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解呪の魔法
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「嘘だ。私は父上の子だ。父上は私を愛してくださっている。それは私が父上の子だからだ」
お父様はフィリップ殿下を子供の様に抱きかかえて部屋に完全に入ると、扉を閉めました。
フィリップ殿下は相変わらず拘束されたままで、自分では歩くことが出来ません。
お父様に空いていたソファーに下ろされてすぐフィリップ殿下は拘束をものともせずに暴れだし、床に落ちてしまいました。
「あっ」
「殿下っ」
驚く私達を余所に王太子殿下は動じずにフィリップ殿下の名前を呼びました。
「みっともない、フィリップ。お前は王子という身分を忘れた様だな」
「うるさい、うるさい、うるさいっ! 兄上等母上に愛されていないくせに。先に生まれたというだけで偉そうに」
床の上でうつぶせになったまま、フィリップ殿下はそれでも顔だけを上に向け王太子殿下を罵りました。
「ああ、そうか。父上の子ではないのだからお前は王子ではないのだな。それなら無様でも仕方ない。不義の子なのだから」
「違う、違うっ私は父上の子だ。髪の色が違っても目の色が違っても、光魔法の適性の適性がなくとも私は父上の子だっ!」
その叫びは泣いている様でした。
フィリップ殿下の慟哭が部屋に響いている様で、私は思わず顔を背けてしまいました。
「いいえ、フィリップ殿下は陛下のお子ではございません。王妃様はご実家に二ヶ月近く滞在しその間に懐妊されたのです。ご実家滞在中に体調を崩されたと滞在を伸ばし私を呼びつけると、妊娠しているのではないか調べて欲しいと言われました。結果、王妃様は妊娠しておいででした。ですが、王妃様は自分がいいというまでは妊娠しているとは公表してはいけないと。私に命令されたのです。王太后様の宮に滞在する間もその命令は続きました。陛下と何度か閨を共にして、そうして初めて王妃様ご懐妊の報告を私に許す命令が下りました」
私は王妃様の宮で王妃様が義兄を抱きしめていたあの日を思い出していました。
王妃様にとって大切なのは自分と自分の義兄、そしてその二人の子であるフィリップ殿下だけです。
「懐妊時期を私は王妃様の命令で誤魔化しました。はっきりと王妃様は仰いませんでしたが陛下の子ではないのだと暗に示されたようなものです」
「嘘だっ! お前、母上の侍医だろう。何故そんな嘘をつくっ! 母上を裏切るのか、母上は偉大なるこの国の王妃。国母だぞ!」
フィリップ殿下はアヌビートに向かい叫びながら、涙を流し始めました。
「私は母上と父上の子だ。私は、私は」
叫ぶ続けるフィリップ殿下を見つめながら、私はイオン様に小声でささやきました。
「イオン様、この状態のフィリップ殿下に解呪の魔法は使えますか」
「え。ええ、使えます」
「では、お願いします」
「畏まりました」
イオン様は暴れるフィリップ殿下に手の平を向けました。
「遠い日の罪よ、暗い夜の闇よ。今こそ日の光の元にその罪を償い白き身となれ」
ふわんと光がフィリップ殿下の全身を包み込みました。
「成功ですか?」
「いえ、まだです、解呪が完了すると全身がもっと光に包まれるのです、一度では解呪しきれていませんので何度か解呪の魔法を掛けなければならないかと存じます。アヌビート同様繰り返し魔法を掛けられている様ですから一度では解決しないのです」
「イオン様お願いします」
「畏まりました。遠い日の罪よ……」
何度も何度もイオン様はフィリップ殿下に魔法を掛け続けました。
アヌビートの解呪も行っていたのですから、イオン様の魔力は相当消耗している筈です。
「遠い日の罪よ、暗い夜の闇よ。今こそ日の光の元にその罪を償い白き身となれっ!」
何度目かの魔法の後、とうとうフィリップ殿下の体が眩い光に包まれました。
やっと解呪に成功したのだとホッとするとともに、イオン様へ視線を向けるとその場に座り込んでしまいました。
「イオン様っ」
「大丈夫です。魔力を限界まで使ってしまったようです」
真っ青な顔でそう言うイオン様は、声を発しなくなってしまったフィリップ殿下を心配そうに見つめていました。
お父様はフィリップ殿下を子供の様に抱きかかえて部屋に完全に入ると、扉を閉めました。
フィリップ殿下は相変わらず拘束されたままで、自分では歩くことが出来ません。
お父様に空いていたソファーに下ろされてすぐフィリップ殿下は拘束をものともせずに暴れだし、床に落ちてしまいました。
「あっ」
「殿下っ」
驚く私達を余所に王太子殿下は動じずにフィリップ殿下の名前を呼びました。
「みっともない、フィリップ。お前は王子という身分を忘れた様だな」
「うるさい、うるさい、うるさいっ! 兄上等母上に愛されていないくせに。先に生まれたというだけで偉そうに」
床の上でうつぶせになったまま、フィリップ殿下はそれでも顔だけを上に向け王太子殿下を罵りました。
「ああ、そうか。父上の子ではないのだからお前は王子ではないのだな。それなら無様でも仕方ない。不義の子なのだから」
「違う、違うっ私は父上の子だ。髪の色が違っても目の色が違っても、光魔法の適性の適性がなくとも私は父上の子だっ!」
その叫びは泣いている様でした。
フィリップ殿下の慟哭が部屋に響いている様で、私は思わず顔を背けてしまいました。
「いいえ、フィリップ殿下は陛下のお子ではございません。王妃様はご実家に二ヶ月近く滞在しその間に懐妊されたのです。ご実家滞在中に体調を崩されたと滞在を伸ばし私を呼びつけると、妊娠しているのではないか調べて欲しいと言われました。結果、王妃様は妊娠しておいででした。ですが、王妃様は自分がいいというまでは妊娠しているとは公表してはいけないと。私に命令されたのです。王太后様の宮に滞在する間もその命令は続きました。陛下と何度か閨を共にして、そうして初めて王妃様ご懐妊の報告を私に許す命令が下りました」
私は王妃様の宮で王妃様が義兄を抱きしめていたあの日を思い出していました。
王妃様にとって大切なのは自分と自分の義兄、そしてその二人の子であるフィリップ殿下だけです。
「懐妊時期を私は王妃様の命令で誤魔化しました。はっきりと王妃様は仰いませんでしたが陛下の子ではないのだと暗に示されたようなものです」
「嘘だっ! お前、母上の侍医だろう。何故そんな嘘をつくっ! 母上を裏切るのか、母上は偉大なるこの国の王妃。国母だぞ!」
フィリップ殿下はアヌビートに向かい叫びながら、涙を流し始めました。
「私は母上と父上の子だ。私は、私は」
叫ぶ続けるフィリップ殿下を見つめながら、私はイオン様に小声でささやきました。
「イオン様、この状態のフィリップ殿下に解呪の魔法は使えますか」
「え。ええ、使えます」
「では、お願いします」
「畏まりました」
イオン様は暴れるフィリップ殿下に手の平を向けました。
「遠い日の罪よ、暗い夜の闇よ。今こそ日の光の元にその罪を償い白き身となれ」
ふわんと光がフィリップ殿下の全身を包み込みました。
「成功ですか?」
「いえ、まだです、解呪が完了すると全身がもっと光に包まれるのです、一度では解呪しきれていませんので何度か解呪の魔法を掛けなければならないかと存じます。アヌビート同様繰り返し魔法を掛けられている様ですから一度では解決しないのです」
「イオン様お願いします」
「畏まりました。遠い日の罪よ……」
何度も何度もイオン様はフィリップ殿下に魔法を掛け続けました。
アヌビートの解呪も行っていたのですから、イオン様の魔力は相当消耗している筈です。
「遠い日の罪よ、暗い夜の闇よ。今こそ日の光の元にその罪を償い白き身となれっ!」
何度目かの魔法の後、とうとうフィリップ殿下の体が眩い光に包まれました。
やっと解呪に成功したのだとホッとするとともに、イオン様へ視線を向けるとその場に座り込んでしまいました。
「イオン様っ」
「大丈夫です。魔力を限界まで使ってしまったようです」
真っ青な顔でそう言うイオン様は、声を発しなくなってしまったフィリップ殿下を心配そうに見つめていました。
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