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愚かな行為だと知らなかった3(フィリップ殿下視点)
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「父上、私は悪くありませんっ。悪いのはフローリアの方ですっ!あいつが私を蔑ろにするのが悪いんです!格下の癖に、私と婚約したいなどと高望みしておきながら、愛想の欠片も、ひっいっ!」
「今何と言った」
父上と兄上の冷やかな視線に加え、侯爵からの殺気に体が震えた。
侯爵は文官だが、武にも優れている。
剣の腕も魔法の腕も確かだ。それを今の今まで忘れていた。
「お前とフローリア嬢の婚約は、王妃からの願いで結んだもの。侯爵家は一度辞退しているのを無理矢理に頼んでやっと叶った縁だ」
「そんなっ! そんなっ筈は、母上は確かにフローリアが私に一目惚れして無理強いしたと。本当は違う相手を考えていたのに、侯爵がどうしてもと」
母上が嘘を言っていたのか。
でも、婚約締結の朝にそう説明されたし、その後も何度もその話を聞かされたのだから、嘘なんかじゃない筈だ。
「そんな筈があるわけがないっ! 私は何度も婚約を諦めて頂ける様嘆願し続けた。婚約が結ばれてからも白紙が駄目なら家の有責でもいいから破棄して欲しいと何度も何度も」
一臣下でしかない侯爵家から王家からの婚約を断るなど、あっていい筈がない。
だいたいそこまで嫌がられる理由など。
「婚約してから一度でもフローリアに優しく声を掛けて下さったこともなく、エスコートすらまともにして頂けず、茶会すら出ていただけない。それでどうやって愛想を振りまく気になると?」
「そ、それは」
「殿下の不貞が一度でもあれば婚約破棄に応じると陛下が承諾してくださったのは、婚約を結んで数年たってからです。その理由がお分かりになりますか?」
そんなの、父上が兄上に唆されでもしたんだろう。
兄上は俺を常に困らせようとしているのだから。
「自分は悪くない、そう言う顔だな」
「私の何が悪いのですか、優しくされたいならもっと私に尽くすべきでしょう。大事な話があると言っても生徒会の仕事を優先していたのは向こうですよ」
フローリアは幼い頃からしつこく私の後ろを付きまとっていた。
同い年頃の子供を集めた茶会でも、婚約者だからと側にいて煩わしかったし、そうかと思えば王子である俺を差し置いて令嬢令息に囲まれていたりする。
俺には笑顔しか向けないのに、あいつらには色んな表情を見せるんだ。
それが幼い俺には悔しかったんだ。
フローリアは俺の婚約者だというのに、俺以外の令嬢令息と話をする必要などないだろう。
蔑ろにされていたのは、俺の方だ。
「お前が馬鹿なのはよく分かった」
「兄上っ、馬鹿とはなんですかっ!」
幼い頃の苦悩を話せば父上なら分かってくださると信じて話したのに、父上はため息をつき、兄上には馬鹿だと言われた。
「茶会は貴族の交流の場だ、そこで婚約者以外と話しをしない等ありえん。そもそも二人が揃って出席していたなら、フローリア嬢が問題行動を起こせばそれだけで噂になる。いいか、忘れているようだが余もお前の兄達もフローリア嬢の行動に問題がある等話題にしたことすらない筈だ。お前には何度と無く叱責していたがな」
父上は疲れた様に首を横に振ると「お前がいつか変わるのではと期待して、侯爵家に我慢を強いずにもっと早く婚約を白紙にするべきだった」と言い始めた。
「フローリア嬢は、婚約してからは侯爵家を継ぐ自覚を持って他家との交流を深めようとすると同時に、お前に十二分に尽くしていただろう。勉強に社交に忙しいと言うのにお前の為にと丁寧に刺繍したハンカチや礼装用の帯を作り、婿入りしても困らないようにと領地の資料を作っていた。お前の好むもの好まぬものを覚え、お前が偏食が酷いと聞けば、料理人と一緒にお前でも食べられる食事を考え、何度も何度も差し入れていただろう。それすら忘れたのか」
呆れたとばかりに俺を見ながら、兄上は「フローリア嬢が気の毒」と当て付けの楊に言った。
「そんなの当然ではありませんか、婚約者なのですから」
「では、お前はフローリア嬢に何をした? 彼女が行う必要のない生徒会の仕事を、婚約者だからと押し付けて自分は怠けていただけではないのか?」
「婚約者なのですから、手助けするのは当たり前ではありませんか」
「そんな決まりがどこにある。生徒会の仕事は役員と、補佐のみが行うもので、役員ではないフローリアはそもそも生徒会の書類を見る資格はないんだぞ」
「そんな筈」
「大体、誰が言い出したのだ」
誰が、それは。
「母上が、生徒会の仕事が大変なら婚約者が手伝って当たり前だと。校長には話しておくから遠慮せずどんどん使っていいと」
母上の言葉は正しいのだと、ずっと信じて疑いもしなかった。
フローリアは婚約者だけれど、俺は王子で尊い存在なのだから、彼女は好きに使える配下だと思って労る必要もないのだとそう言っていたから。
「私は間違っていない。母上がそう言ったのです。ですから、私は間違っていない」
そう言わなければすべてが間違いになってしまう。
善悪の判断すらつけられなかったのだと、そんな愚かな人間になってしまう。
「母上が嘘を言う筈ない。母上はっ!」
呆れと侮蔑の目で自分を見る三人に、俺はこれ以上何も言えなかったんだ。
「今何と言った」
父上と兄上の冷やかな視線に加え、侯爵からの殺気に体が震えた。
侯爵は文官だが、武にも優れている。
剣の腕も魔法の腕も確かだ。それを今の今まで忘れていた。
「お前とフローリア嬢の婚約は、王妃からの願いで結んだもの。侯爵家は一度辞退しているのを無理矢理に頼んでやっと叶った縁だ」
「そんなっ! そんなっ筈は、母上は確かにフローリアが私に一目惚れして無理強いしたと。本当は違う相手を考えていたのに、侯爵がどうしてもと」
母上が嘘を言っていたのか。
でも、婚約締結の朝にそう説明されたし、その後も何度もその話を聞かされたのだから、嘘なんかじゃない筈だ。
「そんな筈があるわけがないっ! 私は何度も婚約を諦めて頂ける様嘆願し続けた。婚約が結ばれてからも白紙が駄目なら家の有責でもいいから破棄して欲しいと何度も何度も」
一臣下でしかない侯爵家から王家からの婚約を断るなど、あっていい筈がない。
だいたいそこまで嫌がられる理由など。
「婚約してから一度でもフローリアに優しく声を掛けて下さったこともなく、エスコートすらまともにして頂けず、茶会すら出ていただけない。それでどうやって愛想を振りまく気になると?」
「そ、それは」
「殿下の不貞が一度でもあれば婚約破棄に応じると陛下が承諾してくださったのは、婚約を結んで数年たってからです。その理由がお分かりになりますか?」
そんなの、父上が兄上に唆されでもしたんだろう。
兄上は俺を常に困らせようとしているのだから。
「自分は悪くない、そう言う顔だな」
「私の何が悪いのですか、優しくされたいならもっと私に尽くすべきでしょう。大事な話があると言っても生徒会の仕事を優先していたのは向こうですよ」
フローリアは幼い頃からしつこく私の後ろを付きまとっていた。
同い年頃の子供を集めた茶会でも、婚約者だからと側にいて煩わしかったし、そうかと思えば王子である俺を差し置いて令嬢令息に囲まれていたりする。
俺には笑顔しか向けないのに、あいつらには色んな表情を見せるんだ。
それが幼い俺には悔しかったんだ。
フローリアは俺の婚約者だというのに、俺以外の令嬢令息と話をする必要などないだろう。
蔑ろにされていたのは、俺の方だ。
「お前が馬鹿なのはよく分かった」
「兄上っ、馬鹿とはなんですかっ!」
幼い頃の苦悩を話せば父上なら分かってくださると信じて話したのに、父上はため息をつき、兄上には馬鹿だと言われた。
「茶会は貴族の交流の場だ、そこで婚約者以外と話しをしない等ありえん。そもそも二人が揃って出席していたなら、フローリア嬢が問題行動を起こせばそれだけで噂になる。いいか、忘れているようだが余もお前の兄達もフローリア嬢の行動に問題がある等話題にしたことすらない筈だ。お前には何度と無く叱責していたがな」
父上は疲れた様に首を横に振ると「お前がいつか変わるのではと期待して、侯爵家に我慢を強いずにもっと早く婚約を白紙にするべきだった」と言い始めた。
「フローリア嬢は、婚約してからは侯爵家を継ぐ自覚を持って他家との交流を深めようとすると同時に、お前に十二分に尽くしていただろう。勉強に社交に忙しいと言うのにお前の為にと丁寧に刺繍したハンカチや礼装用の帯を作り、婿入りしても困らないようにと領地の資料を作っていた。お前の好むもの好まぬものを覚え、お前が偏食が酷いと聞けば、料理人と一緒にお前でも食べられる食事を考え、何度も何度も差し入れていただろう。それすら忘れたのか」
呆れたとばかりに俺を見ながら、兄上は「フローリア嬢が気の毒」と当て付けの楊に言った。
「そんなの当然ではありませんか、婚約者なのですから」
「では、お前はフローリア嬢に何をした? 彼女が行う必要のない生徒会の仕事を、婚約者だからと押し付けて自分は怠けていただけではないのか?」
「婚約者なのですから、手助けするのは当たり前ではありませんか」
「そんな決まりがどこにある。生徒会の仕事は役員と、補佐のみが行うもので、役員ではないフローリアはそもそも生徒会の書類を見る資格はないんだぞ」
「そんな筈」
「大体、誰が言い出したのだ」
誰が、それは。
「母上が、生徒会の仕事が大変なら婚約者が手伝って当たり前だと。校長には話しておくから遠慮せずどんどん使っていいと」
母上の言葉は正しいのだと、ずっと信じて疑いもしなかった。
フローリアは婚約者だけれど、俺は王子で尊い存在なのだから、彼女は好きに使える配下だと思って労る必要もないのだとそう言っていたから。
「私は間違っていない。母上がそう言ったのです。ですから、私は間違っていない」
そう言わなければすべてが間違いになってしまう。
善悪の判断すらつけられなかったのだと、そんな愚かな人間になってしまう。
「母上が嘘を言う筈ない。母上はっ!」
呆れと侮蔑の目で自分を見る三人に、俺はこれ以上何も言えなかったんだ。
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