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過去の話は憶測も
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「おばあ様」
「あなたの婚約破棄の償い等必要ないわ。あなたの両親も私達も婚約破棄は喜んでいると言ってもいいの」
「では命を守るというのは」
テーブルを挟んで向かい側のソファーに座るケネス、壁際におばあ様の侍女と並んで控えているユウナ、二人には驚いた様 子も戸惑いもありません。
私だけがおばあ様の言葉に驚いているのです。でも、どうして?
「あなたは、王妃様が婚約破棄を認めていると思っているの?」
「いいえ。失礼を承知で申し上げれば陛下は賢王と名高き方ですが王妃様には甘い方です。王妃様がどうしてもと言い出したら破棄を撤回しない等すぐに反故にされるでしょう」
だから私は神聖契約を自分の命を代償にして行なったのです。
これでフィリップ殿下がやはり侯爵家に婿入りしたいと言ってきても、私とは婚姻出来ません。ですが。
「私は神聖契約を行ない、フィリップ殿下、いいえ王家の方との婚姻は結ばないと誓いました。契約を破ったときの代償は自分の命です。ですから殿下と私が再度婚約する未来はありません。ですが、王妃様にとって大事なのは殿下が侯爵家に婿入りするそれだけでしょう」
フィリップ殿下は昔から私を嫌っていました。
それでも他に婚約出来る上位貴族家が無かったから、私が婚約者でいるしかなかったのです。
「王妃様が本気になれば、私は廃嫡の上放逐され適当な縁戚から殿下の年齢に合う女子を侯爵家の養女にとしたいのではないかと。さすがに王命には出来ませんから、私の身柄を秘密裏に拘束しお父様と交渉を進める。殿下と殿下の運命の相手が結婚する前にそうしたいのでは無いかと思い、私を王都から離したのではありませんか?」
「婚約破棄の上、罪の無い嫡子を放逐等、さすがの王妃様でも陛下にねだれないでしょう」
お父様達が急いだ理由はそれなのだと思っていたのに、おばあ様は簡単に否定しました。
私を放逐せず、殿下が我が侯爵家に婿入り等もう出来ません。
でも、お父様達は一刻でも早く私を王都から離したい、そう思っている様でした。
「王妃様の願いを簡単に叶えるなら、あなたが儚くなればいいだけ。簡単な話よ」
「私を殺すと?」
ざわりと体が震えました。
王妃様はそんなに簡単に私を排除するでしょうか。私を殺してしまったら侯爵家との遺恨が残ります。そんな家に殿下を婿入りさせようとするでしょうか?
伯爵家で我慢すれば、殿下は新しく家を興し領地を下賜頂けるというのに。
婿入りよりも余程そちらの方が良いはずなのに。
「あなたの両親はそう考えているわ。勿論私達も」
「その根拠があるのですか」
まさか命まで狙われているとは思わず、震えながらおばあ様を見ると悲しげな顔で首を横に振り、なぜかケネスの方に視線を移しました。
「ケネスはあの子に良く似ているわ。従兄弟だから当然だけれど、大きくなったあの子に会えた様でとても嬉しいわ」
「あの子?」
「あなたは幼かったから忘れてしまったかしら、フローリア、あなたのお兄さんのことよ」
「お兄様? 亡くなったお兄様ですか? ケネスはお兄様に似ているのですか?」
「ええ」
そう聞いて、私は亡くなったお兄様の顔を思い浮かべようとして失敗してしまいました。
お兄様の話は、なぜかお父様もお母様も避けている様に思います。
お兄様の肖像画すら屋敷には飾られていないのです。
その話をすると何か怖い物を引き寄せるとでも言うような、そんな雰囲気すらあって幼い頃の私は何も聞く事は出来ませんでした。
亡くなったのは多分私が五、六歳の頃。婚約をする前だと思いますが、詳しくは思い出せません。
当時お兄様は学校の初等課に通うため王都で暮らしていて、私は領地にいる方が多かった為あまり話したことすらなかったのです。
「お兄様はケネスの一番上のお兄様と同じ年だったと聞いていますが」
「そうよ。あの子が生まれた後、ブライス家の長男が誕生したの。あの子を支えてくれる頼もしい子が生まれたと当時は皆で祝ったものよ」
懐かしそうに話すおばあ様ですが、なぜ今お兄様の話が出てくるのか私には理解出来ませんでした。
「二人はとても仲が良くてね、長期の休みに領地に帰る度にここに寄っていってくれたのよ。私は二人の成長がとても楽しみだった」
「そうでした……か」
ケネスの一番上のお兄様はすでに妻帯し、子供も生まれています。
私とお兄様はそれだけ年が離れているのです。
「あの子はとても元気な子で、風邪すらひいた事がなくてね。だから私達は油断していたの」
「油断、ですか?」
何が言いたいのでしょう。
首を傾げながら、話の流れを考えました。
私の命の話から、どうしてお兄様の話に?
「あの子が亡くなったのは、あなたがフィリップ殿下と顔合わせをした日の一ヶ月程前なの」
「一ヶ月前? お兄様が亡くなってすぐに私と殿下の婚約の話が出たというのですか」
「そうよ。その話が来たのは、あの子のお葬式の日。信じられる? あの子の死を受け入れられない状況で、私達はフローリアの婚約の打診を受けたのよ。王妃様の手紙でね」
正気とは思えない話に、私は言葉を失ってしまったのです。
「あなたの婚約破棄の償い等必要ないわ。あなたの両親も私達も婚約破棄は喜んでいると言ってもいいの」
「では命を守るというのは」
テーブルを挟んで向かい側のソファーに座るケネス、壁際におばあ様の侍女と並んで控えているユウナ、二人には驚いた様 子も戸惑いもありません。
私だけがおばあ様の言葉に驚いているのです。でも、どうして?
「あなたは、王妃様が婚約破棄を認めていると思っているの?」
「いいえ。失礼を承知で申し上げれば陛下は賢王と名高き方ですが王妃様には甘い方です。王妃様がどうしてもと言い出したら破棄を撤回しない等すぐに反故にされるでしょう」
だから私は神聖契約を自分の命を代償にして行なったのです。
これでフィリップ殿下がやはり侯爵家に婿入りしたいと言ってきても、私とは婚姻出来ません。ですが。
「私は神聖契約を行ない、フィリップ殿下、いいえ王家の方との婚姻は結ばないと誓いました。契約を破ったときの代償は自分の命です。ですから殿下と私が再度婚約する未来はありません。ですが、王妃様にとって大事なのは殿下が侯爵家に婿入りするそれだけでしょう」
フィリップ殿下は昔から私を嫌っていました。
それでも他に婚約出来る上位貴族家が無かったから、私が婚約者でいるしかなかったのです。
「王妃様が本気になれば、私は廃嫡の上放逐され適当な縁戚から殿下の年齢に合う女子を侯爵家の養女にとしたいのではないかと。さすがに王命には出来ませんから、私の身柄を秘密裏に拘束しお父様と交渉を進める。殿下と殿下の運命の相手が結婚する前にそうしたいのでは無いかと思い、私を王都から離したのではありませんか?」
「婚約破棄の上、罪の無い嫡子を放逐等、さすがの王妃様でも陛下にねだれないでしょう」
お父様達が急いだ理由はそれなのだと思っていたのに、おばあ様は簡単に否定しました。
私を放逐せず、殿下が我が侯爵家に婿入り等もう出来ません。
でも、お父様達は一刻でも早く私を王都から離したい、そう思っている様でした。
「王妃様の願いを簡単に叶えるなら、あなたが儚くなればいいだけ。簡単な話よ」
「私を殺すと?」
ざわりと体が震えました。
王妃様はそんなに簡単に私を排除するでしょうか。私を殺してしまったら侯爵家との遺恨が残ります。そんな家に殿下を婿入りさせようとするでしょうか?
伯爵家で我慢すれば、殿下は新しく家を興し領地を下賜頂けるというのに。
婿入りよりも余程そちらの方が良いはずなのに。
「あなたの両親はそう考えているわ。勿論私達も」
「その根拠があるのですか」
まさか命まで狙われているとは思わず、震えながらおばあ様を見ると悲しげな顔で首を横に振り、なぜかケネスの方に視線を移しました。
「ケネスはあの子に良く似ているわ。従兄弟だから当然だけれど、大きくなったあの子に会えた様でとても嬉しいわ」
「あの子?」
「あなたは幼かったから忘れてしまったかしら、フローリア、あなたのお兄さんのことよ」
「お兄様? 亡くなったお兄様ですか? ケネスはお兄様に似ているのですか?」
「ええ」
そう聞いて、私は亡くなったお兄様の顔を思い浮かべようとして失敗してしまいました。
お兄様の話は、なぜかお父様もお母様も避けている様に思います。
お兄様の肖像画すら屋敷には飾られていないのです。
その話をすると何か怖い物を引き寄せるとでも言うような、そんな雰囲気すらあって幼い頃の私は何も聞く事は出来ませんでした。
亡くなったのは多分私が五、六歳の頃。婚約をする前だと思いますが、詳しくは思い出せません。
当時お兄様は学校の初等課に通うため王都で暮らしていて、私は領地にいる方が多かった為あまり話したことすらなかったのです。
「お兄様はケネスの一番上のお兄様と同じ年だったと聞いていますが」
「そうよ。あの子が生まれた後、ブライス家の長男が誕生したの。あの子を支えてくれる頼もしい子が生まれたと当時は皆で祝ったものよ」
懐かしそうに話すおばあ様ですが、なぜ今お兄様の話が出てくるのか私には理解出来ませんでした。
「二人はとても仲が良くてね、長期の休みに領地に帰る度にここに寄っていってくれたのよ。私は二人の成長がとても楽しみだった」
「そうでした……か」
ケネスの一番上のお兄様はすでに妻帯し、子供も生まれています。
私とお兄様はそれだけ年が離れているのです。
「あの子はとても元気な子で、風邪すらひいた事がなくてね。だから私達は油断していたの」
「油断、ですか?」
何が言いたいのでしょう。
首を傾げながら、話の流れを考えました。
私の命の話から、どうしてお兄様の話に?
「あの子が亡くなったのは、あなたがフィリップ殿下と顔合わせをした日の一ヶ月程前なの」
「一ヶ月前? お兄様が亡くなってすぐに私と殿下の婚約の話が出たというのですか」
「そうよ。その話が来たのは、あの子のお葬式の日。信じられる? あの子の死を受け入れられない状況で、私達はフローリアの婚約の打診を受けたのよ。王妃様の手紙でね」
正気とは思えない話に、私は言葉を失ってしまったのです。
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