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後悔2

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「フィリップの延命だと? 愚かなあれを延命してどうする。あれは反省等しないだろうし、生きていたとしても離宮に幽閉されるだけだ。そんな生き方にどんな意味がある」

 第二王子殿下の仰ることは、今までのフィリップ殿下の言動を考えると正しいのかもしれません。
 ですが、先程のフィリップ殿下は今までの彼と違う様に思います。

「意味はあるかどうか、愚かな私めには考える力などありません。ですが、フィリップ殿下が私と同じように王妃様の魔法のせいで考え方を変えられていたとしたのなら、せめて王妃様の魔法の届かない場所で、心安らかに過ごす時間をほんの僅かな時だけでも、そう考えてしまうのです」

 私のアヌビートの印象は陰鬱な医師というものでした。
 痩せた無表情の彼は、子供には恐ろしい存在で近寄りたくないと思う人でした。
 ですが、今の彼にはその陰鬱さがありません。
 もしかしたらあれは王妃様の魔法の影響だったのかと思うと、王妃様の罪深さが良く分かります。

「母上の魔法か。あれは罪深い。医師アヌビート、母上の魔法をどう思う」
「恐れながら、王妃様の魔法に対抗できる者等いないのではないかと愚考致します。王妃様の魔法に対抗できる魔道具を持っていれば違うやもしれませんが、ただの子供にそれが出来るでしょうか。しかもフィリップ殿下にとっては誰より信頼できる母という存在です。王妃様が行うすべてを幼いフィリップ殿下は受け入れてしまうでしょう」

 アヌビートは自分の延命をするのではなく、あくまでフィリップ殿下の救いを求めて話している様に見えました。

「幼いフィリップには難しいか」
「はい。私がいつ王妃様に魔法を掛けられたのか分かりませんが、王妃様の妊娠を偽証し子が流れたと謀った、あの頃が始まりなのだと思います」
「フィリップを授かる前、そうだな」
「私はあの日の事を何故か鮮明に覚えています。王妃様は私を宮に呼び、自分が妊娠していると偽装しなければいけないと仰ったのです。人払いされた部屋で、私の手を握り私の目を見つめながらそう仰ったのです」

 アヌビートの告白は、王妃様が偽りを始めた日の事でした。
 多分それがすべての始まりです。
 王妃様がフィリエ伯爵の屋敷に長期間滞在できるように、自分の妊娠を偽りそして子が、王太后様のお茶会での何かが理由で大切な子が流れたと偽ったのです。

「あの時、私が王妃様の魔法に対抗するものを持ちえていたのなら、こんな騒動は起きなかったのです。私が殺めてしまった五人の命も守られ、フィリップ殿下の悲劇も起きなかった。そう考えると私が王妃様の魔法に屈してしまったことがすべてだったと言えるのです」
「だが、母上の魔法はそれだけ強力だった」
「はい。言い訳でしかありませんが、王妃様の魔法に抗うすべを私は持っていませんでした。王妃様の魔法を解呪され、正気に戻った私が思ったことは医師である私が人の命を奪ったと言う罪についてです。許されない、そう思いました。死にたいと思い、何度も自死を願いました。ですがそれは叶いませんでした」

 泣いている様に思いました。
 アヌビートは医師です。人の命を救う医師であるというのに、その彼が王妃様の魔法による命令で、命を奪ったのです。

「私は王妃様が命じるまま、何の疑問も持たずに命を奪いました。王太后様を、侯爵家の幼い若様を。何の罪もない方々の命を私が、医師である私が奪ったのです」
「だが、母上の魔法のせいだ」
「それでも、私の罪は消えません。神の裁きをどれだけ賜っても償いなど出来ない。それだけの罪を私は犯したのです。ですから第二王子殿下、私はその罪を贖うべきなのです。こんな矮小な私めが償って、それで事足りる問題ではないと存じますが、私自身で罪を、罪だと理解し神の裁きを受ける覚悟は出来ております。ですが、その神の裁きをフィリップ殿下にも向けるのは、どうかどうか、愚かな私の命を、こんな愚かな私をほんの少しでも哀れと思って下さるのであれば、どうかフィリップ殿下には神の裁きをせずに、私にどうか。どうかっ!!」

 アヌビートは、第二王子殿下へ必死の思いで繰り返しました。
 フィリップ殿下へ神の裁きが行われない様に。
 それだけを願って、アヌビートは第二王子殿下に願ったのです。
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