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それぞれの裁き

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「あの、お父様」

 ケネスとまだ手を繋いだままだったのが恥ずかしくて、少し戸惑いながらお父様を呼びました。
 部屋を出る間もケネスは手を繋いだまま、私に寄り添うように歩いてくれました。
 平気な振りをしていましたが、神の裁きという恐ろしい裁きに私の心臓は恐ろしい速さで脈打ち体温が下がっているのを感じていました。
 ケネスが私の手を握っていてくれたからこそ倒れずに済んだのだと思います。
 それ程に恐ろしい光景でした。

「これから、三人の裁きに立ち会うが、フローリアは一緒にそれが出来るのだな」
「え。三人、はい。お父様」

 ぎゅっとケネスの手を握りしめながら私は答えました。
 王妃様はもう杯を陛下から賜ったのでしょうか。
 王妃様にとって救いかもしれない。神の裁きを、陛下自ら与えられ飲み干されたのでしょうか。
 正直に言えば、王妃様の魔法に操られて何人もの人間を殺めたアヌビートは兎も角フィリップ殿下やフィリエ伯爵が神の裁きを賜るのは、何かが違う気がしています。
 私の考えが甘いのかもしれませんが、そんなに重い罪を犯していたのか。
 それが私には判断できません。
 こういう判断を瞬時に行えるようにならなければ、侯爵領を継ぎ領主とはなれないのかもしれませんが今の私には難しい判断です。

「お父様、フィリップ殿下も同じく裁きを受けなければいけませんか」
「フローリアはどう思う?」
「私は甘いのでしょうか。フィリップ殿下にそれほどの罪があるとは思えません」

 子供は親を選んで生まれてくることは出来ません。
 フィリップ殿下の罪状が、王家の血筋を偽ったことだとするならその罪は王妃様とフィリエ伯爵が負うべきものでフィリップ殿下ではない様に思うのです。
 でも、この考えはいけないのでしょうか。

「そうか」
「お父様、もし死を賜るしかないとしても。苦しまない安らかなものを。そう望むのいけませんか」

 フィリエ伯爵、フィリップ殿下、医師アヌビート。三人はそれぞれの部屋へと案内され中へと入りドアを閉められてしまいました。
 これから三人はどの様に罪を償いのか、その判決を言い渡されるのです。

「フローリア、ケネス。こちらにおいで」

 三人が案内された部屋とは別の扉の前に立つお父様とお母様は、私達を手招きました。

「こちらは?」
「質問は後だよ。とにかく中へお入り」

 戸惑う私達をお父様が手招きし、私達は周囲を見渡しながら中へと入りました。

「この部屋の存在は、誰にも言ってはいけない。約束出来るね」
「え、は、はい」

 薄暗い部屋でした。
 魔道具の小さな灯りがポツリポツリとありますが、薄暗い印象が拭えない部屋に三つの窓がありました。

 窓? そう思ったのは部屋の中よりも明るかったせいです。
 ですが、そこは外に向かった窓ではないのは明らかでした。

「ここは一体」

 戸惑う私に先に部屋に入っていた王太子殿下が苦笑して、そして左端の窓を指さしました。

「最初は彼だ。罪の裁くのは我ら全員だよ」

 王太子殿下はそう言って、何か魔道具を操作したのです。
 裁くと聞いてすぐに理解出来ました。
 三つの窓の向こうには、フィリップ殿下、フィリエ伯爵、そして王妃様の侍医であったアヌビートがいるのでしょう。
 つまりこれから彼らの罪を裁くのです。
 私達にそんな権利があるのかどうかわかりませんが、王太子殿下は私達全員が裁くのだと仰いました。

「まずは医師アヌビートだ」
「アヌビート」

 呟きともささやきとも言える声で、お父様が彼の名を吐きました。
 窓を覗くと小さな部屋にアヌビートが座っていました。
 そしてその傍にいるのは第二王子殿下ラッセル様です。
 ラッセル様は銀盆に、神の裁きが入っていると思われる盃を一つ載せ立っていました。

「さて、アヌビート君は自分の罪が何か、正しく理解しているかな」

 ラッセル殿下はフィリップ殿下よりも五歳程上だったかと思います。もしかしたらもっと上かもしれません。
 王太子殿下程ではなくとも落ち着いた雰囲気を持つ、優しい王子殿下です。
 婚約者はいらっしゃいますが、まだご結婚はされていません。

「はい。理解しております。私は医師であるにも関わらず五人の方の命をこの手で屠りました」
「それを後悔している? それとも当然だと思う?」
「後悔しております。どうしてそんな事を平気で出来たのか。未だに分かりません。ですが当時はそれが当然だと思っていました。王妃様はそうして当たり前だと仰り私もそれが当たり前だと認識していました。でも、それは間違いだと今の私は理解しております。医師として人としてしてはいけないことをしたのだと。そう理解しております」

 王妃様の魔法で精神を操られていたアヌビートはお兄様以外の人の命も奪いました。
 人を助ける筈のその手で、命を奪ったのです。

「自分は神の裁きを受ける立場だと理解しているのかな」
「はい、理解しています。ですが」
「ですが? 何? 命乞いはしても無駄だけど」

 第二王子殿下が告げるのは当然のことです。
 自分は悪くなかった。王妃様に操られていたと言っても誰もそれを理由に許してはくれないでしょう。

「もしも叶うのであれば、フィリップ殿下の杯も私に頂けないでしょうか」

 アヌビートの言葉は、私達全員を戸惑わせるものだったのです。
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