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迎え討つ
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「フローリア」
お父様からフィリップ殿下が謹慎をされていた宮から逃亡されたと知らせが入ったのは、ケネスとイオン様と三人で夕食後のお茶を頂いている時でした。
宮から抜け出しやすい状況を作ると決めていたのは私達ですが、いざ殿下が本当に行動されたと聞かされると警戒心よりも失望が先に来てしまいます。
勝手な感情です。
短絡的な考えをされる方なのですから、好機だと誘いに乗ったのでしょう。
そうさせたのは私です。
私がお父様から王太子殿下に、そうしてくださる様お願いしたのですから。
ですから、それで失望するのは勝手な話です。
「何を気にしているんだ?」
「気にしているわけじゃないのよ。ただ私、フィリップ殿下を信じたかったのかもしれないわ」
フィリップ殿下は、謹慎が嫌になっただけかもしれませんし、放火の罪で投獄されているエミリアさんに会いに行かれたのかもしれません。
彼女は殿下の運命の相手なのですから、私を害しに宮を抜け出したと考えるよりも筋道は通っています。
「信じるに値する人かな」
「しないでしょうね。お父様エミリアさんの所に向かわれた形跡は如何ですか」
「念のためそちらにも王太子殿下が配下を置いてくださっていたが、フィリップ殿下は真っ直ぐに王妃様の宮に向かわれたそうだ。王妃様は昨日から体調を崩しておられるとも聞いた。なんでも一夜にして髪がすべて白髪になる奇病とか」
フィリップ殿下の逃亡は、王太子殿下監視のもとに警備の隙をわざと作り誘発したものです。
逃亡している殿下の足取りは、王太子殿下の配下の方がしっかりと掴んでいます。
「フィリップ殿下はエミリアさんのことはご存じですよね?」
お父様に確認するとすぐに頷いてエミリアさんの様子も教えてくれました。
「エミリア嬢のことは、宮の護衛に扮装した王太子殿下の配下が同僚と噂話しとしていると見せかけて聞かせたそうだが、何も反応はされなかったそうだ。彼女は牢では大人しく、放火という大罪を犯したのを悔いて日々祈りを神に捧げているそうだ」
「そうですか。放火の動機は」
「フローリアと婚約破棄してもフィリップ殿下との婚約を自分が認められないのは、フローリアが妨害をしているのだと思いつめたと言っている」
「単独で行ったと言い張るのですね。エミリアさんの家は」
「王家の婚約が絡んでいる為に公にせずエミリア嬢は王族用の牢に投獄されているが、男爵達は娘と同じ処罰を望んでいて、彼女の刑が決まり次第領地と爵位の返還の手続きを行うことになっている」
放火の罪は大罪とされ、処刑されると決められています。
彼女と同じ刑を男爵家に行うわけにはいかないでしょう。
「牢にいる彼女を見たが、一人で何か出来る人間ではないな。着替えさえ一人で出来ぬものが放火の為の道具をどうやって用意できる?」
「着替えですか?」
「フローリアには幼い頃から一人である程度の支度が出来るよう教えていたが、普通の貴族令嬢は着替えも髪を整えるのも使用人任せなのだよ」
「そう言えばそうでしたね」
私は構造上一人で着られないドレス以外は自分で着ることが出来ますし、髪形も簡単なものであれば自分で結えます。
普段はユウナに任せていますが、そう出来るように教えられたから出来るのですが、私の方が少数派でしょう。
男爵家とはいえ、エミリアさんはすべて使用人任せだったのは納得できる話です。
「男爵達はまともな思考の持ち主で、領地もしっかりと治めている。堅実な家で育ったのに、何故フィリップ殿下に近付いたのか」
「分かりません」
エミリアさんがフィリップ殿下と共にあの日生徒会室にこなければ、婚約破棄の機会はなかったでしょう。
そうしたらお兄様の死の真相も知らず、お兄様の仇の血を侯爵家に招くことになったのです。
「エミリアさんは私達に巻き込まれてしまっただけのように思います」
私とお父様の会話をケネスとイオン様は黙って聞いているだけでした。
私の複雑な気持ちを本当に理解してはいないでしょう。
私自身理解が出来ているとは言えないのですから、当然です。
「お父様、この件が片付いたらエミリアさんと一度話す時間を頂けないでしょうか」
「わかった。フローリア」
「はい、今はフィリップ殿下と王妃様です」
私がそう答えると、イオン様が恐る恐ると言った風に口を開きました。
「侯爵様、質問する許可を頂いても」
「ああ、イオン殿気がつかず申し訳ない。なんでも聞いてくだされ」
「ありがとうございます。先程王妃様は奇病に掛かられたと言われていましたが」
そう言えば、フィリップ殿下に気を取られて王妃様の方を忘れていました。
「お父様、すでに神聖契約は結ばれたのですね」
「そうだ。だが、少し条件が変わった」
「条件ですか?」
「侯爵家又は王家の血を受け継ぐ者を害さない。代償として一回の罪毎に外見に年齢を重ねる。最初の十回までは三年年、二十回までは五年、三十回までは十年。三十回に達した時々神聖契約を破った証を額に記す。という様な内容だったそうだ」
十回では足りないという陛下のご判断なのでしょうか。
でも、王家の血を受け継ぐ者?
「王妃様は我が侯爵家だけではなく、王家の方々の命も狙っていたというのですか?」
人が白髪になるにはかなりの年月が必要です。
それがすべて白髪に変わったというのです。
最初の十回の代償は、一回につき三年の老化です。
つまり十回で三十年ですの老化です。
そんなにはっきりと分かる状態まで老化が進んでいるのなら、最低でも三十年の老化が進んだのでないでしょうか。
「王妃様はまだ四十代半ばでしたね」
「そうだ」
「つまりは、それだけを手に掛けようと実行したのですね」
「条件以外の人間は数に入っていない」
恐ろしい人を相手にしようとしているのだと、改めて思いました。
ですが、怯えているわけにはいきません。
「陛下はご決断されたのでしょうか」
「ああ」
それならば、私も命を掛けましょう。
「お父様とお母様、ケネスの三人は外出の振りをなさってください。そうですね私の体調が戻る様に神殿に祈りを捧げに出掛けるというのは如何でしょう」
「屋敷にお前と使用人を残し、イオン殿には隠れていて頂くのだな」
「ええ」
フィリップ殿下だけがいらっしゃるのか、それは分かりませんが、あなたを捕らえることで終わりにします。
お父様からフィリップ殿下が謹慎をされていた宮から逃亡されたと知らせが入ったのは、ケネスとイオン様と三人で夕食後のお茶を頂いている時でした。
宮から抜け出しやすい状況を作ると決めていたのは私達ですが、いざ殿下が本当に行動されたと聞かされると警戒心よりも失望が先に来てしまいます。
勝手な感情です。
短絡的な考えをされる方なのですから、好機だと誘いに乗ったのでしょう。
そうさせたのは私です。
私がお父様から王太子殿下に、そうしてくださる様お願いしたのですから。
ですから、それで失望するのは勝手な話です。
「何を気にしているんだ?」
「気にしているわけじゃないのよ。ただ私、フィリップ殿下を信じたかったのかもしれないわ」
フィリップ殿下は、謹慎が嫌になっただけかもしれませんし、放火の罪で投獄されているエミリアさんに会いに行かれたのかもしれません。
彼女は殿下の運命の相手なのですから、私を害しに宮を抜け出したと考えるよりも筋道は通っています。
「信じるに値する人かな」
「しないでしょうね。お父様エミリアさんの所に向かわれた形跡は如何ですか」
「念のためそちらにも王太子殿下が配下を置いてくださっていたが、フィリップ殿下は真っ直ぐに王妃様の宮に向かわれたそうだ。王妃様は昨日から体調を崩しておられるとも聞いた。なんでも一夜にして髪がすべて白髪になる奇病とか」
フィリップ殿下の逃亡は、王太子殿下監視のもとに警備の隙をわざと作り誘発したものです。
逃亡している殿下の足取りは、王太子殿下の配下の方がしっかりと掴んでいます。
「フィリップ殿下はエミリアさんのことはご存じですよね?」
お父様に確認するとすぐに頷いてエミリアさんの様子も教えてくれました。
「エミリア嬢のことは、宮の護衛に扮装した王太子殿下の配下が同僚と噂話しとしていると見せかけて聞かせたそうだが、何も反応はされなかったそうだ。彼女は牢では大人しく、放火という大罪を犯したのを悔いて日々祈りを神に捧げているそうだ」
「そうですか。放火の動機は」
「フローリアと婚約破棄してもフィリップ殿下との婚約を自分が認められないのは、フローリアが妨害をしているのだと思いつめたと言っている」
「単独で行ったと言い張るのですね。エミリアさんの家は」
「王家の婚約が絡んでいる為に公にせずエミリア嬢は王族用の牢に投獄されているが、男爵達は娘と同じ処罰を望んでいて、彼女の刑が決まり次第領地と爵位の返還の手続きを行うことになっている」
放火の罪は大罪とされ、処刑されると決められています。
彼女と同じ刑を男爵家に行うわけにはいかないでしょう。
「牢にいる彼女を見たが、一人で何か出来る人間ではないな。着替えさえ一人で出来ぬものが放火の為の道具をどうやって用意できる?」
「着替えですか?」
「フローリアには幼い頃から一人である程度の支度が出来るよう教えていたが、普通の貴族令嬢は着替えも髪を整えるのも使用人任せなのだよ」
「そう言えばそうでしたね」
私は構造上一人で着られないドレス以外は自分で着ることが出来ますし、髪形も簡単なものであれば自分で結えます。
普段はユウナに任せていますが、そう出来るように教えられたから出来るのですが、私の方が少数派でしょう。
男爵家とはいえ、エミリアさんはすべて使用人任せだったのは納得できる話です。
「男爵達はまともな思考の持ち主で、領地もしっかりと治めている。堅実な家で育ったのに、何故フィリップ殿下に近付いたのか」
「分かりません」
エミリアさんがフィリップ殿下と共にあの日生徒会室にこなければ、婚約破棄の機会はなかったでしょう。
そうしたらお兄様の死の真相も知らず、お兄様の仇の血を侯爵家に招くことになったのです。
「エミリアさんは私達に巻き込まれてしまっただけのように思います」
私とお父様の会話をケネスとイオン様は黙って聞いているだけでした。
私の複雑な気持ちを本当に理解してはいないでしょう。
私自身理解が出来ているとは言えないのですから、当然です。
「お父様、この件が片付いたらエミリアさんと一度話す時間を頂けないでしょうか」
「わかった。フローリア」
「はい、今はフィリップ殿下と王妃様です」
私がそう答えると、イオン様が恐る恐ると言った風に口を開きました。
「侯爵様、質問する許可を頂いても」
「ああ、イオン殿気がつかず申し訳ない。なんでも聞いてくだされ」
「ありがとうございます。先程王妃様は奇病に掛かられたと言われていましたが」
そう言えば、フィリップ殿下に気を取られて王妃様の方を忘れていました。
「お父様、すでに神聖契約は結ばれたのですね」
「そうだ。だが、少し条件が変わった」
「条件ですか?」
「侯爵家又は王家の血を受け継ぐ者を害さない。代償として一回の罪毎に外見に年齢を重ねる。最初の十回までは三年年、二十回までは五年、三十回までは十年。三十回に達した時々神聖契約を破った証を額に記す。という様な内容だったそうだ」
十回では足りないという陛下のご判断なのでしょうか。
でも、王家の血を受け継ぐ者?
「王妃様は我が侯爵家だけではなく、王家の方々の命も狙っていたというのですか?」
人が白髪になるにはかなりの年月が必要です。
それがすべて白髪に変わったというのです。
最初の十回の代償は、一回につき三年の老化です。
つまり十回で三十年ですの老化です。
そんなにはっきりと分かる状態まで老化が進んでいるのなら、最低でも三十年の老化が進んだのでないでしょうか。
「王妃様はまだ四十代半ばでしたね」
「そうだ」
「つまりは、それだけを手に掛けようと実行したのですね」
「条件以外の人間は数に入っていない」
恐ろしい人を相手にしようとしているのだと、改めて思いました。
ですが、怯えているわけにはいきません。
「陛下はご決断されたのでしょうか」
「ああ」
それならば、私も命を掛けましょう。
「お父様とお母様、ケネスの三人は外出の振りをなさってください。そうですね私の体調が戻る様に神殿に祈りを捧げに出掛けるというのは如何でしょう」
「屋敷にお前と使用人を残し、イオン殿には隠れていて頂くのだな」
「ええ」
フィリップ殿下だけがいらっしゃるのか、それは分かりませんが、あなたを捕らえることで終わりにします。
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