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破滅前(王妃視点)
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「母上」
「フィリップ、まあ何ということなの。こんなに痩せて」
宮の見張りの騎士に眠り薬を飲ませ、フィリップを軟禁されていた宮から救出した後手配した馬車で私の宮にフィリップを連れてきました。
ただ外に出られないだけと意地の悪いアダムは言っていましたが、繊細なフィリップにはそれだけで堪えたのは一目瞭然です。
「お前達、フィリップに湯浴みと食事を」
「お母様、私のことよりも。どうしてベールと手袋を? 何かあったのですか」
痩せたフィリップを労わろうと侍女に指示する私を制止て、フィリップは私を心配してくれます。
さすが私の愛息です。
「心配しなくていいのよ。あなたが謹慎処分になっていたのが辛くて少し体を壊していたの。あなたに心配かけたくないからこうしているだけよ」
嘘です、本当は醜い白髪と肌の染みと皺を見せられず髪を小さくまとめて帽子に隠し、ベールと手袋をつけているのです。
あの後何をやっても改善するどころか酷くなるばかりで、これ以上の悪化が怖くなり隠すことにしたのです。
「ああ、母上。私は親不孝者です。大好きな母上に心配をかけてしまうとは」
優しいフィリップは、私を気遣い自分が悪いのだと項垂れています。
「いいえ、悪いのはあなたではないわ。あの小娘が愚かなのがいけないの」
「小娘?フローリアですか」
「そうよ。あなたは王子なのよ。ただの侯爵家の娘でしかないフローリアから婚約破棄などしていい筈がないのよ。あなたは気に入った娘がいるのだから、フローリアはそれを祝福しなければならないというのに。冷静な判断が出来ないとは情けない」
フィリップが折角婿入りをしてあげると慈悲の心で言っているというのに、それを有り難がるどころか婚約破棄をするなど、何が理由だとしても許せません。
フィリップは私とお義兄様の愛の証、あんな小娘に馬鹿にされていい立場ではないのです。
「ですが、婚約破棄は父上が承諾をしてしまわれて。私はその咎で謹慎を」
「陛下はアダムに唆されているの。あなたが私に愛されているからアダムは焼きもちを焼いているのね。もういい大人だというのに困った子」
私の話に素直なフィリップは、すぐに納得してくれました。
この素直さがアダム達にもあるのなら、少し位は愛情を掛けて上げてもいいというのに。
陛下の血が入っているというだけで、あの子達は本当に存在すら認めたくない者に成り下がっています。
「母上は私だけを愛してくださるから、お兄様達は焼きもちをやいているのですね。情けないことです」
長年掛けてフィリップには私を盲信するように躾てきました。
弱い魔法と、数々の暗示でフィリップは私のいうことは何でも聞くのです。
年を取るにつれ、フィリップはお義兄様そっくりになってきました。
だからこそ愛しいのです。
「馬鹿なフローリアには罰と躾が必要なのよ」
「そうですね!」
「あの金髪を無惨に切り刻んで、二度と外に出られないようにしてから、躾をなさい。躾されても覚えない様な愚か者なら、生きている価値はないわ。そうでしょ」
「はい」
フィリップにナイフを手渡すと、キツくまとめた筈の髪がはらりと床に落ちました。
「母上?」
「なんでもないわ。疲れたでしょう?湯浴みと食事をして少し休みなさい。夕方侍医が診察に来た時に、お前を付き人として侍医の馬車に乗せるわ。それで王宮から出られるから、その足で侯爵家に向かうのよ。フローリアは病に伏せっているの。侍医の診察を受けさせるために派遣すると伝えてあるから、お前はなんの苦労もなくフローリアの元へと行けるわ」
はらりはらりと髪が落ちていく。
毛足の長い赤い絨毯に、白い髪が何本も落ちていく。
「さすが母上です。そこまで準備下さるとは」
にこやかに部屋を出ていくフィリップを見送りながら、私は落ちた髪を見つめていました。
キツクまとめた髪がどうしてこんなに落ちるのか、理由が分からずに戸惑うしかありません。
侍医には、フィリップが失敗した場合にフローリアの処分を命じています。
その準備をして今日は私の元に来る手筈です。
「これで侯爵家は私のものよ」
フローリアが亡くなってしまえば、侯爵達はもう私に逆らおうとはしないでしょう。
あの家は、私とフィリップのものになるのです。
機嫌よく笑う私には床に落ちている、不自然に抜け落ちた何本もの髪を見ても、もう何も感じなくなっていました。
「フィリップ、まあ何ということなの。こんなに痩せて」
宮の見張りの騎士に眠り薬を飲ませ、フィリップを軟禁されていた宮から救出した後手配した馬車で私の宮にフィリップを連れてきました。
ただ外に出られないだけと意地の悪いアダムは言っていましたが、繊細なフィリップにはそれだけで堪えたのは一目瞭然です。
「お前達、フィリップに湯浴みと食事を」
「お母様、私のことよりも。どうしてベールと手袋を? 何かあったのですか」
痩せたフィリップを労わろうと侍女に指示する私を制止て、フィリップは私を心配してくれます。
さすが私の愛息です。
「心配しなくていいのよ。あなたが謹慎処分になっていたのが辛くて少し体を壊していたの。あなたに心配かけたくないからこうしているだけよ」
嘘です、本当は醜い白髪と肌の染みと皺を見せられず髪を小さくまとめて帽子に隠し、ベールと手袋をつけているのです。
あの後何をやっても改善するどころか酷くなるばかりで、これ以上の悪化が怖くなり隠すことにしたのです。
「ああ、母上。私は親不孝者です。大好きな母上に心配をかけてしまうとは」
優しいフィリップは、私を気遣い自分が悪いのだと項垂れています。
「いいえ、悪いのはあなたではないわ。あの小娘が愚かなのがいけないの」
「小娘?フローリアですか」
「そうよ。あなたは王子なのよ。ただの侯爵家の娘でしかないフローリアから婚約破棄などしていい筈がないのよ。あなたは気に入った娘がいるのだから、フローリアはそれを祝福しなければならないというのに。冷静な判断が出来ないとは情けない」
フィリップが折角婿入りをしてあげると慈悲の心で言っているというのに、それを有り難がるどころか婚約破棄をするなど、何が理由だとしても許せません。
フィリップは私とお義兄様の愛の証、あんな小娘に馬鹿にされていい立場ではないのです。
「ですが、婚約破棄は父上が承諾をしてしまわれて。私はその咎で謹慎を」
「陛下はアダムに唆されているの。あなたが私に愛されているからアダムは焼きもちを焼いているのね。もういい大人だというのに困った子」
私の話に素直なフィリップは、すぐに納得してくれました。
この素直さがアダム達にもあるのなら、少し位は愛情を掛けて上げてもいいというのに。
陛下の血が入っているというだけで、あの子達は本当に存在すら認めたくない者に成り下がっています。
「母上は私だけを愛してくださるから、お兄様達は焼きもちをやいているのですね。情けないことです」
長年掛けてフィリップには私を盲信するように躾てきました。
弱い魔法と、数々の暗示でフィリップは私のいうことは何でも聞くのです。
年を取るにつれ、フィリップはお義兄様そっくりになってきました。
だからこそ愛しいのです。
「馬鹿なフローリアには罰と躾が必要なのよ」
「そうですね!」
「あの金髪を無惨に切り刻んで、二度と外に出られないようにしてから、躾をなさい。躾されても覚えない様な愚か者なら、生きている価値はないわ。そうでしょ」
「はい」
フィリップにナイフを手渡すと、キツくまとめた筈の髪がはらりと床に落ちました。
「母上?」
「なんでもないわ。疲れたでしょう?湯浴みと食事をして少し休みなさい。夕方侍医が診察に来た時に、お前を付き人として侍医の馬車に乗せるわ。それで王宮から出られるから、その足で侯爵家に向かうのよ。フローリアは病に伏せっているの。侍医の診察を受けさせるために派遣すると伝えてあるから、お前はなんの苦労もなくフローリアの元へと行けるわ」
はらりはらりと髪が落ちていく。
毛足の長い赤い絨毯に、白い髪が何本も落ちていく。
「さすが母上です。そこまで準備下さるとは」
にこやかに部屋を出ていくフィリップを見送りながら、私は落ちた髪を見つめていました。
キツクまとめた髪がどうしてこんなに落ちるのか、理由が分からずに戸惑うしかありません。
侍医には、フィリップが失敗した場合にフローリアの処分を命じています。
その準備をして今日は私の元に来る手筈です。
「これで侯爵家は私のものよ」
フローリアが亡くなってしまえば、侯爵達はもう私に逆らおうとはしないでしょう。
あの家は、私とフィリップのものになるのです。
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