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愚かな息子と強かな母、そしてその夫1(ゾルティーア侯爵視点)
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「私がフローリアの手紙の通り陛下へ歎願しこれが却下された場合、私はこの屋敷に戻って来られないかもしれない。そうなった場合は君や弟達まで責が及ぶかもしれない」
フローリアからの手紙を読み、私は執務室に妻モーネを呼びそれを見せながら告げた。
フローリアは婚約破棄後、モーネの実家であるローゲン伯爵領に身を寄せている。
療養の為領地に戻る途中ローゲン伯爵領に立ち寄り、そこで滞在中に体調を崩し亡くなったとし本当はフローリアを逃がすつもりだった。
王妃様のこの家への執着は異常な程で、フィリップ殿下との婚約を破棄してしまったフローリアは王妃様に命を狙われる可能性があると考えたからだ。
我が侯爵家にはフローリア以外の子供がいない、長男はフローリアの婚約前に亡くなった。
あれは王妃様が差し向けた医師による殺人だったと、私は今でも疑っている。
この国は王が絶対的な権力を持ち、命に従わなければ死を賜るしかない。
幸い歴代の王は理不尽な政治を行うことなく平和な治世が続いていた。
現在の王であるアンドリュー陛下は、歴代の王の中でも賢王と名高い方だ。
臣下の話をよく聞き、民の声にも耳を傾けて下さり適切な判断を下すことが出来る方だ。
私は陛下にお仕えできる身を幸いだと思っている。
ただ一つ王妃様の件以外は。
「これを行うことで王妃様は身動きが取れなくなるでしょうか」
「陛下がご決断下されば、フローリアの命を守ることは出来るだろう。ライマールの仇を取るまでは出来ないかもしれないが、大事なのはフローリアの命を守ることだ。そう私達は決めただろう」
「はい」
思いつめた顔でモーネは手紙を繰り返し読んでいる。
ライマール、私達が死なせてしまった愛しい息子は、池に落ち風邪をひいたのがきっかけで命を落とした。
風邪一つひいたことがない強い子だったというのに、風邪で熱が下がらず苦しむ姿が忘れられない。
王妃様は自分の開いたお茶会が原因だからと王妃様の侍医である医師を派遣してくださったのを、私達はなんの疑いもなく受け入れてライマールの治療を任せてしまった。
「ライマールがあの子が苦しむ姿を私は今でも夢に見ます。水すら吐いて、苦しんで、幼い体が火の中にいるかの様に熱くなって、それが、それが」
モーネの涙が便箋へと落ちていく。
私達は何も出来なかった。
体力回復の薬も熱を下げる薬も何も効かず、それを王妃様の侍医が行っているのをただ祈りながら見ているしか出来なかった。
手は尽くしたと言われて諦めきれず、侯爵家の医師を呼び診てもらった時にはすべてが遅かった。
ライマールの体は氷の様に冷たくなり、苦しみの顔のまま二度と目を覚まさなかったのだ。
「私達が馬鹿だったのだ。王妃様の善意だと信じてあの医師にライマールを任せてしまった。私達はただの風邪だと信じて、あれが毒だった可能性があるなんて考えもしなかった」
風邪の症状にしてはおかしかった。
だが水に塗れ熱を出したと聞いて疑いもしなかった。侯爵家の医師は何か害になるものを食べた可能性もあるがお茶会に出席した他の子供達には体調不良が出ていないことからその可能性を否定してしまった。
そもそも王妃様のお茶会で出されたものを疑う等出来なかった。
密かに周囲に出席者の体調を確認し、誰も異常がないと確認するだけで精一杯だった。
「あの時解毒の魔道具があれば」
「それが出来たのはあの子が亡くなった後なのですから、どうしようもございません。後悔しても後悔してもし尽くすことはありませんが」
王妃様の侍医がいる間、侯爵家の医師を近づけることは出来なくなった。
侍医の治療で一旦回復した様に見えたライマールは、突然体調が悪化してその時も侍医がまだ屋敷に居た為私達は治療に口を出すことが出来なかった。
王妃様は今も陛下の寵愛を失っていないけれど、当時は今以上の寵愛を頂いていた。
王妃様が派遣してくださった医師を拒むことなど、出来はしなかったのだ。
フローリアからの手紙を読み、私は執務室に妻モーネを呼びそれを見せながら告げた。
フローリアは婚約破棄後、モーネの実家であるローゲン伯爵領に身を寄せている。
療養の為領地に戻る途中ローゲン伯爵領に立ち寄り、そこで滞在中に体調を崩し亡くなったとし本当はフローリアを逃がすつもりだった。
王妃様のこの家への執着は異常な程で、フィリップ殿下との婚約を破棄してしまったフローリアは王妃様に命を狙われる可能性があると考えたからだ。
我が侯爵家にはフローリア以外の子供がいない、長男はフローリアの婚約前に亡くなった。
あれは王妃様が差し向けた医師による殺人だったと、私は今でも疑っている。
この国は王が絶対的な権力を持ち、命に従わなければ死を賜るしかない。
幸い歴代の王は理不尽な政治を行うことなく平和な治世が続いていた。
現在の王であるアンドリュー陛下は、歴代の王の中でも賢王と名高い方だ。
臣下の話をよく聞き、民の声にも耳を傾けて下さり適切な判断を下すことが出来る方だ。
私は陛下にお仕えできる身を幸いだと思っている。
ただ一つ王妃様の件以外は。
「これを行うことで王妃様は身動きが取れなくなるでしょうか」
「陛下がご決断下されば、フローリアの命を守ることは出来るだろう。ライマールの仇を取るまでは出来ないかもしれないが、大事なのはフローリアの命を守ることだ。そう私達は決めただろう」
「はい」
思いつめた顔でモーネは手紙を繰り返し読んでいる。
ライマール、私達が死なせてしまった愛しい息子は、池に落ち風邪をひいたのがきっかけで命を落とした。
風邪一つひいたことがない強い子だったというのに、風邪で熱が下がらず苦しむ姿が忘れられない。
王妃様は自分の開いたお茶会が原因だからと王妃様の侍医である医師を派遣してくださったのを、私達はなんの疑いもなく受け入れてライマールの治療を任せてしまった。
「ライマールがあの子が苦しむ姿を私は今でも夢に見ます。水すら吐いて、苦しんで、幼い体が火の中にいるかの様に熱くなって、それが、それが」
モーネの涙が便箋へと落ちていく。
私達は何も出来なかった。
体力回復の薬も熱を下げる薬も何も効かず、それを王妃様の侍医が行っているのをただ祈りながら見ているしか出来なかった。
手は尽くしたと言われて諦めきれず、侯爵家の医師を呼び診てもらった時にはすべてが遅かった。
ライマールの体は氷の様に冷たくなり、苦しみの顔のまま二度と目を覚まさなかったのだ。
「私達が馬鹿だったのだ。王妃様の善意だと信じてあの医師にライマールを任せてしまった。私達はただの風邪だと信じて、あれが毒だった可能性があるなんて考えもしなかった」
風邪の症状にしてはおかしかった。
だが水に塗れ熱を出したと聞いて疑いもしなかった。侯爵家の医師は何か害になるものを食べた可能性もあるがお茶会に出席した他の子供達には体調不良が出ていないことからその可能性を否定してしまった。
そもそも王妃様のお茶会で出されたものを疑う等出来なかった。
密かに周囲に出席者の体調を確認し、誰も異常がないと確認するだけで精一杯だった。
「あの時解毒の魔道具があれば」
「それが出来たのはあの子が亡くなった後なのですから、どうしようもございません。後悔しても後悔してもし尽くすことはありませんが」
王妃様の侍医がいる間、侯爵家の医師を近づけることは出来なくなった。
侍医の治療で一旦回復した様に見えたライマールは、突然体調が悪化してその時も侍医がまだ屋敷に居た為私達は治療に口を出すことが出来なかった。
王妃様は今も陛下の寵愛を失っていないけれど、当時は今以上の寵愛を頂いていた。
王妃様が派遣してくださった医師を拒むことなど、出来はしなかったのだ。
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