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終わりの決断
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「まあ、婚約者が病気療養の為離宮に向かわれたというのに、呑気に通学されていいのかしら?」
暫くぶりに通学してみると、嫌味な声に出迎えられました。
「ふふ」
「何を笑っていらっしゃるの?」
「いいえ、情報が早くていらっしゃると関心していただけです。それなら私と殿下の婚約が白紙になったこともご存じなのでしょう?」
余裕の笑みを浮かべながら小首を傾げれば、相手は苛々した様子で扇を広げ口元を隠しました。
あの断罪の日から一ヶ月以上過ぎ、まず王妃様が奇病に掛かり離宮にて療養されると発表されました。
王妃様が突然白髪になり年齢に見合わぬ皺が全身に出来たことは、王妃様の宮に勤める侍女やメイド達から周囲に広まりました。
王妃様の突然の変化は周囲に呪いか何かかとざわつかせた後、国の有事の際に王族がその身を犠牲にして国を守る為に厄災をその身に封じる。という文献をさも本当の様にちらつかせ話したことで落ち着きを見せました。
王妃様が国の為に厄をその身に背負ったと、そう周知されるのは侯爵家にとっては業腹でしたが私達が望むのは王妃様への断罪でありそれ故の国への影響は望んでいないものでしたから、その発表を私達は本当として受け止めたのです。
「知っているわ。知っているけれど、それでいいの?」
「ふふ。王妃様と殿下は奇病に罹り離宮にて療養中よ。それは確かなこと。そして殿下はその療養に私以外を望まれたのよ」
「本当の話なのね」
王妃様は奇病を患い離宮に居を移し療養中です。
フィリップ殿下は、王妃様の奇病が移り同じく療養中です。
奇病は命を落とすかもしれないもの。国の有事を……云々を信じるなら、フィリップ殿下の奇病は助かるものではなく、殿下の我儘は最後の我儘として受け入れられました。
「殿下が最後に望んだのは私ではなく、男爵令嬢なのよ」
意識して寂し気にそう言うと好奇心が満足したのか、気の毒そうに眉間に皺を寄せた彼女は扇で表情を隠しこう言いました。
「あなたはそれでいいの。フィリップ殿下の最後をあんな男爵令嬢に看取らせるなんて、そんな」
「勿論いいのよ。それで、いいの。だって私はそれを望まれなかったのだもの」
本当はフィリップ殿下とエミリアさんは二人とも平民になりフィリエ伯爵領地に向かったとは知らず、好奇心で私に声を掛けた彼女は後悔している顔で私に問いて来ました。
「フィリップ殿下が、最後のその瞬間幸せだったとそう思って下さるなら、私はそれでいいのよ」
私が笑ってそう言うと、彼女はホッとしたのかそれともつまらなかったのか、扇の向こうでもごもごと何かを言いながら去って行きました。
「フローリア、あれは意地が悪いんじゃないか」
「そうかしら。好奇心あ猫を殺すと、どこかの国では言うそうよ」
去って行った彼女を笑顔で見送っていると、足音を消し私に近づき当然の様に私の手を取り席へとエスコートしたケネスが言うので私はくすくすと笑いながら否定しました。
「変な言い方だな」
「そうね。でも世の中すべてそういうものなのかもしれないわ」
王妃様の病も、フィリップ殿下の病も、不自然でしかありませんがそれを追求しようとする貴族はいません。
王妃様の義兄であるフィリエ伯爵が家督を息子に譲り、自分は領地に引きこもったことも。王妃様の侍医が突然その地位を退き戦い続きの北の砦の専任の医師になったことも、あまりに突然すぎて人々の理解を超える出来事ではありましたが、日にちが過ぎてしまえばそれは過去の事になるようです。
「ケネスは騎士学校に未練はないの?」
あの後、断罪のあの日の後ケネスは休学扱いにしていた騎士学校を中退し私が通う学園へ編入届を出し試験を受けました。
私の通う学園の方が、座学としては難易度は上の筈ですがケネスは特に苦労もせずに編入試験に受かり私と同じクラスになったのです。
「ないよ。俺は別に騎士になりたかったわけじゃないから」
「そうなの?」
先生がいらっしゃるまでまだ少し時間があります。
ケネスは私の席の前に立ち私とのおしゃべりに興じていますが、普通編入生は先生と共に教室に来るものではないのでしょうか?
「ああ、大好きな女の子が婚約して自棄になって彼女から縁遠い学校に籍を置いただけだから、彼女が自由になったのだから、その傍にいることに決めたんだ」
小声で、私以外には誰も聞こえない声でそう言うとケネスは私の頭を何故か一撫でし、教室を出て行きました。
「ケネスったら」
その女の子は私なのでしょうか。
ケネスは私の婚約者候補でしたが、フィリップ殿下と婚約したためすべてが水に流されてしまいました。
「静かに、今日は編入生を紹介する」
暫く経ちケネスと共に教室に入ってきた教師が、編入生であるケネスを紹介しました。
「ケネス」
教師の隣に立つケネスはとても凛々しくて、学園の制服を着ているのに誰かを守る騎士の様に見えました。
王妃様の断罪が終わり、フィリップ殿下が平民になり、私は自由の身になりました。
これからどうなるのか私には分かりません。
神聖契約の結果私の体にでた証を理由に、私は好いた男性との結婚を望んでいい立場になりました。
これから誰を私は望み夫とするのか、どんな男性と一生を生きるのか。
私にはまだ確定となる未来はありませんが、精一杯その未来を生きよう。
あの日、フィリップ殿下が私にむけ笑ったくれた様に、いつか私がフィリップ殿下に笑顔を向けられる日が来ることを願って。
「フローリア。どうか幸せに」そう言って笑ったフィリップ殿下に、自分が幸せだといつか言える日が来るように。
「幸せ」
そうフィリップ殿下に告げる時、私の隣にいるのは誰なのでしょうか。
分からぬまま私は、幸せな日々を送ることを胸に誓ったのです。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※
これでこの話は終わりです。
フローリアに頑張って告白しているのに、スルーされる憐れなケネス。
最終的にはケネスを選ぶと思いますが、まだフィリップの事をフローリア引き摺ってるので、現状は仕方ない感じです。
エミリアは聖属性の魔法を持っていて、弱々ですが自分の周囲にいる人だけ聖なる力で浄化されていたから、フィリップに掛けられている魔法が一時的に解けていた。設定を使うか使わないか最後まで迷っていて、結局止めてエミリアの愛情の方にしたのですが、分かりにくかったかなあ。
そのうち、後半部分書き直すかもしれません。
最後まで読んで下さった皆様、どうもありがとうございました。
連載中の他作品も更新頑張りますので、どうぞよろしくお願い致します。
暫くぶりに通学してみると、嫌味な声に出迎えられました。
「ふふ」
「何を笑っていらっしゃるの?」
「いいえ、情報が早くていらっしゃると関心していただけです。それなら私と殿下の婚約が白紙になったこともご存じなのでしょう?」
余裕の笑みを浮かべながら小首を傾げれば、相手は苛々した様子で扇を広げ口元を隠しました。
あの断罪の日から一ヶ月以上過ぎ、まず王妃様が奇病に掛かり離宮にて療養されると発表されました。
王妃様が突然白髪になり年齢に見合わぬ皺が全身に出来たことは、王妃様の宮に勤める侍女やメイド達から周囲に広まりました。
王妃様の突然の変化は周囲に呪いか何かかとざわつかせた後、国の有事の際に王族がその身を犠牲にして国を守る為に厄災をその身に封じる。という文献をさも本当の様にちらつかせ話したことで落ち着きを見せました。
王妃様が国の為に厄をその身に背負ったと、そう周知されるのは侯爵家にとっては業腹でしたが私達が望むのは王妃様への断罪でありそれ故の国への影響は望んでいないものでしたから、その発表を私達は本当として受け止めたのです。
「知っているわ。知っているけれど、それでいいの?」
「ふふ。王妃様と殿下は奇病に罹り離宮にて療養中よ。それは確かなこと。そして殿下はその療養に私以外を望まれたのよ」
「本当の話なのね」
王妃様は奇病を患い離宮に居を移し療養中です。
フィリップ殿下は、王妃様の奇病が移り同じく療養中です。
奇病は命を落とすかもしれないもの。国の有事を……云々を信じるなら、フィリップ殿下の奇病は助かるものではなく、殿下の我儘は最後の我儘として受け入れられました。
「殿下が最後に望んだのは私ではなく、男爵令嬢なのよ」
意識して寂し気にそう言うと好奇心が満足したのか、気の毒そうに眉間に皺を寄せた彼女は扇で表情を隠しこう言いました。
「あなたはそれでいいの。フィリップ殿下の最後をあんな男爵令嬢に看取らせるなんて、そんな」
「勿論いいのよ。それで、いいの。だって私はそれを望まれなかったのだもの」
本当はフィリップ殿下とエミリアさんは二人とも平民になりフィリエ伯爵領地に向かったとは知らず、好奇心で私に声を掛けた彼女は後悔している顔で私に問いて来ました。
「フィリップ殿下が、最後のその瞬間幸せだったとそう思って下さるなら、私はそれでいいのよ」
私が笑ってそう言うと、彼女はホッとしたのかそれともつまらなかったのか、扇の向こうでもごもごと何かを言いながら去って行きました。
「フローリア、あれは意地が悪いんじゃないか」
「そうかしら。好奇心あ猫を殺すと、どこかの国では言うそうよ」
去って行った彼女を笑顔で見送っていると、足音を消し私に近づき当然の様に私の手を取り席へとエスコートしたケネスが言うので私はくすくすと笑いながら否定しました。
「変な言い方だな」
「そうね。でも世の中すべてそういうものなのかもしれないわ」
王妃様の病も、フィリップ殿下の病も、不自然でしかありませんがそれを追求しようとする貴族はいません。
王妃様の義兄であるフィリエ伯爵が家督を息子に譲り、自分は領地に引きこもったことも。王妃様の侍医が突然その地位を退き戦い続きの北の砦の専任の医師になったことも、あまりに突然すぎて人々の理解を超える出来事ではありましたが、日にちが過ぎてしまえばそれは過去の事になるようです。
「ケネスは騎士学校に未練はないの?」
あの後、断罪のあの日の後ケネスは休学扱いにしていた騎士学校を中退し私が通う学園へ編入届を出し試験を受けました。
私の通う学園の方が、座学としては難易度は上の筈ですがケネスは特に苦労もせずに編入試験に受かり私と同じクラスになったのです。
「ないよ。俺は別に騎士になりたかったわけじゃないから」
「そうなの?」
先生がいらっしゃるまでまだ少し時間があります。
ケネスは私の席の前に立ち私とのおしゃべりに興じていますが、普通編入生は先生と共に教室に来るものではないのでしょうか?
「ああ、大好きな女の子が婚約して自棄になって彼女から縁遠い学校に籍を置いただけだから、彼女が自由になったのだから、その傍にいることに決めたんだ」
小声で、私以外には誰も聞こえない声でそう言うとケネスは私の頭を何故か一撫でし、教室を出て行きました。
「ケネスったら」
その女の子は私なのでしょうか。
ケネスは私の婚約者候補でしたが、フィリップ殿下と婚約したためすべてが水に流されてしまいました。
「静かに、今日は編入生を紹介する」
暫く経ちケネスと共に教室に入ってきた教師が、編入生であるケネスを紹介しました。
「ケネス」
教師の隣に立つケネスはとても凛々しくて、学園の制服を着ているのに誰かを守る騎士の様に見えました。
王妃様の断罪が終わり、フィリップ殿下が平民になり、私は自由の身になりました。
これからどうなるのか私には分かりません。
神聖契約の結果私の体にでた証を理由に、私は好いた男性との結婚を望んでいい立場になりました。
これから誰を私は望み夫とするのか、どんな男性と一生を生きるのか。
私にはまだ確定となる未来はありませんが、精一杯その未来を生きよう。
あの日、フィリップ殿下が私にむけ笑ったくれた様に、いつか私がフィリップ殿下に笑顔を向けられる日が来ることを願って。
「フローリア。どうか幸せに」そう言って笑ったフィリップ殿下に、自分が幸せだといつか言える日が来るように。
「幸せ」
そうフィリップ殿下に告げる時、私の隣にいるのは誰なのでしょうか。
分からぬまま私は、幸せな日々を送ることを胸に誓ったのです。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※
これでこの話は終わりです。
フローリアに頑張って告白しているのに、スルーされる憐れなケネス。
最終的にはケネスを選ぶと思いますが、まだフィリップの事をフローリア引き摺ってるので、現状は仕方ない感じです。
エミリアは聖属性の魔法を持っていて、弱々ですが自分の周囲にいる人だけ聖なる力で浄化されていたから、フィリップに掛けられている魔法が一時的に解けていた。設定を使うか使わないか最後まで迷っていて、結局止めてエミリアの愛情の方にしたのですが、分かりにくかったかなあ。
そのうち、後半部分書き直すかもしれません。
最後まで読んで下さった皆様、どうもありがとうございました。
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