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一方通行の思い
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「陛下、私は義理の妹である彼女と一度だけ閨を共にしました。言い訳でしかありませんが、それは私にとっては不本意な行いで、私は彼女に妹以上の感情はなく、どうしてか分かりませんが彼女を抱いていたのです。その後の私にあるのは後悔だけです。陛下への不敬という気持ちより、どうして愛してもいない女を抱いたのかという疑問と後悔です。挙句私の子を宿したと聞いた時に感じたのは絶望でした」
フィリエ伯爵が王妃様をほんの少しも愛していないのは、その言葉からも分かります。
「王妃を抱いたのは認めるのだな。そしてそれは貴様の本意では無かったというのか」
普通であればフィリエ伯爵の言葉は都合のいい言い訳と言えますが、精神操作の魔法の使い手である王妃様の場合それが事実である可能性があるのです。
陛下はそれを言っているのでしょう。
私達はフィリエ伯爵の返答を息を殺して見守りました。
どちらにしてもフィリエ伯爵が陛下に最大の不敬を行っているのは間違いありませんが、それが己の欲だったのか、それとも王妃様の差し金だったのかその差はとても大きいのです。
「私は一度も、たった一瞬でさえも彼女に欲を感じたことはありません。どうして彼女をあの時抱こうとしたのか、私には今更ですが分からないのです。私にとって大切なのは妻だけです。妻だけが大切な女性なのです」
フィリエ伯爵は今までの鬱屈を晴らすかの様に、王妃様への思いはないと言い切りました。
その言葉は清々しいと感じる程で、本当にフィリエ伯爵は王妃様の思いを迷惑に感じていたのだと傍目にも分かりました。
「お義兄様酷いわ。フィリップは私とお義兄様が愛し合って出来た子だと言うのに」
「違うっ。私は愛して等いない。お前はただの妹だ。王妃という尊い方を貶めてもいいのなら。義理の兄として関わるのも嫌なくらい、今ではあなたを嫌悪している。私の妻を虐げ私の子供達を虐げた。そんな女を私は妹としても愛したりはしない。私は後悔しているよ、たった一度でも君を抱いてしまったことを。どうしてそんな気持ちになったのかすら理解出来ない。もしも過去に戻れるのなら、絶対にそんな選択はしない。それによって不幸な子供が出来る未来等恐ろしすぎる」
フィリエ伯爵へ縋ろうとして王妃様が伸ばした手は、虚しく空をさ迷った後力なく下りて行きました。
「お義兄様は私を愛さない? そうね、あの夜も私がお義兄様の気持ちを操作して、何度も何度も操作してやっと閨へと誘えたのよ」
辛そうな声は、おぞましい王妃様の行いの告白でした。
「操作。そなたは義兄の心を操作したというのか」
「ええ、お義兄様へ催淫剤入りの葡萄酒を飲ませて閨に誘ったの、だけどお義兄様は私を拒んだの。愛しているのは妻だけだと私は義理の妹でしかないと。私が伯爵家にいられる日は限られていて、その日を逃すと二人きりになるのも難しかったから、あの頃のお義兄様は私が伯爵家に行こうとすると必ずお義兄様の妻と共にいるか領地に戻るかしていて、決して二人きりになろうとしなかったから。あれが私の最初で最後のお義兄様と閨を共に出来た夜だったのです」
陛下が絶望の顔で王妃様に問いているというのに、王妃様は戸惑いもなくそう返事を返しました。
「だから絶対に失敗は出来ませんでした。葡萄酒を飲んでも拒むお義兄様に私は精神操作の魔法を使いやっと寝室に向かい入れ、それでも拒むお義兄様に繰り返し魔法を使いました。お義兄様の子が欲しかったのです。どうしてもお義兄様の子が、そうしたらお義兄様はきっと私を愛してくれるでしょう。だから子供が欲しかったのです」
愛している人の子を産みたかったのではなく。王妃様は愛される為に子を望んだとそう言いました。
フィリップ殿下は、その言葉を聞いてただ俯くだけでした。
王妃様のフィリップ殿下への愛はフィリエ伯爵への愛故です。
王妃様はフィリップ殿下を溺愛していましたが、それは公には言えないフィリエ伯爵への愛の代わりだったのです。
「私の魔法が理由でも、それでやっとお義兄様が私を抱いたのだとしても、フィリップはお義兄様と私の子よ。私が唯一望んで授かり産んだ、私が唯一愛する子なのよ」
王妃様のその言葉は、陛下にも王太子殿下にもフィリップ殿下にも、鋭い刃物の様に心に突き刺さったのです。
フィリエ伯爵が王妃様をほんの少しも愛していないのは、その言葉からも分かります。
「王妃を抱いたのは認めるのだな。そしてそれは貴様の本意では無かったというのか」
普通であればフィリエ伯爵の言葉は都合のいい言い訳と言えますが、精神操作の魔法の使い手である王妃様の場合それが事実である可能性があるのです。
陛下はそれを言っているのでしょう。
私達はフィリエ伯爵の返答を息を殺して見守りました。
どちらにしてもフィリエ伯爵が陛下に最大の不敬を行っているのは間違いありませんが、それが己の欲だったのか、それとも王妃様の差し金だったのかその差はとても大きいのです。
「私は一度も、たった一瞬でさえも彼女に欲を感じたことはありません。どうして彼女をあの時抱こうとしたのか、私には今更ですが分からないのです。私にとって大切なのは妻だけです。妻だけが大切な女性なのです」
フィリエ伯爵は今までの鬱屈を晴らすかの様に、王妃様への思いはないと言い切りました。
その言葉は清々しいと感じる程で、本当にフィリエ伯爵は王妃様の思いを迷惑に感じていたのだと傍目にも分かりました。
「お義兄様酷いわ。フィリップは私とお義兄様が愛し合って出来た子だと言うのに」
「違うっ。私は愛して等いない。お前はただの妹だ。王妃という尊い方を貶めてもいいのなら。義理の兄として関わるのも嫌なくらい、今ではあなたを嫌悪している。私の妻を虐げ私の子供達を虐げた。そんな女を私は妹としても愛したりはしない。私は後悔しているよ、たった一度でも君を抱いてしまったことを。どうしてそんな気持ちになったのかすら理解出来ない。もしも過去に戻れるのなら、絶対にそんな選択はしない。それによって不幸な子供が出来る未来等恐ろしすぎる」
フィリエ伯爵へ縋ろうとして王妃様が伸ばした手は、虚しく空をさ迷った後力なく下りて行きました。
「お義兄様は私を愛さない? そうね、あの夜も私がお義兄様の気持ちを操作して、何度も何度も操作してやっと閨へと誘えたのよ」
辛そうな声は、おぞましい王妃様の行いの告白でした。
「操作。そなたは義兄の心を操作したというのか」
「ええ、お義兄様へ催淫剤入りの葡萄酒を飲ませて閨に誘ったの、だけどお義兄様は私を拒んだの。愛しているのは妻だけだと私は義理の妹でしかないと。私が伯爵家にいられる日は限られていて、その日を逃すと二人きりになるのも難しかったから、あの頃のお義兄様は私が伯爵家に行こうとすると必ずお義兄様の妻と共にいるか領地に戻るかしていて、決して二人きりになろうとしなかったから。あれが私の最初で最後のお義兄様と閨を共に出来た夜だったのです」
陛下が絶望の顔で王妃様に問いているというのに、王妃様は戸惑いもなくそう返事を返しました。
「だから絶対に失敗は出来ませんでした。葡萄酒を飲んでも拒むお義兄様に私は精神操作の魔法を使いやっと寝室に向かい入れ、それでも拒むお義兄様に繰り返し魔法を使いました。お義兄様の子が欲しかったのです。どうしてもお義兄様の子が、そうしたらお義兄様はきっと私を愛してくれるでしょう。だから子供が欲しかったのです」
愛している人の子を産みたかったのではなく。王妃様は愛される為に子を望んだとそう言いました。
フィリップ殿下は、その言葉を聞いてただ俯くだけでした。
王妃様のフィリップ殿下への愛はフィリエ伯爵への愛故です。
王妃様はフィリップ殿下を溺愛していましたが、それは公には言えないフィリエ伯爵への愛の代わりだったのです。
「私の魔法が理由でも、それでやっとお義兄様が私を抱いたのだとしても、フィリップはお義兄様と私の子よ。私が唯一望んで授かり産んだ、私が唯一愛する子なのよ」
王妃様のその言葉は、陛下にも王太子殿下にもフィリップ殿下にも、鋭い刃物の様に心に突き刺さったのです。
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