75 / 123
愚かな王子は
しおりを挟む
「私達は馬車で出かけた振りをしてすぐに戻ってくる。フィリップ殿下が今晩来るのかどうか分からないが、もし王妃様の宮から殿下が出ることがあれば、王太子殿下の配下が後をつけて下さる段取りになっているから」
「はい。フィリップ殿下の性格から考えると、警備の隙をついて侵入してくるといことはないと思いますので。その場合は執事達に対応してもらいます」
お父様達は先程から何度も同じことを繰り返しています。
心配してくださっているのは分かりますが、早く出ないと侯爵家が私と使用人以外いないと王妃様のところに情報が届かなくなってしまいます。
「王妃様の配下は」
「それらしい者が正門の近くと裏門の近くにいるな」
「それでしたらお父様達がお出かけされたらすぐに報告されますね」
王妃様の配下らしいものが屋敷を見張り始めたのは婚約破棄してすぐのことだったそうです。
隠れる気がない怪しい人物がいて、調べると王妃様の宮に入っていったと。
見張っているのを隠す気が無いというのが、いかにも王妃様の行いです。
「魔道具は付けているな」
「はい。いつもの魔道具と服の下に防御の鎧と、この首飾りを」
いつもつけている毒を無効、呪いを術者に跳ね返す、物理的な攻撃から守る魔道具の他、服の下には防御の鎧と名付けられている物理攻撃から守りつつ相手に雷の衝撃を相手に与えます。そして首飾りは見た目は華奢な鎖と宝石が付いている日常使いの首飾りに見えますが、実際は首周辺をブツリ攻撃から守ってくれる魔道具です。
「ならいい。絶対に油断するなよ。お前を守る為に密かに護衛も配置しているが万が一ということもあるのだ」
「大丈夫です。お父様、これで私に何かある方がおかしいです。それよりも短時間とはいえお父様達も気を付けて下さいませね」
私がそう言ってお父様達を送り出すと、後ろ髪引かれる様な様子で出かけて行きました。
これで今屋敷にいるのは私とイオン様と使用人だけです。
「イオン様、もしフィリップ殿下と一緒に王妃様の侍医が来たら解呪をお願いします」
「ええ、いつでも解呪出来る様にしていますからご安心を」
「ありがとうございます。心強いです」
イオン様と執事とユウナと私、それだけの人数で部屋の中にいて時が過ぎるのを待ちます。
待っている時ほど時間の流れはゆっくりに感じるものです。
「陛下は本当にご決断されたのでしょうか」
「王妃様が白髪になったのは神聖契約を行った故と思いますから、陛下もある程度のご決断はされたのかと思いますが、何か気がかりなことがありますか?」
「なぜ回数を増やしたのかと、それだけです」
十回で私は足りると考えていました。
いくら王妃様でも侯爵家をそこまで害そうとはしていないだろう、私が婚約破棄をするまでずっと私達は王妃様に忠実であったのですから。
忠実な家臣でいさえすれば、王妃様はフィリップ殿下の婿入り先を没落させたくはなかったはずですから害する必要もなかった筈なのです。
「陛下が何を思って王家の血を受け継ぐ者という条件を増やしたのか分かりません。回数を増やした理由はもしかしたら、王妃様の行いをある程度はご存じだったから、かもしれませんが」
「ご存じだったのでしょうね。だから回数を増やしたのでしょう」
イオン様が痛ましいものでも見る様な顔でそっと聖句を呟きました。
陛下はご存じだったとすれば、お兄様の仇に陛下も入るのでしょうか。
知っていて放置するのは罪でしょうか、それとも違うのでしょうか。
「お嬢様は、フィリップ殿下を信じたいお気持ちもあるのですか」
「完全に無いとは言い切れない気がしています。好きという感情はありませんでした。尊敬も親しみも何もない。ただ私は現実を淡々と受け入れて、不幸になる未来しか見えない結婚をするのだと思っていました」
フィリップ殿下の隣で幸せになれる未来など想像も出来ませんでした。
私はフィリップ殿下に寄り添おうとしていたといいながら、不幸になる未来を想像し傍にいたのですから疎まれても本当は仕方ないのかもしれません。
「人の気持ちはひとつではないのでしょう。年を重ねるにつれ殿下とは一緒に入られない気持ちが強くなりましたが、幼い頃は親しくなりたい。私に笑いかけて欲しいと思いもしたのです」
ただ少しでも親しくなりたいと思っていても決してそうならなかった。
だとしたら婚約破棄はなるべくしてなった事なのです。
「お嬢様、フィリップ殿下と王妃様の侍医という方がお見えになっていますが」
「私は臥せっていて話せる状態じゃないからとお断りして」
取次のメイドが知らせを持ってやってきました。
「納得されなければ、お父様達が留守だからと伝えてから鏡の間に通して」
「畏まりました」
メイドが去っていくと、イオン様は緊張した顔で私を始めて見ました。
「お嬢様」
「イオン様は計画通りに執事と共に準備を始めて下さい。私は部屋に戻ります、ユウナ」
「畏まりました」
それぞれが持ち場について、そうして闘いは始まったのです。
「はい。フィリップ殿下の性格から考えると、警備の隙をついて侵入してくるといことはないと思いますので。その場合は執事達に対応してもらいます」
お父様達は先程から何度も同じことを繰り返しています。
心配してくださっているのは分かりますが、早く出ないと侯爵家が私と使用人以外いないと王妃様のところに情報が届かなくなってしまいます。
「王妃様の配下は」
「それらしい者が正門の近くと裏門の近くにいるな」
「それでしたらお父様達がお出かけされたらすぐに報告されますね」
王妃様の配下らしいものが屋敷を見張り始めたのは婚約破棄してすぐのことだったそうです。
隠れる気がない怪しい人物がいて、調べると王妃様の宮に入っていったと。
見張っているのを隠す気が無いというのが、いかにも王妃様の行いです。
「魔道具は付けているな」
「はい。いつもの魔道具と服の下に防御の鎧と、この首飾りを」
いつもつけている毒を無効、呪いを術者に跳ね返す、物理的な攻撃から守る魔道具の他、服の下には防御の鎧と名付けられている物理攻撃から守りつつ相手に雷の衝撃を相手に与えます。そして首飾りは見た目は華奢な鎖と宝石が付いている日常使いの首飾りに見えますが、実際は首周辺をブツリ攻撃から守ってくれる魔道具です。
「ならいい。絶対に油断するなよ。お前を守る為に密かに護衛も配置しているが万が一ということもあるのだ」
「大丈夫です。お父様、これで私に何かある方がおかしいです。それよりも短時間とはいえお父様達も気を付けて下さいませね」
私がそう言ってお父様達を送り出すと、後ろ髪引かれる様な様子で出かけて行きました。
これで今屋敷にいるのは私とイオン様と使用人だけです。
「イオン様、もしフィリップ殿下と一緒に王妃様の侍医が来たら解呪をお願いします」
「ええ、いつでも解呪出来る様にしていますからご安心を」
「ありがとうございます。心強いです」
イオン様と執事とユウナと私、それだけの人数で部屋の中にいて時が過ぎるのを待ちます。
待っている時ほど時間の流れはゆっくりに感じるものです。
「陛下は本当にご決断されたのでしょうか」
「王妃様が白髪になったのは神聖契約を行った故と思いますから、陛下もある程度のご決断はされたのかと思いますが、何か気がかりなことがありますか?」
「なぜ回数を増やしたのかと、それだけです」
十回で私は足りると考えていました。
いくら王妃様でも侯爵家をそこまで害そうとはしていないだろう、私が婚約破棄をするまでずっと私達は王妃様に忠実であったのですから。
忠実な家臣でいさえすれば、王妃様はフィリップ殿下の婿入り先を没落させたくはなかったはずですから害する必要もなかった筈なのです。
「陛下が何を思って王家の血を受け継ぐ者という条件を増やしたのか分かりません。回数を増やした理由はもしかしたら、王妃様の行いをある程度はご存じだったから、かもしれませんが」
「ご存じだったのでしょうね。だから回数を増やしたのでしょう」
イオン様が痛ましいものでも見る様な顔でそっと聖句を呟きました。
陛下はご存じだったとすれば、お兄様の仇に陛下も入るのでしょうか。
知っていて放置するのは罪でしょうか、それとも違うのでしょうか。
「お嬢様は、フィリップ殿下を信じたいお気持ちもあるのですか」
「完全に無いとは言い切れない気がしています。好きという感情はありませんでした。尊敬も親しみも何もない。ただ私は現実を淡々と受け入れて、不幸になる未来しか見えない結婚をするのだと思っていました」
フィリップ殿下の隣で幸せになれる未来など想像も出来ませんでした。
私はフィリップ殿下に寄り添おうとしていたといいながら、不幸になる未来を想像し傍にいたのですから疎まれても本当は仕方ないのかもしれません。
「人の気持ちはひとつではないのでしょう。年を重ねるにつれ殿下とは一緒に入られない気持ちが強くなりましたが、幼い頃は親しくなりたい。私に笑いかけて欲しいと思いもしたのです」
ただ少しでも親しくなりたいと思っていても決してそうならなかった。
だとしたら婚約破棄はなるべくしてなった事なのです。
「お嬢様、フィリップ殿下と王妃様の侍医という方がお見えになっていますが」
「私は臥せっていて話せる状態じゃないからとお断りして」
取次のメイドが知らせを持ってやってきました。
「納得されなければ、お父様達が留守だからと伝えてから鏡の間に通して」
「畏まりました」
メイドが去っていくと、イオン様は緊張した顔で私を始めて見ました。
「お嬢様」
「イオン様は計画通りに執事と共に準備を始めて下さい。私は部屋に戻ります、ユウナ」
「畏まりました」
それぞれが持ち場について、そうして闘いは始まったのです。
114
お気に入りに追加
8,769
あなたにおすすめの小説
2度目の人生は好きにやらせていただきます
みおな
恋愛
公爵令嬢アリスティアは、婚約者であるエリックに学園の卒業パーティーで冤罪で婚約破棄を言い渡され、そのまま処刑された。
そして目覚めた時、アリスティアは学園入学前に戻っていた。
今度こそは幸せになりたいと、アリスティアは婚約回避を目指すことにする。
[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜
桐生桜月姫
恋愛
シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。
だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎
本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎
〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜
夕方6時に毎日予約更新です。
1話あたり超短いです。
毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。
虐げられ令嬢の最後のチャンス〜今度こそ幸せになりたい
みおな
恋愛
何度生まれ変わっても、私の未来には死しかない。
死んで異世界転生したら、旦那に虐げられる侯爵夫人だった。
死んだ後、再び転生を果たしたら、今度は親に虐げられる伯爵令嬢だった。
三度目は、婚約者に婚約破棄された挙句に国外追放され夜盗に殺される公爵令嬢。
四度目は、聖女だと偽ったと冤罪をかけられ処刑される平民。
さすがにもう許せないと神様に猛抗議しました。
こんな結末しかない転生なら、もう転生しなくていいとまで言いました。
こんな転生なら、いっそ亀の方が何倍もいいくらいです。
私の怒りに、神様は言いました。
次こそは誰にも虐げられない未来を、とー
悪役令嬢は推し活中〜殿下。貴方には興味がございませんのでご自由に〜
みおな
恋愛
公爵家令嬢のルーナ・フィオレンサは、輝く銀色の髪に、夜空に浮かぶ月のような金色を帯びた銀の瞳をした美しい少女だ。
当然のことながら王族との婚約が打診されるが、ルーナは首を縦に振らない。
どうやら彼女には、別に想い人がいるようで・・・
《完》わたしの刺繍が必要?無能は要らないって追い出したのは貴方達でしょう?
桐生桜月姫
恋愛
『無能はいらない』
魔力を持っていないという理由で婚約破棄されて従姉妹に婚約者を取られたアイーシャは、実は特別な力を持っていた!?
大好きな刺繍でわたしを愛してくれる国と国民を守ります。
無能はいらないのでしょう?わたしを捨てた貴方達を救う義理はわたしにはございません!!
*******************
毎朝7時更新です。
拝啓、婚約者様。婚約破棄していただきありがとうございます〜破棄を破棄?ご冗談は顔だけにしてください〜
みおな
恋愛
子爵令嬢のミリム・アデラインは、ある日婚約者の侯爵令息のランドル・デルモンドから婚約破棄をされた。
この婚約の意味も理解せずに、地味で陰気で身分も低いミリムを馬鹿にする婚約者にうんざりしていたミリムは、大喜びで婚約破棄を受け入れる。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる