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王妃の罪
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「こちらの部屋です」
鏡の間に到着し、扉を開こうとしてケネスが私の手を止めました。
「ケネス?」
「アヌビートという医師が今どういう状態か分からないのに不用意に開けるな」
「え、ああそうね。私ったら」
先程の王太子殿下が仰った事を考えていた私は、何も考えず扉を開こうとしていました。
「ドアを開くぞ」
「ああ、その前に。親子の鑑定が出来る魔道具を侯爵領から運んだと聞いたが。それはすぐに使えるのか」
「いえ、使用するには父親、母親、子供、それぞれの血液が必要です。それぞれほんの一滴程度ですが」
親子鑑定の魔道具と聞いて、私の胸は急にぎゅっと鷲掴みされた様に苦しくなりました。
王太子殿下が親子鑑定をしたい相手はたった一人、フィリップ殿下でしょう。
「そうか。父上の血液は頂いてきたのだが」
「三人の血が必要となるのは、両親が子の親か確認する為です。精度は少し落ちますが、片方だけでも鑑定は可能だと聞いています」
「そうか」
黙り込む王太子殿下を私とケネスは息を止め見守ります。
王太子殿下はいますぐにフィリップ殿下の鑑定を行いたいのでのでしょうか。
私の記憶が正しければ、フィリップ殿下の父は王妃様の義兄です。
「先にアヌビートを尋問しよう。すべてはそれからだ」
王太子殿下が視線でケネスに扉を開くように指示します。
ケネスがゆっくりと扉を開くと、イオン様の悲鳴が聞こえてきました。
「ひっ。ユ、ユウナさん。そんな乱暴にしてはっ」
「抵抗するこの人が悪いのですっ」
扉を開いて目に飛び込んできたのは、アヌビートの体の上に馬乗りになったユウナの姿でした。
「ユウナッ」
ケネスはユウナの名前を呼びながら、二人に駆け寄りアヌビートの縛られた体を捕らえました。
「ケネス様ありがとうございます」
ケネスにアヌビートを託すとスカートの裾を直しながら立ち上がり、何事も無かったの様にユウナは私の傍にやってきました。
「ユウナ。無茶をしないで」
「申し訳ございません。拘束し気を失った為、騎士様達は外の賊の対応に向かわれたものですから」
「外の賊?」
「ああ。フィリップが連れてきた者達だろう。侯爵家の護衛達では王家の紋が付いた者に手が出せないだろう?」
確かにフィリップ殿下の指示で動いていると言われたら、我が家の護衛達がいくら優秀でも手は出せません。
フィリップ殿下の愚行であれば問題にはならなくても、本当に我が家に問題があってフィリップ殿下が指示を出していた場合は護衛達が罪に問われてしまうのです。
「フィリップは大袈裟に騎士達を連れてきたみたいだからね。私の配下も驚いているだろう。まったくフィリップは何と戦うつもりだったのか」
ケネスが押さえつけても抵抗し続けているアヌビートを横目に、王太子殿下は呆れた様に言いながらソファーに腰を下ろすと長い足を優雅に組んでケネスに顎で指示をしました。
「アヌビート、抵抗するならお前の家族はお前の代わりに断頭台に向かうことになるがいいのか」
ぴたりと動きが止まりました。
「抵抗も自死もしないというなら、話せる様にだけはしてやる」
王太子殿下の言葉にアヌビートが何度も頷くと、ケネスはアヌビートの口につけていた口枷を外しました。
「アヌビート。お前はここに何をしに来た」
「それは」
「私は無駄が嫌いだ。何度も同じ質問をさせる様な愚行をされるのは不愉快だ」
私が聞いたことのない、恐ろしい声が部屋に響きました。
「もう一度言う、お前は何故ここにきた」
「フローリア様の命を、命を終わらせる為に参りました」
「誰の命令だ。お前の判断か」
「それは、あの」
「私の言葉を忘れたのか」
「いいえ、あの。あの、おう、王妃様の命令ですっ。私の意志ではありません。私は、王妃様の命令で、罪の意識も感じずにフローリア様の命を終わらせるために参りましたっ」
王妃様の命令。
そうはっきりとアヌビートは告白したのです。
「それだけではありません。私は王妃様の命令で今まで何人もの命を奪ってきました。私は医師だというのに。それなのに王妃様の命は絶対だと。正しいのだとなぜか信じて、信じて沢山の命を」
沢山の命。
私のお兄様以外にもこの人は命を奪ってきたというのでしょうか。
「誰だ。誰の命を」
「最初は、フィリエ前伯爵夫人でした。その次がフィリエ前伯爵。そしてゾルティーア侯爵子息、そして皇太后様付きのメイド。そして」
予想以上の人数に、私の体温は冷えて行きました。
「そして?」
「そして、王太后様を」
「なんだとっ!!」
王太后様は病死の筈です。
それが王妃様の手に掛かったなんて、そんな事。
「なぜ、おばあ様を。何故母上が。理由を知っているなら答えよ」
「はい。お答えいたします。皇太后さまはフィリップ殿下の父親について疑いを持っており、密かに調べておいででした。王太后様のメイドの一人が王妃様の部屋を探っていて、それに気が付いて王妃様はメイドの口を封じる様私に命令されたのです」
私の予想を超えて王妃様は人の命を奪っていたのです。
鏡の間に到着し、扉を開こうとしてケネスが私の手を止めました。
「ケネス?」
「アヌビートという医師が今どういう状態か分からないのに不用意に開けるな」
「え、ああそうね。私ったら」
先程の王太子殿下が仰った事を考えていた私は、何も考えず扉を開こうとしていました。
「ドアを開くぞ」
「ああ、その前に。親子の鑑定が出来る魔道具を侯爵領から運んだと聞いたが。それはすぐに使えるのか」
「いえ、使用するには父親、母親、子供、それぞれの血液が必要です。それぞれほんの一滴程度ですが」
親子鑑定の魔道具と聞いて、私の胸は急にぎゅっと鷲掴みされた様に苦しくなりました。
王太子殿下が親子鑑定をしたい相手はたった一人、フィリップ殿下でしょう。
「そうか。父上の血液は頂いてきたのだが」
「三人の血が必要となるのは、両親が子の親か確認する為です。精度は少し落ちますが、片方だけでも鑑定は可能だと聞いています」
「そうか」
黙り込む王太子殿下を私とケネスは息を止め見守ります。
王太子殿下はいますぐにフィリップ殿下の鑑定を行いたいのでのでしょうか。
私の記憶が正しければ、フィリップ殿下の父は王妃様の義兄です。
「先にアヌビートを尋問しよう。すべてはそれからだ」
王太子殿下が視線でケネスに扉を開くように指示します。
ケネスがゆっくりと扉を開くと、イオン様の悲鳴が聞こえてきました。
「ひっ。ユ、ユウナさん。そんな乱暴にしてはっ」
「抵抗するこの人が悪いのですっ」
扉を開いて目に飛び込んできたのは、アヌビートの体の上に馬乗りになったユウナの姿でした。
「ユウナッ」
ケネスはユウナの名前を呼びながら、二人に駆け寄りアヌビートの縛られた体を捕らえました。
「ケネス様ありがとうございます」
ケネスにアヌビートを託すとスカートの裾を直しながら立ち上がり、何事も無かったの様にユウナは私の傍にやってきました。
「ユウナ。無茶をしないで」
「申し訳ございません。拘束し気を失った為、騎士様達は外の賊の対応に向かわれたものですから」
「外の賊?」
「ああ。フィリップが連れてきた者達だろう。侯爵家の護衛達では王家の紋が付いた者に手が出せないだろう?」
確かにフィリップ殿下の指示で動いていると言われたら、我が家の護衛達がいくら優秀でも手は出せません。
フィリップ殿下の愚行であれば問題にはならなくても、本当に我が家に問題があってフィリップ殿下が指示を出していた場合は護衛達が罪に問われてしまうのです。
「フィリップは大袈裟に騎士達を連れてきたみたいだからね。私の配下も驚いているだろう。まったくフィリップは何と戦うつもりだったのか」
ケネスが押さえつけても抵抗し続けているアヌビートを横目に、王太子殿下は呆れた様に言いながらソファーに腰を下ろすと長い足を優雅に組んでケネスに顎で指示をしました。
「アヌビート、抵抗するならお前の家族はお前の代わりに断頭台に向かうことになるがいいのか」
ぴたりと動きが止まりました。
「抵抗も自死もしないというなら、話せる様にだけはしてやる」
王太子殿下の言葉にアヌビートが何度も頷くと、ケネスはアヌビートの口につけていた口枷を外しました。
「アヌビート。お前はここに何をしに来た」
「それは」
「私は無駄が嫌いだ。何度も同じ質問をさせる様な愚行をされるのは不愉快だ」
私が聞いたことのない、恐ろしい声が部屋に響きました。
「もう一度言う、お前は何故ここにきた」
「フローリア様の命を、命を終わらせる為に参りました」
「誰の命令だ。お前の判断か」
「それは、あの」
「私の言葉を忘れたのか」
「いいえ、あの。あの、おう、王妃様の命令ですっ。私の意志ではありません。私は、王妃様の命令で、罪の意識も感じずにフローリア様の命を終わらせるために参りましたっ」
王妃様の命令。
そうはっきりとアヌビートは告白したのです。
「それだけではありません。私は王妃様の命令で今まで何人もの命を奪ってきました。私は医師だというのに。それなのに王妃様の命は絶対だと。正しいのだとなぜか信じて、信じて沢山の命を」
沢山の命。
私のお兄様以外にもこの人は命を奪ってきたというのでしょうか。
「誰だ。誰の命を」
「最初は、フィリエ前伯爵夫人でした。その次がフィリエ前伯爵。そしてゾルティーア侯爵子息、そして皇太后様付きのメイド。そして」
予想以上の人数に、私の体温は冷えて行きました。
「そして?」
「そして、王太后様を」
「なんだとっ!!」
王太后様は病死の筈です。
それが王妃様の手に掛かったなんて、そんな事。
「なぜ、おばあ様を。何故母上が。理由を知っているなら答えよ」
「はい。お答えいたします。皇太后さまはフィリップ殿下の父親について疑いを持っており、密かに調べておいででした。王太后様のメイドの一人が王妃様の部屋を探っていて、それに気が付いて王妃様はメイドの口を封じる様私に命令されたのです」
私の予想を超えて王妃様は人の命を奪っていたのです。
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