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毒杯の行方
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「戻りました」
「フローリア」
部屋の中に入ると王太子殿下とお父様とイオン様が三人で話をしていて、第二王子殿下はいらっしゃいませんでした。
私は声を掛けてきたお母様の側に近づき笑顔を作りました。
泣いていたと気が付かれてしまったでしょうか、ケネスは優しく涙を拭いてくれましたがもしかしたら目元が少し赤くなっているかもしれません。
「フローリア」
お母様が私に向かい両手を差し出してきたので、私は持っていた銀盆をケネスに預け、お母様の抱擁に身を任せました。
「辛かったわね」
私がフィリップ殿下から受け続けた屈辱を、一番傍で見ていたのはお母様です。
私に悪感情以外を向けようとしなかったフィリップ殿下に、少しでも関係の改善を望み努力していた婚約当初、それは絶対に叶わないと悟りながらもまだ望みを捨てきれず更に努力を重ねた頃、叶わないものを望むのは惨めだと割り切ろうとして結婚後もこの生活が続くのかと嘆き悲しんだ頃、何をどう努力しても何も変わらないならすべて諦めて生きるしかないと侯爵家の未来だけを考えようとし始めた頃。
それらすべてを傍で見守っていてくれたお母様には、どうしてか最初からフィリップ殿下に優しさを向けられていたエミリアさんの「優しい」という言葉が私にもたらす衝撃が分かっていたのです。
「平気です。私は何かが足りなくて、だから寄り添えなかった。王妃様の魔法が無くてもきっとそうなったのです」
強がりではなくそれが多分事実なのだと思います。
「本心を言えば、フィリップ殿下とエミリアさんに神の裁きは重すぎる様に感じてしまいます。子は親を選べません、生まれてきたことが罪だとは酷です。エミリアさんも王妃様からの命に背けなかっただけと言えないこともないでしょうし、そもそも門を焦がすことすら出来なかったのですから」
「それは私達が決めることではないのよ。私達は見届けることを許されただけなのですから」
「それはそうですが」
すべての罪は王妃様にあるというのに、刑が王妃様と同じ神の裁きになってしまうのはなんだか納得できないのです。
「フローリア嬢、では君ならどうする」
「王太子殿下、申し訳ござません。ですが」
「気にせず話すといい」
「ありがとうございます。私には二人のフィリップ殿下とエミリアさんに神の裁きの刑は重すぎる様に感じるのです」
「では他の二人は?」
「他の二人、アヌビートとフィリエ伯爵でしょうか」
「そうだよ」
「アヌビートは五人の人の命を奪いました。ですが、彼の意思ではなく王妃様が魔法により命令した故の罪です。フィリエ伯爵も陛下への重大な不貞を行っていますが、それも王妃様の魔法による命令と家族を人質にとり脅していたのが大きな理由とあれば、四人の罪と王妃様の罪は同じではないと愚考致します」
陛下と王太子殿下が決められた刑が神の裁きだというのに、それは違うとただの貴族令嬢でしかない私が申し立てるのは不敬と言われる可能性もありますが、それでもフィリップ殿下とエミリアさんに神の裁きは重すぎます。
他のお二人も、アヌビートはお兄様の命も奪っていますがそれでも重いのではないかと考えるのです。
「そうだろうね。それがまともな感覚だろう」
「え」
「これは一つの試験だった。自分の罪を自覚せず命乞いをするのかどうか、そのためのもの。勿論母上はこの杯を飲むだけの行いをしてきたのだけれどね」
「王太子殿下、それでは」
四人とも命乞いをした者はいませんでした、それよりもフィリップ殿下やエミリアさんの杯も自分がと望んでいたのですから、あれが試験だったとすればそれは。
「では、神の裁きは」
「さあな。最終判断は陛下だ。陛下のお心一つですべてが決まる」
王太子殿下のお言葉に、ごくりと誰かの喉が鳴る音が部屋に響いたのです。
※※※※※※※※※※※※
体調悪くて更新遅れてしまい申し訳ありません。
このお話ももうすぐ終わりを迎えますので、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。
「フローリア」
部屋の中に入ると王太子殿下とお父様とイオン様が三人で話をしていて、第二王子殿下はいらっしゃいませんでした。
私は声を掛けてきたお母様の側に近づき笑顔を作りました。
泣いていたと気が付かれてしまったでしょうか、ケネスは優しく涙を拭いてくれましたがもしかしたら目元が少し赤くなっているかもしれません。
「フローリア」
お母様が私に向かい両手を差し出してきたので、私は持っていた銀盆をケネスに預け、お母様の抱擁に身を任せました。
「辛かったわね」
私がフィリップ殿下から受け続けた屈辱を、一番傍で見ていたのはお母様です。
私に悪感情以外を向けようとしなかったフィリップ殿下に、少しでも関係の改善を望み努力していた婚約当初、それは絶対に叶わないと悟りながらもまだ望みを捨てきれず更に努力を重ねた頃、叶わないものを望むのは惨めだと割り切ろうとして結婚後もこの生活が続くのかと嘆き悲しんだ頃、何をどう努力しても何も変わらないならすべて諦めて生きるしかないと侯爵家の未来だけを考えようとし始めた頃。
それらすべてを傍で見守っていてくれたお母様には、どうしてか最初からフィリップ殿下に優しさを向けられていたエミリアさんの「優しい」という言葉が私にもたらす衝撃が分かっていたのです。
「平気です。私は何かが足りなくて、だから寄り添えなかった。王妃様の魔法が無くてもきっとそうなったのです」
強がりではなくそれが多分事実なのだと思います。
「本心を言えば、フィリップ殿下とエミリアさんに神の裁きは重すぎる様に感じてしまいます。子は親を選べません、生まれてきたことが罪だとは酷です。エミリアさんも王妃様からの命に背けなかっただけと言えないこともないでしょうし、そもそも門を焦がすことすら出来なかったのですから」
「それは私達が決めることではないのよ。私達は見届けることを許されただけなのですから」
「それはそうですが」
すべての罪は王妃様にあるというのに、刑が王妃様と同じ神の裁きになってしまうのはなんだか納得できないのです。
「フローリア嬢、では君ならどうする」
「王太子殿下、申し訳ござません。ですが」
「気にせず話すといい」
「ありがとうございます。私には二人のフィリップ殿下とエミリアさんに神の裁きの刑は重すぎる様に感じるのです」
「では他の二人は?」
「他の二人、アヌビートとフィリエ伯爵でしょうか」
「そうだよ」
「アヌビートは五人の人の命を奪いました。ですが、彼の意思ではなく王妃様が魔法により命令した故の罪です。フィリエ伯爵も陛下への重大な不貞を行っていますが、それも王妃様の魔法による命令と家族を人質にとり脅していたのが大きな理由とあれば、四人の罪と王妃様の罪は同じではないと愚考致します」
陛下と王太子殿下が決められた刑が神の裁きだというのに、それは違うとただの貴族令嬢でしかない私が申し立てるのは不敬と言われる可能性もありますが、それでもフィリップ殿下とエミリアさんに神の裁きは重すぎます。
他のお二人も、アヌビートはお兄様の命も奪っていますがそれでも重いのではないかと考えるのです。
「そうだろうね。それがまともな感覚だろう」
「え」
「これは一つの試験だった。自分の罪を自覚せず命乞いをするのかどうか、そのためのもの。勿論母上はこの杯を飲むだけの行いをしてきたのだけれどね」
「王太子殿下、それでは」
四人とも命乞いをした者はいませんでした、それよりもフィリップ殿下やエミリアさんの杯も自分がと望んでいたのですから、あれが試験だったとすればそれは。
「では、神の裁きは」
「さあな。最終判断は陛下だ。陛下のお心一つですべてが決まる」
王太子殿下のお言葉に、ごくりと誰かの喉が鳴る音が部屋に響いたのです。
※※※※※※※※※※※※
体調悪くて更新遅れてしまい申し訳ありません。
このお話ももうすぐ終わりを迎えますので、最後までお付き合い頂けたら嬉しいです。
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