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愚かな行為だなんて知らなかった1(フィリップ殿下視点)
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「何故返事をよこさないっ!」
あんな反抗的な態度をフローリアがとるのは初めてだった。
婚約者である俺を立てるという事を知らない傲慢な態度に腹が立ち、当て付けのつもりで愛らしいだけが取り柄のエミリアという男爵令嬢と浮気している振りをしていた。
エミリアは気が小さく頭も良くないが、とても愛らしい顔で終始笑顔を浮かべ俺の話を聞いている。
これなら結婚後も愛人にしてやってもいいかと、噂が広まるのもそのままにしておいた。
愛人だけを可愛がれば向こうも必死になって俺の機嫌を取るようになるだろう。
真実の愛の相手だと言えば、自分が悪かったと泣いてすがってくる筈だと、そう信じていたのに。
結果は俺の不義不貞による婚約破棄、王族である自分の婚約者でいられる機会を自ら放り出したのだ。
「こちらが折れて手紙を出してやったというのに」
苛々が止まらずテーブルに乗っていた茶器を壁に投げつける。
ガシャン、ガシャンと壊れていく茶器をフローリアに見立てるのは気分が良かった。
反省すれば許してやるつもりだったのに、フローリアから何も返事がない。
いいや、今頃自分の短慮を後悔しているのかもしれない。
「そうか、母上の名で手紙を出したから、母上に返事をしているのかもしれないな」
そうして母上から叱責されているのだ。
きっとそうだ。
母上にフローリアがどんな惨めな手紙を送ってきたのか教えて貰おう。
母上の部屋に行こうと、テーブルの上のベルを鳴らす。
お忙しい母上の都合を確認しないといけないからな、
俺は気遣いの出来る優秀な王子なのだ。
「何故誰も来ない」
何度ベルを鳴らしてもドアが開く気配がない。
「職務怠慢だな」
苛々しながらベルを鳴らし続けていたら、やっとドアが開いた。
「遅いっ、あ、兄上」
「何を騒いでいる。この惨状はなんだ」
「兄上従僕を首にして下さい、何度呼んでも部屋に来ないのです」
「あぁ、それは父上の指示だ。お前は暫く謹慎だ」
「何故ですかっ!」
何故俺が謹慎をしなければならないんだ。
王太子である一番上の兄上は人格者だが、すぐ上の兄である第二王子は、俺を目の敵にしている不愉快な男だ。
父上の言葉を曲解して俺に伝えている可能性もある。
「何故?お前が救い様のない馬鹿だからだろう。大事な婚約を駄目にしておいて、父上に謝罪もないとは」
「あれは、フローリアが勝手に」
俺は騙されたのだ。
フローリアが騙して俺に婚約破棄の書類に署名させたのだ。
「もう婚約者ではないのだ、ゾルティーア侯爵令嬢を名前で呼んでは駄目だろう。それに彼女が勝手に? 書類を父上に見せていただいたが、あの署名はお前の手だったようだが?」
「それは、騙されたのですっ!」
「騙されて二人で署名したと?そんな屁理屈が父上に通ると思うなら、言ってみればいい。これから父上が時間を取ってくださるそうだからそこで好きなだけ言い訳すればいいさ」
兄上は吐き捨てるように言うと、さっさと部屋を出ていった。
言い訳なんかじゃない。
フローリアが悪いのだと、正しく説明するだけだ。
悪いのはあいつだ。
「兄上」
すでに兄上の姿は遠くなっていた。
どうして待っていてくれないのだ。行くところが同じなのだなら普通なら一緒に行くものだろう。
やっぱりあの人は俺を目の敵にしているのだ、自分が母上から愛されていないから。
「お待ち下さい兄上っ」
可哀想な兄上に、俺が大人になってやらないといけないよな。
見苦しくない程度に急ぎ足で兄上に追い付こうとするけれど、立ち止まりもしない。
「父上は話を聞けば分かって下さる筈です。悪いのは向こうですから」
「お前の頭の中には花か何かが詰まっているのか?」
「どういう意味ですか」
「そのままの意味だ。母上の甘やかした結果だから仕方ないが」
母上の甘やかした結果。
ほうら、兄上はやはり羨ましいのだ。
「母上は私を深く愛し下さっていますから」
当て付けのつもりで言えば、兄上の歩みが止まった。
「本当に母上は……罪深い人だ」
ゆるゆると首を横に振ると兄上は早足で歩きだして、もう振り返らなかった。
あんな反抗的な態度をフローリアがとるのは初めてだった。
婚約者である俺を立てるという事を知らない傲慢な態度に腹が立ち、当て付けのつもりで愛らしいだけが取り柄のエミリアという男爵令嬢と浮気している振りをしていた。
エミリアは気が小さく頭も良くないが、とても愛らしい顔で終始笑顔を浮かべ俺の話を聞いている。
これなら結婚後も愛人にしてやってもいいかと、噂が広まるのもそのままにしておいた。
愛人だけを可愛がれば向こうも必死になって俺の機嫌を取るようになるだろう。
真実の愛の相手だと言えば、自分が悪かったと泣いてすがってくる筈だと、そう信じていたのに。
結果は俺の不義不貞による婚約破棄、王族である自分の婚約者でいられる機会を自ら放り出したのだ。
「こちらが折れて手紙を出してやったというのに」
苛々が止まらずテーブルに乗っていた茶器を壁に投げつける。
ガシャン、ガシャンと壊れていく茶器をフローリアに見立てるのは気分が良かった。
反省すれば許してやるつもりだったのに、フローリアから何も返事がない。
いいや、今頃自分の短慮を後悔しているのかもしれない。
「そうか、母上の名で手紙を出したから、母上に返事をしているのかもしれないな」
そうして母上から叱責されているのだ。
きっとそうだ。
母上にフローリアがどんな惨めな手紙を送ってきたのか教えて貰おう。
母上の部屋に行こうと、テーブルの上のベルを鳴らす。
お忙しい母上の都合を確認しないといけないからな、
俺は気遣いの出来る優秀な王子なのだ。
「何故誰も来ない」
何度ベルを鳴らしてもドアが開く気配がない。
「職務怠慢だな」
苛々しながらベルを鳴らし続けていたら、やっとドアが開いた。
「遅いっ、あ、兄上」
「何を騒いでいる。この惨状はなんだ」
「兄上従僕を首にして下さい、何度呼んでも部屋に来ないのです」
「あぁ、それは父上の指示だ。お前は暫く謹慎だ」
「何故ですかっ!」
何故俺が謹慎をしなければならないんだ。
王太子である一番上の兄上は人格者だが、すぐ上の兄である第二王子は、俺を目の敵にしている不愉快な男だ。
父上の言葉を曲解して俺に伝えている可能性もある。
「何故?お前が救い様のない馬鹿だからだろう。大事な婚約を駄目にしておいて、父上に謝罪もないとは」
「あれは、フローリアが勝手に」
俺は騙されたのだ。
フローリアが騙して俺に婚約破棄の書類に署名させたのだ。
「もう婚約者ではないのだ、ゾルティーア侯爵令嬢を名前で呼んでは駄目だろう。それに彼女が勝手に? 書類を父上に見せていただいたが、あの署名はお前の手だったようだが?」
「それは、騙されたのですっ!」
「騙されて二人で署名したと?そんな屁理屈が父上に通ると思うなら、言ってみればいい。これから父上が時間を取ってくださるそうだからそこで好きなだけ言い訳すればいいさ」
兄上は吐き捨てるように言うと、さっさと部屋を出ていった。
言い訳なんかじゃない。
フローリアが悪いのだと、正しく説明するだけだ。
悪いのはあいつだ。
「兄上」
すでに兄上の姿は遠くなっていた。
どうして待っていてくれないのだ。行くところが同じなのだなら普通なら一緒に行くものだろう。
やっぱりあの人は俺を目の敵にしているのだ、自分が母上から愛されていないから。
「お待ち下さい兄上っ」
可哀想な兄上に、俺が大人になってやらないといけないよな。
見苦しくない程度に急ぎ足で兄上に追い付こうとするけれど、立ち止まりもしない。
「父上は話を聞けば分かって下さる筈です。悪いのは向こうですから」
「お前の頭の中には花か何かが詰まっているのか?」
「どういう意味ですか」
「そのままの意味だ。母上の甘やかした結果だから仕方ないが」
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ほうら、兄上はやはり羨ましいのだ。
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当て付けのつもりで言えば、兄上の歩みが止まった。
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ゆるゆると首を横に振ると兄上は早足で歩きだして、もう振り返らなかった。
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