【完結済み】婚約破棄致しましょう

木嶋うめ香

文字の大きさ
上 下
47 / 123

過去への懺悔

しおりを挟む
「侍医の嘘の証明が出来なかったのですね」
「出来ませんでした。ご存じかどうかわかりませんが、王家の皆様は朝侍医に体調を見てもらいます。王太后様の宮に滞在中の王妃様も毎朝侍医の診断を受けていました。それで懐妊されていないと診断されていたのですから、私のフィリップ殿下への鑑定が誤っているのだと、不幸にも光魔法を持たずに生まれただけとされてしまいました」

 傍系でも血が近ければほぼ確実に受け継いでいる光魔法を、直系の中でも一番陛下に近い血筋にあたるというのにフィリップ殿下に光魔法が受け継がれていないなどありえないというのに、それでも侍医の診断を理由にフィリップ殿下の父親は陛下だと断定されてしまったのでしょう。

「それは侍医への信頼というよりも、陛下の王妃様への愛故にですね」
「そうだと思います。例え私の鑑定が陛下を父親だとしても、侍医の診断が同じようにしていても陛下が王妃様の不貞を疑っていてそうしたいとお考えであれば、本当に陛下が父親だったとしてもフィリップ殿下の父親は、別の誰かになっていたでしょう」
「つまり、最終的には陛下が王妃様を信じたから。そういう事でしょうか」

 だとすれば、魔道具で王妃様の不貞を立証しても、侍医が当時嘘をついていたと判明しても、陛下が違うと言えばそうなってしまうでしょうか。
 それでは王妃様は今と変わらず、王妃様が望む未来しかこの国には存在しないことになってしまいます。

「王妃様の侍医は当時も今も同じ人なんだろうか」
「ケネス、何が言いたいの」
「フローリアのお兄さんの件、王妃様の妊娠時期の件それは同じ侍医だったんじゃないのか」
「お嬢様のお兄様の件とは、どういうことですか」

 ケネスが言いたいことは理解しました。
 お兄様の命を縮めたとされる、王妃様から送られてきた医師が王妃様の侍医だったとしたら、その人は王妃様の言いなりに動く配下だということです。

「不確かな話です。私の婚約に関係する話ですから。私がそれを話してしまうとイオン様に迷惑が掛かるやもしれません」

 話していいのかどうか、すぐに決断できませんでした。
 王妃様がフィリップ殿下の為に、我が侯爵家の人間を手に掛けた可能性があるなど迂闊に広めていい話ではありません。

「フィリップ殿下の血統の件で、私は王家に睨まれています。直接沙汰を受けたわけではありませんが、事実上王家追放を甘んじて受けているから私の命がある。それだけです。今更何を怖がることがありましょう」
「そうですか。これは不確かな話です。事実を繋げた結果そうだと思っているだけだとそう理解した上で聞いてくださいますか」
「はい」

 私はおばあ様から聞いたお兄様が亡くなった経緯を話しました。
 お兄様が亡くなった経緯と、私がフィリップ殿下の顔合わせが決まった経緯。話を進めていくとイオン様は獣の様な低い唸り声を上げ頭を掻きむしったのです。

「私が、私がもう少し耐えれば、耐えさえすればっ」
「イオン様? 落ち着いてください」
「申し訳ありません。私があの時、自分の命を惜しまずにフィリップ殿下が陛下のお子でないと言い続けていれば、保身を考えずそうしていれば、フローリア様のお兄様を死なせずにすんだというのに」

 イオン様は突然立ち上がると床に蹲り、額を床に付け謝罪し始めてしまいました。

「申し訳ございません。私は神に仕える身だというのに、己の命を惜しむあまりその結果罪のない幼子の命を縮めてしまったのです。私の罪です。申し訳ございません」

 何度も額を床にこすりつけながら、イオン様は謝罪し続けそうして泣き始めてしまったのです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?

桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。 だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。 「もう!どうしてなのよ!!」 クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!? 天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

【完結】恋は、終わったのです

楽歩
恋愛
幼い頃に決められた婚約者、セオドアと共に歩む未来。それは決定事項だった。しかし、いつしか冷たい現実が訪れ、彼の隣には別の令嬢の笑顔が輝くようになる。 今のような関係になったのは、いつからだったのだろう。 『分からないだろうな、お前のようなでかくて、エマのように可愛げのない女には』 身長を追い越してしまった時からだろうか。  それとも、特進クラスに私だけが入った時だろうか。 あるいは――あの子に出会った時からだろうか。 ――それでも、リディアは平然を装い続ける。胸に秘めた思いを隠しながら。

虐げられ令嬢の最後のチャンス〜今度こそ幸せになりたい

みおな
恋愛
 何度生まれ変わっても、私の未来には死しかない。  死んで異世界転生したら、旦那に虐げられる侯爵夫人だった。  死んだ後、再び転生を果たしたら、今度は親に虐げられる伯爵令嬢だった。  三度目は、婚約者に婚約破棄された挙句に国外追放され夜盗に殺される公爵令嬢。  四度目は、聖女だと偽ったと冤罪をかけられ処刑される平民。  さすがにもう許せないと神様に猛抗議しました。  こんな結末しかない転生なら、もう転生しなくていいとまで言いました。  こんな転生なら、いっそ亀の方が何倍もいいくらいです。  私の怒りに、神様は言いました。 次こそは誰にも虐げられない未来を、とー

【完結】婚約破棄されたので田舎に引きこもったら、冷酷宰相に執着されました

21時完結
恋愛
王太子の婚約者だった侯爵令嬢エリシアは、突然婚約破棄を言い渡された。 理由は「平凡すぎて、未来の王妃には相応しくない」から。 (……ええ、そうでしょうね。私もそう思います) 王太子は社交的な女性が好みで、私はひたすら目立たないように生きてきた。 当然、愛されるはずもなく――むしろ、やっと自由になれたとホッとするくらい。 「王都なんてもう嫌。田舎に引きこもります!」 貴族社会とも縁を切り、静かに暮らそうと田舎の領地へ向かった。 だけど―― 「こんなところに隠れるとは、随分と手こずらせてくれたな」 突然、冷酷無慈悲と噂される宰相レオンハルト公爵が目の前に現れた!? 彼は王国の実質的な支配者とも言われる、権力者中の権力者。 そんな人が、なぜか私に執着し、どこまでも追いかけてくる。 「……あの、何かご用でしょうか?」 「決まっている。お前を迎えに来た」 ――え? どういうこと? 「王太子は無能だな。手放すべきではないものを、手放した」 「……?」 「だから、その代わりに 私がもらう ことにした」 (いや、意味がわかりません!!) 婚約破棄されて平穏に暮らすはずが、 なぜか 冷酷宰相に執着されて逃げられません!?

君を愛す気はない?どうぞご自由に!あなたがいない場所へ行きます。

みみぢあん
恋愛
貧乏なタムワース男爵家令嬢のマリエルは、初恋の騎士セイン・ガルフェルト侯爵の部下、ギリス・モリダールと結婚し初夜を迎えようとするが… 夫ギリスの暴言に耐えられず、マリエルは神殿へ逃げこんだ。 マリエルは身分違いで告白をできなくても、セインを愛する自分が、他の男性と結婚するのは間違いだと、自立への道をあゆもうとする。 そんなマリエルをセインは心配し… マリエルは愛するセインの優しさに苦悩する。 ※ざまぁ系メインのお話ではありません、ご注意を😓

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

死ぬはずだった令嬢が乙女ゲームの舞台に突然参加するお話

みっしー
恋愛
 病弱な公爵令嬢のフィリアはある日今までにないほどの高熱にうなされて自分の前世を思い出す。そして今自分がいるのは大好きだった乙女ゲームの世界だと気づく。しかし…「藍色の髪、空色の瞳、真っ白な肌……まさかっ……!」なんと彼女が転生したのはヒロインでも悪役令嬢でもない、ゲーム開始前に死んでしまう攻略対象の王子の婚約者だったのだ。でも前世で長生きできなかった分今世では長生きしたい!そんな彼女が長生きを目指して乙女ゲームの舞台に突然参加するお話です。 *番外編も含め完結いたしました!感想はいつでもありがたく読ませていただきますのでお気軽に!

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

処理中です...