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誰かの策だったのか、違うのか
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「そんな、そんな事信じられません」
「でも事実よ。あの子は、王妃様主催のお茶会に呼ばれ出掛けて行った帰りに体調を崩して帰って来たの。不注意で池に落ちたと言われて服は着替えさせられていたらしいわ。そしてその夜に高熱を出して、二日間意識が戻らなかったわ」
「熱を」
「ええ。そして体調が戻らない事を聞いて心配した王妃様から、医師が派遣されたのよ。王妃様のお茶会で体調を崩したのだからと言ってね」
どうしてでしょう。
それが王妃様の善意からだとはどうしても思えないのです。
あの人が、私と殿下の仲が良くならないのは、私の努力が足りないと毎回のお茶会で遠回しに言う方が、お兄様の体調を、自分の開いたお茶会が原因だから等と言うでしょうか。
「それで、どうなったのですか」
「医師が処方した薬で一旦体調は良くなった様に見えたの。でも、一日過ぎて急にあの子は食べた物をすべて吐いて、何もかもすべて吐いて、そして、そして」
聞きたくありません。でも、聞かなければなりません。
震える私の手がいつのまにか、おばあ様の腕に縋っていました。
「苦しんで苦しんで、それが癒やされないままあの子は亡くなってしまったの。慌てて主治医を呼んだ時にはすべてが手遅れで、誰もが絶望の中にいたのよ」
「お兄様の死はそんなに壮絶な」
知りませんでした。お兄様がそんな死を迎えていた等、誰も教えてくれませんでした。
ただ病で亡くなったのだとしか、私は知らずにいたのです。
「まさかそれが王妃様の策略だと」
「分らないわ。でもね、あの子のお葬式の日お前とフィリップ殿下の婚約の為の顔合わせの茶会を行なうから登城する様にと、招待状が届いたのよ」
「そんな」
王妃様は自分の利益を優先する方です。
陛下とのご自分の婚姻を周囲に認めさせる為に妃教育を優秀な成績で終わらせたのは、ただただ未来の自分の地位を盤石にするためだと、お母様が苦々しい顔で話していた事があります。
王妃様はその年代の女性の最上位として君臨するためなら、どんな努力もし、邪魔者は策略によって蹴落とすのだという噂もありました。
でも、それがお兄様の命にまで影響していたのでしょうか。
「真相は分らないわ。でもね、あなたがフィリップ殿下と顔合わせしたその日に、王妃様から『私にとって邪魔な命は自然淘汰されてしまうみたいなのよ。あの子供はどちらかしらね』そう言われたそうよ」
邪魔な命それはお兄様。そしてあの子供とは、私なのでしょうか。
「おばあ様」
「王家からの縁談は元々断れない。けれどフィリップ殿下を婿入りさせても何も利益が生まれないどころか、王妃様に良いように使われる未来しかない。だから女当主になりそうな家は率先して婚約を進めていたから、伯爵家以上の家には理想的な家が無かったの。ゾルティーア侯爵家だってそれは同じ。次期当主は男子で、お前は嫁ぐ筈だった。
万が一を考えて婚約の話を進めていたのに、なぜか婚約の承認が下りず、もたもたしている家にあの子が亡くなり他家に嫁ぐ筈のあなたが次期当主になると決まってしまったのよ」
私に婚約? そんな話があったことすら私は知らなかったのです。
「私は婚約するはずだった相手との話を流し、フィリップ殿下と婚約させられた。そういうことでしょうか」
なぜでしょう。
その婚約する筈だった相手が誰だったかなんて聞いてすらいないのに、私は何故かケネスの顔を見つめてしまったのです。
「そうよ。だから侯爵は一刻も早く王都からあなたを逃がそうとしたの。あなたは神聖契約で王家とは縁を結ばないとしたわね。自分の命を破ったときの代償として」
「はい。ですがそうしなければ」
「それは王妃様にとってとても都合のいい契約よ。非公式でも再度フィリップ殿下と婚約させてしまえばあなたは神聖契約を破ることになる。そして、あなたの代わりに自分に都合のいい誰かを選べばいい」
私が必死に考えて行った神聖契約が、一番酷い結果を生むかもしれない。その可能性を指摘され私は目の前が真っ暗になったような気持ちになりました。
「でも事実よ。あの子は、王妃様主催のお茶会に呼ばれ出掛けて行った帰りに体調を崩して帰って来たの。不注意で池に落ちたと言われて服は着替えさせられていたらしいわ。そしてその夜に高熱を出して、二日間意識が戻らなかったわ」
「熱を」
「ええ。そして体調が戻らない事を聞いて心配した王妃様から、医師が派遣されたのよ。王妃様のお茶会で体調を崩したのだからと言ってね」
どうしてでしょう。
それが王妃様の善意からだとはどうしても思えないのです。
あの人が、私と殿下の仲が良くならないのは、私の努力が足りないと毎回のお茶会で遠回しに言う方が、お兄様の体調を、自分の開いたお茶会が原因だから等と言うでしょうか。
「それで、どうなったのですか」
「医師が処方した薬で一旦体調は良くなった様に見えたの。でも、一日過ぎて急にあの子は食べた物をすべて吐いて、何もかもすべて吐いて、そして、そして」
聞きたくありません。でも、聞かなければなりません。
震える私の手がいつのまにか、おばあ様の腕に縋っていました。
「苦しんで苦しんで、それが癒やされないままあの子は亡くなってしまったの。慌てて主治医を呼んだ時にはすべてが手遅れで、誰もが絶望の中にいたのよ」
「お兄様の死はそんなに壮絶な」
知りませんでした。お兄様がそんな死を迎えていた等、誰も教えてくれませんでした。
ただ病で亡くなったのだとしか、私は知らずにいたのです。
「まさかそれが王妃様の策略だと」
「分らないわ。でもね、あの子のお葬式の日お前とフィリップ殿下の婚約の為の顔合わせの茶会を行なうから登城する様にと、招待状が届いたのよ」
「そんな」
王妃様は自分の利益を優先する方です。
陛下とのご自分の婚姻を周囲に認めさせる為に妃教育を優秀な成績で終わらせたのは、ただただ未来の自分の地位を盤石にするためだと、お母様が苦々しい顔で話していた事があります。
王妃様はその年代の女性の最上位として君臨するためなら、どんな努力もし、邪魔者は策略によって蹴落とすのだという噂もありました。
でも、それがお兄様の命にまで影響していたのでしょうか。
「真相は分らないわ。でもね、あなたがフィリップ殿下と顔合わせしたその日に、王妃様から『私にとって邪魔な命は自然淘汰されてしまうみたいなのよ。あの子供はどちらかしらね』そう言われたそうよ」
邪魔な命それはお兄様。そしてあの子供とは、私なのでしょうか。
「おばあ様」
「王家からの縁談は元々断れない。けれどフィリップ殿下を婿入りさせても何も利益が生まれないどころか、王妃様に良いように使われる未来しかない。だから女当主になりそうな家は率先して婚約を進めていたから、伯爵家以上の家には理想的な家が無かったの。ゾルティーア侯爵家だってそれは同じ。次期当主は男子で、お前は嫁ぐ筈だった。
万が一を考えて婚約の話を進めていたのに、なぜか婚約の承認が下りず、もたもたしている家にあの子が亡くなり他家に嫁ぐ筈のあなたが次期当主になると決まってしまったのよ」
私に婚約? そんな話があったことすら私は知らなかったのです。
「私は婚約するはずだった相手との話を流し、フィリップ殿下と婚約させられた。そういうことでしょうか」
なぜでしょう。
その婚約する筈だった相手が誰だったかなんて聞いてすらいないのに、私は何故かケネスの顔を見つめてしまったのです。
「そうよ。だから侯爵は一刻も早く王都からあなたを逃がそうとしたの。あなたは神聖契約で王家とは縁を結ばないとしたわね。自分の命を破ったときの代償として」
「はい。ですがそうしなければ」
「それは王妃様にとってとても都合のいい契約よ。非公式でも再度フィリップ殿下と婚約させてしまえばあなたは神聖契約を破ることになる。そして、あなたの代わりに自分に都合のいい誰かを選べばいい」
私が必死に考えて行った神聖契約が、一番酷い結果を生むかもしれない。その可能性を指摘され私は目の前が真っ暗になったような気持ちになりました。
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