。
 鑑定結果が頭の中に浮かんできてしまった。

名前:ワルド
年齢:二十三歳
状態:泥酔
種族:蛇獣人
レベル:25
体力:250/320
魔力:500/500
職業:魔法使い、木工職人
魔法属性:水属性
習得魔法:生活魔法(水、火、浄化)水属性初級魔法全種類(レベル上の上)、水属性中級魔法水球(レベル中の下)、水壁(レベル中)、濁流拳(レベル下の下)水属性上級魔法基本一(レベル下の下)、火属性初級魔法全種類(レベル上の上)、土属性初級魔法全種類(レベル上の中)
習得技:なし
習得技術:木工

 レベルを見て驚いた。
 俺は旅の間にレベルが上がり今のレベルは22だ。+

名前:卯月
年齢:十歳
種族:狼獣人族
レベル:22
体力:3000/3000
魔力:2500/2500
職業:なし
魔法属性:全属性(光、闇、火、水、氷、風、土)
習得魔法:生活魔法(水、火、浄化)
習得技:蹴り(レベル中)、瞬殺(レベル下の上)、棒術(レベル下)、投石(レベル中の上)

 目の前の泥酔の人ワルドさんって言うみたいだけど、俺とレベルが変わらないしなんなら体力と魔力は俺の方が遥かに高いし、しかもこれレベル以外は隠蔽している状態だから、俺のは本当の体力と魔力の数字じゃなくてある意味比較にならない。

 俺の本当の体力と魔力はこの人の何倍あるか分からない程多い。
 俺が初めてこの世界に来た時の魔力と体力の値は、大神様の説明に狼獣人の一般的な平均よりは上とあったけれど、あれはレベル1の時の話だもん。
 それを考えると、今の俺の本当の数値って狼獣人の平均よりだいぶ上になるのかな。 

「そもそも俺が誰とパーティーを組もうと俺の勝手だろうが。お前にどうこう言われる筋合いは無いな」

 ゲルトさんの話し方が突き放した感じで少し怖い。
 俺がこんな風にゲルトさんに言われたら、怖くてもう話しかけられなくなるかもしれない。
 だって嫌われたくないんだ。

「なんだと」
「この子は幼く見えるが年齢はちゃんと十歳で冒険者登録できる年齢だ。小さく華奢だが、この年齢ですでにゴブリンもコボルトも単独で狩れる。生活魔法だって水、火、浄化全部使える。まだ魔法講習を受けていないにも関わらずだ。十分将来有望だろうが」
「こんな子供がたかだか生活魔法といえど使えるわけないだろうが、こんな子供が使えるわけねえだろ」

 あれ、生活魔法ってそういう位置づけなの?
 疑問に思ってニルスさんの方を見れば、にっこり笑って頷いてくれた。

 そうか、大神様が俺にこの世界で生活できるように能力をくれたから俺は使えるのか。
 そう言えば俺は覚えるのが早いんだって言ってたんだっけ。
 それもこれも全部大神様のお陰だ。
 それが分かったら、大神様に心の中で手を合わせてしまう。
 昨日もっと大神様に感謝を伝えれば良かった。
 お礼をどれだけ言っても足りないくらいの恩恵を、俺は大神様から貰っているんだ。

「あの、手続きを進めたいのですが」
「姉ちゃん。うるせえよ」
「ワルドさん、暴言はあなたの品位を下げるだけだと思いますが」
「リサさん、騒がせて悪いな。鑑定を受けさせて欲しいんだが」
「畏まりました。ウヅキさん、ニルスさんあちらの部屋で鑑定を行いますので」

 受付してくれた女の人はリサさんと言うらしい人族っぽい女性だけど、ワルドさんに乱暴な口調で言われても毅然とした態度で接してて恰好良い。
 俺はリサさんが指さす部屋に行こうとしたんだけど、ワルドさんはそれが面白くなかったらしい。

「俺が話してんだよっ」

 ワルドさんが叫び声を上げながらゲルトさんの肩に手を掛けようとしたから、俺は思わず『ゲルトさんに触らないで!』と強く念じてしまったんだ。

「え」
「あ」
「なっ!」
「うわああっ」

 俺は今何をしたんだろう。
 生活魔法を使った時よりも魔力が体から抜ける感覚があった後、ワルドさんは何かに弾かれる様に体が飛んだのだ。

「え、俺、あの」

 茫然としてゲルトさんとニルスさんを見た。
 俺、何をした?

「ウヅ、魔法を使ったのか?」
「ウヅキ君、防御壁を使えたのかのう」

 驚いた顔で俺を見ながらゲルトさんとニルスさんが聞いてくるから俺は自分に鑑定を使った。

習得魔法:生活魔法(水、火、浄化)、防御壁
 
 今までなかった魔法が、習得魔法に表示されていた。
 え、魔法ってこういう事で覚えらちゃうの? これって俺だけ?

「ええと、使えたみたいです?」
「無意識? 元々覚えていたのか?」

 そう言われても俺は首を傾げて困惑するしかない。

「分からないが、ウヅキ君は魔法使いの適性が高いのかもしれないのう」

 戸惑う俺に、ニルスさんはのんびりとそう告げたのだった。
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