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誰を贄にすればいい?2(王妃視点)
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「アダムあなた何を言っているの」
大切な子はフィリップだけ、それは心の中で思っていても表には決して出して来なかった感情でした。
それを息子の一人である第一王子のアダムに指摘され、母親として王妃として隠していた思いを暴かれた気持ちになりました。
アダムの後ろには、従僕が二人立っています。
アダムが成人の前から仕えている二人は、私に敬意を表している様に見せながら、忠誠を誓っているのは陛下とアダムのみです。
私の実家の血縁を従僕に置こうとして、王太后にこの二人を決められてしまったのを思い出すだけで苛々してしまいます。
陛下は私に甘いと世間的に言われていても、私が本当に望んだときに叶えられた事など何もないのだと今更ながらに思います。
ああ、一つだけありました。
フィリップの婚約、王家からの婚約の打診を立場を弁えず辞退してきた侯爵に陛下が王命として承諾させたのは、私が願ったからです。
第三子からは王妃の実家以上の爵位で家を興せない等というしきたりのせいで、可愛い我が子のフィリップは伯爵の位しか持てません。
王子として生まれたあの子が、そんな中途半端な爵位しか持てないのも不満ですが伯爵位で持てる領地の狭さに悲観するのは母親として当然の気持ちでしょう。
「母上が大切なのは、フィリップだけだと。私達兄弟は皆知っているという事ですよ」
「そんな風に言われたら、母は悲しく思いますよ。皆大切な子供です。フィリップだけを思っている等ありませんよ」
大切なのはフィリップだけ。
私の愛する人の子供だから、フィリップだけが大切。
それは事実だけれど、その理由を子供達は知らない筈です。勿論陛下も。
「嘘も立て前も不要です。母上、フィリップを思うなら大人しくしていて下さい。そうしなければ父上が本気であの男爵令嬢と婚姻させるかもしれませんよ」
「フィリップは女狐に騙されただけ。フローリアには私からよく言い聞かせます」
フローリアは婚約を結んだ当時から私が徐々に躾を行なってきました。
フィリップに従順になるように、反抗しようという気持ちが起きない様に、フィリップがフローリアに対して決して褒められない様な行ないをしているのは知っています。
私がそうする様に仕向けて来たのですから、フィリップのあの行ないは私の思惑です。
大切な義兄様そっくりの顔で、他の女に懸想する姿も優しくする姿も見たく無かったのです。
顔合わせのあの日フィリップがフローリアを気にいっている様子を見て、義兄様が白いドレスを着たあの女と神殿で幸せそうに寄り添っていた姿を思い出し、あの場でフローリアの命を刈り取ってしまいたい衝動に駆られました。
フィリップの成人後の贅沢な暮らしの為には、侯爵家以上の娘との結婚は必須です。
その為に侯爵家の嫡男の命のを儚くしました。
あれはフィリップが幸せになるために必要な行ないでした。
苦しませず逝かせる為、池に沈めたというのに悪あがきで浮き上がり助けられた幼い子供は、結果手配した医師の薬で天へと旅立ちました。
それはフィリップへの私の愛故の行ないでした。
「フィリップは愚かです。フローリア嬢に押しつけるのは気の毒というもの。婚約破棄は陛下の承認あって決まった事ですよ。それは覆せません」
私に諭す様に言うアダムの態度が腹立たしい。
フィリップは幼い頃から怠惰で自分に甘い性格で、それを私は否定すること無く育ててきましたが他の子供達は王太后が育てた為に母親を敬うという可愛げがありません。
それに比べフィリップは愛らしく育ちました。
怠惰で自分に甘く努力を嫌う性格を上手く誘導して、誰よりも私の言葉を信じる様に育てたのです。
私に頼り、私を盲信していれば、私を裏切ることはないでしょう。義兄様の様に。
そう信じていたのに、フィリップはフローリアに惹かれていったのです。
大切な子はフィリップだけ、それは心の中で思っていても表には決して出して来なかった感情でした。
それを息子の一人である第一王子のアダムに指摘され、母親として王妃として隠していた思いを暴かれた気持ちになりました。
アダムの後ろには、従僕が二人立っています。
アダムが成人の前から仕えている二人は、私に敬意を表している様に見せながら、忠誠を誓っているのは陛下とアダムのみです。
私の実家の血縁を従僕に置こうとして、王太后にこの二人を決められてしまったのを思い出すだけで苛々してしまいます。
陛下は私に甘いと世間的に言われていても、私が本当に望んだときに叶えられた事など何もないのだと今更ながらに思います。
ああ、一つだけありました。
フィリップの婚約、王家からの婚約の打診を立場を弁えず辞退してきた侯爵に陛下が王命として承諾させたのは、私が願ったからです。
第三子からは王妃の実家以上の爵位で家を興せない等というしきたりのせいで、可愛い我が子のフィリップは伯爵の位しか持てません。
王子として生まれたあの子が、そんな中途半端な爵位しか持てないのも不満ですが伯爵位で持てる領地の狭さに悲観するのは母親として当然の気持ちでしょう。
「母上が大切なのは、フィリップだけだと。私達兄弟は皆知っているという事ですよ」
「そんな風に言われたら、母は悲しく思いますよ。皆大切な子供です。フィリップだけを思っている等ありませんよ」
大切なのはフィリップだけ。
私の愛する人の子供だから、フィリップだけが大切。
それは事実だけれど、その理由を子供達は知らない筈です。勿論陛下も。
「嘘も立て前も不要です。母上、フィリップを思うなら大人しくしていて下さい。そうしなければ父上が本気であの男爵令嬢と婚姻させるかもしれませんよ」
「フィリップは女狐に騙されただけ。フローリアには私からよく言い聞かせます」
フローリアは婚約を結んだ当時から私が徐々に躾を行なってきました。
フィリップに従順になるように、反抗しようという気持ちが起きない様に、フィリップがフローリアに対して決して褒められない様な行ないをしているのは知っています。
私がそうする様に仕向けて来たのですから、フィリップのあの行ないは私の思惑です。
大切な義兄様そっくりの顔で、他の女に懸想する姿も優しくする姿も見たく無かったのです。
顔合わせのあの日フィリップがフローリアを気にいっている様子を見て、義兄様が白いドレスを着たあの女と神殿で幸せそうに寄り添っていた姿を思い出し、あの場でフローリアの命を刈り取ってしまいたい衝動に駆られました。
フィリップの成人後の贅沢な暮らしの為には、侯爵家以上の娘との結婚は必須です。
その為に侯爵家の嫡男の命のを儚くしました。
あれはフィリップが幸せになるために必要な行ないでした。
苦しませず逝かせる為、池に沈めたというのに悪あがきで浮き上がり助けられた幼い子供は、結果手配した医師の薬で天へと旅立ちました。
それはフィリップへの私の愛故の行ないでした。
「フィリップは愚かです。フローリア嬢に押しつけるのは気の毒というもの。婚約破棄は陛下の承認あって決まった事ですよ。それは覆せません」
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フィリップは幼い頃から怠惰で自分に甘い性格で、それを私は否定すること無く育ててきましたが他の子供達は王太后が育てた為に母親を敬うという可愛げがありません。
それに比べフィリップは愛らしく育ちました。
怠惰で自分に甘く努力を嫌う性格を上手く誘導して、誰よりも私の言葉を信じる様に育てたのです。
私に頼り、私を盲信していれば、私を裏切ることはないでしょう。義兄様の様に。
そう信じていたのに、フィリップはフローリアに惹かれていったのです。
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