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大神様のお顔
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「ここが教会だ。中に入るか?」
「はい」
やっとグリームの町に辿り着いた。
町に着いた途端知り合いに囲まれてしまったニルスさんとマリアさんは家に帰る前に商会に行かなくてはいけなくなったと、俺達に謝りながら去っていった。
冒険者登録は町に住民登録していない者の場合は二人の保証人が必要だそうで、俺の保証人にはニルスさんとゲルトさんがなってくれると決まっている。
二人が揃わないと俺の登録は出来ない、だから登録は早くて明日になる。
家に行く前に町を案内しようかと言われて、俺は教会に行きたいとお願いした。
「行きたい場所が教会なんて、ウヅは信仰心が篤いんだな」
「そういうわけじゃないです。神様のお名前も知らないですし」
「そうなのか?」
重い扉を開き中に入ると、正面に石像が見えた。
「大神様としか知らないです」
輝く人の形と黒猫、その姿しか俺は知らない。
我儘を沢山言ったのに過保護な程に色々してくれた、優しい神様だ。
俺は神様としか呼んでいないけれど、本当は大神様と言うとは教えられている。
「そうか大神様は月陽光神と呼ばれているんだ、この世を地の神様、水の神様と共に作ったと言われている。ほら、石像が三つあるだろ、真ん中が月陽光神、左右が地の神様と水の神様だ」
「近くに行っても?」
「ああ、大丈夫だ」
恐る恐る俺は石像に近づいた。
三体の石像は真ん中が大きくて、左右二体はそれほどでもない。
「優しそうなお顔」
髪は腰まで長くて、フード付きマントに袖無しのストンとしたワンピースっぽい服、その下にはズボンを履いていて足は編み上げ式のサンダルっぽい靴を履いている。
両手を胸の前で組んで、こちらを見下ろす様な感じだ。
でもなんでフード被ってるんだろう。
この世界の神様のイメージってこういうものなんだろうか。
「そこの敷物のところに膝をついて祈るんだよ」
「はい」
ゲルトさんが見本の様に膝をついたので、俺も隣に同じようにする。
「大神様の様に手を組み祈るんだ」
「はい」
作法を知らなかったから教えてもらえて助かった。
俺は胸の前で手を組み、目を閉じた。
大神様、俺はこの世界に来て幸せに過ごしています。
大神様のお陰です。
このグリームの町で、ニルスさん達と一緒に暮らせることになりました。
この世界に来て三ヶ月、三人と一緒に旅が出来て幸せでした。
冒険者登録も明日します。
報告したいこと沢山あるんだ。
でも、時間が足りないかな。
「では、時間を気にせず話すといい」
聞き覚えのある声に目を開くと、そこは白い空間だった。
「神様、大神様?」
「久し振りだね、卯月。元気にしているようで良かった。呼び方はどちらでもいいよ」
「分かりました、これからは大神様と呼ばせてください。俺は凄く元気です。毎日沢山食べてますし、剣の練習をして体力も付いてきました」
大神様は、以前の輝く姿ではなく石像と同じ姿になっていた。
あれが大神様の本当のお顔なのか分からないけれど、目の前の大神様はやっぱり優しそうな顔をしていると思う。
顔が分かると話し易いな。
「報告したいことがあると言っていたね」
「はい、報告というかお礼なんですが、俺ニルスさんとマリアさんという狐獣人と、熊獣人のゲルトさんとグリームの町で一緒に暮らすことになりました。あの、俺この世界に来られて毎日幸せです。三人と出会えて、本当に幸せです。ありがとうございます」
「そうかそうか、毎日幸せと思えるのなら良かった。三ヶ月の間どんな生活をしていた?」
「馬車で旅をしていました。色んな町や村を通ったんです。海の近くの町では釣りをしました。森に入って果物を採取したり薬草の取り方も教わりました。あ、それから魔物も狩れるようになりました」
三ヶ月は短いようでとても長い、俺は興奮してしっぽをブンブン振りながら大神様に話した。
「そうか、魔物も狩れる様になったか」
「はい。レベルも上がりました。あ!」
「どうした?」
「あの、魔物の魔石なんですが凄く沢山取れるんですが、俺のレベルが上がったら魔石の出方が変わった気がするんです。何か理由がありますか?」
「ああ、それは君のレベルより魔物のレベルが低い場合だね」
魔物のレベルが低い? 意味が分からなくて首を傾げてしまう。
「狩る時に苦労しない、卯月よりも低いレベルの魔物を狩った場合の魔石の取得率は普通より少しいい程度だね。大体の目安は卯月のレベルより十以上レベルが下の魔物だね。卯月と同じレベルか少し下程度のレベルの場合はやや多め、普通が十回に一回なら君は二回から、三回に一回かな、レベルが上になればなる程取得率は上がって質も良い魔石になっていく、あまり無茶はしないで欲しいが、レベルが十以上上の魔物の場合は一度に取得出来る魔石の数が増えていくよ。普通は一回落ちるだけだけど、二個三個と落ちる様になる」
いくよって、それいいのかな。
え? 今まで魔石が出る度にゲルトさんが微妙な顔してたのってもしかしてこれが原因?
「あの、こういう取得率が上がる能力って他の人は」
「似たようなものはあるけれど、君のそれを持つ人は稀だろうね。そうだね、能力にしておかないと目立つかな」
「目立つ?」
「能力はその人の努力で増えていくから、いくつ取得していてもおかしくないが、その能力を持っていないのに卯月の様な取得率だと悪目立ちするだろう。特に迷宮では」
「悪目立ちは困ります。俺年齢よりだいぶ下に見られるみたいだし、そんな子供が魔石を沢山落としてたら誘拐されちゃうかもしれません」
どう考えても俺強くないから、余計に狙われちゃいそうな気がする。
だって俺が仕留めたら魔石が沢山取れるとかおかしいよね。
「ふふ、大丈夫。一つ能力を授けるよ。自分を鑑定してご覧」
「鑑定、ええと、能力に素材奪取というのが増えました」
奪取ってどう言う意味だっけ? 文字通り奪い取る?
「魔物から素材を取れる能力だよ。これだと魔石だけでなく皮や角等が解体なしに取れるんだ。解体すれば魔物からもう一度同じものが取れる」
なんですか、その魔法みたいな能力。
俺は呆然と大神様の顔を見つめたのだった。
「はい」
やっとグリームの町に辿り着いた。
町に着いた途端知り合いに囲まれてしまったニルスさんとマリアさんは家に帰る前に商会に行かなくてはいけなくなったと、俺達に謝りながら去っていった。
冒険者登録は町に住民登録していない者の場合は二人の保証人が必要だそうで、俺の保証人にはニルスさんとゲルトさんがなってくれると決まっている。
二人が揃わないと俺の登録は出来ない、だから登録は早くて明日になる。
家に行く前に町を案内しようかと言われて、俺は教会に行きたいとお願いした。
「行きたい場所が教会なんて、ウヅは信仰心が篤いんだな」
「そういうわけじゃないです。神様のお名前も知らないですし」
「そうなのか?」
重い扉を開き中に入ると、正面に石像が見えた。
「大神様としか知らないです」
輝く人の形と黒猫、その姿しか俺は知らない。
我儘を沢山言ったのに過保護な程に色々してくれた、優しい神様だ。
俺は神様としか呼んでいないけれど、本当は大神様と言うとは教えられている。
「そうか大神様は月陽光神と呼ばれているんだ、この世を地の神様、水の神様と共に作ったと言われている。ほら、石像が三つあるだろ、真ん中が月陽光神、左右が地の神様と水の神様だ」
「近くに行っても?」
「ああ、大丈夫だ」
恐る恐る俺は石像に近づいた。
三体の石像は真ん中が大きくて、左右二体はそれほどでもない。
「優しそうなお顔」
髪は腰まで長くて、フード付きマントに袖無しのストンとしたワンピースっぽい服、その下にはズボンを履いていて足は編み上げ式のサンダルっぽい靴を履いている。
両手を胸の前で組んで、こちらを見下ろす様な感じだ。
でもなんでフード被ってるんだろう。
この世界の神様のイメージってこういうものなんだろうか。
「そこの敷物のところに膝をついて祈るんだよ」
「はい」
ゲルトさんが見本の様に膝をついたので、俺も隣に同じようにする。
「大神様の様に手を組み祈るんだ」
「はい」
作法を知らなかったから教えてもらえて助かった。
俺は胸の前で手を組み、目を閉じた。
大神様、俺はこの世界に来て幸せに過ごしています。
大神様のお陰です。
このグリームの町で、ニルスさん達と一緒に暮らせることになりました。
この世界に来て三ヶ月、三人と一緒に旅が出来て幸せでした。
冒険者登録も明日します。
報告したいこと沢山あるんだ。
でも、時間が足りないかな。
「では、時間を気にせず話すといい」
聞き覚えのある声に目を開くと、そこは白い空間だった。
「神様、大神様?」
「久し振りだね、卯月。元気にしているようで良かった。呼び方はどちらでもいいよ」
「分かりました、これからは大神様と呼ばせてください。俺は凄く元気です。毎日沢山食べてますし、剣の練習をして体力も付いてきました」
大神様は、以前の輝く姿ではなく石像と同じ姿になっていた。
あれが大神様の本当のお顔なのか分からないけれど、目の前の大神様はやっぱり優しそうな顔をしていると思う。
顔が分かると話し易いな。
「報告したいことがあると言っていたね」
「はい、報告というかお礼なんですが、俺ニルスさんとマリアさんという狐獣人と、熊獣人のゲルトさんとグリームの町で一緒に暮らすことになりました。あの、俺この世界に来られて毎日幸せです。三人と出会えて、本当に幸せです。ありがとうございます」
「そうかそうか、毎日幸せと思えるのなら良かった。三ヶ月の間どんな生活をしていた?」
「馬車で旅をしていました。色んな町や村を通ったんです。海の近くの町では釣りをしました。森に入って果物を採取したり薬草の取り方も教わりました。あ、それから魔物も狩れるようになりました」
三ヶ月は短いようでとても長い、俺は興奮してしっぽをブンブン振りながら大神様に話した。
「そうか、魔物も狩れる様になったか」
「はい。レベルも上がりました。あ!」
「どうした?」
「あの、魔物の魔石なんですが凄く沢山取れるんですが、俺のレベルが上がったら魔石の出方が変わった気がするんです。何か理由がありますか?」
「ああ、それは君のレベルより魔物のレベルが低い場合だね」
魔物のレベルが低い? 意味が分からなくて首を傾げてしまう。
「狩る時に苦労しない、卯月よりも低いレベルの魔物を狩った場合の魔石の取得率は普通より少しいい程度だね。大体の目安は卯月のレベルより十以上レベルが下の魔物だね。卯月と同じレベルか少し下程度のレベルの場合はやや多め、普通が十回に一回なら君は二回から、三回に一回かな、レベルが上になればなる程取得率は上がって質も良い魔石になっていく、あまり無茶はしないで欲しいが、レベルが十以上上の魔物の場合は一度に取得出来る魔石の数が増えていくよ。普通は一回落ちるだけだけど、二個三個と落ちる様になる」
いくよって、それいいのかな。
え? 今まで魔石が出る度にゲルトさんが微妙な顔してたのってもしかしてこれが原因?
「あの、こういう取得率が上がる能力って他の人は」
「似たようなものはあるけれど、君のそれを持つ人は稀だろうね。そうだね、能力にしておかないと目立つかな」
「目立つ?」
「能力はその人の努力で増えていくから、いくつ取得していてもおかしくないが、その能力を持っていないのに卯月の様な取得率だと悪目立ちするだろう。特に迷宮では」
「悪目立ちは困ります。俺年齢よりだいぶ下に見られるみたいだし、そんな子供が魔石を沢山落としてたら誘拐されちゃうかもしれません」
どう考えても俺強くないから、余計に狙われちゃいそうな気がする。
だって俺が仕留めたら魔石が沢山取れるとかおかしいよね。
「ふふ、大丈夫。一つ能力を授けるよ。自分を鑑定してご覧」
「鑑定、ええと、能力に素材奪取というのが増えました」
奪取ってどう言う意味だっけ? 文字通り奪い取る?
「魔物から素材を取れる能力だよ。これだと魔石だけでなく皮や角等が解体なしに取れるんだ。解体すれば魔物からもう一度同じものが取れる」
なんですか、その魔法みたいな能力。
俺は呆然と大神様の顔を見つめたのだった。
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