【完結済み】婚約破棄致しましょう

木嶋うめ香

文字の大きさ
上 下
63 / 123

大神官の思惑

しおりを挟む
「では、王太子殿下が陛下に神聖契約の話をされるのですか。王太子殿下は王妃様に魔封じの腕輪をつけて下さったというのは侯爵が殿下を説得されたのかと考えていましたが、神聖契約もとは」

 チヌが御者を務めてくれている二角獣の馬車は、普通の馬が牽く馬車とは比べ物にならない速度で進んでいますが、それを感じさせない程に振動も何もなく不思議な感覚です。
 その馬車の中で私は父からの手紙の要点をケネスやイオン様に話し、王都に着いてからの行動を話し合っていました。

「元々フィリップ殿下と他のご兄弟は仲が良くないのですが、まさか王太子殿下が引き受けて下さるとは私も考えていませんでした」

 フィリップ殿下は他のご兄弟と違い自分だけ銀髪、緑色の瞳であるのを不満に思っている事を王妃様はご存じではありませんが、私がフィリップ殿下に嫌われていた理由の一つが私の金髪、青い瞳です。
 王族の皆様と同じ金髪、青い瞳を私は持っています。
 王家から婿入りした方がいらっしゃる為、殿下が使えない光魔法の適性もあります。
 王家の第三王子として生まれたというのに、どちらも持っていない殿下にとって私は劣等感を刺激される対象でしかなかったのだと、今になれば良く理解出来ます。
 そのフィリップ殿下の劣等感を、ご兄弟の皆様にも感じていたのでしょう。

 たぶん、私に対してよりも強い劣等感を。

「王太子殿下と個人的にお話する機会はなく、これは私がフィリップ殿下を傍で見ていての見解ですが、フィリップ殿下は王太子殿下や他のご兄弟への劣等感があった様に思います。そしてその劣等感は自分は王妃様からの寵愛があるという、その事実だけで自分の誇りを守っていたのではないかと」
「お嬢様のご両親の年齢の貴族なら、フィリップ殿下がお生まれになった際の出来事を覚えていらっしゃる方は多いでしょう。フィリップ殿下の外見は、そのまま王妃様の不貞疑惑の証に見えます。私は見たことはありませんが、その貴族達にとって何かの式典等で皆様が並ぶ中フィリップ殿下の外見は悪目立ちして見えていたでしょうね」

 イオン様の仰る通り、フィリップ殿下は自分の外見を気にされていて式典等に出席することを厭っていました。

「そう考えるとフィリップ殿下は、王妃様の不貞の被害者なのかもしれないですね」
「そうかもしれません」

 それに気が付いてしまうと、王妃様の不貞を暴くことがフィリップ殿下を不幸にするために行う様に思われてきてしまいます。
 それをしていい権利が私にあるのでしょうか。

「フローリア、お前が何を考えているのか分かるが、今更後には引き返せないぞ」
「それはそうだけど」
「罪悪感があるのか」
「ええ。少しね」

 ケネスには簡単に私の考えが分かってしまうようです。
 私は苦笑してケネスを見た後、ユウナが抱えている魔道具が入った箱に視線を向けました。
 大きな木箱には叔父様から送られた魔道具が沢山入っています。
 親子鑑定の魔道具に解呪、解毒の魔道具。強力な呪いを解呪する通常よりも強力な魔道具等、侯爵領に暮らす魔道具師達が技術の粋を集めた魔道具ばかりです。

「フローリア、お前は運よくフィリップ殿下と婚約破棄出来たが、今後次の婚約を王家が気の毒などこかの家の令嬢に押し付けるとしたら、お前の様に逃げきれずに王妃様の本性を理解していない家族と共にフィリップ殿下を夫として受け入れなければならなくなるんだぞ」
「それはそうだけれど。すべての家がフィリップ殿下との婚約を避けたいと考えているわけでは」
「無いと言えるか? あの人は婚約破棄で懲りる人じゃない。次の婚約者は侯爵家よりも格下になるだろう。フィリップ殿下が新しく家を興し、その令嬢と領地を治めるしかないとしたら領民も令嬢も不幸になる未来しかない」
「言えないかしらね」

 上位貴族の誰もが婚約を避けたからこそ、私が殿下の婚約者になるしかなかったのです。
 それを他の貴族令嬢に押し付けて、その令嬢が不幸になっている話を聞いたら私は今以上の罪悪感を覚えるでしょう。

「ケネス、ありがとう」

 一時の感情で自分だけ楽になろうなど、そんな考えは甘いのだと分かりました。
 ケネスだからこそ、私に言ってくれたのだとそう思いました。
 この人は私を分かってくれる、そういう人なのだと思います。

「父に、王妃様の神聖契約が完了したら私が王都に戻ることをうっかり知らせて貰えるよう手紙を書くわ。私は体調を崩して両親の元に居たいからと戻ってきたことにするのよ」

 それで王妃様が私を狙う様に仕向けるのです。
 王都に戻ったら、私は王妃様と闘うのです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】恋は、終わったのです

楽歩
恋愛
幼い頃に決められた婚約者、セオドアと共に歩む未来。それは決定事項だった。しかし、いつしか冷たい現実が訪れ、彼の隣には別の令嬢の笑顔が輝くようになる。 今のような関係になったのは、いつからだったのだろう。 『分からないだろうな、お前のようなでかくて、エマのように可愛げのない女には』 身長を追い越してしまった時からだろうか。  それとも、特進クラスに私だけが入った時だろうか。 あるいは――あの子に出会った時からだろうか。 ――それでも、リディアは平然を装い続ける。胸に秘めた思いを隠しながら。

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

《完》わたしの刺繍が必要?無能は要らないって追い出したのは貴方達でしょう?

桐生桜月姫
恋愛
『無能はいらない』 魔力を持っていないという理由で婚約破棄されて従姉妹に婚約者を取られたアイーシャは、実は特別な力を持っていた!? 大好きな刺繍でわたしを愛してくれる国と国民を守ります。 無能はいらないのでしょう?わたしを捨てた貴方達を救う義理はわたしにはございません!! ******************* 毎朝7時更新です。

え?私、悪役令嬢だったんですか?まったく知りませんでした。

ゆずこしょう
恋愛
貴族院を歩いていると最近、遠くからひそひそ話す声が聞こえる。 ーーー「あの方が、まさか教科書を隠すなんて...」 ーーー「あの方が、ドロシー様のドレスを切り裂いたそうよ。」 ーーー「あの方が、足を引っかけたんですって。」 聞こえてくる声は今日もあの方のお話。 「あの方は今日も暇なのねぇ」そう思いながら今日も勉学、執務をこなすパトリシア・ジェード(16) 自分が噂のネタになっているなんてことは全く気付かず今日もいつも通りの生活をおくる。

今更「結婚しよう」と言われましても…10年以上会っていない人の顔は覚えていません。

ゆずこしょう
恋愛
「5年で帰ってくるから待っていて欲しい。」 書き置きだけを残していなくなった婚約者のニコラウス・イグナ。 今までも何度かいなくなることがあり、今回もその延長だと思っていたが、 5年経っても帰ってくることはなかった。 そして、10年後… 「結婚しよう!」と帰ってきたニコラウスに…

私のことはお気になさらず

みおな
恋愛
 侯爵令嬢のティアは、婚約者である公爵家の嫡男ケレスが幼馴染である伯爵令嬢と今日も仲睦まじくしているのを見て決意した。  そんなに彼女が好きなのなら、お二人が婚約すればよろしいのよ。  私のことはお気になさらず。

虐げられ令嬢の最後のチャンス〜今度こそ幸せになりたい

みおな
恋愛
 何度生まれ変わっても、私の未来には死しかない。  死んで異世界転生したら、旦那に虐げられる侯爵夫人だった。  死んだ後、再び転生を果たしたら、今度は親に虐げられる伯爵令嬢だった。  三度目は、婚約者に婚約破棄された挙句に国外追放され夜盗に殺される公爵令嬢。  四度目は、聖女だと偽ったと冤罪をかけられ処刑される平民。  さすがにもう許せないと神様に猛抗議しました。  こんな結末しかない転生なら、もう転生しなくていいとまで言いました。  こんな転生なら、いっそ亀の方が何倍もいいくらいです。  私の怒りに、神様は言いました。 次こそは誰にも虐げられない未来を、とー

処理中です...