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スライムを狩ってみよう1
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「さあて、出発するかの。今日の昼には町に着くじゃろうて」
大泣きしてから二日経った朝、俺達は町に向けて出発した。
夜の見張りの後半を担当していたゲルトさんは、馬車の中で仮眠を取っている。
俺はゲルトさんの側に居たいなあと思いながら、馬を操るニルスさんの横に座るマリアさんの膝に抱っこされていた。
日本では高校生だった俺は幼い頃でさえ誰かに抱っこされるなんて経験が皆無だった。
誰かが俺の体に触れるのは、俺を痛めつけようとする時だから、そんなつもりは全くないと分かっていても抱っこされる度に一瞬緊張して身構えてしまうし、俺なんかを抱っこして本当は嫌じゃないのかなと心配になってしまうけれど、三人が当たり前の様にするから俺は抱っこされて暫く動きを停止した後は、つい甘えてしまう様になった。
特にゲルトさんの抱っこがヤバい。
一目惚れ、つまりゲルトさんがそういう意味で好きだと気が付いた俺は、本当はゲルトさんに抱っこされるのは避けたいという気持ちがある。
今の俺の体は十歳の子供だから、そういう恥ずかしい反応はまだ起きないけれど、でもやっぱり恥ずかしい。
でも戸惑いはあるけれど、スキンシップは実際には嬉しい。
嬉しいけれど恥ずかしい、恥ずかしいけれど嬉しいから複雑な心境って奴だ。
正直に言えば、抱っこされている時間が終わるのが寂しいから、避けたくなるんだよね。
「ウヅキ君が持っていたパン、今朝で全部食べてしまったわね」
「はい。でもそんなに日持ちしないだろうから、食べ終わって良かったです」
泣き疲れてゲルトさんにしがみ付きながら寝落ちしたあの日、目が覚めた俺はマジックバッグの中に入っているのをもう一度確認してみた。
追加で入っていた服と母さんからの手紙の他、体の小さな俺でも使いやすそうな短剣とひょうたんみたいな植物で出来た物(鑑定したら水筒として使うものだと分かった)と厚手の毛布と一枚の毛皮が入っていた。
三人にマジックバッグに入っているものを教えると、旅をする為の基本の物が入っていると言われた。
こんなに色んなものが追加で入っていると知らなかったから、お金以外を全部出しながらひたすら驚いていると、ニルスさん達は俺にマジックバッグだと説明せずに首に掛けていたんだろうと誤解してくれた。
アイテムボックスの件は話せないし、マジックバッグを知らなかったのに持っていたことも説明出来ないから誤解して貰えたのは申し訳ないけど有難かった。
本当はテントとかもっともっと必要な物はあるけれど、無理矢理に旅するならこの程度でもなんとかすることは出来るらしいとニルスさんから説明を受けた。
元々神様の手紙を読んだ時に防具と短剣は身に着けていたんだけど、なんでもう一本マジックバッグに短剣が追加されていたのかは謎だった。
「あのパン美味しかったわね。同じ物は出来ないでしょうけれど、家に着いたら真似をして焼いてみましょうね」
「楽しみにしています」
マジックバッグに入っていたパンは、俺が店長の店で良く買っていたクルミとドライフルーツが沢山入った雑穀パンだった。
ちょっと硬いけれどバターとかなくても、噛んでいると甘みが出てきて美味しいし腹持ちがいいし何より大きい。
値段は割とするけど、高い分売れ行きがあまりよくなくて値下げ対象になりやすいパンだった。
俺の好きなものを入れてくれるなんて、あれは神様のサービスだったんだろうか。
あの神様、サービス精神が旺盛すぎると思う。
そしてあのパン、アイテムボックスの方にも沢山入っていた。
食べても減らないのに、あんなに沢山入れてくれたのは、神様が俺を心配してなんだろう。
そう思うと神様の気持ちが嬉しい。
「旅の途中は手の込んだものは作れないけれど、家なら時間を掛けて料理が出来るわ、調理を担当する者もいるから彼女に話したら喜ぶと思うわ」
「俺も一緒に作っていいですか?」
「勿論よ。ウヅキ君は手際が良いから助かるわ」
ニコニコして頷くマリアさんに、俺は安心して笑顔になる。
手紙の内容は、正直ショック過ぎた。
夜思い出すと涙が滲んでくるのは、俺の精神が子供の体に引っ張られて幼くなっているせいなのだろうか。
確かに子供の頃は母さんに優しくされたくて、俺の存在を認めて欲しくて仕方がなかったけれど、年を重ねる毎にそれも薄れていっていたし諦めもついていたと思っていたのに。
俺は母さんの愛情をまだ未練がましく求めていたみたいなんだ。
あんなに、憎かった。
父さんそっくりの顔が嫌だったと書かれていたのを読んで、俺は本当に母さんに嫌われていたんだと分かってショックだったんだ。
「マリアさん、今日行く町で俺冒険者登録出来ますか」
沈む気持ちを何とかしようと、俺は明るい声を出してマリアさんに尋ねた。
冒険者ギルドがあると、確か言っていた。
本当に俺でも登録出来るか心配だけど、年齢制限に引っ掛からなければ大丈夫な筈だよね?
不安だけど、冒険者になるっていうのが俺がこの世界で一番最初にクリアしたい目標だから、早く登録に行きたかったんだ。
大泣きしてから二日経った朝、俺達は町に向けて出発した。
夜の見張りの後半を担当していたゲルトさんは、馬車の中で仮眠を取っている。
俺はゲルトさんの側に居たいなあと思いながら、馬を操るニルスさんの横に座るマリアさんの膝に抱っこされていた。
日本では高校生だった俺は幼い頃でさえ誰かに抱っこされるなんて経験が皆無だった。
誰かが俺の体に触れるのは、俺を痛めつけようとする時だから、そんなつもりは全くないと分かっていても抱っこされる度に一瞬緊張して身構えてしまうし、俺なんかを抱っこして本当は嫌じゃないのかなと心配になってしまうけれど、三人が当たり前の様にするから俺は抱っこされて暫く動きを停止した後は、つい甘えてしまう様になった。
特にゲルトさんの抱っこがヤバい。
一目惚れ、つまりゲルトさんがそういう意味で好きだと気が付いた俺は、本当はゲルトさんに抱っこされるのは避けたいという気持ちがある。
今の俺の体は十歳の子供だから、そういう恥ずかしい反応はまだ起きないけれど、でもやっぱり恥ずかしい。
でも戸惑いはあるけれど、スキンシップは実際には嬉しい。
嬉しいけれど恥ずかしい、恥ずかしいけれど嬉しいから複雑な心境って奴だ。
正直に言えば、抱っこされている時間が終わるのが寂しいから、避けたくなるんだよね。
「ウヅキ君が持っていたパン、今朝で全部食べてしまったわね」
「はい。でもそんなに日持ちしないだろうから、食べ終わって良かったです」
泣き疲れてゲルトさんにしがみ付きながら寝落ちしたあの日、目が覚めた俺はマジックバッグの中に入っているのをもう一度確認してみた。
追加で入っていた服と母さんからの手紙の他、体の小さな俺でも使いやすそうな短剣とひょうたんみたいな植物で出来た物(鑑定したら水筒として使うものだと分かった)と厚手の毛布と一枚の毛皮が入っていた。
三人にマジックバッグに入っているものを教えると、旅をする為の基本の物が入っていると言われた。
こんなに色んなものが追加で入っていると知らなかったから、お金以外を全部出しながらひたすら驚いていると、ニルスさん達は俺にマジックバッグだと説明せずに首に掛けていたんだろうと誤解してくれた。
アイテムボックスの件は話せないし、マジックバッグを知らなかったのに持っていたことも説明出来ないから誤解して貰えたのは申し訳ないけど有難かった。
本当はテントとかもっともっと必要な物はあるけれど、無理矢理に旅するならこの程度でもなんとかすることは出来るらしいとニルスさんから説明を受けた。
元々神様の手紙を読んだ時に防具と短剣は身に着けていたんだけど、なんでもう一本マジックバッグに短剣が追加されていたのかは謎だった。
「あのパン美味しかったわね。同じ物は出来ないでしょうけれど、家に着いたら真似をして焼いてみましょうね」
「楽しみにしています」
マジックバッグに入っていたパンは、俺が店長の店で良く買っていたクルミとドライフルーツが沢山入った雑穀パンだった。
ちょっと硬いけれどバターとかなくても、噛んでいると甘みが出てきて美味しいし腹持ちがいいし何より大きい。
値段は割とするけど、高い分売れ行きがあまりよくなくて値下げ対象になりやすいパンだった。
俺の好きなものを入れてくれるなんて、あれは神様のサービスだったんだろうか。
あの神様、サービス精神が旺盛すぎると思う。
そしてあのパン、アイテムボックスの方にも沢山入っていた。
食べても減らないのに、あんなに沢山入れてくれたのは、神様が俺を心配してなんだろう。
そう思うと神様の気持ちが嬉しい。
「旅の途中は手の込んだものは作れないけれど、家なら時間を掛けて料理が出来るわ、調理を担当する者もいるから彼女に話したら喜ぶと思うわ」
「俺も一緒に作っていいですか?」
「勿論よ。ウヅキ君は手際が良いから助かるわ」
ニコニコして頷くマリアさんに、俺は安心して笑顔になる。
手紙の内容は、正直ショック過ぎた。
夜思い出すと涙が滲んでくるのは、俺の精神が子供の体に引っ張られて幼くなっているせいなのだろうか。
確かに子供の頃は母さんに優しくされたくて、俺の存在を認めて欲しくて仕方がなかったけれど、年を重ねる毎にそれも薄れていっていたし諦めもついていたと思っていたのに。
俺は母さんの愛情をまだ未練がましく求めていたみたいなんだ。
あんなに、憎かった。
父さんそっくりの顔が嫌だったと書かれていたのを読んで、俺は本当に母さんに嫌われていたんだと分かってショックだったんだ。
「マリアさん、今日行く町で俺冒険者登録出来ますか」
沈む気持ちを何とかしようと、俺は明るい声を出してマリアさんに尋ねた。
冒険者ギルドがあると、確か言っていた。
本当に俺でも登録出来るか心配だけど、年齢制限に引っ掛からなければ大丈夫な筈だよね?
不安だけど、冒険者になるっていうのが俺がこの世界で一番最初にクリアしたい目標だから、早く登録に行きたかったんだ。
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