61 / 123
愚かな息子と強かな母、そしてその8(ゾルティーア侯爵視点)
しおりを挟む
「母上の愚行を知っているだと?」
「勿論王妃様が陛下に直接お話されているとは思っておりません。あくまでこれらは王妃様の独断で、王妃様が自分んとフィリップ殿下と義兄の為に要求していることだと思います。ただそれを陛下がご存じであろうと、そう私が考えているだけです」
私の答えに王太子殿下の顔色はどんどん悪くなる。
フィリップ殿下以外の王子、王女殿下はきちんと教育をされているから、常日頃であれば感情等表に出したりはしない。
フィリップ殿下の愚かさが異常だと思うのは、王子、王女殿下達の常日頃を知っているからだ。
彼らは皆、賢く尊くて、常に己の行動を律しておられる。
その姿は今は亡き王太后様を思い出させる。
老いて尚、公の立場を崩すことがなかった王太后様は、フィリップ殿下以外の王子、王女殿下を厳しくそして愛情を持って育て教育されていた。
彼らはその教育を受け、次代を受け継ぐ者として成長されている。
不安があるとすれば、フィリップ殿下彼だけだった。
「だが、父上は、陛下は、母上の愚行を諫めず見て見ぬふりをしているというのだな」
「ええ」
「なんということだ。フィリップの為に母上がそこまで愚かな行動をすることも情けないことではあるが、それ以上に父上は、なんという」
「王太子殿下」
あまりの動揺振りに、私は王太子殿下が本当にご存じなかったのだと理解した。
元々の王妃様の能力については話をしていたから、王太子殿下は半信半疑で魔封じの腕輪を王妃様の腕に着けて下さった。
それは王妃様が本当に精神に作用する能力を持っているのかどうかを、確認したい意味もあったのだろう。
本当には信じていない、いいや信じたくなかった筈だ。
「殿下。私は忠実なる王の臣下として、そして侯爵家を守る当主として王妃様を断罪したいのです」
「それは、だが、それは」
「ただ、公にすれば王への信頼を削ぐことになります。それは私の本意ではありません」
ここは慎重に話を進めなければならない。
王太子殿下の顔を見つめながら、頭の中で話の進め方を考える。
油断してはならない。
フローリアを、家族を、民を守るために。
「王妃様が我が侯爵家を狙う、それを止めたいのです。それが出来るならこの紙束など竈の火種と化してもいいと考えています」
「母上の罪を公にしようとは思わないのか」
「そんなことをしても意味はないでしょう。息子の命についても、無念ではありますが仕方ないとは考えています」
焦らずに話を進める。
王妃様の罪を公にしたい気持ちはある。だが、一番必要なのは王妃様の力を削ぐこと。
もうこれ以上侯爵家を狙うことが出来なくなるように。
大人しく誰の事も狙ったり出来ない様に。
「何が望みだ」
「王妃様に神聖契約を。侯爵家へ過去、現在、未来、その命を害しない様に。もし侯爵家の者を害しようと誰かに命令した、または害した場合は、その度毎に王妃様の外見を十年老いさせる様に。そしてその数が十回になった時、神聖契約を破った証を王妃様の額に」
「十回。それまでは許すと?」
「過去どれだけ王妃様が当家を害したのか分かりません。十年、フローリアはフリップ殿下の婚約者でした。あの子がなんとかフィリップ殿下のお心を射止められていたら、今の様にはならなかったかもしれません。そうすれば金銭の問題はあれど、フローリアは屈辱を受けることは無かった」
嘘だ。本当はそんな甘い気持ちは全くない。
王妃様を断罪しその罪を公に出来たら、自らの手で王妃様の首筋に刃を突き刺したい。
息子の無念を、フローリアの傷ついた心を、王妃様に命を持って償わせたいのだ。
「十年。老いだけ、外見の老いだけ」
「はい。命を奪いたいとは思いません。王妃様は賢妃と名高い方です。我が侯爵家の無念を晴らす為だけに王妃様の命を頂く等出来ません。して良い筈がありません。ですが、息子の命を本当に王妃様が奪っているというのならせめて王妃様に償ってほしいのです」
「分かった。侯爵がそれですべてを飲み込んでくれるのなら。母上の息子として、神聖契約を母上に」
「いいえ。王妃様ではなく。陛下に」
「どういうことだ」
「婚姻の儀の際、神聖契約を交わしている陛下であれば、妻である王妃様へ神聖契約を行えると聞きました。ですから、陛下に王妃様への神聖契約をお願いしたいのです」
王妃様に行っても神聖契約は行って貰えないだろう。
だが、そうではなく、今までを黙認していた陛下に神聖契約をして欲しいのだ。
今までの罪の償いとして。
「分かった。父上に私からそれを頼もう。『侯爵家へ過去、現在、未来、その命を害しない様に。もし侯爵家の者を害しようと誰かに命令した、または害した場合は、その度毎に王妃様の外見を十年老いさせる様に。そしてその数が十回になった時、神聖契約を破った証を王妃様の額に
表す様に』これでいいか」
「はい。王太子殿下。ありがとうございます」
「よい。母上が行いを改めて下さるなら」
王太子殿下は疲れた様に目を閉じて、私に手を振った。
静かに頭を下げ、部屋を出た。
十年も年を取った様な、そんな気持ちになりながら私は部屋を出たのだった。
「勿論王妃様が陛下に直接お話されているとは思っておりません。あくまでこれらは王妃様の独断で、王妃様が自分んとフィリップ殿下と義兄の為に要求していることだと思います。ただそれを陛下がご存じであろうと、そう私が考えているだけです」
私の答えに王太子殿下の顔色はどんどん悪くなる。
フィリップ殿下以外の王子、王女殿下はきちんと教育をされているから、常日頃であれば感情等表に出したりはしない。
フィリップ殿下の愚かさが異常だと思うのは、王子、王女殿下達の常日頃を知っているからだ。
彼らは皆、賢く尊くて、常に己の行動を律しておられる。
その姿は今は亡き王太后様を思い出させる。
老いて尚、公の立場を崩すことがなかった王太后様は、フィリップ殿下以外の王子、王女殿下を厳しくそして愛情を持って育て教育されていた。
彼らはその教育を受け、次代を受け継ぐ者として成長されている。
不安があるとすれば、フィリップ殿下彼だけだった。
「だが、父上は、陛下は、母上の愚行を諫めず見て見ぬふりをしているというのだな」
「ええ」
「なんということだ。フィリップの為に母上がそこまで愚かな行動をすることも情けないことではあるが、それ以上に父上は、なんという」
「王太子殿下」
あまりの動揺振りに、私は王太子殿下が本当にご存じなかったのだと理解した。
元々の王妃様の能力については話をしていたから、王太子殿下は半信半疑で魔封じの腕輪を王妃様の腕に着けて下さった。
それは王妃様が本当に精神に作用する能力を持っているのかどうかを、確認したい意味もあったのだろう。
本当には信じていない、いいや信じたくなかった筈だ。
「殿下。私は忠実なる王の臣下として、そして侯爵家を守る当主として王妃様を断罪したいのです」
「それは、だが、それは」
「ただ、公にすれば王への信頼を削ぐことになります。それは私の本意ではありません」
ここは慎重に話を進めなければならない。
王太子殿下の顔を見つめながら、頭の中で話の進め方を考える。
油断してはならない。
フローリアを、家族を、民を守るために。
「王妃様が我が侯爵家を狙う、それを止めたいのです。それが出来るならこの紙束など竈の火種と化してもいいと考えています」
「母上の罪を公にしようとは思わないのか」
「そんなことをしても意味はないでしょう。息子の命についても、無念ではありますが仕方ないとは考えています」
焦らずに話を進める。
王妃様の罪を公にしたい気持ちはある。だが、一番必要なのは王妃様の力を削ぐこと。
もうこれ以上侯爵家を狙うことが出来なくなるように。
大人しく誰の事も狙ったり出来ない様に。
「何が望みだ」
「王妃様に神聖契約を。侯爵家へ過去、現在、未来、その命を害しない様に。もし侯爵家の者を害しようと誰かに命令した、または害した場合は、その度毎に王妃様の外見を十年老いさせる様に。そしてその数が十回になった時、神聖契約を破った証を王妃様の額に」
「十回。それまでは許すと?」
「過去どれだけ王妃様が当家を害したのか分かりません。十年、フローリアはフリップ殿下の婚約者でした。あの子がなんとかフィリップ殿下のお心を射止められていたら、今の様にはならなかったかもしれません。そうすれば金銭の問題はあれど、フローリアは屈辱を受けることは無かった」
嘘だ。本当はそんな甘い気持ちは全くない。
王妃様を断罪しその罪を公に出来たら、自らの手で王妃様の首筋に刃を突き刺したい。
息子の無念を、フローリアの傷ついた心を、王妃様に命を持って償わせたいのだ。
「十年。老いだけ、外見の老いだけ」
「はい。命を奪いたいとは思いません。王妃様は賢妃と名高い方です。我が侯爵家の無念を晴らす為だけに王妃様の命を頂く等出来ません。して良い筈がありません。ですが、息子の命を本当に王妃様が奪っているというのならせめて王妃様に償ってほしいのです」
「分かった。侯爵がそれですべてを飲み込んでくれるのなら。母上の息子として、神聖契約を母上に」
「いいえ。王妃様ではなく。陛下に」
「どういうことだ」
「婚姻の儀の際、神聖契約を交わしている陛下であれば、妻である王妃様へ神聖契約を行えると聞きました。ですから、陛下に王妃様への神聖契約をお願いしたいのです」
王妃様に行っても神聖契約は行って貰えないだろう。
だが、そうではなく、今までを黙認していた陛下に神聖契約をして欲しいのだ。
今までの罪の償いとして。
「分かった。父上に私からそれを頼もう。『侯爵家へ過去、現在、未来、その命を害しない様に。もし侯爵家の者を害しようと誰かに命令した、または害した場合は、その度毎に王妃様の外見を十年老いさせる様に。そしてその数が十回になった時、神聖契約を破った証を王妃様の額に
表す様に』これでいいか」
「はい。王太子殿下。ありがとうございます」
「よい。母上が行いを改めて下さるなら」
王太子殿下は疲れた様に目を閉じて、私に手を振った。
静かに頭を下げ、部屋を出た。
十年も年を取った様な、そんな気持ちになりながら私は部屋を出たのだった。
106
お気に入りに追加
8,677
あなたにおすすめの小説
私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜
みおな
恋愛
大好きだった人。
一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。
なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。
もう誰も信じられない。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
逆行令嬢は何度でも繰り返す〜もう貴方との未来はいらない〜
みおな
恋愛
私は10歳から15歳までを繰り返している。
1度目は婚約者の想い人を虐めたと冤罪をかけられて首を刎ねられた。
2度目は、婚約者と仲良くなろうと従順にしていたら、堂々と浮気された挙句に国外追放され、野盗に殺された。
5度目を終えた時、私はもう婚約者を諦めることにした。
それなのに、どうして私に執着するの?どうせまた彼女を愛して私を死に追いやるくせに。
婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜
みおな
恋愛
王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。
「お前との婚約を破棄する!!」
私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。
だって、私は何ひとつ困らない。
困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。
[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜
桐生桜月姫
恋愛
シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。
だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎
本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎
〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜
夕方6時に毎日予約更新です。
1話あたり超短いです。
毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。
『完』婚約破棄されたのでお針子になりました。〜私が元婚約者だと気づかず求婚してくるクズ男は、裸の王子さまで十分ですわよね?〜
桐生桜月姫
恋愛
「老婆のような白髪に、ちょっと賢いからって生意気な青い瞳が気に入らん!!よって婚約を破棄する!!せいぜい泣き喚くんだな!!」
「そうですか。わたくし、あなたのことを愛せませんでしたので、泣けませんの。ごめんなさいね」
理不尽な婚約破棄を受けたマリンソフィアは………
「うふふっ、あはははっ!これでわたくしは正真正銘自由の身!!わたくしの夢を叶えるためじゃないとはいえ、婚約破棄をしてくれた王太子殿下にはとーっても感謝しなくっちゃ!!」
落ち込むどころか舞い上がって喜んでいた。
そして、意気揚々と自分の夢を叶えてお針子になって自由気ままなスローライフ?を楽しむ!!
だが、ある時大嫌いな元婚約者が現れて………
「あぁ、なんと美しい人なんだ。絹のように美しく真っ白な髪に、サファイアのような知性あふれる瞳。どうか俺の妃になってはくれないだろうか」
なんと婚約破棄をされた時と真反対の言葉でマリンソフィアだと気が付かずに褒め称えて求婚してくる。
「あぁ、もう!!こんなうっざい男、裸の王子さまで十分よ!!」
お針子マリンソフィアの楽しい楽しいお洋服『ざまあ』が今開幕!!
《完》わたしの刺繍が必要?無能は要らないって追い出したのは貴方達でしょう?
桐生桜月姫
恋愛
『無能はいらない』
魔力を持っていないという理由で婚約破棄されて従姉妹に婚約者を取られたアイーシャは、実は特別な力を持っていた!?
大好きな刺繍でわたしを愛してくれる国と国民を守ります。
無能はいらないのでしょう?わたしを捨てた貴方達を救う義理はわたしにはございません!!
*******************
毎朝7時更新です。
決めたのはあなたでしょう?
みおな
恋愛
ずっと好きだった人がいた。
だけど、その人は私の気持ちに応えてくれなかった。
どれだけ求めても手に入らないなら、とやっと全てを捨てる決心がつきました。
なのに、今さら好きなのは私だと?
捨てたのはあなたでしょう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる