56 / 123
愚かな息子と強かな母、そしてその夫3(ゾルティーア侯爵視点)
しおりを挟む
「王太子殿下お時間を作っていただきありがとうございます」
「よい。楽にせよ」
王太子殿下の執務室に通された私は、不機嫌そうな王太子殿下の顔にどう話を切り出したものか悩みながら豪奢なソファーに腰を下ろした。
あまり華美な装飾を好まない王太子殿下でも、王宮の執務室は王太子殿下の位に合わせた造りをしている。
王太子殿下は国を継ぐ者だから、当然ではあるけれど本当の性格を知っている私はこの部屋に来るたびに少し違和感を覚えてしまう。
「愚弟の運命の相手は地下牢にいる。会うか」
「私は王太子殿下にあれの処罰をお任せいたしました。会う必要はございません」
「そうか。見苦しい程に泣き喚き牢番達を困らせているそうだよ」
にこやかに状況を話し、王太子殿下はゆったりと足を組み目の前に座っている。
若い頃の陛下にそっくりのお顔立ちをしている王太子殿下は、王妃様の面影は殆どない。
いいや、不思議な程フィリップ殿下以外の王子、王女殿下達は不思議な程に陛下だけに似たお顔立ちをしているのだ。
「その、王妃様は」
「ああ、母は魔封じの腕輪のせいで臥せっておいでだ。もっとも気力だけは素晴らしくベッドから陛下への歎願をされておいでの様だが」
「そうですか」
魔力が少ないと言われている王妃様は、実際には陛下並みの魔力量を持っていらっしゃるらしい。
それをなぜか王妃様は隠しておいでで、大神官の鑑定にも出ないのだという。
魔封じの腕輪はそんな王妃様に対抗するべく領地で開発した魔道具だった。
フローリアが昔王妃様には心を操る力があるのかもしれないと聞いた私は、解毒、解呪等の魔道具の開発、改良をある程度終えると魔封じの腕輪の開発を指示した。
ある魔物の魔法に魅了というのがあり、その魔法を反射するという目的で解呪の魔道具は開発していった。
人が使える魔法にも魅了に似たものは存在するけれど、使える人間はほぼいないとされているからその為に解呪の魔道具を開発するのは無理があったためだ。
魔物は人を魅了し、その命を奪う。
魅了を使う魔物は上級と言われる強い魔物で、その体からは数々の素材が取れる。
魔道具の開発理由にするには適していたのだ。
魔封じの腕輪は、魔法使いの犯罪者を拘束する為の名目で研究を進めた。
魔法を使えるもの達が犯罪を起こした際、難しいのは拘束し牢へと入れておくことだった。
攻撃魔法が得意であれば、牢番を遠隔から攻撃し逃亡する可能性もあるからだ。
魔法を使う者にとっては脅威となる魔道具は、魔道具師達にとっては簡単に出来るものだったらしく現在この魔道具を使った腕輪や牢は王宮で常用されている。
それを王太子殿下は躊躇うことなく王妃様に使ったのだ。
「王太子殿下。殿下は王妃様が我が侯爵家を今後も狙う可能性はあるとお考えでしょうか」
「あるだろうな。物理的にも精神的にも母上はお前達を追い詰めるつもりだろう。知っているか、母上はフィリップとの婚約破棄の慰謝料に侯爵家の鉱山の権利を王家に、母上に譲るよう父上に歎願していると」
「慰謝料? なぜ侯爵家が王家に支払いをしなければならないのですか」
婚約破棄はフィリップ殿下の不義不貞が理由だ。
本来であれば一臣下でしかない侯爵家が王家との婚約を破棄するなど言い出せるものではない。王命に背くことになるからだ。それが許されたのは一重にフィリップ殿下のフローリアに対する行いの酷さからだった。
フィリップ殿下との婚約をどの家も遠回しに拒否していて、ゾルティーアもそれは同じだった。
普段であれば王命として決定していただろう陛下も、五歳にしてすでに愚かな行為が目立ちすぎていたフィリップ殿下との婚約を無理強いは出来なかった。
婿入りするということは、次の領主となるということだ。
女性が家を継ぐ場合、婿入りした男性は当主とはならないがそれでも領地運営には携わるのが殆どだ。
だが、入学前の家庭教師からのささやかな勉強からも逃げ回るフィリップ殿下にそれが出来るとは、たった五歳でも誰も思えなかった。
それ程酷かったのだ。
「それが分からぬ故の今までの愚行なのだろうな。我が母ながら頭が痛いことだ」
「それで陛下は」
まさかその話を進めようとしているのだろうか。
王妃様が願えば大抵のことは叶ってしまう。それが今までだった。
「それを言ったのが魔封じの腕輪を母上に贈った後だったのが幸いしたのか、父上も承諾はしなかったよ」
「そうでしたか」
それは魔封じの腕輪の効果だったのかどうかは分からない。
さすがにフィリップ殿下に責があることで王家が臣下に慰謝料を請求したら問題になると考えただけかもしれないから、安心は出来なかった。
「よい。楽にせよ」
王太子殿下の執務室に通された私は、不機嫌そうな王太子殿下の顔にどう話を切り出したものか悩みながら豪奢なソファーに腰を下ろした。
あまり華美な装飾を好まない王太子殿下でも、王宮の執務室は王太子殿下の位に合わせた造りをしている。
王太子殿下は国を継ぐ者だから、当然ではあるけれど本当の性格を知っている私はこの部屋に来るたびに少し違和感を覚えてしまう。
「愚弟の運命の相手は地下牢にいる。会うか」
「私は王太子殿下にあれの処罰をお任せいたしました。会う必要はございません」
「そうか。見苦しい程に泣き喚き牢番達を困らせているそうだよ」
にこやかに状況を話し、王太子殿下はゆったりと足を組み目の前に座っている。
若い頃の陛下にそっくりのお顔立ちをしている王太子殿下は、王妃様の面影は殆どない。
いいや、不思議な程フィリップ殿下以外の王子、王女殿下達は不思議な程に陛下だけに似たお顔立ちをしているのだ。
「その、王妃様は」
「ああ、母は魔封じの腕輪のせいで臥せっておいでだ。もっとも気力だけは素晴らしくベッドから陛下への歎願をされておいでの様だが」
「そうですか」
魔力が少ないと言われている王妃様は、実際には陛下並みの魔力量を持っていらっしゃるらしい。
それをなぜか王妃様は隠しておいでで、大神官の鑑定にも出ないのだという。
魔封じの腕輪はそんな王妃様に対抗するべく領地で開発した魔道具だった。
フローリアが昔王妃様には心を操る力があるのかもしれないと聞いた私は、解毒、解呪等の魔道具の開発、改良をある程度終えると魔封じの腕輪の開発を指示した。
ある魔物の魔法に魅了というのがあり、その魔法を反射するという目的で解呪の魔道具は開発していった。
人が使える魔法にも魅了に似たものは存在するけれど、使える人間はほぼいないとされているからその為に解呪の魔道具を開発するのは無理があったためだ。
魔物は人を魅了し、その命を奪う。
魅了を使う魔物は上級と言われる強い魔物で、その体からは数々の素材が取れる。
魔道具の開発理由にするには適していたのだ。
魔封じの腕輪は、魔法使いの犯罪者を拘束する為の名目で研究を進めた。
魔法を使えるもの達が犯罪を起こした際、難しいのは拘束し牢へと入れておくことだった。
攻撃魔法が得意であれば、牢番を遠隔から攻撃し逃亡する可能性もあるからだ。
魔法を使う者にとっては脅威となる魔道具は、魔道具師達にとっては簡単に出来るものだったらしく現在この魔道具を使った腕輪や牢は王宮で常用されている。
それを王太子殿下は躊躇うことなく王妃様に使ったのだ。
「王太子殿下。殿下は王妃様が我が侯爵家を今後も狙う可能性はあるとお考えでしょうか」
「あるだろうな。物理的にも精神的にも母上はお前達を追い詰めるつもりだろう。知っているか、母上はフィリップとの婚約破棄の慰謝料に侯爵家の鉱山の権利を王家に、母上に譲るよう父上に歎願していると」
「慰謝料? なぜ侯爵家が王家に支払いをしなければならないのですか」
婚約破棄はフィリップ殿下の不義不貞が理由だ。
本来であれば一臣下でしかない侯爵家が王家との婚約を破棄するなど言い出せるものではない。王命に背くことになるからだ。それが許されたのは一重にフィリップ殿下のフローリアに対する行いの酷さからだった。
フィリップ殿下との婚約をどの家も遠回しに拒否していて、ゾルティーアもそれは同じだった。
普段であれば王命として決定していただろう陛下も、五歳にしてすでに愚かな行為が目立ちすぎていたフィリップ殿下との婚約を無理強いは出来なかった。
婿入りするということは、次の領主となるということだ。
女性が家を継ぐ場合、婿入りした男性は当主とはならないがそれでも領地運営には携わるのが殆どだ。
だが、入学前の家庭教師からのささやかな勉強からも逃げ回るフィリップ殿下にそれが出来るとは、たった五歳でも誰も思えなかった。
それ程酷かったのだ。
「それが分からぬ故の今までの愚行なのだろうな。我が母ながら頭が痛いことだ」
「それで陛下は」
まさかその話を進めようとしているのだろうか。
王妃様が願えば大抵のことは叶ってしまう。それが今までだった。
「それを言ったのが魔封じの腕輪を母上に贈った後だったのが幸いしたのか、父上も承諾はしなかったよ」
「そうでしたか」
それは魔封じの腕輪の効果だったのかどうかは分からない。
さすがにフィリップ殿下に責があることで王家が臣下に慰謝料を請求したら問題になると考えただけかもしれないから、安心は出来なかった。
118
お気に入りに追加
8,769
あなたにおすすめの小説
2度目の人生は好きにやらせていただきます
みおな
恋愛
公爵令嬢アリスティアは、婚約者であるエリックに学園の卒業パーティーで冤罪で婚約破棄を言い渡され、そのまま処刑された。
そして目覚めた時、アリスティアは学園入学前に戻っていた。
今度こそは幸せになりたいと、アリスティアは婚約回避を目指すことにする。
[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜
桐生桜月姫
恋愛
シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。
だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎
本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎
〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜
夕方6時に毎日予約更新です。
1話あたり超短いです。
毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。
虐げられ令嬢の最後のチャンス〜今度こそ幸せになりたい
みおな
恋愛
何度生まれ変わっても、私の未来には死しかない。
死んで異世界転生したら、旦那に虐げられる侯爵夫人だった。
死んだ後、再び転生を果たしたら、今度は親に虐げられる伯爵令嬢だった。
三度目は、婚約者に婚約破棄された挙句に国外追放され夜盗に殺される公爵令嬢。
四度目は、聖女だと偽ったと冤罪をかけられ処刑される平民。
さすがにもう許せないと神様に猛抗議しました。
こんな結末しかない転生なら、もう転生しなくていいとまで言いました。
こんな転生なら、いっそ亀の方が何倍もいいくらいです。
私の怒りに、神様は言いました。
次こそは誰にも虐げられない未来を、とー
悪役令嬢は推し活中〜殿下。貴方には興味がございませんのでご自由に〜
みおな
恋愛
公爵家令嬢のルーナ・フィオレンサは、輝く銀色の髪に、夜空に浮かぶ月のような金色を帯びた銀の瞳をした美しい少女だ。
当然のことながら王族との婚約が打診されるが、ルーナは首を縦に振らない。
どうやら彼女には、別に想い人がいるようで・・・
《完》わたしの刺繍が必要?無能は要らないって追い出したのは貴方達でしょう?
桐生桜月姫
恋愛
『無能はいらない』
魔力を持っていないという理由で婚約破棄されて従姉妹に婚約者を取られたアイーシャは、実は特別な力を持っていた!?
大好きな刺繍でわたしを愛してくれる国と国民を守ります。
無能はいらないのでしょう?わたしを捨てた貴方達を救う義理はわたしにはございません!!
*******************
毎朝7時更新です。
拝啓、婚約者様。婚約破棄していただきありがとうございます〜破棄を破棄?ご冗談は顔だけにしてください〜
みおな
恋愛
子爵令嬢のミリム・アデラインは、ある日婚約者の侯爵令息のランドル・デルモンドから婚約破棄をされた。
この婚約の意味も理解せずに、地味で陰気で身分も低いミリムを馬鹿にする婚約者にうんざりしていたミリムは、大喜びで婚約破棄を受け入れる。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる