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陛下の決断
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「よく来てくれた。ゾルティーア侯爵、夫人、フローリア嬢、それに大神官イオン」
王宮に入り通されたのは陛下の私室とも言える場所でした。
謁見の間に通されると思っていた私は、陛下の個人的な場所と言っていい部屋に通されて気持ちが落ち着かずお父様とお母様の間に挟まれていても動揺が収まりません。
ケネスは私達の後ろ、イオン様の隣に立っています。
私は後ろに立つケネスに視線を向け、話すことは出来ないと諦めて前を向きました。
少し前から気が付いていたことですが、私は不安になるとケネスに頼ろうとしてしまう様です。
無条件で頼りになるのは両親です。
でも、不安な時つい頼ってしまうのはケネスなのだと、気が付いて。でもその理由が分からないのです。
「フローリア、辛いなら」
「い、いいえ大丈夫です。お父様、もう大丈夫です」
視線を動かす寸前に、ケネスが頷く様子が見えました。
私の不安をケネスが解消してくれたことは、その瞬間気が付きました。
どうしてでしょう。ケネスのそういう姿が私に勇気をくれるのです。
「そうか」
「はい」
これから始まるのは王妃様の断罪です。その過程でフィリップ殿下の親子鑑定が行われるのだとお父様から説明されました。
つまり陛下の目の前で、フィリップ殿下が陛下のお子ではないと証明するのです。
「国王陛下、王太子殿下、ゾルティーア侯爵家一同と大神官イオン御前に参りました」
お父様とケネスは臣下の礼を、私とお母様は淑女の礼を、そしてイオン様は神官としての礼をして陛下と王太子殿下へ忠誠の意を示しました。
「楽にせよ。ここは謁見の間とは違う余計な考えを持つ者はおらぬ」
陛下の声に顔を上げると眉間に皺を寄せた陛下と、苦笑している王太子殿下のお顔が見えました。
謁見の間ではありませんが、不思議な空間でした。
私的な場所だと言われても私には小さな謁見の間としか思えない場所です。
上座と言える場所に陛下と王太子殿下が座り、下座に人数分の椅子があり私達はそこに腰を下ろしました。
後は陛下達が座られている場所と私達が座る場所の間にある不自然な間がありました。
「フローリア嬢、フィリップとの婚約破棄の後体調を崩していたと聞いているが大事ないか」
「娘フローリアに代わりお答えいたします。フローリアは一時期は体調を崩し床に臥せっておりましたが、今は体調も戻りこうして御前に馳せ参じるまでに回復しております」
お父様が私に代わって答えて下さいます。
私は淑女の礼儀に沿い視線を床に向け、やや俯いたまま無言で二人の会話を聞いているだけです。
「そうか。大事なければいい。ではアダム」
「畏まりました」
陛下が王太子殿下の名前を呼び、王太子殿下は自分の配下を呼ぶと王妃様とフィリップ殿下とアヌビート、そしてフィリエ伯爵が部屋に入ってきました。
「ひっ」
小さな私の声が部屋の中に響いてしまいました。
お父様に聞かされていたというのに、部屋に入ってきた王妃様の姿の衝撃に悲鳴を抑えられなかったのです。
「フローリア、耐えられぬなら退室を願いでなさい」
「い、いいえ。大丈夫です。お母様」
小声でお母様に言われて、私は必死に冷静になろうと深く息を吐きました。
白髪と老婆の様な皺、そう聞かされていましたが、それでも王妃様の姿は衝撃だったのです。
「これから王妃の罪についての裁きを行う」
陛下の声が部屋の中に響きました。
フィリップ殿下は俯いていて視線は合いません。
王妃様は目元を隠す黒いベールで、視線は分かりませんが口元や首元や手の皺は百歳を超える老婆だと言われても納得できる程で、結われずに下ろされた髪は真っ白で艶も無くパサパサとしています。
「王妃の侍医であるアヌビート。そなたの罪を告白せよ」
王太子殿下の声に、アヌビートは自分の罪を告白しました。
私達に話したように、その罪は医師として人の命を守るべき人間が行ったとするには、驚くべき人をその手に掛けていたのです。
王妃様の命令で。
その命を奪ってきたのです。
王宮に入り通されたのは陛下の私室とも言える場所でした。
謁見の間に通されると思っていた私は、陛下の個人的な場所と言っていい部屋に通されて気持ちが落ち着かずお父様とお母様の間に挟まれていても動揺が収まりません。
ケネスは私達の後ろ、イオン様の隣に立っています。
私は後ろに立つケネスに視線を向け、話すことは出来ないと諦めて前を向きました。
少し前から気が付いていたことですが、私は不安になるとケネスに頼ろうとしてしまう様です。
無条件で頼りになるのは両親です。
でも、不安な時つい頼ってしまうのはケネスなのだと、気が付いて。でもその理由が分からないのです。
「フローリア、辛いなら」
「い、いいえ大丈夫です。お父様、もう大丈夫です」
視線を動かす寸前に、ケネスが頷く様子が見えました。
私の不安をケネスが解消してくれたことは、その瞬間気が付きました。
どうしてでしょう。ケネスのそういう姿が私に勇気をくれるのです。
「そうか」
「はい」
これから始まるのは王妃様の断罪です。その過程でフィリップ殿下の親子鑑定が行われるのだとお父様から説明されました。
つまり陛下の目の前で、フィリップ殿下が陛下のお子ではないと証明するのです。
「国王陛下、王太子殿下、ゾルティーア侯爵家一同と大神官イオン御前に参りました」
お父様とケネスは臣下の礼を、私とお母様は淑女の礼を、そしてイオン様は神官としての礼をして陛下と王太子殿下へ忠誠の意を示しました。
「楽にせよ。ここは謁見の間とは違う余計な考えを持つ者はおらぬ」
陛下の声に顔を上げると眉間に皺を寄せた陛下と、苦笑している王太子殿下のお顔が見えました。
謁見の間ではありませんが、不思議な空間でした。
私的な場所だと言われても私には小さな謁見の間としか思えない場所です。
上座と言える場所に陛下と王太子殿下が座り、下座に人数分の椅子があり私達はそこに腰を下ろしました。
後は陛下達が座られている場所と私達が座る場所の間にある不自然な間がありました。
「フローリア嬢、フィリップとの婚約破棄の後体調を崩していたと聞いているが大事ないか」
「娘フローリアに代わりお答えいたします。フローリアは一時期は体調を崩し床に臥せっておりましたが、今は体調も戻りこうして御前に馳せ参じるまでに回復しております」
お父様が私に代わって答えて下さいます。
私は淑女の礼儀に沿い視線を床に向け、やや俯いたまま無言で二人の会話を聞いているだけです。
「そうか。大事なければいい。ではアダム」
「畏まりました」
陛下が王太子殿下の名前を呼び、王太子殿下は自分の配下を呼ぶと王妃様とフィリップ殿下とアヌビート、そしてフィリエ伯爵が部屋に入ってきました。
「ひっ」
小さな私の声が部屋の中に響いてしまいました。
お父様に聞かされていたというのに、部屋に入ってきた王妃様の姿の衝撃に悲鳴を抑えられなかったのです。
「フローリア、耐えられぬなら退室を願いでなさい」
「い、いいえ。大丈夫です。お母様」
小声でお母様に言われて、私は必死に冷静になろうと深く息を吐きました。
白髪と老婆の様な皺、そう聞かされていましたが、それでも王妃様の姿は衝撃だったのです。
「これから王妃の罪についての裁きを行う」
陛下の声が部屋の中に響きました。
フィリップ殿下は俯いていて視線は合いません。
王妃様は目元を隠す黒いベールで、視線は分かりませんが口元や首元や手の皺は百歳を超える老婆だと言われても納得できる程で、結われずに下ろされた髪は真っ白で艶も無くパサパサとしています。
「王妃の侍医であるアヌビート。そなたの罪を告白せよ」
王太子殿下の声に、アヌビートは自分の罪を告白しました。
私達に話したように、その罪は医師として人の命を守るべき人間が行ったとするには、驚くべき人をその手に掛けていたのです。
王妃様の命令で。
その命を奪ってきたのです。
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