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愚かな息子と強かな母、そしてその8(ゾルティーア侯爵視点)

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「母上の愚行を知っているだと?」
「勿論王妃様が陛下に直接お話されているとは思っておりません。あくまでこれらは王妃様の独断で、王妃様が自分んとフィリップ殿下と義兄の為に要求していることだと思います。ただそれを陛下がご存じであろうと、そう私が考えているだけです」

 私の答えに王太子殿下の顔色はどんどん悪くなる。
 フィリップ殿下以外の王子、王女殿下はきちんと教育をされているから、常日頃であれば感情等表に出したりはしない。
 フィリップ殿下の愚かさが異常だと思うのは、王子、王女殿下達の常日頃を知っているからだ。
 彼らは皆、賢く尊くて、常に己の行動を律しておられる。
 その姿は今は亡き王太后様を思い出させる。
 老いて尚、公の立場を崩すことがなかった王太后様は、フィリップ殿下以外の王子、王女殿下を厳しくそして愛情を持って育て教育されていた。
 彼らはその教育を受け、次代を受け継ぐ者として成長されている。
 不安があるとすれば、フィリップ殿下彼だけだった。

「だが、父上は、陛下は、母上の愚行を諫めず見て見ぬふりをしているというのだな」
「ええ」
「なんということだ。フィリップの為に母上がそこまで愚かな行動をすることも情けないことではあるが、それ以上に父上は、なんという」
「王太子殿下」


 あまりの動揺振りに、私は王太子殿下が本当にご存じなかったのだと理解した。
 元々の王妃様の能力については話をしていたから、王太子殿下は半信半疑で魔封じの腕輪を王妃様の腕に着けて下さった。
 それは王妃様が本当に精神に作用する能力を持っているのかどうかを、確認したい意味もあったのだろう。
 本当には信じていない、いいや信じたくなかった筈だ。

「殿下。私は忠実なる王の臣下として、そして侯爵家を守る当主として王妃様を断罪したいのです」
「それは、だが、それは」
「ただ、公にすれば王への信頼を削ぐことになります。それは私の本意ではありません」


 ここは慎重に話を進めなければならない。
 王太子殿下の顔を見つめながら、頭の中で話の進め方を考える。
 油断してはならない。
 フローリアを、家族を、民を守るために。
 
「王妃様が我が侯爵家を狙う、それを止めたいのです。それが出来るならこの紙束など竈の火種と化してもいいと考えています」
「母上の罪を公にしようとは思わないのか」
「そんなことをしても意味はないでしょう。息子の命についても、無念ではありますが仕方ないとは考えています」

 焦らずに話を進める。
 王妃様の罪を公にしたい気持ちはある。だが、一番必要なのは王妃様の力を削ぐこと。
 もうこれ以上侯爵家を狙うことが出来なくなるように。
 大人しく誰の事も狙ったり出来ない様に。

「何が望みだ」
「王妃様に神聖契約を。侯爵家へ過去、現在、未来、その命を害しない様に。もし侯爵家の者を害しようと誰かに命令した、または害した場合は、その度毎に王妃様の外見を十年老いさせる様に。そしてその数が十回になった時、神聖契約を破った証を王妃様の額に」
「十回。それまでは許すと?」
「過去どれだけ王妃様が当家を害したのか分かりません。十年、フローリアはフリップ殿下の婚約者でした。あの子がなんとかフィリップ殿下のお心を射止められていたら、今の様にはならなかったかもしれません。そうすれば金銭の問題はあれど、フローリアは屈辱を受けることは無かった」

 嘘だ。本当はそんな甘い気持ちは全くない。
 王妃様を断罪しその罪を公に出来たら、自らの手で王妃様の首筋に刃を突き刺したい。
 息子の無念を、フローリアの傷ついた心を、王妃様に命を持って償わせたいのだ。

「十年。老いだけ、外見の老いだけ」
「はい。命を奪いたいとは思いません。王妃様は賢妃と名高い方です。我が侯爵家の無念を晴らす為だけに王妃様の命を頂く等出来ません。して良い筈がありません。ですが、息子の命を本当に王妃様が奪っているというのならせめて王妃様に償ってほしいのです」
「分かった。侯爵がそれですべてを飲み込んでくれるのなら。母上の息子として、神聖契約を母上に」
「いいえ。王妃様ではなく。陛下に」
「どういうことだ」
「婚姻の儀の際、神聖契約を交わしている陛下であれば、妻である王妃様へ神聖契約を行えると聞きました。ですから、陛下に王妃様への神聖契約をお願いしたいのです」

 王妃様に行っても神聖契約は行って貰えないだろう。
 だが、そうではなく、今までを黙認していた陛下に神聖契約をして欲しいのだ。
 今までの罪の償いとして。

「分かった。父上に私からそれを頼もう。『侯爵家へ過去、現在、未来、その命を害しない様に。もし侯爵家の者を害しようと誰かに命令した、または害した場合は、その度毎に王妃様の外見を十年老いさせる様に。そしてその数が十回になった時、神聖契約を破った証を王妃様の額に
表す様に』これでいいか」
「はい。王太子殿下。ありがとうございます」
「よい。母上が行いを改めて下さるなら」

 王太子殿下は疲れた様に目を閉じて、私に手を振った。
 静かに頭を下げ、部屋を出た。
 十年も年を取った様な、そんな気持ちになりながら私は部屋を出たのだった。
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