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愚かな息子と強かな母、そしてその7(ゾルティーア侯爵視点)
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「そんな、何故そんな愚かなことを。フィリップが侯爵家に婿入りするのは王家から願っての事。その為の支度金も毎年出ている。まさかそれも?」
「はい。それはこちらの書類にございます」
侯爵家の俸禄を納めよと命令する王妃様が、支度金をこちらに渡すわけがない。
侯爵家の財産は鉱山と魔法道具の売り上げで莫大な物になっているから、どちらを差し出しても何の支障もなかったが、普通の家なら資金繰りに苦慮していた筈だ。
支度金は王家の家に連なる者としての教育や衣服、宝飾品等諸々の用意の為、王子の婚約者として相応しくなるための準備を行うための金なのだ。
それをすべて差し出した上、王家でフィリップ殿下とフローリアの為の茶会だと言われたらその経費も支払えと言われるのだ。
「なんという事だ。これは父上は」
「ご存じないかと」
十年間、王妃様へ俸禄や諸々の金銭を納める度に書かせた受領書はすべて王妃様の筆跡で、偽造等疑いようもない状態でここに揃っている。
全部の金額を合わせたら、国家予算を超えてしまう。
それが十年の重みであり、王妃様の罪だった。
「母上は王妃の予算を半分も使わないと父上は言っているが、その理由がこれか」
王妃様は賢妃と名高い。
それは伯爵家の出で、誰もが見惚れる立ち居振る舞いと教養を身に着け、陛下を支えてきた実績からだけれど、自分への予算は民からの税金が元だから贅沢をしてはいけないと質素倹約を常としているのを褒めたたえてもいる。
「いいえそれは別の理由です。王妃様が必要とされるドレスや宝飾品は半分を我が侯爵家で献上させていただいています。フローリアは義理の母となる自分へ何の気遣いもしないと過去に何度も叱責されまして。その度フローリアが王宮にいる間、フィリップ殿下の前で謝罪をさせられた事がございますので」
あんな屈辱はなかった。
フローリアは登城する際、王妃様から一度着たドレスは二度と着てくることは許さないと言われていたが、その言葉通りにすれば今度は、贅沢が過ぎると罵られ、自分は民の税金を考えると古いドレスを我慢して着ていなければならないというのに、それを気遣うことも出来ないとはと嘆かれたのだ。
そうして、フローリアは幼いその身で自分は新しいドレスをなるべく作らず王妃様へ献上すると約束させられ、義母へ気遣い出来ない愚か者だと謝罪させられたのだ。
そんな理不尽な話があっていい筈が無かった。
だが、王宮の王妃様の宮へ一人で向かわなければならないフローリアの命を守る為には、その理不尽さは飲み込まなければならなかった。
王命で受けた婚約を、臣下である侯爵家が白紙を望むなど出来なかった。
王妃様の理不尽な仕打ちを、王妃様を溺愛する陛下に告げることも出来なかった。
「なんだと」
「王妃様は銀細工に緑色の宝石を使った宝飾品を好んでおられます」
「ああ、銀細工は金よりも安いし実家の伯爵家で所有する鉱山から銀が算出されるから、義兄が贈ってくれるのだと聞いたことがあるが」
「いいえ。伯爵領で作られた銀細工を我が侯爵家で買い取り、王妃様へ献上しています」
私の答えに王太子殿下は呻くような声を上げ頭を抱えてしまった。
「母上がそこまで恥知らずだとは」
「陛下は俸禄等の件は気が付いていないとしても、銀細工やドレスの事はご存じなのだと思います。それを侯爵家が自主的に行っているとは考えておられない筈です。フィリップ殿下の不義不貞があれば、フローリアから婚約破棄を申請できる権利を陛下はくださいました。王妃様を大切にする陛下の唯一の侯爵家の温情は、王妃様とフィリップ殿下の仕打ちをご存じだったからこそだと思います」
陛下はそれだけ王妃様を寵愛しておられ、だからこそ許してしまったのだ。
「はい。それはこちらの書類にございます」
侯爵家の俸禄を納めよと命令する王妃様が、支度金をこちらに渡すわけがない。
侯爵家の財産は鉱山と魔法道具の売り上げで莫大な物になっているから、どちらを差し出しても何の支障もなかったが、普通の家なら資金繰りに苦慮していた筈だ。
支度金は王家の家に連なる者としての教育や衣服、宝飾品等諸々の用意の為、王子の婚約者として相応しくなるための準備を行うための金なのだ。
それをすべて差し出した上、王家でフィリップ殿下とフローリアの為の茶会だと言われたらその経費も支払えと言われるのだ。
「なんという事だ。これは父上は」
「ご存じないかと」
十年間、王妃様へ俸禄や諸々の金銭を納める度に書かせた受領書はすべて王妃様の筆跡で、偽造等疑いようもない状態でここに揃っている。
全部の金額を合わせたら、国家予算を超えてしまう。
それが十年の重みであり、王妃様の罪だった。
「母上は王妃の予算を半分も使わないと父上は言っているが、その理由がこれか」
王妃様は賢妃と名高い。
それは伯爵家の出で、誰もが見惚れる立ち居振る舞いと教養を身に着け、陛下を支えてきた実績からだけれど、自分への予算は民からの税金が元だから贅沢をしてはいけないと質素倹約を常としているのを褒めたたえてもいる。
「いいえそれは別の理由です。王妃様が必要とされるドレスや宝飾品は半分を我が侯爵家で献上させていただいています。フローリアは義理の母となる自分へ何の気遣いもしないと過去に何度も叱責されまして。その度フローリアが王宮にいる間、フィリップ殿下の前で謝罪をさせられた事がございますので」
あんな屈辱はなかった。
フローリアは登城する際、王妃様から一度着たドレスは二度と着てくることは許さないと言われていたが、その言葉通りにすれば今度は、贅沢が過ぎると罵られ、自分は民の税金を考えると古いドレスを我慢して着ていなければならないというのに、それを気遣うことも出来ないとはと嘆かれたのだ。
そうして、フローリアは幼いその身で自分は新しいドレスをなるべく作らず王妃様へ献上すると約束させられ、義母へ気遣い出来ない愚か者だと謝罪させられたのだ。
そんな理不尽な話があっていい筈が無かった。
だが、王宮の王妃様の宮へ一人で向かわなければならないフローリアの命を守る為には、その理不尽さは飲み込まなければならなかった。
王命で受けた婚約を、臣下である侯爵家が白紙を望むなど出来なかった。
王妃様の理不尽な仕打ちを、王妃様を溺愛する陛下に告げることも出来なかった。
「なんだと」
「王妃様は銀細工に緑色の宝石を使った宝飾品を好んでおられます」
「ああ、銀細工は金よりも安いし実家の伯爵家で所有する鉱山から銀が算出されるから、義兄が贈ってくれるのだと聞いたことがあるが」
「いいえ。伯爵領で作られた銀細工を我が侯爵家で買い取り、王妃様へ献上しています」
私の答えに王太子殿下は呻くような声を上げ頭を抱えてしまった。
「母上がそこまで恥知らずだとは」
「陛下は俸禄等の件は気が付いていないとしても、銀細工やドレスの事はご存じなのだと思います。それを侯爵家が自主的に行っているとは考えておられない筈です。フィリップ殿下の不義不貞があれば、フローリアから婚約破棄を申請できる権利を陛下はくださいました。王妃様を大切にする陛下の唯一の侯爵家の温情は、王妃様とフィリップ殿下の仕打ちをご存じだったからこそだと思います」
陛下はそれだけ王妃様を寵愛しておられ、だからこそ許してしまったのだ。
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