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愚かな息子と強かな母、そしてその夫2(ゾルティーア侯爵視点)

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「同じ後悔を繰り返しはしない。フローリアの命はどんなことがあっても守る」
「はい。ですが不安です」
「そうだな。上手く話しをしなければ陛下の怒りを煽るだけだろう」

 陛下にとってフィリップ殿下は可愛い末の子供だ。
 生まれた時の問題はあったけれど、大神官の鑑定を間違いだと言いっ切ってしまう程に陛下は王妃様を妄信していて王太后様の言葉も陛下には届かなかった。

 陛下はフィリップ殿下をとても可愛がっている。
 王妃様がフィリップ殿下だけを愛しているのとは違い、王太子殿下以下のお子様全員を陛下は愛している様に見えるがその中のでもフィリップ殿下への愛は違っている様に見えた。
 年が離れて出来た子供だからというのもあるだろう、王妃様にそっくりな顔立ちだというのもあるだろう。
 だが、我々にとってフィリップ殿下は幼い暴君だった。
 貴族を下に見て、自分が好きに出来る使用人だと思っているふしさえあった。
 他の殿下達にはない眉をしかめたくなるような行いは、王妃様の黙認により誰も注意が出来なかったし、陛下は「大きくなれば変わるだろう」と言うだけだった。

 生まれた際の問題とフィリップ殿下の性格を知っている貴族達は皆、自分の子供がフィリップ殿下の相手に選ばれてしまうことを恐れた。
 王家に生まれた王太子以外の男の子は、上位貴族の家に婿入りするか自分で新たに家を興し妻を娶るかのどちらかだが、第三王子のフィリップ殿下が新たに家を興す場合の爵位は王妃様の実家と同等のものと決められていた。
 その為なのか、王妃様は公爵または侯爵家への婿入りを希望していた。

 王妃様の懐妊に合わせ貴族の家では子供を儲けることが多い。
 実際王太子殿下と第二王子殿下ご誕生の際は沢山の貴族の家に子供が生まれていた。
 王子殿下なら、男の子なら側近や友人候補に、女の子なら妻にと望める可能性があるからだ。
 フィリップ殿下の時もそうやって生まれてきた子はそれなりにいた。数が少ない公爵または侯爵家でもそれは同じでその時点ではフィリップ殿下の婿入り先選びが難航するとは王妃様は思っていなかった筈だ。
 だが、その貴族達は婚約の話を避ける様に子供達の婚約を決めていて、フィリップ殿下が婿入りできる様な家は五歳になる事には無くなっていた。

「フローリアの婚約が認められず、ライマールが亡くなった途端婚約の打診が来たのは王妃様の策略だ」
「はい。私はそう信じています」
「もし、フローリアの書いてきた通りの神聖契約を行えば、少なくともライマールの件と先日の放火の件で王妃様は神罰を受ける筈だ」
「ですが、ライマールの命を奪ったあの医師は、今だ王妃様の侍医をしているそうです。実際に手を下した彼ではなく王妃様に神罰が行くでしょうか」
「それはフローリアも考えたのだろう。ここに『ゾルティーア侯爵家や侯爵家に連なる者を自ら害したまたは害する様に命令した場合』とある。これならば侍医への命令もその対象になるだろう。それを目の当たりにすれば、陛下とて王妃様を妄信はしなくなるだろう。人が突然数年分も老いるなど通常ではありえないのだから。」

 その為にはどうしても陛下に神聖契約を認めて頂かねばならない。

「陛下はご決断されるでしょうか」
「分からない。だが、王太子殿下は私達の味方だ。すでに魔封じの腕輪を王妃様につけて下さった。フローリアの記憶通り王妃様に精神を操作できる、魅了魔法の様なものが使えるのであれば、あの魔道具で効果は薄れている筈だ」
「そうですね。それを信じましょう」
「まず、王太子殿下に話を聞いていただける様にお願いし協力を頼む。それから陛下の元へと向かう」
「分かりました」
「これが最後にはならない。必ず戻ってくるよ。元気な姿で君とフローリアに会うと誓う」

 モーネの体を抱きしめて、私はそう誓ったのだ。 
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