106 / 123
第三王子の決意
しおりを挟む
「神の裁き」
「そうだ。これがお前の罪を裁く」
フィリップ殿下の前に見せつける様に二つの杯が載せられた銀盆を、第二王子殿下は突き出しました。
細い足がついた杯は銀製で、杯一つは貴族令嬢でも一口で飲み干せる様な大きさです。
小さな杯ではありますが、その中に入っているのは貴族の家に生まれた者は幼い頃に悪夢に見た経験が一度や二度はあるであろう『神の裁き』という恐ろしい毒です。
その毒は貴族位の者が重罪を犯し、その罪の代償として陛下から賜るものです。
貴族の罪は、爵位の返上や謹慎等で償いをすることが殆どですが、それより重い罪であれば爵位返上の上強制労働や処刑などがあります。一般的な処刑は毒杯や絞首刑や斬首などですが、それよりも重い刑罰が今目の前で行われている『神の裁き』です。
私が知る刑罰の中で、この紙の裁きが一番重い罰なのではないかと思います。
死んだ方がいいという苦しみを延々と受けながら、正気を失うことも出来ずただ耐えるのみ。
そんな時間を延々と受け続けなければならないのです。
「お父様、どうして杯が二つも。フィリップ殿下の罪がそれほど重い等、私は思いません」
確かにフィリップ殿下は、王子であるという役割を果たしていなかったとは思います。
王家の血筋を偽ったという罪も、勿論あるでしょう。
ですが、神の裁きを杯二つ。
王妃様やアヌビートよりも重い罰を受ける等、それほどの罪をフィリップ殿下が犯していたとは思えないのです。
「お父様、どうしてですか。フィリップ殿下にそれほどの罪があるというのでしょうか」
「フローリア、黙って見届けなさい。私達にフィリップ殿下への罪の裁きに口を挟む資格はない」
「ですが」
お父様の言葉に私は口を閉じるしかありませんでした。
視線を小さな窓に戻すと、第二王子殿下は何の感情も読み取れないお顔でフィリップ殿下を見つめていました。
ゴクリ。
フィリップ殿下の唾を飲み込む音が聞こえた様な気がしました。
「神の裁きを賜ると」
「そうだ。この杯は、お前とお前の運命の相手の分だ」
「え、エミリア? どうして彼女が、彼女は火あぶりになるのではないのですか。神の裁きだなんて。そんな罪を彼女は犯していない筈ですっ」
フィリップ殿下は狼狽えて、第二王子殿下に詰め寄りました。
火あぶりと神の裁き、どちらが重いかといえば私にはどちらも同じという気がしますが、フィリップ殿下にとっては神の裁きの方が重いのでしょう。
その違いは、一瞬で命を失うか。永遠とも感じる苦痛を感じ続けるかです。
「お前にとってはそうでも。陛下にとってはそうではない。だからこその杯だ」
「そんな」
「だが、陛下は温情を与えようと仰っている」
「温情」
「そうだ。この杯をどちらかが二つの飲み干すというのなら、片方は瞬時に命を屠ろう。そう仰っておいでだ」
「瞬時に命を屠る。つまり、斬首か何かで罪の償いをするのですか」
瞬時に命を刈り取るか、神の裁きで苦しみ続けた上に命を失うか。
それは小さな様に見えて大きな違いがあります。
「お前は王家の血筋を偽った大罪があるし、男爵令嬢は放火という罪がある。放火は大罪、その罪は火あぶりで償うものだ」
「はい。分かっています。エミリアは、あの子は火あぶりで罪を償うしかありません」
未遂な上、王妃様の命令で行った可能性が高いというのに、エミリアさんにある未来は火あぶりの刑で自分の命を失うものしかありません。
「私がもしエミリアの杯を飲むとしたら、彼女はどうなりますか」
「放火をしたという罪は変わらないが、そうだな。斬首になるかもしれないな」
長く苦しむ斬首か、延々苦しみ続ける神の裁きか。
その選択は、あまり意味が無いようにも思いますが、それでも斬首の方がマシなのかもしれません。
「でしたら、杯は私がエミリアの分も飲みます。それで彼女の苦しみが一瞬で終わるなら。彼女を巻き込んでしまった私が彼女の罪の償いも行います。それ以外、私が彼女に償えることはないのですから」
フィリップ殿下の選択は、私には意外と思えるものだったのです。
「そうだ。これがお前の罪を裁く」
フィリップ殿下の前に見せつける様に二つの杯が載せられた銀盆を、第二王子殿下は突き出しました。
細い足がついた杯は銀製で、杯一つは貴族令嬢でも一口で飲み干せる様な大きさです。
小さな杯ではありますが、その中に入っているのは貴族の家に生まれた者は幼い頃に悪夢に見た経験が一度や二度はあるであろう『神の裁き』という恐ろしい毒です。
その毒は貴族位の者が重罪を犯し、その罪の代償として陛下から賜るものです。
貴族の罪は、爵位の返上や謹慎等で償いをすることが殆どですが、それより重い罪であれば爵位返上の上強制労働や処刑などがあります。一般的な処刑は毒杯や絞首刑や斬首などですが、それよりも重い刑罰が今目の前で行われている『神の裁き』です。
私が知る刑罰の中で、この紙の裁きが一番重い罰なのではないかと思います。
死んだ方がいいという苦しみを延々と受けながら、正気を失うことも出来ずただ耐えるのみ。
そんな時間を延々と受け続けなければならないのです。
「お父様、どうして杯が二つも。フィリップ殿下の罪がそれほど重い等、私は思いません」
確かにフィリップ殿下は、王子であるという役割を果たしていなかったとは思います。
王家の血筋を偽ったという罪も、勿論あるでしょう。
ですが、神の裁きを杯二つ。
王妃様やアヌビートよりも重い罰を受ける等、それほどの罪をフィリップ殿下が犯していたとは思えないのです。
「お父様、どうしてですか。フィリップ殿下にそれほどの罪があるというのでしょうか」
「フローリア、黙って見届けなさい。私達にフィリップ殿下への罪の裁きに口を挟む資格はない」
「ですが」
お父様の言葉に私は口を閉じるしかありませんでした。
視線を小さな窓に戻すと、第二王子殿下は何の感情も読み取れないお顔でフィリップ殿下を見つめていました。
ゴクリ。
フィリップ殿下の唾を飲み込む音が聞こえた様な気がしました。
「神の裁きを賜ると」
「そうだ。この杯は、お前とお前の運命の相手の分だ」
「え、エミリア? どうして彼女が、彼女は火あぶりになるのではないのですか。神の裁きだなんて。そんな罪を彼女は犯していない筈ですっ」
フィリップ殿下は狼狽えて、第二王子殿下に詰め寄りました。
火あぶりと神の裁き、どちらが重いかといえば私にはどちらも同じという気がしますが、フィリップ殿下にとっては神の裁きの方が重いのでしょう。
その違いは、一瞬で命を失うか。永遠とも感じる苦痛を感じ続けるかです。
「お前にとってはそうでも。陛下にとってはそうではない。だからこその杯だ」
「そんな」
「だが、陛下は温情を与えようと仰っている」
「温情」
「そうだ。この杯をどちらかが二つの飲み干すというのなら、片方は瞬時に命を屠ろう。そう仰っておいでだ」
「瞬時に命を屠る。つまり、斬首か何かで罪の償いをするのですか」
瞬時に命を刈り取るか、神の裁きで苦しみ続けた上に命を失うか。
それは小さな様に見えて大きな違いがあります。
「お前は王家の血筋を偽った大罪があるし、男爵令嬢は放火という罪がある。放火は大罪、その罪は火あぶりで償うものだ」
「はい。分かっています。エミリアは、あの子は火あぶりで罪を償うしかありません」
未遂な上、王妃様の命令で行った可能性が高いというのに、エミリアさんにある未来は火あぶりの刑で自分の命を失うものしかありません。
「私がもしエミリアの杯を飲むとしたら、彼女はどうなりますか」
「放火をしたという罪は変わらないが、そうだな。斬首になるかもしれないな」
長く苦しむ斬首か、延々苦しみ続ける神の裁きか。
その選択は、あまり意味が無いようにも思いますが、それでも斬首の方がマシなのかもしれません。
「でしたら、杯は私がエミリアの分も飲みます。それで彼女の苦しみが一瞬で終わるなら。彼女を巻き込んでしまった私が彼女の罪の償いも行います。それ以外、私が彼女に償えることはないのですから」
フィリップ殿下の選択は、私には意外と思えるものだったのです。
91
お気に入りに追加
8,677
あなたにおすすめの小説
私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜
みおな
恋愛
大好きだった人。
一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。
なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。
もう誰も信じられない。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
2度目の人生は好きにやらせていただきます
みおな
恋愛
公爵令嬢アリスティアは、婚約者であるエリックに学園の卒業パーティーで冤罪で婚約破棄を言い渡され、そのまま処刑された。
そして目覚めた時、アリスティアは学園入学前に戻っていた。
今度こそは幸せになりたいと、アリスティアは婚約回避を目指すことにする。
逆行令嬢は何度でも繰り返す〜もう貴方との未来はいらない〜
みおな
恋愛
私は10歳から15歳までを繰り返している。
1度目は婚約者の想い人を虐めたと冤罪をかけられて首を刎ねられた。
2度目は、婚約者と仲良くなろうと従順にしていたら、堂々と浮気された挙句に国外追放され、野盗に殺された。
5度目を終えた時、私はもう婚約者を諦めることにした。
それなのに、どうして私に執着するの?どうせまた彼女を愛して私を死に追いやるくせに。
婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜
みおな
恋愛
王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。
「お前との婚約を破棄する!!」
私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。
だって、私は何ひとつ困らない。
困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。
[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜
桐生桜月姫
恋愛
シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。
だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎
本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎
〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜
夕方6時に毎日予約更新です。
1話あたり超短いです。
毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。
『完』婚約破棄されたのでお針子になりました。〜私が元婚約者だと気づかず求婚してくるクズ男は、裸の王子さまで十分ですわよね?〜
桐生桜月姫
恋愛
「老婆のような白髪に、ちょっと賢いからって生意気な青い瞳が気に入らん!!よって婚約を破棄する!!せいぜい泣き喚くんだな!!」
「そうですか。わたくし、あなたのことを愛せませんでしたので、泣けませんの。ごめんなさいね」
理不尽な婚約破棄を受けたマリンソフィアは………
「うふふっ、あはははっ!これでわたくしは正真正銘自由の身!!わたくしの夢を叶えるためじゃないとはいえ、婚約破棄をしてくれた王太子殿下にはとーっても感謝しなくっちゃ!!」
落ち込むどころか舞い上がって喜んでいた。
そして、意気揚々と自分の夢を叶えてお針子になって自由気ままなスローライフ?を楽しむ!!
だが、ある時大嫌いな元婚約者が現れて………
「あぁ、なんと美しい人なんだ。絹のように美しく真っ白な髪に、サファイアのような知性あふれる瞳。どうか俺の妃になってはくれないだろうか」
なんと婚約破棄をされた時と真反対の言葉でマリンソフィアだと気が付かずに褒め称えて求婚してくる。
「あぁ、もう!!こんなうっざい男、裸の王子さまで十分よ!!」
お針子マリンソフィアの楽しい楽しいお洋服『ざまあ』が今開幕!!
《完》わたしの刺繍が必要?無能は要らないって追い出したのは貴方達でしょう?
桐生桜月姫
恋愛
『無能はいらない』
魔力を持っていないという理由で婚約破棄されて従姉妹に婚約者を取られたアイーシャは、実は特別な力を持っていた!?
大好きな刺繍でわたしを愛してくれる国と国民を守ります。
無能はいらないのでしょう?わたしを捨てた貴方達を救う義理はわたしにはございません!!
*******************
毎朝7時更新です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる