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陛下の決断3
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「なん、だと?」
王妃様の言葉に王太子殿下が声を上げました。
王太后様は私を可愛がって下さいました。
フィリップ殿下の婚約者になる前に何度か王宮の王太后様の宮に、お母様に連れられ伺ったことがありますがその時にフィリップ殿下をお見かけした記憶はありません。
私が覚えていないだけなのか、それとも王妃様とフィリップ殿下だけの場で王太后様が私の容姿を話題にしたのかどちらでしょうか。
「元々気に入らなかったのよ。私の愛するフィリップは三番目に生まれたというだけで伯爵位しか持てないというのにゾルティーア家の息子は侯爵家に生まれたというだけでその家を継げるの。憎らしい金の髪青い瞳の兄妹を自慢げに王宮に連れてくる侯爵夫人にも腹が立ったわ。王太后の気に入りの親子が憎らしかった。苦しめたかった。だから良い事を思いついたのよ。大嫌いな侯爵家を悲しませ、苦しませ、大切なフィリップに侯爵位を与える方法を」
まさか、まさかそれがお兄様が命を奪われ私がフィリップ殿下の婚約者に選ばれた理由なのでしょうか。
私達兄妹が侯爵家に、金の髪と青い瞳を持って生まれた。それが理由だと。
「フィリップが金の髪や青い瞳を持たずお義兄様そっくりの外見なのは、私にとっては幸せ以外の何物でもなかったわ。だってお義兄様が私のすべてだから、お義兄様そっくりのフィリップが大きくなっていくのが楽しみで仕方がなかったのよ。だからそのフィリップが幸せになるにはそうするのが一番だったのよ」
それは王妃様にとってだけ都合のいい幸せです。
その為にお兄様の命は奪われ、侯爵家は王妃様に脅され続けたのです。
「フィリップの婚約が決まって、大嫌いな侯爵夫人に嫡男の命を奪ったのが誰か、そして今後のフローリアの命の危険を示唆した時の顔ったら愉快だったわ。顔を青ざめて今にも倒れそうだった。自慢の子供達を連れ歩く得意気な顔が気に入らなかったし大嫌いだったわ。王太后が夫人と子供達を気に入っているのも許せなかった。王太后も苦しめたかった、だから病気に見せかけて苦しませて命を奪ったのよ。見舞いと称して苦しむ顔を見るのは楽しかった。私を蔑み馬鹿にする者達は皆そうしてやろうと思ったものよ」
気に入らない。それだけで王太后様の命も奪った、そう言うのでしょうか。
苦しみながら命の灯を消していく、その姿を見て楽しんでいたというのは本心なのでしょうか。
「母上、あなたは最低な人だ。これが国母とは嘆かわしい」
「国母になんてなりたくなかった。私はお義兄様の妻になりたかったのよ。それなのに」
「私はそんな風に考えたことは一度もありません。王妃様が伯爵家の養女になり、私の妹になっても。あなたを好きだと思った事は一度も無かった。私には妻だけが大切な女性だったのですから」
「そんな事はないわ。お義兄様は私を愛してくれていた筈よっ」
陛下に羽交い絞めにされながら、王妃様は叫びました。
額飾りに浮かぶのは神聖契約を破った罪の証です。
皺と染みだらけの肌、パサパサの白髪、今までの美貌の王妃の姿は思い出すことも出来ません。
「フィリップ自身は罪ではない。だがお前の行いは罪だ。その罪をお前は償わなければならない。アダム」
「畏まりました。これはフィリップの分の杯です。この罪を償うのは王妃、あなただ」
小さな杯を一つ手に取り、王太子殿下は大きな杯にその中身を注ぎました。
「血統の偽りはフィリップ自身の罪ではないとしても、第三王子としてこれから過ごさせるわけにはいかぬ」
「はい」
「詳しい事は後ほど伝える。今は他の者の裁きが先だ。次、医師アヌビート」
「はい。ここに」
「そなたの罪は五人の命を奪ったことだ。医師として人を助けるべきそなたが人の命を奪ったことは許せることではない。だが、その罪が王妃の魔法故だったと分かった今、それはそなただけの罪ではないとも言える」
どうなるのでしょうか、アヌビートもフィリップ殿下の様に許されるのでしょうか。
「医師アヌビート、そなたは北の国境の砦の常駐医師として生涯過ごすことを命ずる。彼の地は魔物と隣国との小競り合いで常に騎士や兵、傭兵達が怪我に苦しんでいる。そして寒さもとても厳しい土地だ。その地で奪った命の償いに一人でも多くの兵達の命を助けよ。王都に生まれ育ったそなたには彼の地は暮らすだけでも辛いだろう。極寒の地で生き己の罪を忘れることなく償い続けよ。自死することは許さぬ。そなたがそうした場合、そなたの一族すべて刑に処されると思え」
「陛下。一族の命、妻や子の命をお助け下さるのですか」
「お前の罪はお前だけが償うべきものだ。死んで楽になるのではなく、生きて償い続けよ」
「はい。は……い。ありがとうございます。陛下の温情を胸に刻み、一人でも多くの命を救える様精進致します」
アヌビートは涙を流し陛下へ臣下の礼を取りました。
「アダム」
「アヌビートの罪は王妃の魔法による罪です。その罪を償うのは王妃、あなただ」
「なぜ、なぜ私があんな無能の罪を償わないといけないというのっ」
王妃様の叫びを無視して、再び王太子殿下は小さな杯を一つ手に取り、大きな杯にその中身を注ぎました。
これで杯には、二杯分の神の裁きが注がれたことになるのです。
つまり、現時点で王妃様は自分の杯を含め三か月間、神の裁きの苦しみを受けるということです。
「つぎ、フィリエ伯爵」
「はい。陛下」
フィリエ伯爵はすべてを諦めたのか、表情が全く読めない顔で陛下に臣下の礼を取りました。
王妃様の言葉に王太子殿下が声を上げました。
王太后様は私を可愛がって下さいました。
フィリップ殿下の婚約者になる前に何度か王宮の王太后様の宮に、お母様に連れられ伺ったことがありますがその時にフィリップ殿下をお見かけした記憶はありません。
私が覚えていないだけなのか、それとも王妃様とフィリップ殿下だけの場で王太后様が私の容姿を話題にしたのかどちらでしょうか。
「元々気に入らなかったのよ。私の愛するフィリップは三番目に生まれたというだけで伯爵位しか持てないというのにゾルティーア家の息子は侯爵家に生まれたというだけでその家を継げるの。憎らしい金の髪青い瞳の兄妹を自慢げに王宮に連れてくる侯爵夫人にも腹が立ったわ。王太后の気に入りの親子が憎らしかった。苦しめたかった。だから良い事を思いついたのよ。大嫌いな侯爵家を悲しませ、苦しませ、大切なフィリップに侯爵位を与える方法を」
まさか、まさかそれがお兄様が命を奪われ私がフィリップ殿下の婚約者に選ばれた理由なのでしょうか。
私達兄妹が侯爵家に、金の髪と青い瞳を持って生まれた。それが理由だと。
「フィリップが金の髪や青い瞳を持たずお義兄様そっくりの外見なのは、私にとっては幸せ以外の何物でもなかったわ。だってお義兄様が私のすべてだから、お義兄様そっくりのフィリップが大きくなっていくのが楽しみで仕方がなかったのよ。だからそのフィリップが幸せになるにはそうするのが一番だったのよ」
それは王妃様にとってだけ都合のいい幸せです。
その為にお兄様の命は奪われ、侯爵家は王妃様に脅され続けたのです。
「フィリップの婚約が決まって、大嫌いな侯爵夫人に嫡男の命を奪ったのが誰か、そして今後のフローリアの命の危険を示唆した時の顔ったら愉快だったわ。顔を青ざめて今にも倒れそうだった。自慢の子供達を連れ歩く得意気な顔が気に入らなかったし大嫌いだったわ。王太后が夫人と子供達を気に入っているのも許せなかった。王太后も苦しめたかった、だから病気に見せかけて苦しませて命を奪ったのよ。見舞いと称して苦しむ顔を見るのは楽しかった。私を蔑み馬鹿にする者達は皆そうしてやろうと思ったものよ」
気に入らない。それだけで王太后様の命も奪った、そう言うのでしょうか。
苦しみながら命の灯を消していく、その姿を見て楽しんでいたというのは本心なのでしょうか。
「母上、あなたは最低な人だ。これが国母とは嘆かわしい」
「国母になんてなりたくなかった。私はお義兄様の妻になりたかったのよ。それなのに」
「私はそんな風に考えたことは一度もありません。王妃様が伯爵家の養女になり、私の妹になっても。あなたを好きだと思った事は一度も無かった。私には妻だけが大切な女性だったのですから」
「そんな事はないわ。お義兄様は私を愛してくれていた筈よっ」
陛下に羽交い絞めにされながら、王妃様は叫びました。
額飾りに浮かぶのは神聖契約を破った罪の証です。
皺と染みだらけの肌、パサパサの白髪、今までの美貌の王妃の姿は思い出すことも出来ません。
「フィリップ自身は罪ではない。だがお前の行いは罪だ。その罪をお前は償わなければならない。アダム」
「畏まりました。これはフィリップの分の杯です。この罪を償うのは王妃、あなただ」
小さな杯を一つ手に取り、王太子殿下は大きな杯にその中身を注ぎました。
「血統の偽りはフィリップ自身の罪ではないとしても、第三王子としてこれから過ごさせるわけにはいかぬ」
「はい」
「詳しい事は後ほど伝える。今は他の者の裁きが先だ。次、医師アヌビート」
「はい。ここに」
「そなたの罪は五人の命を奪ったことだ。医師として人を助けるべきそなたが人の命を奪ったことは許せることではない。だが、その罪が王妃の魔法故だったと分かった今、それはそなただけの罪ではないとも言える」
どうなるのでしょうか、アヌビートもフィリップ殿下の様に許されるのでしょうか。
「医師アヌビート、そなたは北の国境の砦の常駐医師として生涯過ごすことを命ずる。彼の地は魔物と隣国との小競り合いで常に騎士や兵、傭兵達が怪我に苦しんでいる。そして寒さもとても厳しい土地だ。その地で奪った命の償いに一人でも多くの兵達の命を助けよ。王都に生まれ育ったそなたには彼の地は暮らすだけでも辛いだろう。極寒の地で生き己の罪を忘れることなく償い続けよ。自死することは許さぬ。そなたがそうした場合、そなたの一族すべて刑に処されると思え」
「陛下。一族の命、妻や子の命をお助け下さるのですか」
「お前の罪はお前だけが償うべきものだ。死んで楽になるのではなく、生きて償い続けよ」
「はい。は……い。ありがとうございます。陛下の温情を胸に刻み、一人でも多くの命を救える様精進致します」
アヌビートは涙を流し陛下へ臣下の礼を取りました。
「アダム」
「アヌビートの罪は王妃の魔法による罪です。その罪を償うのは王妃、あなただ」
「なぜ、なぜ私があんな無能の罪を償わないといけないというのっ」
王妃様の叫びを無視して、再び王太子殿下は小さな杯を一つ手に取り、大きな杯にその中身を注ぎました。
これで杯には、二杯分の神の裁きが注がれたことになるのです。
つまり、現時点で王妃様は自分の杯を含め三か月間、神の裁きの苦しみを受けるということです。
「つぎ、フィリエ伯爵」
「はい。陛下」
フィリエ伯爵はすべてを諦めたのか、表情が全く読めない顔で陛下に臣下の礼を取りました。
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