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私の誓い

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「なんていうことを。神をも恐れぬ冒涜です。恐ろしいことです」

 イオン様は胸に神への祈りを求める印を指で刻み、祈りの言葉を捧げました。
 ただの貴族令嬢の私よりも、神に仕える神官としての心があるイオン様の方が王妃様の行動に恐れを抱くのでしょう。
 神の教えを尊ぶなら、王妃様の行動は神への冒涜でしかありません。
 人の命を自分の富と欲望の為に蔑ろにし、玩具の様に命を虐げる行為は悪魔の所業と言っても過言ではありません。

「そうですね。命は尊いものです。自分の私利私欲の為に好きにしていいものではありません」

 今エミリアさんはどうしているのでしょう。
 侯爵家に設置されている防御の為の魔道具は、放たれた魔法はすべて相手に返す様に設定されています。
 それは物理的にも同じ効果がされるはずです。
 屋敷に放火しようとしていたのですから、どの程度か分かりませんが火種がエミリアさんにも返った筈です。
 悪意には悪意を、善意には善意を。
 屋敷に設置された魔道具の効果は、それです。
 エミリアさんが何を思って屋敷に火を放ったのか私には分かりませんが、放火犯として捕らえられたエミリアさんの未来は想像できます。

「彼女は罪を犯す様に見えませんでした。ただの貴族令嬢です。両親に大切に育てられたただの令嬢なのです」

 私達に巻き込まれなければ、彼女はそれなりの人生を歩んだ筈です。
 男爵令嬢としてどこかの家に嫁いで、子供を産み育て、どこかの家の妻として生涯を終える。
 そんな貴族令嬢として生まれた女性の一生を終えた筈なのです。

 なのに、フィリップ殿下が運命の相手などとしたためにこんなことになってしまった。
 放火の罪は大罪です。
 放火された家を消火するためには、周囲の家を犠牲にしなければならず、それを失敗すれば多大なる被害を及ぼしてしまいます。ですから放火は大罪なのです。
 私の想像が正しければ、エミリアさんの放火を指示、いいえ命令したのは王妃様の筈です。
 エミリアさんにそんな行動力も思考力もありはしないと私にはわかっていました。

「ただの令嬢でしかないエミリアさんを、私利私欲の為に犯罪者に仕立て上げたのが王妃様なのです」

 どうして。
 王妃様のその思考は私には理解できません。
 自分自身が犯罪に手を染め、望むものを手に入れようとするのならまだ理解できます。
 でも、王妃様のされているのは自分の手を汚すことなく周囲の命を縮め、周囲の人間を犯罪者に仕立て上げ自分だけは何も不安のない安全な高い場所から、己が命令し罪を犯した人間が破滅するのを眺めている。
 そんな人でなしの行いを繰り返しているのです。

「イオン様、私は王妃様の行いは神への冒涜だと思います。私は愚鈍な人間ですが、それでも神に己の行いが罪ではないと胸を張れる日々を送ってきたと自負しています」
「ええ、お嬢様。殆どの人間はそうです。神の教えを守り。少々の罪を自覚しながら生きる。それが神を信じる者の生き方です。王妃様はそれとは違います。あの方は神を信じていない。あの方の生き方を神はお許しにはならないでしょう」

 聖句を紡ぎながらイオン様は、王妃様の行いは罪だと仰います。
 まだ予想でしかありません。状況を考え、それゆえの判断でしかありません。
 ですが、すべては悪だと、その状況が告げているのです。

「イオン様、私は王都に戻り王妃様を断罪します。陛下に神聖契約をしてもらえるよう父に願います。そうして王妃様と戦います」

 イオン様に告げ、ケネスの顔を見て宣言しました。
 私は王妃様と戦います。もう逃げません。
 戦って、王妃様の罪を公にするとそう誓ったのです。
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