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心の行方
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「本当に母上は罪深くい」
フィリップ殿下を見下ろしたまま、王太子殿下の呟きは怒りなのか蔑みなのか悲しみなのか判断できませんでした。
フィリップ殿下以外の王子、王女殿下達と王妃様が個人的に一緒にいらっしゃる姿を私は殆ど見たことがありませんでしたが、母親への気持ちが王太子殿下の中に存在するのかもしれません。
それは王妃様の宮に私が伺うのがフィリップ殿下とお会いする為、だったからなのではなく。そもそも王妃様は公的な場以外でフィリップ殿下以外の方々とは殆ど一緒に過ごすことがないのです。
フィリップ殿下以外は亡くなった王太后様に養育されたせいもあり、王妃様とはあまり交流がないどころか確執があると言ってもいい。だから王妃様の前でフィリップ殿下以外の方の話題を出してはいけないとお父様に言われたのは遥か昔の話です。
お父様もお母様も、私が王妃様の前で失言しお怒りを買うことをとても恐れている様だと幼いながら私は気が付いていました。
お父様達にとって、私が一人王妃様の元に向かう事は死地に向かわせる様なものだったのでしょう。
「王太子殿下。大神官イオン様がお話したいことがあると」
お父様が王太子殿下に声を掛けました。
イオン様は王妃様の侍医の解呪を行っていた筈ですが、何かあったのでしょうか。
「どうした」
「王妃様から派遣された医師、アヌビートが自死しようと暴れているそうです」
「なんだと」
「今は殿下の配下の方々に拘束頂いていますが先に彼の尋問を頂いた方がいいかと」
アヌビートという名前を初めて聞きました。
顔色の良くない痩せ細った医師の姿は、王妃様の宮で何度も見かけましたが名前を聞いたこともなければ紹介されたこともありませんでした。
「ここでは何だな、アヌビートがいる部屋に行こう。フィリップをそちらに運べるか」
「畏まりました。すぐに、フローリア王太子殿下を鏡の間への案内を」
「は、はい」
まだケネスの袖に掴まったままだと気がつき慌てて手を話しながらお父様へ返事をすると、苦い物でも食した様な顔でお父様は私達を見ていました。
「お父様?」
「いや、なんでもない」
返事をするお父様を王太子殿下が笑っている様に見えますが、その理由を問うことは難しい為私はもやもやした気持ちでお父様とフィリップ殿下を残し、部屋を出ました。
「フローリア嬢」
「はい」
部屋を出て鏡の間に向かう途中、王太子殿下に名前を呼ばれました。
体の大きな王太子殿下とケネスと一緒にいると、侯爵家の廊下でも比較的広く天井の高い場所だというのに、狭く感じてしまいます。
「君は次の婚約者は?」
「まだ決まっておりません。ただ、私は神聖契約の際に政略結婚は難しくなる様な誓いをしましたから、相愛の相手を見つけるまでこのままかと」
フィリップ殿下の件で両親に心配と迷惑を掛けながら、家の為の結婚も難しいとなるのは心苦しいですが、あれは意図して契約した部分ではないのですから私自身にもどうにも出来ません。
「難しいかな。そうは思えないが」
「私と結婚することで侯爵の夫になれるのですから、一度婚約破棄をした身でもそれなりには話はあるのかもしれませんが、私がその方を好きにならずとも最低限信頼を出来なければ難しいのかと。でもその気持ちはどうやって判断したらいいのか分からないのです」
長年フィリップ殿下の婚約者であった私は、当然親しい男性はいません。
今から誰かと知り合い関係を築くなど出来るのかすら、想像も出来ないのです。
「フィリップの婚約者として真面目に生きてきたフローリア嬢ならそうなってしまうのかもしれないな。では少しあなたより年を重ねた者の意見を言おうか。相手の悲しみも喜びも自分の事の様に思える相手それは男性でも女性でも、自分にとって大切な人だ」
「はい」
「その他にも色々あるが、そうだな自分の弱いところを安心して見せられる相手、頼ってもいいと思える相手。その逆もあるが」
そう言われて思い浮かぶのは、両親です。
でも、私は二人に頼ることはあっても逆はあるでしょうか。
「誰か思い浮かんだかな?」
「あの」
ちらりとケネスの顔を見ました。
浮かんだのが両親というのは恥ずかしい事でしょうか。
「両親です。でも、少し違うようにも思います」
私の答えに、王太子殿下は足を止め私と向き合いました。
「そうか、フローリア嬢は暫くはのんびり過ごした方がいいのかもしれないね。婚約の事など後回しにして、今はまだ誰かを選ぶのは早いのかもしれない」
そう言いながら王太子殿下はケネスの方を意味ありげに見てから、再び歩き始めました。
「君はずっと母上とフィリップに苦労を掛けられ心を殺していたのだ。少し位自由に考える時間を作っても侯爵達も何も言うまい」
「はい」
納得できるような、出来ないような。
曖昧な気持ちで私は頷いたのです。
フィリップ殿下を見下ろしたまま、王太子殿下の呟きは怒りなのか蔑みなのか悲しみなのか判断できませんでした。
フィリップ殿下以外の王子、王女殿下達と王妃様が個人的に一緒にいらっしゃる姿を私は殆ど見たことがありませんでしたが、母親への気持ちが王太子殿下の中に存在するのかもしれません。
それは王妃様の宮に私が伺うのがフィリップ殿下とお会いする為、だったからなのではなく。そもそも王妃様は公的な場以外でフィリップ殿下以外の方々とは殆ど一緒に過ごすことがないのです。
フィリップ殿下以外は亡くなった王太后様に養育されたせいもあり、王妃様とはあまり交流がないどころか確執があると言ってもいい。だから王妃様の前でフィリップ殿下以外の方の話題を出してはいけないとお父様に言われたのは遥か昔の話です。
お父様もお母様も、私が王妃様の前で失言しお怒りを買うことをとても恐れている様だと幼いながら私は気が付いていました。
お父様達にとって、私が一人王妃様の元に向かう事は死地に向かわせる様なものだったのでしょう。
「王太子殿下。大神官イオン様がお話したいことがあると」
お父様が王太子殿下に声を掛けました。
イオン様は王妃様の侍医の解呪を行っていた筈ですが、何かあったのでしょうか。
「どうした」
「王妃様から派遣された医師、アヌビートが自死しようと暴れているそうです」
「なんだと」
「今は殿下の配下の方々に拘束頂いていますが先に彼の尋問を頂いた方がいいかと」
アヌビートという名前を初めて聞きました。
顔色の良くない痩せ細った医師の姿は、王妃様の宮で何度も見かけましたが名前を聞いたこともなければ紹介されたこともありませんでした。
「ここでは何だな、アヌビートがいる部屋に行こう。フィリップをそちらに運べるか」
「畏まりました。すぐに、フローリア王太子殿下を鏡の間への案内を」
「は、はい」
まだケネスの袖に掴まったままだと気がつき慌てて手を話しながらお父様へ返事をすると、苦い物でも食した様な顔でお父様は私達を見ていました。
「お父様?」
「いや、なんでもない」
返事をするお父様を王太子殿下が笑っている様に見えますが、その理由を問うことは難しい為私はもやもやした気持ちでお父様とフィリップ殿下を残し、部屋を出ました。
「フローリア嬢」
「はい」
部屋を出て鏡の間に向かう途中、王太子殿下に名前を呼ばれました。
体の大きな王太子殿下とケネスと一緒にいると、侯爵家の廊下でも比較的広く天井の高い場所だというのに、狭く感じてしまいます。
「君は次の婚約者は?」
「まだ決まっておりません。ただ、私は神聖契約の際に政略結婚は難しくなる様な誓いをしましたから、相愛の相手を見つけるまでこのままかと」
フィリップ殿下の件で両親に心配と迷惑を掛けながら、家の為の結婚も難しいとなるのは心苦しいですが、あれは意図して契約した部分ではないのですから私自身にもどうにも出来ません。
「難しいかな。そうは思えないが」
「私と結婚することで侯爵の夫になれるのですから、一度婚約破棄をした身でもそれなりには話はあるのかもしれませんが、私がその方を好きにならずとも最低限信頼を出来なければ難しいのかと。でもその気持ちはどうやって判断したらいいのか分からないのです」
長年フィリップ殿下の婚約者であった私は、当然親しい男性はいません。
今から誰かと知り合い関係を築くなど出来るのかすら、想像も出来ないのです。
「フィリップの婚約者として真面目に生きてきたフローリア嬢ならそうなってしまうのかもしれないな。では少しあなたより年を重ねた者の意見を言おうか。相手の悲しみも喜びも自分の事の様に思える相手それは男性でも女性でも、自分にとって大切な人だ」
「はい」
「その他にも色々あるが、そうだな自分の弱いところを安心して見せられる相手、頼ってもいいと思える相手。その逆もあるが」
そう言われて思い浮かぶのは、両親です。
でも、私は二人に頼ることはあっても逆はあるでしょうか。
「誰か思い浮かんだかな?」
「あの」
ちらりとケネスの顔を見ました。
浮かんだのが両親というのは恥ずかしい事でしょうか。
「両親です。でも、少し違うようにも思います」
私の答えに、王太子殿下は足を止め私と向き合いました。
「そうか、フローリア嬢は暫くはのんびり過ごした方がいいのかもしれないね。婚約の事など後回しにして、今はまだ誰かを選ぶのは早いのかもしれない」
そう言いながら王太子殿下はケネスの方を意味ありげに見てから、再び歩き始めました。
「君はずっと母上とフィリップに苦労を掛けられ心を殺していたのだ。少し位自由に考える時間を作っても侯爵達も何も言うまい」
「はい」
納得できるような、出来ないような。
曖昧な気持ちで私は頷いたのです。
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