110 / 123
恐ろしい魔法
しおりを挟む
「フィリエ伯爵に似せようとする一方、母上はどうしてか怠惰な私を望みました。下位の者を蔑み努力をせず気に入らなければ癇癪を起こすしてもいい。私は偉いのだから周囲の者が私が過ごしやすいように努力するべきだと。そして母上が言うことだけが正しいのだと。母上に従う私は良い子で兄上達は悪人なのだと」
それが王妃様の魔法だったのでしょうか。
ですが兄弟の仲を悪くして王妃様は何がしたかったのでしょうか。
王太子殿下は次の陛下となられる方ですし、その方とフィリップ殿下の仲を悪くするのは悪手ではないかと思います。ゾルティーア侯爵家は忠臣と名高い家ですが、それはお父様への評価でありもしもフィリップ殿下が王太子殿下との仲を改善出来ないまま我が家に婿入りしていたとしたら今と同じ関係を築けるとは思えません。
それは国にとって良くない流れになっていた筈です。
「私が良い子だから、私だけを愛していると」
「そうか」
「どうしてでしょうね。何故なのでしょうね。私は母上から愛されていることだけが自分にとって大切なもので、それだけが私の価値だと信じていたのです。だから、兄上。王太子殿下にいつもそう噛みついていたのです。王太子殿下は母上に愛されていないだろうと。いかに私が母上に愛されているかと自慢して、それで王太子殿下に勝った様な気持ちになっていた」
フィリップ殿下の告白が私には衝撃でした。
お兄様を幼いころに亡くしほぼ一人娘として育った私には兄弟がいる感覚はありません。
従兄達は私に甘く、ケネスでさえ私に甘くて私は従兄達と何かを競ったこともありません。
ですから兄弟で何かを争う等分かりませんが、フィリップ殿下は王太子殿下と競っていたのでしょう。
こういう感覚が分からないところが、フィリップ殿下に寄り添えなかった原因なのかもしれません。
私はそういう意味でエミリアさんに劣っていたのでしょう。
王妃様の魔法の前に、きっと私がフィリップ殿下を理解出来なかったせいで私達は友達の関係にすらなれなかったのです。
「王太子殿下に、今だけ兄上と呼ばせてください。兄上にどうか私の愚行をお詫びしていたと伝えて下さい。私は本当は兄上になりたかった。尊敬する父上にそっくりな金の髪に青い瞳、そして父上そっくりの堂々としたその姿に本当は私はなりたかった。母上は銀色の髪が良いと緑色の瞳が良いといつも言っていたけれど。茶会や夜会の席で他の兄弟達が揃っていると自分だけが異質なのだと感じてしまい悔しかった。兄上が他の兄弟達に優しく笑う姿を見て、私にも笑いかけて欲しいと思っていたんです」
「そんな事。お前がそんな事を思っていたなど」
「思うのは一瞬です、そう思い悲しむのに、すぐに忘れて母上が言う通り銀色の髪が素晴らしいと思うのです。青色の瞳など汚らしい、母上とフィリエ伯爵と同じ緑の瞳がこの世で一番美しいと思うのです。でも、心の底では私だけが違うのが悲しかった。どうして私だけが違うのだとずっと悲しんでいたのです。母上の魔法が解けて理解出来ました。私の銀の髪や緑の瞳が美しいと思っていたのは母上の魔法のせいだったと。私の思考は、私の思いは母上に支配されていたのだと。本当の私は、兄上達と一緒に剣の稽古をしたかった。馬に一緒に乗って、一緒にダンスの練習をしてみたかった。羨ましかったのです。ずっとずっと羨ましくて仕方が無かったのです」
フィリップ殿下の言葉は、告白は、誰にとっても衝撃でした。
誰がそんな事をフィリップ殿下が思っていると気が付いたでしょう。
そんな風にフィリップ殿下が思い悲しんでいると気が付いたでしょう。
王太子殿下は右手で顔を覆い深く息を吐きました。
お父様とお母様は、互いを見つめ合い小さく首を横に振りました。
私は、私はケネスに助けを求め繋いだ手に力を込めました。
ケネスの手の温もりだけが私を支えていたのです。
「羨ましい? お前は愚かなままだな。母上に一人だけ膝に抱かれ甘えていたというのに」
「それは。それは」
第二王子殿下はフィリップ殿下の思いを否定しているのでしょうか。
「外見がなんだ。お前が弟であったのは変わりない。母上が交流を望んでいないと分かっていたから私達は近づこうとしなかったが、お前が私達の愚かで可愛い末の弟だったのは変わらない事実だ。いつかは分かり合う日も来るのかもしれないとそう思っていたんだ」
ぐにゃりと第二王子殿下の顔が一瞬歪んだ後、すぐに元の顔に戻してフィリップ殿下に見せつける様に銀盆を天に捧げました。
「判決は先程の部屋で行う。それまではここで待て」
誰にとっても悲しい時間でした。
フィリップ殿下は一人になった部屋で、力なく床に座り込み天を仰ぎました。
「兄上、一度でいいからあなたに弟だと認めて欲しかった。エミリア、愚かな私のせいで君の人生を歪めてしまった。すまないエミリア」
フィリップ殿下の声は小さな部屋の中で虚しく響いたのです。
それが王妃様の魔法だったのでしょうか。
ですが兄弟の仲を悪くして王妃様は何がしたかったのでしょうか。
王太子殿下は次の陛下となられる方ですし、その方とフィリップ殿下の仲を悪くするのは悪手ではないかと思います。ゾルティーア侯爵家は忠臣と名高い家ですが、それはお父様への評価でありもしもフィリップ殿下が王太子殿下との仲を改善出来ないまま我が家に婿入りしていたとしたら今と同じ関係を築けるとは思えません。
それは国にとって良くない流れになっていた筈です。
「私が良い子だから、私だけを愛していると」
「そうか」
「どうしてでしょうね。何故なのでしょうね。私は母上から愛されていることだけが自分にとって大切なもので、それだけが私の価値だと信じていたのです。だから、兄上。王太子殿下にいつもそう噛みついていたのです。王太子殿下は母上に愛されていないだろうと。いかに私が母上に愛されているかと自慢して、それで王太子殿下に勝った様な気持ちになっていた」
フィリップ殿下の告白が私には衝撃でした。
お兄様を幼いころに亡くしほぼ一人娘として育った私には兄弟がいる感覚はありません。
従兄達は私に甘く、ケネスでさえ私に甘くて私は従兄達と何かを競ったこともありません。
ですから兄弟で何かを争う等分かりませんが、フィリップ殿下は王太子殿下と競っていたのでしょう。
こういう感覚が分からないところが、フィリップ殿下に寄り添えなかった原因なのかもしれません。
私はそういう意味でエミリアさんに劣っていたのでしょう。
王妃様の魔法の前に、きっと私がフィリップ殿下を理解出来なかったせいで私達は友達の関係にすらなれなかったのです。
「王太子殿下に、今だけ兄上と呼ばせてください。兄上にどうか私の愚行をお詫びしていたと伝えて下さい。私は本当は兄上になりたかった。尊敬する父上にそっくりな金の髪に青い瞳、そして父上そっくりの堂々としたその姿に本当は私はなりたかった。母上は銀色の髪が良いと緑色の瞳が良いといつも言っていたけれど。茶会や夜会の席で他の兄弟達が揃っていると自分だけが異質なのだと感じてしまい悔しかった。兄上が他の兄弟達に優しく笑う姿を見て、私にも笑いかけて欲しいと思っていたんです」
「そんな事。お前がそんな事を思っていたなど」
「思うのは一瞬です、そう思い悲しむのに、すぐに忘れて母上が言う通り銀色の髪が素晴らしいと思うのです。青色の瞳など汚らしい、母上とフィリエ伯爵と同じ緑の瞳がこの世で一番美しいと思うのです。でも、心の底では私だけが違うのが悲しかった。どうして私だけが違うのだとずっと悲しんでいたのです。母上の魔法が解けて理解出来ました。私の銀の髪や緑の瞳が美しいと思っていたのは母上の魔法のせいだったと。私の思考は、私の思いは母上に支配されていたのだと。本当の私は、兄上達と一緒に剣の稽古をしたかった。馬に一緒に乗って、一緒にダンスの練習をしてみたかった。羨ましかったのです。ずっとずっと羨ましくて仕方が無かったのです」
フィリップ殿下の言葉は、告白は、誰にとっても衝撃でした。
誰がそんな事をフィリップ殿下が思っていると気が付いたでしょう。
そんな風にフィリップ殿下が思い悲しんでいると気が付いたでしょう。
王太子殿下は右手で顔を覆い深く息を吐きました。
お父様とお母様は、互いを見つめ合い小さく首を横に振りました。
私は、私はケネスに助けを求め繋いだ手に力を込めました。
ケネスの手の温もりだけが私を支えていたのです。
「羨ましい? お前は愚かなままだな。母上に一人だけ膝に抱かれ甘えていたというのに」
「それは。それは」
第二王子殿下はフィリップ殿下の思いを否定しているのでしょうか。
「外見がなんだ。お前が弟であったのは変わりない。母上が交流を望んでいないと分かっていたから私達は近づこうとしなかったが、お前が私達の愚かで可愛い末の弟だったのは変わらない事実だ。いつかは分かり合う日も来るのかもしれないとそう思っていたんだ」
ぐにゃりと第二王子殿下の顔が一瞬歪んだ後、すぐに元の顔に戻してフィリップ殿下に見せつける様に銀盆を天に捧げました。
「判決は先程の部屋で行う。それまではここで待て」
誰にとっても悲しい時間でした。
フィリップ殿下は一人になった部屋で、力なく床に座り込み天を仰ぎました。
「兄上、一度でいいからあなたに弟だと認めて欲しかった。エミリア、愚かな私のせいで君の人生を歪めてしまった。すまないエミリア」
フィリップ殿下の声は小さな部屋の中で虚しく響いたのです。
207
お気に入りに追加
9,069
あなたにおすすめの小説
【完結】恋は、終わったのです
楽歩
恋愛
幼い頃に決められた婚約者、セオドアと共に歩む未来。それは決定事項だった。しかし、いつしか冷たい現実が訪れ、彼の隣には別の令嬢の笑顔が輝くようになる。
今のような関係になったのは、いつからだったのだろう。
『分からないだろうな、お前のようなでかくて、エマのように可愛げのない女には』
身長を追い越してしまった時からだろうか。
それとも、特進クラスに私だけが入った時だろうか。
あるいは――あの子に出会った時からだろうか。
――それでも、リディアは平然を装い続ける。胸に秘めた思いを隠しながら。
私のことはお気になさらず
みおな
恋愛
侯爵令嬢のティアは、婚約者である公爵家の嫡男ケレスが幼馴染である伯爵令嬢と今日も仲睦まじくしているのを見て決意した。
そんなに彼女が好きなのなら、お二人が婚約すればよろしいのよ。
私のことはお気になさらず。

【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?
桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。
だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。
「もう!どうしてなのよ!!」
クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!?
天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜
桐生桜月姫
恋愛
シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。
だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎
本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎
〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜
夕方6時に毎日予約更新です。
1話あたり超短いです。
毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。
辺境は独自路線で進みます! ~見下され搾取され続けるのは御免なので~
紫月 由良
恋愛
辺境に領地を持つマリエ・オリオール伯爵令嬢は、貴族学院の食堂で婚約者であるジョルジュ・ミラボーから婚約破棄をつきつけられた。二人の仲は険悪で修復不可能だったこともあり、マリエは快諾すると学院を早退して婚約者の家に向かい、その日のうちに婚約が破棄された。辺境=田舎者という風潮によって居心地が悪くなっていたため、これを機に学院を退学して領地に引き籠ることにした。
魔法契約によりオリオール伯爵家やフォートレル辺境伯家は国から離反できないが、関わり合いを最低限にして独自路線を歩むことに――。
※小説家になろう、カクヨムにも投稿しています

虐げられた令嬢は、耐える必要がなくなりました
天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私アニカは、妹と違い婚約者がいなかった。
妹レモノは侯爵令息との婚約が決まり、私を見下すようになる。
その後……私はレモノの嘘によって、家族から虐げられていた。
家族の命令で外に出ることとなり、私は公爵令息のジェイドと偶然出会う。
ジェイドは私を心配して、守るから耐える必要はないと言ってくれる。
耐える必要がなくなった私は、家族に反撃します。

【完結】断罪された悪役令嬢は、全てを捨てる事にした
miniko
恋愛
悪役令嬢に生まれ変わったのだと気付いた時、私は既に王太子の婚約者になった後だった。
婚約回避は手遅れだったが、思いの外、彼と円満な関係を築く。
(ゲーム通りになるとは限らないのかも)
・・・とか思ってたら、学園入学後に状況は激変。
周囲に疎まれる様になり、まんまと卒業パーティーで断罪&婚約破棄のテンプレ展開。
馬鹿馬鹿しい。こんな国、こっちから捨ててやろう。
冤罪を晴らして、意気揚々と単身で出国しようとするのだが、ある人物に捕まって・・・。
強制力と言う名の運命に翻弄される私は、幸せになれるのか!?
※感想欄はネタバレあり/なし の振り分けをしていません。本編より先にお読みになる場合はご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる