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大神官の記憶2
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「まさかそういう理由で神聖契約を行うとは思いませんでした」
結婚しても互いが信用できない故の神聖契約など、想像できるものではありません。
「陛下も婚姻の際に行っているのでしょうか。王妃様はこの国の伯爵家の令嬢ですし、陛下がお茶会で見初められての婚姻だったと聞いていますが」
「はい。これは王家の婚姻の決まり事です。他国から嫁いできたから、国内の貴族の令嬢だからという差はありません。違いがあるとすれば、神聖契約を破った時の代償を決めるのは陛下であるというだけです」
「互いを害さないという契約を行って、それを破った場合の代償は当事者である陛下が契約の時に決めるのですか」
「そうです」
思っていたよりもイオン様は詳しく内容を教えて下さいます。
王妃様から不興を買い王都の神殿から、この地に流れることになった件で思うところがあるのでしょうか。
それとも私がまだフィリップ殿下の婚約者だと思っているから、話をして下さるのでしょうか。
真意が判断できないまま、私はどうやって話を聞こうかと考えていました。
「婚姻の際に神聖契約を行うのは理解できました。では、神聖契約を婚姻時に行った者だけは相手を代償として神聖契約を行えるのですね」
「そうですね。神聖契約の際に王妃様に教えられるのはその話だけです」
「だけと言うのは、それ以外にも出来るということでしょうか」
「ええ。出来ます。ですが、お嬢様は一体何をお知りになりたいのですか? 婚約の際に神聖契約を行っていないのであれば、婚姻の儀式の際に神聖契約を神殿は行わない筈です。今の王都の神殿の大神官に大神官たる埃があればですが」
イオン様は、おばあ様が話していた様に王家をよく思っていないと同じく王都の大神官様についても思うところがあるようです。
大神官としての誇りがイオン様にあるのなら、私は素直に話をした方がいいのかもしれません。
「イオン様にはまだ情報が来ていないのかもしれませんが、私はすでにフィリップ殿下の婚約者ではありません」
「フィリップ殿下から婚約を破棄したのですか? 王妃様がそれを許したというのですか?」
この驚きの表情は、イオン様が王妃様の本心をご存じだという証でしょうか。
これを信じていいのか、少し不安がありながらも信じなければ先に進めないのです。
ですから、私は賭けに出ようと決心しました。
「いいえ。王妃様は許してはいないと思います。フィリップ殿下は運命の相手を見つけたそうです。私の前にその相手を連れていらっしゃったので、私は父が唯一陛下から頂いた『不義不貞があった場合のみ婚約破棄を願い出られる』権利を使い婚約破棄を行いました」
「なんとまあ。フィリップ殿下も愚かなことを」
イオン様は思わず本心を漏らしてしまったのでしょうか。
でも、これでイオン様がフィリップ殿下に敬意を持っていないらしいというのは分かりました。
まだ、完全に信用していいわけではありませんが。
「イオン様、私は祖母からイオン様がこの地にいらした理由を教えられています。フィリップ殿下は、その」
「陛下のお子ではありません。私はそれを王妃様だけでなく王太后様、陛下、王太子殿下にお伝えしました」
「それは確かなのでしょうか」
「ええ。大神官の鑑定は魔力系統が分かるのです。ご存じですか?」
「祖母から、少し聞いていますが。詳しくは存じません」
ケネスの方を見ると小さく首を横に振っています。
大神官様がどんな力を持っているか、神殿の関係者でもない限り詳しく知る機会もないので当然です。
「そうですか。通常であれば王家に生まれたお子は侍医の鑑定により、魔法の適正で簡易的に魔力系統を判断しますが、それでフィリップ殿下は魔力系統に王家の血が入っていれば持っていて当然の光魔法の適性を持っていませんでした。王族から過去に臣籍降下し血筋に王家の血を持つ家の者でも、曾孫、玄孫程度位までは確実に光魔法は適性として出てくるのが普通です。適性を持っていても使えない者もいますが、フィリップ殿下はそうではなく適性そのものがないのです。ですから陛下のお子ではないのではないかと疑いが出たのです」
「そうでしたか」
「あの日、私は王太后様の宮に呼ばれ密かにフィリップ殿下を鑑定するよう命を受けました」
遠くを見るような目で、イオン様は当時の事を話し始めたのです。
結婚しても互いが信用できない故の神聖契約など、想像できるものではありません。
「陛下も婚姻の際に行っているのでしょうか。王妃様はこの国の伯爵家の令嬢ですし、陛下がお茶会で見初められての婚姻だったと聞いていますが」
「はい。これは王家の婚姻の決まり事です。他国から嫁いできたから、国内の貴族の令嬢だからという差はありません。違いがあるとすれば、神聖契約を破った時の代償を決めるのは陛下であるというだけです」
「互いを害さないという契約を行って、それを破った場合の代償は当事者である陛下が契約の時に決めるのですか」
「そうです」
思っていたよりもイオン様は詳しく内容を教えて下さいます。
王妃様から不興を買い王都の神殿から、この地に流れることになった件で思うところがあるのでしょうか。
それとも私がまだフィリップ殿下の婚約者だと思っているから、話をして下さるのでしょうか。
真意が判断できないまま、私はどうやって話を聞こうかと考えていました。
「婚姻の際に神聖契約を行うのは理解できました。では、神聖契約を婚姻時に行った者だけは相手を代償として神聖契約を行えるのですね」
「そうですね。神聖契約の際に王妃様に教えられるのはその話だけです」
「だけと言うのは、それ以外にも出来るということでしょうか」
「ええ。出来ます。ですが、お嬢様は一体何をお知りになりたいのですか? 婚約の際に神聖契約を行っていないのであれば、婚姻の儀式の際に神聖契約を神殿は行わない筈です。今の王都の神殿の大神官に大神官たる埃があればですが」
イオン様は、おばあ様が話していた様に王家をよく思っていないと同じく王都の大神官様についても思うところがあるようです。
大神官としての誇りがイオン様にあるのなら、私は素直に話をした方がいいのかもしれません。
「イオン様にはまだ情報が来ていないのかもしれませんが、私はすでにフィリップ殿下の婚約者ではありません」
「フィリップ殿下から婚約を破棄したのですか? 王妃様がそれを許したというのですか?」
この驚きの表情は、イオン様が王妃様の本心をご存じだという証でしょうか。
これを信じていいのか、少し不安がありながらも信じなければ先に進めないのです。
ですから、私は賭けに出ようと決心しました。
「いいえ。王妃様は許してはいないと思います。フィリップ殿下は運命の相手を見つけたそうです。私の前にその相手を連れていらっしゃったので、私は父が唯一陛下から頂いた『不義不貞があった場合のみ婚約破棄を願い出られる』権利を使い婚約破棄を行いました」
「なんとまあ。フィリップ殿下も愚かなことを」
イオン様は思わず本心を漏らしてしまったのでしょうか。
でも、これでイオン様がフィリップ殿下に敬意を持っていないらしいというのは分かりました。
まだ、完全に信用していいわけではありませんが。
「イオン様、私は祖母からイオン様がこの地にいらした理由を教えられています。フィリップ殿下は、その」
「陛下のお子ではありません。私はそれを王妃様だけでなく王太后様、陛下、王太子殿下にお伝えしました」
「それは確かなのでしょうか」
「ええ。大神官の鑑定は魔力系統が分かるのです。ご存じですか?」
「祖母から、少し聞いていますが。詳しくは存じません」
ケネスの方を見ると小さく首を横に振っています。
大神官様がどんな力を持っているか、神殿の関係者でもない限り詳しく知る機会もないので当然です。
「そうですか。通常であれば王家に生まれたお子は侍医の鑑定により、魔法の適正で簡易的に魔力系統を判断しますが、それでフィリップ殿下は魔力系統に王家の血が入っていれば持っていて当然の光魔法の適性を持っていませんでした。王族から過去に臣籍降下し血筋に王家の血を持つ家の者でも、曾孫、玄孫程度位までは確実に光魔法は適性として出てくるのが普通です。適性を持っていても使えない者もいますが、フィリップ殿下はそうではなく適性そのものがないのです。ですから陛下のお子ではないのではないかと疑いが出たのです」
「そうでしたか」
「あの日、私は王太后様の宮に呼ばれ密かにフィリップ殿下を鑑定するよう命を受けました」
遠くを見るような目で、イオン様は当時の事を話し始めたのです。
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