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後悔1
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「フィリップの杯を、何故? アヌビート、そなたは神の裁きを正しく理解しているのか?」
第二王子、ラッセル殿下はアヌビートの真意を探ろうと問いかけました。
命乞いをするならともかく、フィリップ殿下の分を自分にとはどういう意図で言っているのか私には理解出来ません。
王妃様の精神操作の魔法に操られ、アヌビートは五人もの人の命を奪いました。
本人の意思ではない殺人をどう裁くのが正しいのか、それは私には分かりません。
王妃様の魔法の下、どの程度アヌビートの意思が残っていたのか分からないのですから判断するのは難しいのかもしれませんが、操られていたのだから罪とは言えないというのか、それとも人を殺めた罪は罪だと言うべきなのか悩むところです。
正直な思いを言えば、先程からの王妃様の言動に私の意識はアヌビートへの罪の裁き等考えるに至っていなかったというのが本心です。
王妃様があれほど義兄であるフィリエ伯爵に執着していたとは思ってもおらず、幼い頃のあの王妃様とフィリエ伯爵の会話の記憶の恐ろしさ以上の怖さを先程の王妃様から感じました。
王妃様の言動は、私にとっては恐怖以外の何物でもありませんでした。
あの王妃様に執着され続けたフィリエ伯爵は、気の毒という他言葉が見つかりません。
自分のせいではないと言い続けるフィリエ伯爵に思うところがないとは言えませんが、その気持ちも理解できる気がしてしまうのです。
ただあのフィリエ伯爵の言い訳を聞いて、子供であるフィリップ殿下がどの様に感じていたのかその方が気になってしまいます。
父だと信じていた陛下が実は父親では無かったというのは、先日我がゾルティーア侯爵家で王太子殿下が証明して下さいました。
あの時のフィリップ殿下の衝撃と嘆きの『父上の子でないのなら。私は一体誰の、誰の子だというのだ』という声が忘れられません。
あの時のフィリップ殿下はどれ程の衝撃を受けたでしょう。
どれ程の絶望を感じていたでしょう。
今日のフィリップ殿下は、あの日を思えば驚く程に静かでした。
今までフィリップ殿下には、恫喝されるか蔑み罵られるかしかして来ませんでした。
婚約していた間、フィリップ殿下に優しい言葉を掛けられることなどありませんでしたが、それが王妃様の魔法のせいなのか殿下の元々の性格から来ていたものなのか、今の私には判断出来ません。
分かるのはあの頃の私はフィリップ殿下に好かれてはいなかったと言う事。それだけです。
あの頃の殿下を知っている私にとって、今日のフィリップ殿下は未知の人だったと言っても過言ではありません。
王妃様の魔法の呪縛から解き放たれた故の言動だと、今日のフィリップ殿下についていうのならば、私が今まで見てきた殿下とは異なる人だと言った方がいいのかもしれません。
「お父様、王妃様の魔法はどれほどのものなのでしょう。本人の意思を全く無視していたのでしょうか」
ケネスと繋いだままの手は、何故か離せずにいます。
見届けるといいながら、私には神の裁きをされる彼らの姿を最後まで見届ける決心が本当はついていないのです。
裁きの場を見るのは初めてのことですし、恐ろしさに足がすくみます。
見届けると言った手前逃げだすことはしませんが、恐ろしくてたまらないのが本心です。
「分からない。王妃様の魔法である精神操作の魔法はまだ研究されていないことが多いのだ。宮廷魔法使いの研究室で研究されていた精神操作の魔法は、一回から重ね掛けしても数回程度、それだと魔法を掛けられた本人の意識は残っていて強く思っている事柄には影響しないとされてはいるが、王妃様の魔法はそれとは違う様に見えるのだ」
「先日、屋敷でイオン様に解呪されたアヌビートは、その場で罪の意識から自死を選ぼうとしていました。あれを鑑みると、アヌビートの意識は王妃様の魔法に操られていたと考えるのが正しいのかと思います」
アヌビートが生きるすべてに王妃様の魔法が関与していたとは思いませんが、アヌビートが奪っていた五人の死に関することについては王妃様の命令によるものだったと思うのです。
それをどう考えればいいのか、それが私には分からないのです。
「理解しております。その杯は一杯が一ヶ月分の苦しみを与えるものです。つまり二杯飲めば二ヶ月間の苦しみを賜ることになります。私がフィリップ殿下の杯も賜ればその分の苦しみを私が受けることになる。それは十分に理解しております」
アヌビートの答えに第二王子殿下は少し考える様なそぶりを見せた後、置いてあった小さなテーブルに銀盆を置き、一つだけ銀盆の上に存在を知らしめていた小さな杯を手に取りました。
「それを知っていて、何故フィリップの分まで? お前にそうせよ、そして命乞いせよとフィリップが言ったか」
普通に考えれば、フィリップ殿下の命令だと思うのかもしれません。
何故か私はフィリップ殿下はそんな風に命乞いをすることはないと、そう信じていますが第二王子殿下はそうは思ってはいないのかもしれません。
「いいえ。私はゾルティーア侯爵家で拘束されて以降フィリップ殿下と話す機会はありませんでした。ですからこれは私の意思でございます。もしも許されるのであればフィリップ殿下の命をつなぎとめる為、私がフィリップ殿下の杯を賜り、そうすることでフィリップ殿下の延命がかなうのであれば、私はそれを己の罪の償いとしたいと願います」
神の裁きとして用意された杯は五つ。
王妃様に一つ、残る四つはそれぞれの罪人の為に。
ですが、アヌビートは自らの罪の為、それ以外にフィリップ殿下の分までを自分の罪として償いたいとそう考えているのだと願ったのです。
第二王子、ラッセル殿下はアヌビートの真意を探ろうと問いかけました。
命乞いをするならともかく、フィリップ殿下の分を自分にとはどういう意図で言っているのか私には理解出来ません。
王妃様の精神操作の魔法に操られ、アヌビートは五人もの人の命を奪いました。
本人の意思ではない殺人をどう裁くのが正しいのか、それは私には分かりません。
王妃様の魔法の下、どの程度アヌビートの意思が残っていたのか分からないのですから判断するのは難しいのかもしれませんが、操られていたのだから罪とは言えないというのか、それとも人を殺めた罪は罪だと言うべきなのか悩むところです。
正直な思いを言えば、先程からの王妃様の言動に私の意識はアヌビートへの罪の裁き等考えるに至っていなかったというのが本心です。
王妃様があれほど義兄であるフィリエ伯爵に執着していたとは思ってもおらず、幼い頃のあの王妃様とフィリエ伯爵の会話の記憶の恐ろしさ以上の怖さを先程の王妃様から感じました。
王妃様の言動は、私にとっては恐怖以外の何物でもありませんでした。
あの王妃様に執着され続けたフィリエ伯爵は、気の毒という他言葉が見つかりません。
自分のせいではないと言い続けるフィリエ伯爵に思うところがないとは言えませんが、その気持ちも理解できる気がしてしまうのです。
ただあのフィリエ伯爵の言い訳を聞いて、子供であるフィリップ殿下がどの様に感じていたのかその方が気になってしまいます。
父だと信じていた陛下が実は父親では無かったというのは、先日我がゾルティーア侯爵家で王太子殿下が証明して下さいました。
あの時のフィリップ殿下の衝撃と嘆きの『父上の子でないのなら。私は一体誰の、誰の子だというのだ』という声が忘れられません。
あの時のフィリップ殿下はどれ程の衝撃を受けたでしょう。
どれ程の絶望を感じていたでしょう。
今日のフィリップ殿下は、あの日を思えば驚く程に静かでした。
今までフィリップ殿下には、恫喝されるか蔑み罵られるかしかして来ませんでした。
婚約していた間、フィリップ殿下に優しい言葉を掛けられることなどありませんでしたが、それが王妃様の魔法のせいなのか殿下の元々の性格から来ていたものなのか、今の私には判断出来ません。
分かるのはあの頃の私はフィリップ殿下に好かれてはいなかったと言う事。それだけです。
あの頃の殿下を知っている私にとって、今日のフィリップ殿下は未知の人だったと言っても過言ではありません。
王妃様の魔法の呪縛から解き放たれた故の言動だと、今日のフィリップ殿下についていうのならば、私が今まで見てきた殿下とは異なる人だと言った方がいいのかもしれません。
「お父様、王妃様の魔法はどれほどのものなのでしょう。本人の意思を全く無視していたのでしょうか」
ケネスと繋いだままの手は、何故か離せずにいます。
見届けるといいながら、私には神の裁きをされる彼らの姿を最後まで見届ける決心が本当はついていないのです。
裁きの場を見るのは初めてのことですし、恐ろしさに足がすくみます。
見届けると言った手前逃げだすことはしませんが、恐ろしくてたまらないのが本心です。
「分からない。王妃様の魔法である精神操作の魔法はまだ研究されていないことが多いのだ。宮廷魔法使いの研究室で研究されていた精神操作の魔法は、一回から重ね掛けしても数回程度、それだと魔法を掛けられた本人の意識は残っていて強く思っている事柄には影響しないとされてはいるが、王妃様の魔法はそれとは違う様に見えるのだ」
「先日、屋敷でイオン様に解呪されたアヌビートは、その場で罪の意識から自死を選ぼうとしていました。あれを鑑みると、アヌビートの意識は王妃様の魔法に操られていたと考えるのが正しいのかと思います」
アヌビートが生きるすべてに王妃様の魔法が関与していたとは思いませんが、アヌビートが奪っていた五人の死に関することについては王妃様の命令によるものだったと思うのです。
それをどう考えればいいのか、それが私には分からないのです。
「理解しております。その杯は一杯が一ヶ月分の苦しみを与えるものです。つまり二杯飲めば二ヶ月間の苦しみを賜ることになります。私がフィリップ殿下の杯も賜ればその分の苦しみを私が受けることになる。それは十分に理解しております」
アヌビートの答えに第二王子殿下は少し考える様なそぶりを見せた後、置いてあった小さなテーブルに銀盆を置き、一つだけ銀盆の上に存在を知らしめていた小さな杯を手に取りました。
「それを知っていて、何故フィリップの分まで? お前にそうせよ、そして命乞いせよとフィリップが言ったか」
普通に考えれば、フィリップ殿下の命令だと思うのかもしれません。
何故か私はフィリップ殿下はそんな風に命乞いをすることはないと、そう信じていますが第二王子殿下はそうは思ってはいないのかもしれません。
「いいえ。私はゾルティーア侯爵家で拘束されて以降フィリップ殿下と話す機会はありませんでした。ですからこれは私の意思でございます。もしも許されるのであればフィリップ殿下の命をつなぎとめる為、私がフィリップ殿下の杯を賜り、そうすることでフィリップ殿下の延命がかなうのであれば、私はそれを己の罪の償いとしたいと願います」
神の裁きとして用意された杯は五つ。
王妃様に一つ、残る四つはそれぞれの罪人の為に。
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