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愚かな息子と強かな母、そしてその夫3(ゾルティーア侯爵視点)

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「王太子殿下お時間を作っていただきありがとうございます」
「よい。楽にせよ」

 王太子殿下の執務室に通された私は、不機嫌そうな王太子殿下の顔にどう話を切り出したものか悩みながら豪奢なソファーに腰を下ろした。
 あまり華美な装飾を好まない王太子殿下でも、王宮の執務室は王太子殿下の位に合わせた造りをしている。
 王太子殿下は国を継ぐ者だから、当然ではあるけれど本当の性格を知っている私はこの部屋に来るたびに少し違和感を覚えてしまう。

「愚弟の運命の相手は地下牢にいる。会うか」
「私は王太子殿下にあれの処罰をお任せいたしました。会う必要はございません」
「そうか。見苦しい程に泣き喚き牢番達を困らせているそうだよ」

 にこやかに状況を話し、王太子殿下はゆったりと足を組み目の前に座っている。
 若い頃の陛下にそっくりのお顔立ちをしている王太子殿下は、王妃様の面影は殆どない。
 いいや、不思議な程フィリップ殿下以外の王子、王女殿下達は不思議な程に陛下だけに似たお顔立ちをしているのだ。

「その、王妃様は」
「ああ、母は魔封じの腕輪のせいで臥せっておいでだ。もっとも気力だけは素晴らしくベッドから陛下への歎願をされておいでの様だが」
「そうですか」

 魔力が少ないと言われている王妃様は、実際には陛下並みの魔力量を持っていらっしゃるらしい。
 それをなぜか王妃様は隠しておいでで、大神官の鑑定にも出ないのだという。
 魔封じの腕輪はそんな王妃様に対抗するべく領地で開発した魔道具だった。
 フローリアが昔王妃様には心を操る力があるのかもしれないと聞いた私は、解毒、解呪等の魔道具の開発、改良をある程度終えると魔封じの腕輪の開発を指示した。

 ある魔物の魔法に魅了というのがあり、その魔法を反射するという目的で解呪の魔道具は開発していった。
 人が使える魔法にも魅了に似たものは存在するけれど、使える人間はほぼいないとされているからその為に解呪の魔道具を開発するのは無理があったためだ。
 魔物は人を魅了し、その命を奪う。
 魅了を使う魔物は上級と言われる強い魔物で、その体からは数々の素材が取れる。
 魔道具の開発理由にするには適していたのだ。

 魔封じの腕輪は、魔法使いの犯罪者を拘束する為の名目で研究を進めた。
 魔法を使えるもの達が犯罪を起こした際、難しいのは拘束し牢へと入れておくことだった。
 攻撃魔法が得意であれば、牢番を遠隔から攻撃し逃亡する可能性もあるからだ。
 魔法を使う者にとっては脅威となる魔道具は、魔道具師達にとっては簡単に出来るものだったらしく現在この魔道具を使った腕輪や牢は王宮で常用されている。
 それを王太子殿下は躊躇うことなく王妃様に使ったのだ。

「王太子殿下。殿下は王妃様が我が侯爵家を今後も狙う可能性はあるとお考えでしょうか」
「あるだろうな。物理的にも精神的にも母上はお前達を追い詰めるつもりだろう。知っているか、母上はフィリップとの婚約破棄の慰謝料に侯爵家の鉱山の権利を王家に、母上に譲るよう父上に歎願していると」
「慰謝料? なぜ侯爵家が王家に支払いをしなければならないのですか」

 婚約破棄はフィリップ殿下の不義不貞が理由だ。
 本来であれば一臣下でしかない侯爵家が王家との婚約を破棄するなど言い出せるものではない。王命に背くことになるからだ。それが許されたのは一重にフィリップ殿下のフローリアに対する行いの酷さからだった。
 フィリップ殿下との婚約をどの家も遠回しに拒否していて、ゾルティーアもそれは同じだった。
 普段であれば王命として決定していただろう陛下も、五歳にしてすでに愚かな行為が目立ちすぎていたフィリップ殿下との婚約を無理強いは出来なかった。
 婿入りするということは、次の領主となるということだ。
 女性が家を継ぐ場合、婿入りした男性は当主とはならないがそれでも領地運営には携わるのが殆どだ。
 だが、入学前の家庭教師からのささやかな勉強からも逃げ回るフィリップ殿下にそれが出来るとは、たった五歳でも誰も思えなかった。
 それ程酷かったのだ。

「それが分からぬ故の今までの愚行なのだろうな。我が母ながら頭が痛いことだ」
「それで陛下は」

 まさかその話を進めようとしているのだろうか。
 王妃様が願えば大抵のことは叶ってしまう。それが今までだった。

「それを言ったのが魔封じの腕輪を母上に贈った後だったのが幸いしたのか、父上も承諾はしなかったよ」
「そうでしたか」

 それは魔封じの腕輪の効果だったのかどうかは分からない。
 さすがにフィリップ殿下に責があることで王家が臣下に慰謝料を請求したら問題になると考えただけかもしれないから、安心は出来なかった。
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