ひとめぼれなので、胃袋から掴みます

木嶋うめ香

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再びの神様

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「ここは?」

 目を開くと白い空間だった。
 あれ、ここって。

「卯月」
「神様?」

 あれ、俺また死んじゃったのか?
 そっか、また。

 じわりと涙が滲む。
 さっきまで幸せだったよ。
 
 一人で自然一杯のところにいて、最初は驚いたけれど神様の手紙で神様が過保護なくらいに俺に良くしてくれたのは分かったし、ニルスさんとマリアさん、それにゲルトさんと出会えた。

 美味しい果物をマリアさんは俺に食べさせてくれた。
 その後は、具沢山のスープに木の実入りのパン、俺はそれを腹いっぱい食べさせて貰った。
 初めて会った人達に図々しいかなって思ったけれど、三人にはむしろ少食過ぎると心配された。
 心配の仕方が出会ったばかりの店長と奥さんみたいだなって、そんなこと思い出したらもう二人には会えないんだと寂しくなったけど、突然耳をへにょりとさせた俺をゲルトさんは心配して抱っこしてくれたんだ。

「どうしたの」
「神様、俺を転移させてくれてありがとうございました。俺、思い残す事ありません」

 俺が死んでしまった事への後悔があるとすれば、奥さんにちゃんとお別れを言えなかったことだ。
 新しいバイトがすぐに見つかって、借金の返済が問題なく出来る様になったら一度だけでも奥さんに会いに行きたいって思ってた。
 だけどそれが出来なかったから、俺はお世話になったお礼も言えずに日本から姿を消してしまったんだ。

「思い残すことはない?」
「はい。さっきまで俺狐獣人のニルスさんとマリアさん、あと熊獣人の冒険者のゲルトさんと一緒に夕飯を食べていたんです。後先考えずにお腹いっぱいになるまで食事しました」

 十歳の頃の俺はそんな事出来なかった。
 あの頃の俺は行動範囲が狭くて、中々店長のお店にも行けなかった。
 給食を大事に食べて、それで命を繋いでいたんだ。
 だから体が小さかったんだよなあ。

「そうか。良かったね」
「ニルスさんとマリアさんは俺が日本でお世話になっていた、店長と奥さんみたいで、なんだか俺奥さんと一緒に料理出来た様な気持ちがして、幸せでした」
「そうか」
「神様、日本にいる店長と奥さんは元気ですか?」
「それは私には分からない。離れてしまったから地球の神の許可なしに現状は分からないのだよ」
「そうですか」

 神様の世界も自由じゃないんだな。
 
「狐獣人夫婦とはうまくやれそうかな」
「うまく? 二人とも、あのこういうのは失礼だと思うんですが、店長と奥さんみたいで初めて会った気がしなくて。図々しいんですがなんか俺、甘えてしまいました」
「そうかそうか」
「神様?」

 神様はニコニコと俺の話を聞いて頷いている。
 ニルスさんは店長と同じ、考え込んでいる時鼻の頭を掻くという癖があるみたいでそれが何だか店長を思い出してしまって、懐かしくなるんだ。

「それなら今後も上手くやっていけるね」
「え。あの今後って」
「これから先、君の保護者になってくれそうじゃない?」

 神様は嬉しそうに言うけれど、俺は戸惑ってしまう。
 俺ってまた死んだんじゃないの?

「神様、俺まだ生きていていいんですか?」
「勿論いいよ。どうして駄目だと思ったんだい?」
 
 不思議そうに言われて、素直に俺は答えた。

「だって、死んじゃったからこの場所に来たんじゃ」
「ああ、普通は死んでもここには来ないから。君が今いるのは特別だよ。様子を聞きたかっただけ」
「そうなんですか、じゃあ僕は戻れるんですね」

 まだ生きていていいんだと思ったら、嬉しくなってしっぽが揺れてしまった。

「ふふふ。狼獣人の君の感情は素直に表現されているね」
「あ、これ、困るんです。なんとかなりませんか?」
「ならないね。耳としっぽの動きは自分で制御するしかないよ」
「制御」

 出来る気がしない。
 ああ、そう言えば聞きたいこといっぱいあったんだ。

「神様、頂いた能力について教えて貰えると嬉しいんですが、大丈夫ですか?」
「なんだい?」
「いくつかありますが、まず。アイテムボックスは珍しい能力ですか?」
「ああ、珍しいんじゃないかな。全くいないわけじゃないけれど、君の様な容量無限大時間経過なしなんてのはいないと思うよ。そうだね、珍しすぎるね。じゃあこれをあげよう」

 神様は考え込んだ後、俺の手の上に小さな革袋を乗せた。

「これは?」
「馬車半分程度の容量のマジックバッグだよ。時間経過もするからあの世界では金貨百枚もしないものだね」
「なぜこれを俺に?」
「最低限必要なものだけ、それに入れて懐にしまいなさい。そうだねお金の一部と薬の一部とパンとナイフ位が妥当かな。今入れてしまいなさい」
「はい」

 神様に言われた様に、お金の一部と回復薬と傷薬を数本ずつ、あとはパンを五個とナイフ一本。仕舞うお金は全部銅貨にした。

「それでいい。君がアイテムボックスについて話してもいいと判断出来たら話すといい。でも、話すことが誠実だとは限らないからね。話をした方が相手の負担になる場合もある。それは君の他の能力にも言える。隠蔽した能力は一度そうしたら解除するまでそのままだから、本当に信用出来る相手以外には話してはいけないよ。そうすれば隠蔽した能力の状態で能力を確認する魔道具に移るし、鑑定の能力持ちにもそう見られるからね。魔力や体力は成長と共に増えていくが隠蔽した状態でもそれは適度に増えている様に見えるから、うっかり本当の値を言わない様にね」
「はい。分かりました」

 誰にも話さずにいよう。
 俺のことで迷惑をかけるわけにはいかない。

「魔法は、魔法を覚えて使いこなす必要はあるけれど、何でも思うままに覚えられる。魔力は多いから鑑定は常に物に向けて掛けておくといいよ。呪文はない、詳しく知りたいと思えば買ってに発動する。レベルが低い内は名前程度しか出ないだろうけれど使っていく内に詳しく分かる様になる。同じ物をしつこい位に鑑定してもいいよ。鑑定はできる人は多いけれど高レベルの人は少ないから、レベルが高くなったら迂闊なことは言わないこと、約束できるかな」
「はい。他の魔法は?」
「生活魔法は使おうとすればすぐに使える。他の魔法は初球を覚えたら後は順々にかな。魔法は発想力と想像力が大切だよ。出来ないと諦めていたら出来る魔法も使えなくなるし、覚えられもしない。君は魔法を覚える能力に長けているから何でも貪欲に覚えて行けばいい。使いこなせるかどうかは別問題だから努力は必要だけどね」
「分かりました」
「君は身体が小さいけれど、体術も秀でているし魔法も出来る。だから悲観しないで頑張りなさい」
「冒険者になれますか?」
「なれるよ。ただし努力は必要だ」
「努力します。俺、この世界で幸せになりたいです」

 あったかいスープをお腹いっぱい食べて、温かい毛布に包まって眠るんだ。
 出来たら好きな人と一緒に暮らしたい。
 家族として、暮らせる人が欲しい。

「神様」
「大丈夫。諦めないで努力しなさい」

 笑っている様な声は、突然小さくなり始めた。

「ありがとうございます。神様」

 慌ててお礼を言って、俺は現実の世界へと戻って行った。
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