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幼く可愛い子1(ゲルト視点)
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「よく眠っているわ。疲れていたのね」
たき火を囲んでいた俺とニルスさんは、戻って来たマリアさんの声に顔を上げた。
夜も遅くなり、目を擦り眠気に耐えようと頑張っていたウヅをマリアさんは馬車の中へと連れて行ったのだ。
「そうか、良かった」
ニルスさんは優し気な顔で微笑んでいるけれど、俺はなんだか落ち着かなかった。
指名依頼を冒険者ギルドを通して受けた俺は、ニルスさんとマリアさんの行商の旅に同行していた。
狐獣人の商人夫婦は大きな商会の会頭夫婦で、リディア国の王都に本店がある商会を息子夫婦に任せ二人はのんびりと行商の旅に出るのだと依頼を受ける時に話してくれた。
狐獣人は性格がズル賢いのが当たり前と言われる中で、ニルスさん夫婦は俺にとっては優しく誠実な商人だし、俺が下宿している家の家主でもあるし、付き合いは子供の頃からだから付き合いは長い。
冒険者なりたての頃からニルスさんの紹介の仕事を受けていた俺は、単独で仕事をする中の上級の冒険者だ。
元々魔物は自分で狩っていたが、三年前にギルドの勧めで冒険者に登録した。
そこから級が上がるのは早かったが、冒険者としての経験は短い。
俺の年は十七歳。
熊獣人の俺は魔法は生活魔法が少し使えるだけで、体術か剣術で魔物を倒す。
四人から六人のパーティを組み魔物討伐をするのが普通の冒険者の中で、俺は浮いている存在だ。
「親はどうしたんだろうなあ」
ニルスさんはたき火に枯れ枝を足しながら、空を仰ぎ呟いた。
ニルスさん達の行商の旅の護衛として雇われている俺は、リディア国の端魔の森の中にある癒しの泉に来ていた。
そこで狼獣人の子供を見つけたのだ。
「十歳にしては幼過ぎます。あれは本当に十歳なんですか」
森を歩いていたら子供が泣く声が聞こえたんだ。
胸の奥をぎゅっと鷲掴みされた様な、切ない声。
不安と悲しみ。それが音になって森に響いている様に感じた泣き声は、十歳という年齢が信じられない程に幼い狼獣人の子供が発していたものだったんだ。
「幼く見えるけれど、話し方は成人していると言われても信じる程ね」
「そうだな。芋の皮むきもスープの作り方も手馴れていて幼い子供とは思えない」
今日何も食べていないという彼に、マリアさんは赤の実を食べさせた。
赤の実は果物の中では高級な部類に入る果物で、知り合ったばかりの子供に食べさせるものではないけれどマリアさんは躊躇いなくそれを切り分け幼い彼の手に渡したんだ。
「元々は育ちがいいのかもしれないですよね。香辛料を料理に使おうとしていたし」
香辛料は人族の国から仕入れてくるものだから、高価なものだ。
それを当たり前に使おうとしていた。
塩だけで料理するのが普通だと言った後、ウヅはすぐに納得し自分もそうだったと言ったけれど多分それは本当ではないだろう。
彼が作った塩味だけのスープは程よく材料が煮えていて美味しかった。
だけど彼はそれでは不本意そうで、俺達の口に合うかどうかを気にしていたようだった。
「食べることに困らない程度の暮らしなら、あの痩せ方は異常よ。母親が傍に居たにしては匂いもなさすぎるわ」
「そうだなあ。匂いは全くしなかったな」
「あの子が嘘をついていると?」
あの泣き声は思い出しただけで胸の奥がギュッと締め付けられる。
それ程に切ない声だった。
大きな瞳は涙で潤み、へにょりと項垂れた耳もしょんぼりとしたしっぽも彼の悲しみを伝えていたんだ。
「それはないだろうな。考えられるとしたら、一緒に行動しても匂いが付かない程度に離れていた。だよ」
「それは親子でありえるんですか。狼獣人の親子の仲は密だと聞いていますが」
獣人族は親子の繋がりが人族などに比べて濃いのが普通だ。
俺が親しくしているのは、冒険者ギルドの受付位のものだが彼女からそういう話を聞いたことがある。
獣人の種族により親子の繋がりは異なるが、基本的に親は子を溺愛しかまいたがる。
それは俺も同じだった。
「普通ならそうなんだが、あの子を見ているとそうとは思えないんだよ。ウヅキ君からは全く他人の匂いがしないし、あまりにも人馴れしなさすぎている」
ニルスさんは考えながら木の椀に注いだ茶を啜っている。
狐獣人は考える能力に長けている。
俺は考えるよりも動く方だけれど、ニルスさんは考えた末に動く人だ。
だからこそ王都でも有名な商会を築くことが出来たんだろう。
「あなた。これからどうするおつもりですか?」
「どうするって、どうするかなあ」
「ウヅは一人なんですよね」
「そうだな。ゲルト君に懐いていたようだが」
くすくすとニルスさんが笑う。
人見知りというか警戒をしまくっていたウヅは、食事をした後はマリアさんに懐きニルスさんに懐いた。
そして、なぜか俺にも懐いたんだ。
「俺よりも二人に懐いています。まるで親子のようだ」
マリアさんの後を付いて回り食事の後片付けをすると、今度は採取した薬草をするニルスさんの側でにこにこと手伝いをしていた。
手先が器用で、物覚えも早いのか仕事は丁寧だったし手早かった。
「あら、それは嬉しいわ。私ウヅキ君が大好きだもの」
「そうさの。あの子は良い子だの」
狐獣人の夫婦は目を細め馬車の中で眠るウヅの事を話す。
「あなた。私はあの子を引き取りたいわ。駄目かしら」
あの子の泣き顔を思い出していた俺は、マリアさんの言葉に目を見開いたのだった。
たき火を囲んでいた俺とニルスさんは、戻って来たマリアさんの声に顔を上げた。
夜も遅くなり、目を擦り眠気に耐えようと頑張っていたウヅをマリアさんは馬車の中へと連れて行ったのだ。
「そうか、良かった」
ニルスさんは優し気な顔で微笑んでいるけれど、俺はなんだか落ち着かなかった。
指名依頼を冒険者ギルドを通して受けた俺は、ニルスさんとマリアさんの行商の旅に同行していた。
狐獣人の商人夫婦は大きな商会の会頭夫婦で、リディア国の王都に本店がある商会を息子夫婦に任せ二人はのんびりと行商の旅に出るのだと依頼を受ける時に話してくれた。
狐獣人は性格がズル賢いのが当たり前と言われる中で、ニルスさん夫婦は俺にとっては優しく誠実な商人だし、俺が下宿している家の家主でもあるし、付き合いは子供の頃からだから付き合いは長い。
冒険者なりたての頃からニルスさんの紹介の仕事を受けていた俺は、単独で仕事をする中の上級の冒険者だ。
元々魔物は自分で狩っていたが、三年前にギルドの勧めで冒険者に登録した。
そこから級が上がるのは早かったが、冒険者としての経験は短い。
俺の年は十七歳。
熊獣人の俺は魔法は生活魔法が少し使えるだけで、体術か剣術で魔物を倒す。
四人から六人のパーティを組み魔物討伐をするのが普通の冒険者の中で、俺は浮いている存在だ。
「親はどうしたんだろうなあ」
ニルスさんはたき火に枯れ枝を足しながら、空を仰ぎ呟いた。
ニルスさん達の行商の旅の護衛として雇われている俺は、リディア国の端魔の森の中にある癒しの泉に来ていた。
そこで狼獣人の子供を見つけたのだ。
「十歳にしては幼過ぎます。あれは本当に十歳なんですか」
森を歩いていたら子供が泣く声が聞こえたんだ。
胸の奥をぎゅっと鷲掴みされた様な、切ない声。
不安と悲しみ。それが音になって森に響いている様に感じた泣き声は、十歳という年齢が信じられない程に幼い狼獣人の子供が発していたものだったんだ。
「幼く見えるけれど、話し方は成人していると言われても信じる程ね」
「そうだな。芋の皮むきもスープの作り方も手馴れていて幼い子供とは思えない」
今日何も食べていないという彼に、マリアさんは赤の実を食べさせた。
赤の実は果物の中では高級な部類に入る果物で、知り合ったばかりの子供に食べさせるものではないけれどマリアさんは躊躇いなくそれを切り分け幼い彼の手に渡したんだ。
「元々は育ちがいいのかもしれないですよね。香辛料を料理に使おうとしていたし」
香辛料は人族の国から仕入れてくるものだから、高価なものだ。
それを当たり前に使おうとしていた。
塩だけで料理するのが普通だと言った後、ウヅはすぐに納得し自分もそうだったと言ったけれど多分それは本当ではないだろう。
彼が作った塩味だけのスープは程よく材料が煮えていて美味しかった。
だけど彼はそれでは不本意そうで、俺達の口に合うかどうかを気にしていたようだった。
「食べることに困らない程度の暮らしなら、あの痩せ方は異常よ。母親が傍に居たにしては匂いもなさすぎるわ」
「そうだなあ。匂いは全くしなかったな」
「あの子が嘘をついていると?」
あの泣き声は思い出しただけで胸の奥がギュッと締め付けられる。
それ程に切ない声だった。
大きな瞳は涙で潤み、へにょりと項垂れた耳もしょんぼりとしたしっぽも彼の悲しみを伝えていたんだ。
「それはないだろうな。考えられるとしたら、一緒に行動しても匂いが付かない程度に離れていた。だよ」
「それは親子でありえるんですか。狼獣人の親子の仲は密だと聞いていますが」
獣人族は親子の繋がりが人族などに比べて濃いのが普通だ。
俺が親しくしているのは、冒険者ギルドの受付位のものだが彼女からそういう話を聞いたことがある。
獣人の種族により親子の繋がりは異なるが、基本的に親は子を溺愛しかまいたがる。
それは俺も同じだった。
「普通ならそうなんだが、あの子を見ているとそうとは思えないんだよ。ウヅキ君からは全く他人の匂いがしないし、あまりにも人馴れしなさすぎている」
ニルスさんは考えながら木の椀に注いだ茶を啜っている。
狐獣人は考える能力に長けている。
俺は考えるよりも動く方だけれど、ニルスさんは考えた末に動く人だ。
だからこそ王都でも有名な商会を築くことが出来たんだろう。
「あなた。これからどうするおつもりですか?」
「どうするって、どうするかなあ」
「ウヅは一人なんですよね」
「そうだな。ゲルト君に懐いていたようだが」
くすくすとニルスさんが笑う。
人見知りというか警戒をしまくっていたウヅは、食事をした後はマリアさんに懐きニルスさんに懐いた。
そして、なぜか俺にも懐いたんだ。
「俺よりも二人に懐いています。まるで親子のようだ」
マリアさんの後を付いて回り食事の後片付けをすると、今度は採取した薬草をするニルスさんの側でにこにこと手伝いをしていた。
手先が器用で、物覚えも早いのか仕事は丁寧だったし手早かった。
「あら、それは嬉しいわ。私ウヅキ君が大好きだもの」
「そうさの。あの子は良い子だの」
狐獣人の夫婦は目を細め馬車の中で眠るウヅの事を話す。
「あなた。私はあの子を引き取りたいわ。駄目かしら」
あの子の泣き顔を思い出していた俺は、マリアさんの言葉に目を見開いたのだった。
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