ひとめぼれなので、胃袋から掴みます

初めての野営3

「ご、ごめんなさ、グスン、ごめんなさい」

　泣き過ぎて頭が痛い。
　俺の涙でゲルトさんの服がびしゃびしゃに濡れている。
　どうしよう、こんな場所で洗濯とか出来ないよね。濡れてたら気持ち悪いだろうし、どうしよう。
　旅をしているなら、着替えとか持ってるかな。でも、洗濯。
　あれ、神様の手紙に生活魔法に浄化があるって書いてあった、任意の場所を綺麗に出来るって。
　浄化ってどうやるんだろ、俺魔法何も覚えてないけれど出来ないのかな。
　ゲルトさんの服綺麗になれっ、とか。
　これじゃ駄目だよね。

「え」
「あれ」

　生活魔法を今すぐ覚えたいと心の中で願いながら「ゲルトさんの服綺麗になれ」と呟いたら、体から何かが抜ける感覚を覚えた後、ゲルトさんの体がほんの一瞬だけ光った気がした。

「浄化？　ニルスさん？」
「そのようですね。ウヅキ君はもう生活魔法が使えるのかな」
「あの、使ったことない」

　どうしよう。おかしいことしちゃったんだろうか。
　ニルスさんは優しく聞いてくれているのに、不安で心が潰れそうになる。

「そうか、では習得していたけれど使ったことがなかったのかな」
「そんなことあるんですか」

　生活魔法は生きていく上で必要な魔法だから、殆どの人が使えるって手紙に書いてあったけれど神様の認識とは違うんだろうか。

「うーん。生活魔法は二つの説があってね。元々皆生活魔法の水、火、浄化は生きていく内に自然に覚えていくのだけれど魔力の使い方を習得しないと使えないという説と、教会で祝福を受けた際に神様から生活魔法を頂くという説があるの。教会で祝福を受ける時期は家によって様々だから、早い家は生まれて一月程度で祝福を受ける場合もあるし、十三歳の仮成人の時にやっと祝福を受ける家もあるわ。どちらの説が正しいか分からないけれどね。まれに生活魔法が使えない人もいるから、本当はどちらも正解では無いのかもしれないけれどね」

　マリアさんが丁寧に説明してくれる。
　だとしたら、俺が十歳でこの魔法を使えても問題ないのかな。
　神様、詳しく説明して欲しかったよ。

「ウヅキ君、浄化の魔法を使おうと思ったの？」
「あの、俺泣いて、ゲルトさんの服汚しちゃったから。だから綺麗になったらいいなって」
「気にしなくていいのに。ウヅは優しいんだな」

　ゲルトさんに優しいと言われて、顔が熱くなる。なんでこんなにドキドキするんだろ。困るよこれ。

「でも、魔法は偶然使えただけかも」

　魔法を使おうと思っていないから、もう一度出来るかどうか自信がない。
　
「ウヅキ君は魔法の才能があるのかもしれないわね。教えられなくても魔力を上手に使う人もいるらしいけれど、そういう人の殆どは魔法使いの才能があるそうだから」

　そうなのかな。
　もし、そうなら体が小さくても冒険者になれるだろうか。

「あの、魔法はどうやったら使える様になりますか」

　学校とか行かないと教えてもらえないのだと、ちょっと厳しい気がするけど、どうなんだろう。

「魔法は一番簡単な物は、冒険者ギルドの講習で教えてもらえるわ。後は教会ね。魔法は使うことで強い魔法を自然に覚えていくのよ」
「それは俺でも受けられますか。それを受けたら冒険者になれますか」

　一番簡単な魔法以外は自力で覚えるのか、ん？　それなら最初から自力でなんとかならないのかな。