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終わりってこんななの?
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「卯月君これ今月の給料だよ、今までありがとう。こんなことになって申し訳ない」
茶封筒に給料と表書きしたものを、店長は謝りながら手渡してくれた。
店長はこの店のオーナーで、奥さんと二人でコンビニ規模の小さな食料品店を経営している。
「今日で店も最後だから、ここにあるのはなんでも持っていっていいよ。バックルームにずっとあったこれ誰も使わないから、これに売れ残り全部詰めて持って行きなよ」
バックルームにあったなんて、そんな記憶ないのに立派なキャリーケースと登山でも出来そうな大きなリュックを店長は指差して、バックルームにいつの間にか引き込んでいた商品ワゴンの品物は売れ残りだと言い切った。
「店長、これ」
今日限りでこの店は閉店する。
閉店セールで店の中スッカラカンだったのに、商品ワゴンの上には日持ちしそうなお菓子や健康補助食品、米に小麦粉や調味料、レトルト食品や洗剤なんかの雑貨まで沢山まで載っている。
これが売れ残りの筈がないのにと躊躇している俺を待っていられなくなったのか、店長がキャリーケースとリュックの中に商品を詰めていく。
「退職金出せなかったからねその代わりだよ。今までありがとうね、卯月君」
「……じゃあ、有り難く頂きます」
店長の優しさに涙が出そうになる。
卯月と書いてウヅキと読むけれど、母さんですら俺の名前を殆ど呼ばない。
店長と奥さんは卯月君と俺を呼んでくれていたけれど、この店が無くなったらそう呼んでくれる人はもう誰もいないだろう。
「一人暮らしが難しいなら、おじちゃん達と暮らさないかい?」
「母さんの借金取りが来るかもしれないし、そしたら迷惑掛けてしまうから」
母さんが借金を残していなくなったことは、さっき店長に打ち明けたばかりだ。
店が最後の日にする話じゃないとは分かっていたけれど、自分の胸の中に収めて奥には重すぎる現実につい話してしまったんだ。
「借金なら支払いしてあげられるよ」
「大丈夫です。なんとかしますから」
ワゴンの上にあった商品は、ぴったり全部キャリーケースとリュックに収まった。
やっぱり売れ残りなんかじゃなくこれは店長が用意してくれたんだと悟ったけれど、お礼が言えずに店長の優しさに俺は無理矢理笑顔を作った。
「奥さん早く退院出来ると良いですね。落ち着いたら会いに行きますから」
「そうだな、あれは卯月君を可愛がっていたから会いに来てくれたらきっと喜ぶよ」
「はい、じゃあ行きます」
「元気でな」
「店長も、お元気で」
ぺこりと頭を下げて、二年間お世話になった店を後にしたのだった。
「これからどうしよう」
店を出て暫く歩いてから封筒の中身を確認すると、計算していたより一万円札が数枚多かった。
そして、いつでもおいで、三人で暮らしたら楽しいよ。との言葉と共に住所と電話番号が書かれたメモを見つけて俺はまた涙が出そうになった。
「店長」
俺はこの店でずっとバイトしていた。
午後三時半から閉店まで、土日は昼間もフルで働いて十万弱の給料は俺にとっての命綱に等しかった。
あればあるだけ酒やギャンブルに金を使ってしまう母親から守るため、給料明細は手書きの嘘の金額を書いた物と本当の金額を書いたものの二つを店長は用意してくれてた。
家に置いておくと母親に探されるからと、店の金庫に俺のへそくりを預かってくれてもいたし、まかない代わりとして賞味期限間近の食品も毎日くれたのも店長と奥さんだった。
「何も出来なくてごめんなさい」
店が道路拡張の都市計画に引っ掛ったせいで立ち退きが決まり、今日で店は閉店する。
立ち退きにあたって補償金は出るし年金もあるから生活は何とか出来るけれど、奥さんは立ち退きが決まった心労で倒れてしまい入院中だった。本当は会って今までのお礼を言いたかったけれど無理だから、新しいバイトが決まったら報告に行きたい。
「アパート、家賃は振込したから大丈夫。残りは母さんの借金か」
昨日バイトから帰ると、アパートの部屋は空っぽだった。俺の服と教科書以外全部無くなってて『お前は一人で生きな』という走り書きだけが残されていた。
今朝学校に行く前大家さんから家賃の催促が来て、二ヶ月家賃を滞納してたのを知った。ついでに借金取りが部屋に来て、母さんはそれから逃げるために消えたのだと知った。
「貯めてたお金じゃ足りないよなあ」
ガラガラとキャリーケースを引きずりながらトボトボと歩く。
荷物は重いけれど、これが俺の命綱。
貴重な食料だ。
「これからどうやって生きていこう」
途方に暮れながら歩く俺の前に、真っ黒い猫が近づいてきたのだった。
茶封筒に給料と表書きしたものを、店長は謝りながら手渡してくれた。
店長はこの店のオーナーで、奥さんと二人でコンビニ規模の小さな食料品店を経営している。
「今日で店も最後だから、ここにあるのはなんでも持っていっていいよ。バックルームにずっとあったこれ誰も使わないから、これに売れ残り全部詰めて持って行きなよ」
バックルームにあったなんて、そんな記憶ないのに立派なキャリーケースと登山でも出来そうな大きなリュックを店長は指差して、バックルームにいつの間にか引き込んでいた商品ワゴンの品物は売れ残りだと言い切った。
「店長、これ」
今日限りでこの店は閉店する。
閉店セールで店の中スッカラカンだったのに、商品ワゴンの上には日持ちしそうなお菓子や健康補助食品、米に小麦粉や調味料、レトルト食品や洗剤なんかの雑貨まで沢山まで載っている。
これが売れ残りの筈がないのにと躊躇している俺を待っていられなくなったのか、店長がキャリーケースとリュックの中に商品を詰めていく。
「退職金出せなかったからねその代わりだよ。今までありがとうね、卯月君」
「……じゃあ、有り難く頂きます」
店長の優しさに涙が出そうになる。
卯月と書いてウヅキと読むけれど、母さんですら俺の名前を殆ど呼ばない。
店長と奥さんは卯月君と俺を呼んでくれていたけれど、この店が無くなったらそう呼んでくれる人はもう誰もいないだろう。
「一人暮らしが難しいなら、おじちゃん達と暮らさないかい?」
「母さんの借金取りが来るかもしれないし、そしたら迷惑掛けてしまうから」
母さんが借金を残していなくなったことは、さっき店長に打ち明けたばかりだ。
店が最後の日にする話じゃないとは分かっていたけれど、自分の胸の中に収めて奥には重すぎる現実につい話してしまったんだ。
「借金なら支払いしてあげられるよ」
「大丈夫です。なんとかしますから」
ワゴンの上にあった商品は、ぴったり全部キャリーケースとリュックに収まった。
やっぱり売れ残りなんかじゃなくこれは店長が用意してくれたんだと悟ったけれど、お礼が言えずに店長の優しさに俺は無理矢理笑顔を作った。
「奥さん早く退院出来ると良いですね。落ち着いたら会いに行きますから」
「そうだな、あれは卯月君を可愛がっていたから会いに来てくれたらきっと喜ぶよ」
「はい、じゃあ行きます」
「元気でな」
「店長も、お元気で」
ぺこりと頭を下げて、二年間お世話になった店を後にしたのだった。
「これからどうしよう」
店を出て暫く歩いてから封筒の中身を確認すると、計算していたより一万円札が数枚多かった。
そして、いつでもおいで、三人で暮らしたら楽しいよ。との言葉と共に住所と電話番号が書かれたメモを見つけて俺はまた涙が出そうになった。
「店長」
俺はこの店でずっとバイトしていた。
午後三時半から閉店まで、土日は昼間もフルで働いて十万弱の給料は俺にとっての命綱に等しかった。
あればあるだけ酒やギャンブルに金を使ってしまう母親から守るため、給料明細は手書きの嘘の金額を書いた物と本当の金額を書いたものの二つを店長は用意してくれてた。
家に置いておくと母親に探されるからと、店の金庫に俺のへそくりを預かってくれてもいたし、まかない代わりとして賞味期限間近の食品も毎日くれたのも店長と奥さんだった。
「何も出来なくてごめんなさい」
店が道路拡張の都市計画に引っ掛ったせいで立ち退きが決まり、今日で店は閉店する。
立ち退きにあたって補償金は出るし年金もあるから生活は何とか出来るけれど、奥さんは立ち退きが決まった心労で倒れてしまい入院中だった。本当は会って今までのお礼を言いたかったけれど無理だから、新しいバイトが決まったら報告に行きたい。
「アパート、家賃は振込したから大丈夫。残りは母さんの借金か」
昨日バイトから帰ると、アパートの部屋は空っぽだった。俺の服と教科書以外全部無くなってて『お前は一人で生きな』という走り書きだけが残されていた。
今朝学校に行く前大家さんから家賃の催促が来て、二ヶ月家賃を滞納してたのを知った。ついでに借金取りが部屋に来て、母さんはそれから逃げるために消えたのだと知った。
「貯めてたお金じゃ足りないよなあ」
ガラガラとキャリーケースを引きずりながらトボトボと歩く。
荷物は重いけれど、これが俺の命綱。
貴重な食料だ。
「これからどうやって生きていこう」
途方に暮れながら歩く俺の前に、真っ黒い猫が近づいてきたのだった。
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