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陛下の声、フィリップ殿下の嘆き
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「それは王妃が神に背いた証。フィリップ狼狽えるな、みっともない」
「ち、陛下っ。母上が何をしたというのです。母上は慈悲深い王妃としてずっと陛下に仕えてきたではありませんか、どうして母上の侍医が母上を陥れる様な発言をするのですか。母上は優しくて、他人を殺める様な人ではありません。出来の悪い私を愛し慈しんで下さった。私を愛してくださった唯一の方です!」
アヌビートの告白を聞いてもフィリップ殿下は受け入れたくないのでしょう。
陛下に向かい嘆願して、でも王妃様のお顔は直視できない様でした。
「そうだ慈悲深い王妃、そう周りを欺いてきた。実際は違う、王太后を殺しお前の結婚の為ゾルティーア侯爵家の嫡男を殺したのだ」
「ですがっ!」
「ゾルティーア侯爵家又は王家の血を受け継ぐ者を自分勝手な都合で害さない。誓いを破った代償として一回の罪毎に外見に年齢を重ねる。最初の十回までは三年、二十回までは五年、三十回までは十年。三十回に達した時々神聖契約を破った証を額に記す」
「陛下? それは何ですか。一体何を仰っているのですか」
茫然とフィリップ殿下は陛下を見つめて、そして額に記すの言葉に王妃様の額に視線を移しました。
そうです陛下は三十回という普通の人間では絶対に達しないであろう回数を神聖契約に指定しました。
私が言った十回という数字を笑いたくなるほど、三十回等、そこまでの回数他人を害そうとする等私は想像も出来ずそんな数字では王妃様でも達することは出来ず、即ち王妃様を罰することは出来ないだろうと思っていたのです。
しかも陛下は『自分勝手な都合で』という一文を追加しているのです。
王妃という立場で、公の立場ではもしかすると他人を害する選択をしなければならないこともあります。
我が侯爵家もその対象になる場合はあるのです。
ですが、陛下はわざと『自分勝手な都合で』と断言しました。
それでも王妃様の額には黒い痣があるのです。
神聖契約を破ったという証が、額にあるのです。
「神聖契約だ。王妃は神聖契約を破った代償として額にその証が出たのだ。つまり、神の裁きだ」
王妃様は何も言葉を発しません。
俯くわけでもなく、声を発するわけでもなく、王妃様はただその額に浮かぶ代償の証をこの場に晒しているのです。
「アダム。魔道具を発動せよ。愚かな母が何をしたのか、子であるフィリップに罪は無いがはっきりとさせねばならぬ」
「畏まりました」
王太子殿下は陛下に深く礼をした後、フィリップ殿下の方を一瞬向いて魔道具を発動しました。
「まずは陛下とフィリップの血液です」
魔道具を発動すると、それは先日屋敷で見たのと同じ反応でした。
つまり、陛下とフィリップ殿下に親子の繋がりはないということです。
「次は、フィリエ伯爵とフィリップの血液です」
同じく魔道具を発動します。
すると、なんということでしょうか。
私の記憶通り、王妃様の過去の言葉通り、フィリエ伯爵とフィリップ殿下が親子であると判定が出たのです。
「この魔道具の結果を信じると陛下はフィリップの父親ではありません。そうフィリップの父親はフィリエ伯爵です」
王太子殿下の言葉にフィリエ伯爵はその場に崩れ落ちる様に座り込み、両手を床に頭を下げました。
「フィリエ伯爵、弁明があれば聞こう」
「ございません。陛下。ですがもし許されるなら妻と子はどうか命をお救い下さい。あれらは何も知りません」
頭を下げたまま、フィリエ伯爵が言うのを王妃様は食い入る様に見つめていました。
「何も知らない? では紫の瞳をした子はどうした」
「あれは、すでにこの世におりません。生まれて一ヶ月も経たず病でこの世を去りました」
「嘘よっ」
王妃様は知らなかったのでしょうか、声を上げ髪を振り乱しました。
「嘘ではありません。その存在を隠し伯爵家にて育てていた関係で対応が遅れました。症状としては軽い風邪の様なものでしたが、あっという間に命の火を消してしまいました。今は伯爵家の霊廟に弔っています」
「霊廟? 伯爵家の?」
王妃様はそれを聞いた途端、髪を掻きむしり始めました。
「嫌よ。そんな伯爵家の霊廟なんて、私の娘、私の、私が、嫌よ、どうしてお義兄様今まで黙って、どうしてっ!」
「言えませんでした。王妃様のお子を守れなかった等、私には言えませんでした」
フィリエ伯爵は王妃様のお子と言いました。
フィリップ殿下がフィリエ伯爵の子であるなら、その亡くなった紫の瞳の子もフィリエ伯爵の子である筈なのに。
どうしてか他人事に聞こえてしまったのです。
「私の子、私とお義兄様の子。それを失ったのに、お兄様は悲しくないの。私に知らせようと思わなかったの」
王妃様の驚きは納得出来るものでした。
フィリップ殿下の父親だと、魔道具はそう告げているのにフィリエ伯爵はそれを認めてもそれでも王妃様の子としか言わないのです。
「知らせる必要は感じませんでした。あれは王妃様の手を離れた者です。生きることを許されないと天が思ったからこそ、生後一ヶ月で天はその命を奪うことにしたのでしょう」
自分の子とは認めたくないのでしょう。フィリエ伯爵は一言も自分の子だとは口にしないまま、陛下に自分だけを裁き妻と子の命は救って欲しいと願ったのです。
「ち、陛下っ。母上が何をしたというのです。母上は慈悲深い王妃としてずっと陛下に仕えてきたではありませんか、どうして母上の侍医が母上を陥れる様な発言をするのですか。母上は優しくて、他人を殺める様な人ではありません。出来の悪い私を愛し慈しんで下さった。私を愛してくださった唯一の方です!」
アヌビートの告白を聞いてもフィリップ殿下は受け入れたくないのでしょう。
陛下に向かい嘆願して、でも王妃様のお顔は直視できない様でした。
「そうだ慈悲深い王妃、そう周りを欺いてきた。実際は違う、王太后を殺しお前の結婚の為ゾルティーア侯爵家の嫡男を殺したのだ」
「ですがっ!」
「ゾルティーア侯爵家又は王家の血を受け継ぐ者を自分勝手な都合で害さない。誓いを破った代償として一回の罪毎に外見に年齢を重ねる。最初の十回までは三年、二十回までは五年、三十回までは十年。三十回に達した時々神聖契約を破った証を額に記す」
「陛下? それは何ですか。一体何を仰っているのですか」
茫然とフィリップ殿下は陛下を見つめて、そして額に記すの言葉に王妃様の額に視線を移しました。
そうです陛下は三十回という普通の人間では絶対に達しないであろう回数を神聖契約に指定しました。
私が言った十回という数字を笑いたくなるほど、三十回等、そこまでの回数他人を害そうとする等私は想像も出来ずそんな数字では王妃様でも達することは出来ず、即ち王妃様を罰することは出来ないだろうと思っていたのです。
しかも陛下は『自分勝手な都合で』という一文を追加しているのです。
王妃という立場で、公の立場ではもしかすると他人を害する選択をしなければならないこともあります。
我が侯爵家もその対象になる場合はあるのです。
ですが、陛下はわざと『自分勝手な都合で』と断言しました。
それでも王妃様の額には黒い痣があるのです。
神聖契約を破ったという証が、額にあるのです。
「神聖契約だ。王妃は神聖契約を破った代償として額にその証が出たのだ。つまり、神の裁きだ」
王妃様は何も言葉を発しません。
俯くわけでもなく、声を発するわけでもなく、王妃様はただその額に浮かぶ代償の証をこの場に晒しているのです。
「アダム。魔道具を発動せよ。愚かな母が何をしたのか、子であるフィリップに罪は無いがはっきりとさせねばならぬ」
「畏まりました」
王太子殿下は陛下に深く礼をした後、フィリップ殿下の方を一瞬向いて魔道具を発動しました。
「まずは陛下とフィリップの血液です」
魔道具を発動すると、それは先日屋敷で見たのと同じ反応でした。
つまり、陛下とフィリップ殿下に親子の繋がりはないということです。
「次は、フィリエ伯爵とフィリップの血液です」
同じく魔道具を発動します。
すると、なんということでしょうか。
私の記憶通り、王妃様の過去の言葉通り、フィリエ伯爵とフィリップ殿下が親子であると判定が出たのです。
「この魔道具の結果を信じると陛下はフィリップの父親ではありません。そうフィリップの父親はフィリエ伯爵です」
王太子殿下の言葉にフィリエ伯爵はその場に崩れ落ちる様に座り込み、両手を床に頭を下げました。
「フィリエ伯爵、弁明があれば聞こう」
「ございません。陛下。ですがもし許されるなら妻と子はどうか命をお救い下さい。あれらは何も知りません」
頭を下げたまま、フィリエ伯爵が言うのを王妃様は食い入る様に見つめていました。
「何も知らない? では紫の瞳をした子はどうした」
「あれは、すでにこの世におりません。生まれて一ヶ月も経たず病でこの世を去りました」
「嘘よっ」
王妃様は知らなかったのでしょうか、声を上げ髪を振り乱しました。
「嘘ではありません。その存在を隠し伯爵家にて育てていた関係で対応が遅れました。症状としては軽い風邪の様なものでしたが、あっという間に命の火を消してしまいました。今は伯爵家の霊廟に弔っています」
「霊廟? 伯爵家の?」
王妃様はそれを聞いた途端、髪を掻きむしり始めました。
「嫌よ。そんな伯爵家の霊廟なんて、私の娘、私の、私が、嫌よ、どうしてお義兄様今まで黙って、どうしてっ!」
「言えませんでした。王妃様のお子を守れなかった等、私には言えませんでした」
フィリエ伯爵は王妃様のお子と言いました。
フィリップ殿下がフィリエ伯爵の子であるなら、その亡くなった紫の瞳の子もフィリエ伯爵の子である筈なのに。
どうしてか他人事に聞こえてしまったのです。
「私の子、私とお義兄様の子。それを失ったのに、お兄様は悲しくないの。私に知らせようと思わなかったの」
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「知らせる必要は感じませんでした。あれは王妃様の手を離れた者です。生きることを許されないと天が思ったからこそ、生後一ヶ月で天はその命を奪うことにしたのでしょう」
自分の子とは認めたくないのでしょう。フィリエ伯爵は一言も自分の子だとは口にしないまま、陛下に自分だけを裁き妻と子の命は救って欲しいと願ったのです。
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