46 / 123
大神官の記憶5
しおりを挟む
「そう、ですか」
衝撃に私は意識を虚ろにしながら、何とか返事をしました。
指先に触れる魔道具の金属の感触が、私の精神を辛うじて乱さずにいてくれるのが幸いでした。
そうでなければ私はみっともなく床に蹲り、恐怖に震えていたでしょう。
「私は王妃様は精神操作の魔法が使えるのだと考えています。それは私の妄想ではなく真実です」
「精神操作の魔法。王太后様はそれを」
「私はそれをお伝えし、フィリップ殿下の魔力系統が違うこともお伝えしました。ですが、結果は私は王都を追われてこの地に流れることで命を辛うじて守る。それが王家の、陛下の決断なのだとそう理解するしかありませんでした」
イオン様がそれに納得されていないことは、私にも理解出来ました。
「王妃様の懐妊は、王太后様の宮にいらっしゃる間で、それが陛下以外は父親になれない理由だったとそう聞きました」
「ええ。あの時王太后様は足を怪我されていて、王妃様はその看病のため宮にずっと滞在されていたそうです」
「都合よく怪我をされていた」
「ええ、都合よく。下級貴族の出の王妃様を王太后様は嫌っていて、傍にいることすら厭っていたというのに。王妃様は怪我をされた王太后様に尽くすのが嫁の務めだと言われて、無理矢理王太后様の宮に滞在されたのだと伺っています」
王太后様が亡くなったのは、私が婚約して数年経った後でした。
王太后様は私をとても可愛がってくださいました。
お父様と一緒に王宮に伺うと、陛下との謁見の後王太后様の宮に伺ってお茶を頂くのが常でした。
私の頭を撫でて下さる優しい手を、私は覚えています。
フィリップ殿下が私に冷たいのはすでに王宮中に知れ渡っていて、だからこそ王太后様は私に優しかったのかもしれないと思ったのは、私がだいぶ大きくなってからです。
あの方はとても優しくて、とても厳しい方でした。
「王太后様は私を密かに宮に呼び出し仰いました。王家の血統を濁らせる様な事を許してはならない。たとえ王位から遠い王子でも、血筋を濁らせることは神への冒涜につながると」
「王太后様は、フィリップ殿下が陛下のお子ではないと確信されていたのですね」
王妃様の会話を記憶している私には、フィリップ殿下のお顔は王妃様の義兄である伯爵の顔にしか見えません。
王太子殿下やほかの王子殿下、王女殿下、誰と並んでもフィリップ殿下は似た部分が少なく異質でした。
王家のお子は、不思議な程王族の血筋のお顔をされており、だからこそ王妃様そっくりのフィリップ殿下のお顔が違って見えたのです。
王妃様と同じ髪色と瞳の色、王妃様の義兄そっくりの顔立ち、それ以外に成長と共に骨格やふとした表情も似ていると感じていました。
あの日の記憶を思い出すたびに、恐ろしくなって陛下に似たところ探していた私は、絶望と共に何も似たところがないと認めるしかありませんでした。
「私の鑑定ではフィリップ殿下は陛下のお子ではありません。そう王太后様にもお伝えし、王太后様は陛下にそう告げられました。ですが、王太后様の宮に滞在するまで懐妊されていないと侍医が断言していて、王太后様の宮には陛下以外の男性は近寄ることも出来ません。ですから王妃様が接触できた男性は陛下以外ないと言われて」
「それがフィリップ殿下の父親が陛下だと言われる所以だと」
誰もが違うと思いながら、それだけで血統を歪めたのだとイオン様は力なく言いました。
「イオン様、侍医が嘘をついていると私は考えています。それ以外ないと思っています」
「そうでしょうね。私はずっとそう考えています。ですがそれを証明できる方法が私にはありませんでした」
神は私達を見放したのだと、そう言わんばかりにイオン様は言い放ったのです。
衝撃に私は意識を虚ろにしながら、何とか返事をしました。
指先に触れる魔道具の金属の感触が、私の精神を辛うじて乱さずにいてくれるのが幸いでした。
そうでなければ私はみっともなく床に蹲り、恐怖に震えていたでしょう。
「私は王妃様は精神操作の魔法が使えるのだと考えています。それは私の妄想ではなく真実です」
「精神操作の魔法。王太后様はそれを」
「私はそれをお伝えし、フィリップ殿下の魔力系統が違うこともお伝えしました。ですが、結果は私は王都を追われてこの地に流れることで命を辛うじて守る。それが王家の、陛下の決断なのだとそう理解するしかありませんでした」
イオン様がそれに納得されていないことは、私にも理解出来ました。
「王妃様の懐妊は、王太后様の宮にいらっしゃる間で、それが陛下以外は父親になれない理由だったとそう聞きました」
「ええ。あの時王太后様は足を怪我されていて、王妃様はその看病のため宮にずっと滞在されていたそうです」
「都合よく怪我をされていた」
「ええ、都合よく。下級貴族の出の王妃様を王太后様は嫌っていて、傍にいることすら厭っていたというのに。王妃様は怪我をされた王太后様に尽くすのが嫁の務めだと言われて、無理矢理王太后様の宮に滞在されたのだと伺っています」
王太后様が亡くなったのは、私が婚約して数年経った後でした。
王太后様は私をとても可愛がってくださいました。
お父様と一緒に王宮に伺うと、陛下との謁見の後王太后様の宮に伺ってお茶を頂くのが常でした。
私の頭を撫でて下さる優しい手を、私は覚えています。
フィリップ殿下が私に冷たいのはすでに王宮中に知れ渡っていて、だからこそ王太后様は私に優しかったのかもしれないと思ったのは、私がだいぶ大きくなってからです。
あの方はとても優しくて、とても厳しい方でした。
「王太后様は私を密かに宮に呼び出し仰いました。王家の血統を濁らせる様な事を許してはならない。たとえ王位から遠い王子でも、血筋を濁らせることは神への冒涜につながると」
「王太后様は、フィリップ殿下が陛下のお子ではないと確信されていたのですね」
王妃様の会話を記憶している私には、フィリップ殿下のお顔は王妃様の義兄である伯爵の顔にしか見えません。
王太子殿下やほかの王子殿下、王女殿下、誰と並んでもフィリップ殿下は似た部分が少なく異質でした。
王家のお子は、不思議な程王族の血筋のお顔をされており、だからこそ王妃様そっくりのフィリップ殿下のお顔が違って見えたのです。
王妃様と同じ髪色と瞳の色、王妃様の義兄そっくりの顔立ち、それ以外に成長と共に骨格やふとした表情も似ていると感じていました。
あの日の記憶を思い出すたびに、恐ろしくなって陛下に似たところ探していた私は、絶望と共に何も似たところがないと認めるしかありませんでした。
「私の鑑定ではフィリップ殿下は陛下のお子ではありません。そう王太后様にもお伝えし、王太后様は陛下にそう告げられました。ですが、王太后様の宮に滞在するまで懐妊されていないと侍医が断言していて、王太后様の宮には陛下以外の男性は近寄ることも出来ません。ですから王妃様が接触できた男性は陛下以外ないと言われて」
「それがフィリップ殿下の父親が陛下だと言われる所以だと」
誰もが違うと思いながら、それだけで血統を歪めたのだとイオン様は力なく言いました。
「イオン様、侍医が嘘をついていると私は考えています。それ以外ないと思っています」
「そうでしょうね。私はずっとそう考えています。ですがそれを証明できる方法が私にはありませんでした」
神は私達を見放したのだと、そう言わんばかりにイオン様は言い放ったのです。
121
お気に入りに追加
8,769
あなたにおすすめの小説
2度目の人生は好きにやらせていただきます
みおな
恋愛
公爵令嬢アリスティアは、婚約者であるエリックに学園の卒業パーティーで冤罪で婚約破棄を言い渡され、そのまま処刑された。
そして目覚めた時、アリスティアは学園入学前に戻っていた。
今度こそは幸せになりたいと、アリスティアは婚約回避を目指すことにする。
[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜
桐生桜月姫
恋愛
シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。
だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎
本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎
〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜
夕方6時に毎日予約更新です。
1話あたり超短いです。
毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。
虐げられ令嬢の最後のチャンス〜今度こそ幸せになりたい
みおな
恋愛
何度生まれ変わっても、私の未来には死しかない。
死んで異世界転生したら、旦那に虐げられる侯爵夫人だった。
死んだ後、再び転生を果たしたら、今度は親に虐げられる伯爵令嬢だった。
三度目は、婚約者に婚約破棄された挙句に国外追放され夜盗に殺される公爵令嬢。
四度目は、聖女だと偽ったと冤罪をかけられ処刑される平民。
さすがにもう許せないと神様に猛抗議しました。
こんな結末しかない転生なら、もう転生しなくていいとまで言いました。
こんな転生なら、いっそ亀の方が何倍もいいくらいです。
私の怒りに、神様は言いました。
次こそは誰にも虐げられない未来を、とー
悪役令嬢は推し活中〜殿下。貴方には興味がございませんのでご自由に〜
みおな
恋愛
公爵家令嬢のルーナ・フィオレンサは、輝く銀色の髪に、夜空に浮かぶ月のような金色を帯びた銀の瞳をした美しい少女だ。
当然のことながら王族との婚約が打診されるが、ルーナは首を縦に振らない。
どうやら彼女には、別に想い人がいるようで・・・
《完》わたしの刺繍が必要?無能は要らないって追い出したのは貴方達でしょう?
桐生桜月姫
恋愛
『無能はいらない』
魔力を持っていないという理由で婚約破棄されて従姉妹に婚約者を取られたアイーシャは、実は特別な力を持っていた!?
大好きな刺繍でわたしを愛してくれる国と国民を守ります。
無能はいらないのでしょう?わたしを捨てた貴方達を救う義理はわたしにはございません!!
*******************
毎朝7時更新です。
拝啓、婚約者様。婚約破棄していただきありがとうございます〜破棄を破棄?ご冗談は顔だけにしてください〜
みおな
恋愛
子爵令嬢のミリム・アデラインは、ある日婚約者の侯爵令息のランドル・デルモンドから婚約破棄をされた。
この婚約の意味も理解せずに、地味で陰気で身分も低いミリムを馬鹿にする婚約者にうんざりしていたミリムは、大喜びで婚約破棄を受け入れる。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる