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傲慢な謝罪
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「兄上に何を言いたいと」
戸惑いの表情で第二王子殿下がフィリップ殿下に問いました。
「謝罪と私の本心です。王太子殿下は不要と言われるでしょうが」
フィリップ殿下の言葉は静かでした。
感情を表に出すことなく会話するのが当たり前のこの国の社交界で、フィリップ殿下は私にだけ怒りを躊躇することなく見せつけていました。
私が婚約者として能無しだから、自分はこうして怒るのだと言いながら、私にとっては理不尽な要求をし続け、自分の仕事を当然の様に私に押し続けていました。
私の記憶の中で印象深いのは、不快だとその心情を隠すことなく表に出すフィリップ殿下と、私は蔑み虐げていい存在だと嘲り笑う姿です。そうです、私はフィリップ殿下に蔑まれて生きてきました。婚約者として生きてきた年月分そうして生きてきました。
けれど、エミリアさんが大切だ守りたいと仰るフィリップ殿下のお顔は、とても優しくて幸せそうでした。
私は一度も拝見したことがないお顔です。私が望んでも一度も見ることが出来なかった顔を、エミリアさんの為にだけはフィリップ殿下は表すのです。
「何が言いたいと?」
「私は自分の存在価値は、母上に愛されている。それだけだと思っていました。だから兄上達はその価値がないのだと思っていたのです」
「どういうことだ」
「私の目に、兄上達は母上から疎まれている存在だと映っていました。それは多分事実でしょう。母上は私を、私だけを愛してくれていましたから」
そう告白するフィリップ殿下を、第二王子殿下はとても不快そうに見下ろしていました。
「母上は私を愛していました。それは紛れもない事実です」
「そうだろうな」
「ですがそれには理由があったのだと、私は今更ですが知りました」
「理由だと?」
「ええ。理由です。私の父親が陛下ではなく、母上の義兄だったから、という理由ですよ。母上の最低な思いです」
確かにフィリップ殿下の父親は、陛下ではなく王妃様の義兄フィリエ伯爵です。
「母上の思い?」
「はい。母上は私自身を愛していたわけではありません。母上の思い人であるフィリエ伯爵にそっくりな私を、義兄への思いを私を愛することで満たしていたのです」
「そんな」
「母上の魔法の呪縛から解放された私には分かるのです。母上は、母上とフィリエ伯爵と同じ髪色と瞳を愛していると仰っていました。私が何をしてもどんなに甘えても、母上が私に求めるのは私の父であるフィリエ伯爵に似た顔だけでした」
そんなことがあるでしょうか。
陛下のお子である王太子殿下達と、父親が異なるフィリップ殿下を比べたら、王妃様にとって愛する人の子供であるフィリップ殿下を優先的に愛してしまう気持ちは理解ができます。
ですが、その愛する人との間にできた子供であるフィリップ殿下を愛する理由が、フィリエ伯爵の面影だけなど、そんな理由があるでしょうか。
「それは誤解だろう」
「いいえ、母上は私の髪と瞳の色を誉め、私が誰かに興味を持つことを嫌いました。私が何かを考える事は不要な事だと言い、母上に従っていれば良いのだと。そして好きな食事も菓子も、母上が決めたのです。お義兄様が好きなのだからお前もこれが好きよねと」
「なんだと?」
「あれはまだ婚約前です。その頃私は果物が苦手でした。食すと喉の奥が腫れたようになる時があったからです。それでも母上はお義兄様は好きで良く食べているから私も好きな筈だと嫌がる私に食べさせようとしました。多分私が初めて母上に魔法を掛けられた日です」
フィリップ殿下の告白は衝撃的過ぎました。
「どういうことだ」
「母上は私の目を見ながら手を握り、お前はお義兄様が好きな食べ物が好きなのよ。だってお義兄様にそっくりだから。この果物はお義兄様のお好きなものなのよ。だからあなたはこれを喜んで食べるのよ。そう言ったのです」
「例え親子だとしても好き嫌いまで同じではないだろう」
「ですが、私は食べました。食べ初めてすぐに喉の奥が熱を持ったようになり痒みが出ても、手を止めたいと思っても自分の意思では止められなかった。心と体の動きがバラバラな恐怖で涙が流れるのに、母上はやはり好きなのねと喜んでいて。私は母上が喜ぶ事をしている自分は凄いのだと段々思うようになりました」
婚約前と言えば五歳以下の筈です。
その子供にそんな風に魔法を使う王妃様が恐ろしくて、私はフィリップ殿下の顔を食い入る様に見つめました。
「忘れていた筈の記憶です。幼児としか言えない頃などまともに覚えていないというのに、魔法が解けた瞬間その時の恐ろしさを思い出したのです」
「母上がお前に魔法を掛けた」
「はい。その後も何度もフィリエ伯爵なら選ばない選択をする度に母上は私に魔法を掛けました。好みの服や髪型歩き方、すべてそうして作られて行きました」
どのように考えればいいのでしょう。
フィリップ殿下の言葉は、王妃様の心ではなく、あくまでもフィリップ殿下が感じたものです。
それは真実と言っていいのでしょうか。
分かりません。
一体何が真実なのでしょうか。
戸惑いの表情で第二王子殿下がフィリップ殿下に問いました。
「謝罪と私の本心です。王太子殿下は不要と言われるでしょうが」
フィリップ殿下の言葉は静かでした。
感情を表に出すことなく会話するのが当たり前のこの国の社交界で、フィリップ殿下は私にだけ怒りを躊躇することなく見せつけていました。
私が婚約者として能無しだから、自分はこうして怒るのだと言いながら、私にとっては理不尽な要求をし続け、自分の仕事を当然の様に私に押し続けていました。
私の記憶の中で印象深いのは、不快だとその心情を隠すことなく表に出すフィリップ殿下と、私は蔑み虐げていい存在だと嘲り笑う姿です。そうです、私はフィリップ殿下に蔑まれて生きてきました。婚約者として生きてきた年月分そうして生きてきました。
けれど、エミリアさんが大切だ守りたいと仰るフィリップ殿下のお顔は、とても優しくて幸せそうでした。
私は一度も拝見したことがないお顔です。私が望んでも一度も見ることが出来なかった顔を、エミリアさんの為にだけはフィリップ殿下は表すのです。
「何が言いたいと?」
「私は自分の存在価値は、母上に愛されている。それだけだと思っていました。だから兄上達はその価値がないのだと思っていたのです」
「どういうことだ」
「私の目に、兄上達は母上から疎まれている存在だと映っていました。それは多分事実でしょう。母上は私を、私だけを愛してくれていましたから」
そう告白するフィリップ殿下を、第二王子殿下はとても不快そうに見下ろしていました。
「母上は私を愛していました。それは紛れもない事実です」
「そうだろうな」
「ですがそれには理由があったのだと、私は今更ですが知りました」
「理由だと?」
「ええ。理由です。私の父親が陛下ではなく、母上の義兄だったから、という理由ですよ。母上の最低な思いです」
確かにフィリップ殿下の父親は、陛下ではなく王妃様の義兄フィリエ伯爵です。
「母上の思い?」
「はい。母上は私自身を愛していたわけではありません。母上の思い人であるフィリエ伯爵にそっくりな私を、義兄への思いを私を愛することで満たしていたのです」
「そんな」
「母上の魔法の呪縛から解放された私には分かるのです。母上は、母上とフィリエ伯爵と同じ髪色と瞳を愛していると仰っていました。私が何をしてもどんなに甘えても、母上が私に求めるのは私の父であるフィリエ伯爵に似た顔だけでした」
そんなことがあるでしょうか。
陛下のお子である王太子殿下達と、父親が異なるフィリップ殿下を比べたら、王妃様にとって愛する人の子供であるフィリップ殿下を優先的に愛してしまう気持ちは理解ができます。
ですが、その愛する人との間にできた子供であるフィリップ殿下を愛する理由が、フィリエ伯爵の面影だけなど、そんな理由があるでしょうか。
「それは誤解だろう」
「いいえ、母上は私の髪と瞳の色を誉め、私が誰かに興味を持つことを嫌いました。私が何かを考える事は不要な事だと言い、母上に従っていれば良いのだと。そして好きな食事も菓子も、母上が決めたのです。お義兄様が好きなのだからお前もこれが好きよねと」
「なんだと?」
「あれはまだ婚約前です。その頃私は果物が苦手でした。食すと喉の奥が腫れたようになる時があったからです。それでも母上はお義兄様は好きで良く食べているから私も好きな筈だと嫌がる私に食べさせようとしました。多分私が初めて母上に魔法を掛けられた日です」
フィリップ殿下の告白は衝撃的過ぎました。
「どういうことだ」
「母上は私の目を見ながら手を握り、お前はお義兄様が好きな食べ物が好きなのよ。だってお義兄様にそっくりだから。この果物はお義兄様のお好きなものなのよ。だからあなたはこれを喜んで食べるのよ。そう言ったのです」
「例え親子だとしても好き嫌いまで同じではないだろう」
「ですが、私は食べました。食べ初めてすぐに喉の奥が熱を持ったようになり痒みが出ても、手を止めたいと思っても自分の意思では止められなかった。心と体の動きがバラバラな恐怖で涙が流れるのに、母上はやはり好きなのねと喜んでいて。私は母上が喜ぶ事をしている自分は凄いのだと段々思うようになりました」
婚約前と言えば五歳以下の筈です。
その子供にそんな風に魔法を使う王妃様が恐ろしくて、私はフィリップ殿下の顔を食い入る様に見つめました。
「忘れていた筈の記憶です。幼児としか言えない頃などまともに覚えていないというのに、魔法が解けた瞬間その時の恐ろしさを思い出したのです」
「母上がお前に魔法を掛けた」
「はい。その後も何度もフィリエ伯爵なら選ばない選択をする度に母上は私に魔法を掛けました。好みの服や髪型歩き方、すべてそうして作られて行きました」
どのように考えればいいのでしょう。
フィリップ殿下の言葉は、王妃様の心ではなく、あくまでもフィリップ殿下が感じたものです。
それは真実と言っていいのでしょうか。
分かりません。
一体何が真実なのでしょうか。
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